Ep.1 片恋消しゴム (4)「中曽根くんの衝動」
アオミドロ
ミカヅキモ
ミドリムシ
ゾウリムシ
顕微鏡から覗いて見えた、小さな水中の生物たち。
理科の先生:
「見えないだけで、水中にもたくさんの生物がいるんですね」
理科担当教師が、理科室にダミ声を響かせる。
見えないだけで、存在するものはごまんとある。
そんなことでも、言いたげに。
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片恋消しゴム
(4)「中曽根くんの衝動」
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授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、生徒がざわめき出す。
4限目だったので、次は昼食だ。
みんなお腹がペコペコで、一刻も早く教室に帰りたがっている。
理科の先生:
「それでは、授業を終わります」
理科の先生:
「理科係さん、最終チェックだけお願いしますね」
先生は淡々と告げ、さっさと理科室を出てしまった。
げ、理科係って俺じゃん。
大谷 圭介:
「中曽根〜、早く行こうぜ〜」
小池と一緒に大谷が声をかけてくる。
他の生徒が続々と理科室から出ていく中、残っているのは俺らだけだ。
中曽根 悠:
「すまん。俺、理科係だからちょっと遅れていくわ」
理科係っつーのは、ようは理科の授業での雑用係だ。
理科室が使われた日には、こうして器具の最終チェックや忘れ物がないかを、確認しなければならない。
ちなみにもう一人いるのだが、そいつは今日体調不良で欠席している。
大谷 圭介:
「わかった。んじゃ先、行ってるな」
小池 隼人:
「悠くん、またね」
大谷と小池は俺を待つことなく、さっさと教室へ向かってしまった。薄情なやつらだ。
ま、女子じゃないんだから、行動がいちいち一緒でもやだけどな。
中曽根 悠:
(さて、さっさとチェックして俺も行こう)
一人で理科室に残った俺は、使われた顕微鏡がちゃんと戻されているか、数が合っているかをチェックする。
いち、に、さん………ん、OK。
そして身をかがめて、ざっと理科用実験台の下の棚をチェックする。
たまにここに、教科書や筆記用具を忘れていくバカがいるんだよな〜。
あ、やっぱり今日も!
中曽根 悠:
「おいおい、誰だよ〜」
その忘れ物が見えた机に向かっていく途中で、ハッとする。
こっちの席のグループ。
それを、あまり見ないように俺はしていたから。
中曽根 悠:
(……このペンケース…)
見間違えるはずがない。
だってそれは、俺の席の隣の人物が、持っているやつだから。
見覚えのある、パステルイエローのペンケース。
戸田るりの、ペンケースだ。
中曽根 悠:
(あいつ……忘れてってやがんの)
女の子らしい可愛いペンケースを机の上に置いて、それを見つめた。
チャックで閉じ込められているはずの、戸田がいつも使っている文房具。
この中に、あの消しゴムもあるのだと考えながら。
中曽根 悠:
「…………」
俺の脳裏に浮かぶのは、小池の台詞。
「あれ、悠くん知らない? 消しゴムに好きな人の名前を書くとかいうやつ」
そんなおまじないがあるなんて、知らなかった。
だとしたら、戸田はそれを実行しているのだろうか。
あれだけ俺に、消しゴムを使われるのを嫌がっていたし。
それに……そうだ。
たしかあいつが慌てだしたのは、俺が小さくなった消しゴムをケースから出そうとした時じゃなかったか?
中曽根 悠:
「…………」
駄目だ、最低だと、もう一人の自分が小さく叫ぶ。
それなのに俺の手は勝手に、机の上のペンケースのチャックを引っ張ろうとしている。
これは、好奇心なのだろうか。
苛立ちからくる反動なのだろうか。
存外に対した葛藤もなく、俺はペンケースから消しゴムを取り出した。
コロン、と小さな消しゴムが俺の手に落ちる。
中曽根 悠:
(ちょっと………)
中曽根 悠:
(ちょっと、見るだけだ)
中曽根 悠:
(見てすぐ、戻せばいい)
本当におまじないがされているかなんて、わかんないし。
以前、戸田から奪われたあいつの消しゴム。
それを俺は、ケースからそっと引き抜いた。
◇ 続く ◇




