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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第一章 ご乗車ください《1年生編》
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Ep.1 片恋消しゴム (4)「中曽根くんの衝動」

 アオミドロ

 ミカヅキモ

 ミドリムシ

 ゾウリムシ


 顕微鏡から覗いて見えた、小さな水中の生物たち。


 理科の先生:

「見えないだけで、水中にもたくさんの生物がいるんですね」


 理科担当教師が、理科室にダミ声を響かせる。


 見えないだけで、存在するものはごまんとある。


 そんなことでも、言いたげに。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 片恋消しゴム

(4)「中曽根くんの衝動」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、生徒がざわめき出す。

 4限目だったので、次は昼食だ。

 みんなお腹がペコペコで、一刻も早く教室に帰りたがっている。


 理科の先生:

「それでは、授業を終わります」


 理科の先生:

「理科係さん、最終チェックだけお願いしますね」


 先生は淡々と告げ、さっさと理科室を出てしまった。

 げ、理科係って俺じゃん。


 大谷 圭介:

「中曽根〜、早く行こうぜ〜」


 小池と一緒に大谷が声をかけてくる。

 他の生徒が続々と理科室から出ていく中、残っているのは俺らだけだ。


 中曽根 悠:

「すまん。俺、理科係だからちょっと遅れていくわ」


 理科係っつーのは、ようは理科の授業での雑用係だ。

 理科室が使われた日には、こうして器具の最終チェックや忘れ物がないかを、確認しなければならない。

 ちなみにもう一人いるのだが、そいつは今日体調不良で欠席している。


 大谷 圭介:

「わかった。んじゃ先、行ってるな」


 小池 隼人:

「悠くん、またね」


 大谷と小池は俺を待つことなく、さっさと教室へ向かってしまった。薄情なやつらだ。

 ま、女子じゃないんだから、行動がいちいち一緒でもやだけどな。


 中曽根 悠:

(さて、さっさとチェックして俺も行こう)


 一人で理科室に残った俺は、使われた顕微鏡がちゃんと戻されているか、数が合っているかをチェックする。

 いち、に、さん………ん、OK。


 そして身をかがめて、ざっと理科用実験台の下の棚をチェックする。

 たまにここに、教科書や筆記用具を忘れていくバカがいるんだよな〜。


 あ、やっぱり今日も!


 中曽根 悠:

「おいおい、誰だよ〜」


 その忘れ物が見えた机に向かっていく途中で、ハッとする。

 こっちの席のグループ。

 それを、あまり見ないように俺はしていたから。


 中曽根 悠:

(……このペンケース…)


 見間違えるはずがない。

 だってそれは、俺の席の隣の人物が、持っているやつだから。

 見覚えのある、パステルイエローのペンケース。

 戸田るりの、ペンケースだ。


 中曽根 悠:

(あいつ……忘れてってやがんの)


 女の子らしい可愛いペンケースを机の上に置いて、それを見つめた。

 チャックで閉じ込められているはずの、戸田がいつも使っている文房具。

 この中に、あの消しゴムもあるのだと考えながら。


 中曽根 悠:

「…………」


 俺の脳裏に浮かぶのは、小池の台詞。



「あれ、悠くん知らない? 消しゴムに好きな人の名前を書くとかいうやつ」



 そんなおまじないがあるなんて、知らなかった。

 だとしたら、戸田はそれを実行しているのだろうか。

 あれだけ俺に、消しゴムを使われるのを嫌がっていたし。


 それに……そうだ。

 たしかあいつが慌てだしたのは、俺が小さくなった消しゴムをケースから出そうとした時じゃなかったか?


 中曽根 悠:

「…………」


 駄目だ、最低だと、もう一人の自分が小さく叫ぶ。

 それなのに俺の手は勝手に、机の上のペンケースのチャックを引っ張ろうとしている。


 これは、好奇心なのだろうか。

 苛立ちからくる反動なのだろうか。


 存外に対した葛藤もなく、俺はペンケースから消しゴムを取り出した。

 コロン、と小さな消しゴムが俺の手に落ちる。


 中曽根 悠:

(ちょっと………)


 中曽根 悠:

(ちょっと、見るだけだ)


 中曽根 悠:

(見てすぐ、戻せばいい)


 本当におまじないがされているかなんて、わかんないし。


 以前、戸田から奪われたあいつの消しゴム。

 それを俺は、ケースからそっと引き抜いた。




 ◇ 続く ◇

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