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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第一章 ご乗車ください《1年生編》
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Ep.9 恋はあせらず(4)「秋風に吹かれて」

 秋は大好きだ。

 寒くもないし暑くもない。ちょうどいい気温が好きだ。

 爽やかな秋風を受けながら、俺はグラウンドを走り回っている。


 相手チームメンバー:

「ディフェンスー! そっちだー!」


 チームメイト:

「中曽根、走れー!」


 サッカー部員の声が行き交う、空の下。

 大好きな秋風に吹かれた俺は、高揚気分でサッカーボールを蹴り上げる。

 それは、我ながら綺麗な弧を描いてゴールを決めた。


 中曽根 悠:

「やっりぃ!」


 大谷 圭介:

「くっそー、中曽根なんかに〜」


 キーパーの大谷は悔しそうにボールを掴むと、歯ぎしりした。

 なんかにとはなんだ、なんかにとは。


 俺は大谷に嫌味ったらしくピースを送ってやった。そして、校舎の方もついでにチラリと見上げる。

 2階、家庭科室の窓。

 戸田が、窓際にいることに気がついた。


 中曽根 悠:

(今の、見てくれてねーかな?)


 少しでもいいところを見せたくて、そんなことを考えてしまう。

 今日も戸田と一緒に帰る約束をしたんだけど、約束してからずっと、戸田ばかりが気になってしまっていた。


 そんな自分がらしくなくて、誤魔化すようにサッカーに没頭しようとする。

 おかげで部活では活躍できたけど……なんだかな。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 恋はあせらず

(4)「秋風に吹かれて」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 部活後、すぐに待ち合わせ場所である玄関に行こうとしたのに、大谷と小池に捕まってしまった。

 小池はいいとして、大谷のやつぜってー邪魔しようとしてただろ!?


 中曽根 悠:

「わりー、待ったか?」


 戸田はすでに靴に履き替えて、玄関の軒下に立っていた。

 本当はジャージのまま駆けつけたかったけど、汗臭いかもと急いで着替えた。


 戸田 るり:

「大丈夫だよ」


 にこりと笑った戸田を見て、心臓がはねる。


 ……あれ? こないだ一緒に帰ったときより、何で緊張してんだろ、俺。


 中曽根 悠:

「……い、行くか」


 そんな心情を隠すようにして、戸田を促した。

 2人の間の距離は、前よりもちょっと縮まっているような気がした。



 ・   ・   ・



 中曽根 悠:

「──でさ、1年ももしかしたら、今度の練習試合に出られるかもしれないんだ」


 戸田 るり:

「へぇ、じゃあ頑張らなきゃね」


 前と同じように、たわいない話をしながら一緒に帰る。

 空には月が出始めていて、日の入りの早さを感じさせた。


 帰り道の途中に、大きな公園がある。

 そこをショートカットするのにいつも通っていたのだが、ここで俺はまた手をつないでみた。


 戸田 るり:

「……! 」


 戸田が緊張したのが、手の先から伝わった。でもたぶん、俺の鼓動も伝わっている。


 中曽根 悠:

「……へへ」


 誤魔化すように笑ったら、戸田もちょっと安心したように笑った。


 そうだよな。

 互いに緊張してるから、よけい変になっちまうんだ。

 笑い合ったらくすぐったかったけど、なんだか胸まで温かくなった。

 鼓動の加速が強くなる。

 だって俺は、ある決意をしていたから。


 中曽根 悠:

「なあ、戸田」


 戸田 るり:

「ん?」


 中曽根 悠:

「──キス、してみっか!」


 戸田 るり:

「………」


 戸田 るり:

「え!? 」


 戸田が案の定、顔を真っ赤にした。

 いやでも、言い出した俺も恥ずいんだよ。


 とりあえず、戸田の両肩に手を置いて、向き合ってみた。


 戸田 るり:

「!? 」


 中曽根 悠:

「いくぞ」


 戸田 るり:

「え? え? 」


 付き合ってるなら。

 彼氏彼女なら。


 キスだって当たり前なんだから……いいよな?


 そして俺は、半目にならないように気をつけて、ゆっくり顔を近づけた。



 戸田 るり:

「……っば」



 ば?


 戸田 るり:

「バカーーー!! 」


 ドンッ!!


 中曽根 悠:

「!? 」


 唇が触れる前に、戸田の力とは思えないくらいの強さで、思いっきり突き飛ばされた。

 俺と戸田の間に、一気に距離が開く。


 戸田 るり:

「──バカ! 」


 戸田 るり:

「中曽根のえっち! すけべ! 変態!!」


 中曽根 悠:

「……!! 」


 と……戸田のやつ、すっごく怒ってる!


 若干涙目の戸田は、俺をキッと睨むと「うわーーん!」と、まるで漫画のような声をあげて走り去ってしまった。


 中曽根 悠:

「………」


 中曽根 悠:

(……め、めっちゃ拒否されたー!!)


 俺の頭上にもきっと、漫画のように「ガーン」という文字がのしかかっているくらい、ショックを受けた。


──何で? 何でだ!?


 手をつなぐまでは、あんなにいい感じだったじゃないか!!


 中曽根 悠:

「………はっ!」


 その時俺は、見たくないものを見てしまう。

 公園の前に佇む──姉貴の姿を。


 中曽根 雫:

「………」


 中曽根 雫:

「……ぷぷ 」


 姉貴はあろうことか、口に手を当てて笑った。


 中曽根 悠:

「〜〜〜!! 」


 さ、最悪だ!!


 絶望する俺の前に、ひゅるりと虚しく秋風がなびく。

 あんなに爽やかだった秋風が薄ら寒く、俺を笑っていた。




 ◇ 続く ◇

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