Ep.1 片恋消しゴム (3)「中曽根くんの事情」
小学校を卒業して、
中学生になった俺ら。
別に何かが大きく変わったわけじゃない。
変わったはずじゃない、けど。
もしかして俺が気づいてないだけ?
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片恋消しゴム
(3)「中曽根くんの事情」
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大谷 圭介:
「や〜、いい時期になりましたなぁ」
始業前の朝の時間。
まだざわめいている教室の中、俺は友人の前の席に座って雑談していた。
悪友、大谷圭介が変な顔をしながら、先ほどのセリフを述べた。
小池 隼人:
「いい時期って?」
大谷のそばに立っていた小池隼人が、首をかしげる。
そんな小池の肩に腕をまわし、大谷は「はっはっは」と芝居がかって笑う。
大谷 圭介:
「もちろん、制服だよ制服! 衣替えしたでしょー 」
大谷が言うとおり、今日から6月。衣替えとなった。
カブトムシのように真っ黒だった俺たちは、やっとこさ暑い学ランを脱ぎすてることができて大喜び。
女子も白地の爽やかなセーラー服へと袖を通し、見ていて軽やかそうだ。
小池 隼人:
「制服がどうかしたの?」
大谷 圭介:
「もー、これだからお子様だな、隼人は」
そこで大谷はちょいちょいと俺と小池の顔を近づけさせて、こっそり言う。
大谷 圭介:
「女子の制服だよ、制服」
中曽根 悠:
「はぁ? 女子ぃ?」
大谷 圭介:
「中曽根! 声でかくすんじゃねー! 」
そんなにさして大きい声じゃなかったのに、大谷は慌てて周りを気にする。
もちろん、誰も俺らに注目なんてしちゃいないのだが。
大谷 圭介:
「女子がさ、露出多くなったじゃん! なんかこう、男としてロマンを感じんかねぇ、中曽根くん! 」
中曽根 悠:
「ロマンねぇ。 別にクラスの女子にどうとかはなぁ…… 」
小池 隼人:
「てかケイちゃん、親父くさいね!」
大谷 圭介:
「るせぇ隼人! あとケイちゃんなんて可愛い呼び方するな! 」
騒がしい大谷と、コロコロ小さくてよく笑う小池は、小学生時代から仲がいい。
小学校のときは隣のクラスで俺だけ別だったが、同じ町内の少年サッカークラブに入っていた俺ら。
中学はなんと、奇跡的に三人とも同じクラスとなった。
もちろん三人とも中学ではサッカー部に入部し、しょっちゅうつるんでいる。
ちなみに苗字のせいで、大中小トリオと呼ばれている。
大谷 圭介:
「あらわにされた二の腕に、軽くなったひらめくスカート……」
大谷のやつがなんか語りだしたぞ、おい。
大谷 圭介:
「そして背中に透けて見える禁断のブラ……! こりゃあたまりませんなぁ! 」
小池 隼人:
「ケイちゃん、まじで親父だ……」
小池のつぶやきに俺も同意するぜ。
中曽根 悠:
「くっだらね。 そんなんの何がいーんだよ 」
そう吐き捨てると、大谷はクワッとこちらを見た。
大谷 圭介:
「お前、それでも男か!」
中曽根 悠:
「だってさぁ、姉貴がいるから慣れてんだよ。 下着姿で、しょっちゅううろついてるし 」
大谷 圭介:
「なっ!? その貴重さに感謝しろお前は!! ……羨ましい…… 」
本音が漏れてるぞ、大谷。
しかし、そんなに興奮するほどのもんかね?
だってクラスの女子なんか、つい最近まで一緒に遊び呆けていたガキンチョじゃないか。
ちらりと教室内を見渡した俺は、ある人物と目を合わせないように気をつけた。
中曽根 悠:
(戸田のやつも、夏服着てるな……)
そんな当たり前のことを確認して、また視線を外す。
戸田るり。
小学生時代、ずっと俺と同じクラスで、仲良くしていた女子だ。
ちょっとのんびりしていて真面目で、女の子らしい女の子。
でも気さくな性格もあって、男女ともに友人が多い。俺のガサツな姉貴とは、また違うタイプだなと思った。
そんな戸田と、最近ギクシャクしている。
理由は戸田にある。
なんだっていきなり、消しゴムを奪ってブチ切れたんだ。わけわかんねぇ。
その事実は、最近の俺を苛立たせている。
ああ、なんかこう、ムシャクシャするな。
大谷 圭介:
「はぁ、女子とお近づきになりたい」
小池 隼人:
「僕もケイちゃんも、一人っ子だからねぇ。 悠くんとは違うのさ 」
いつの間にか小池、大谷の肩を持ってやがる!?
大谷 圭介:
「最近まで、おまじないを信じてたような子ども女子も、やっぱ制服となると印象が変わるよなぁ」
小池 隼人:
「ああ、消しゴムとか上靴のおまじないとかね。 流行ってたっぽいね 」
──ん、消しゴム?
小池が発したある単語に、俺はピクリと反応した。
中曽根 悠:
「なんだその、消しゴムのおまじないって」
小池 隼人:
「あれ、悠くん知らない? 消しゴムに好きな人の名前を書くとかいうやつ 」
中曽根 悠:
「……知らない」
大谷 圭介:
「まぁ、そんなのやってるようなお子ちゃまは、俺の眼鏡にかなわねぇけどな!」
小池 隼人:
「ケイちゃんのには、かなわない方がいい気がする」
大谷 圭介:
「何を! 隼人このやろう!!」
小池をヘッドロックする大谷。
そんな二人のじゃれあいを尻目に、俺はふと考え込んでしまった。
消しゴムのおまじない、か。
中曽根 悠:
(もしかして……)
脳裏に浮かぶのは、顔を真っ赤にして、俺から消しゴムを奪い取ったときの戸田の顔。
困ったような、恥ずかしそうな表情は初めて見た。
中曽根 悠:
「まさか……な」
そんな俺のつぶやきは、じゃれ合う二人にも届かずに教室の片隅に消えた。
・ ・ ・
爽やかな初夏の風が、教室に滑り込んできた。
数学という、中学から新たにスタートした教科の先生は、俺にとって子守唄に聞こえるダミ声を響かせている。
ああ、これはやばい。
眠い。
中曽根 悠:
(ちょっと……ちょっとだけ)
俺は風の心地よさに負け、こっそりと気配を消して机に突っ伏した。
腕枕に顔を埋め、目の前に教科書を立たせる。
黒板に走るチョークの音と、先生のダミ声コンボ。
これに負けている生徒は、俺だけではないはずだ。
中曽根 悠:
(風、気持ちいいな)
緑の薫り含む風を受け止めたくて、窓側に顔を向ける。
するとそこに、隣の席に座る戸田の横顔があった。
中曽根 悠:
(戸田のやつ……真面目に授業受けてるな)
シャープペンシルを走らせる戸田は、俺が見ていることに気づいていない。
ノートの端っこに例の消しゴムを置いて、ひたすらに前方の黒板を目で追っている。
中曽根 悠:
(あの消しゴム……どうして奪ったんだろ)
その答えは、あの消しゴムのケースを外したらわかるのだろうか。
ぼんやりとそんなことを考えた。
別に、戸田のことが好きってわけじゃない。
そんなことを考えたこともなかった。
でも、あんなふうに消しゴムを奪われたのはショックだったし、今こうしてギクシャクしているのも、何だかムカついた。
そんなことを俺が考えていることも知らずに、戸田は懸命にノート取りを続けている。
ペンを走らせている手は細い。
視線を手から腕へと移すと、その腕はセーラー服から伸びている。
白い腕だな。
柔らかそうだな。
なんてぼんやりと思う。
その白い腕は、短い袖口から伸びている。
そして。
その袖口から見えてしまった、白い……──。
中曽根 悠:
(……!!)
「そして背中に透けて見える禁断のブラ……! こりゃあたまりませんなぁ!」
な・なんでここで、大谷のエロ台詞が聞こえるんだよ!?
中曽根 悠:
(ち、違う! たまたま見えちまっただけで!)
俺は慌てて、逆に顔を向けた。
それなのに脳裏に、袖口からしっかりと見えてしまった戸田の下着が、チカチカと蘇る。
戸田 るり:
「?」
戸田、気づいてないよな?
てゆーか、油断しすぎだろう!!
俺の戸田に対する苛立ちは、その一件でますます増えてしまった。
◇ 続く ◇




