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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第一章 ご乗車ください《1年生編》
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Ep.9 恋はあせらず(1)「悩み相談男子会」

 夏休み前に、俺は戸田るりと付き合うことになった。

 いわゆる、彼氏彼女の関係になったのだ。

 小学生の頃から知ってるあいつと、そんな関係になるなんて……正直、変な感じだ。


 すぐに夏休みに入ってしまったので、あんまり会えていない。

 同小のメンバーで行った夏祭りで見たあいつの浴衣姿は、可愛かった。

 あとはとくに何もない。

 俺は部活に、あいつは塾や習い事で忙しかったし。


──ところで。


 付き合うって、何をすればいいんだ?



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 恋はあせらず

(1)「悩み相談男子会」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 夏の蒸すような暑さも和らぎ、秋の風が通り抜けるグラウンド。

 俺と小池が、部活のために着替えて外に出たら、どこかへ行っていた大谷が慌ててこちらへやってきた。


 大谷 圭介:

「おおい! 中曽根ー!」


 まだ部活が始まる前。先輩たちもまばらだ。

 グラウンドの隅にいた俺たちのもとに、大谷がやかましい声を響かせやってきた。


 中曽根 悠:

「何だよ?」


 大谷 圭介:

「何だよじゃねーよ! お前ってやつぁ!」


 小池 隼人:

「どうしたの、ケイちゃん」


 大谷 圭介:

「おい、隼人は知ってたか!? こいつ、戸田と付き合ってるって!」


 中曽根 悠:

「!! 」


 ゲッ! 大谷のやつ……!


 小池 隼人:

「えっ! そうなの!?」


 まだ2人に話してなかった俺。

 大谷と小池が、こちらに向けてくる視線が痛い。


 中曽根 悠:

「何で知ってんだよ!?」


 大谷 圭介:

「望月から聞いたんだよ!」


 大谷 圭介:

「てか、本当なのか……まじか……」


 戸田の友人、望月のおしゃべりな顔を思い出す。

 まぁ、秘密にしようなんて思ってはいなかったし、バレてもいいんだけどさ。大谷のリアクションが大袈裟すぎて、何だか恥ずかしくなる。

 先輩たちもそばにいるから、あんまり大声で言うなよな。


 大谷 圭介:

「中曽根1人、抜け駆けかよぉ」


 小池 隼人:

「悠くん、戸田さんと仲良かったもんね」


 中曽根 悠:

「お、お前らいいから、こっち来い」


 先輩たちの視線がこっちに向いている気がして、2人を誘導した。


 俺たちは、こそこそとグラウンドの片隅に固まり、ストレッチをするふりをして話を続ける。


 大谷 圭介:

「で、いつからだよ?」


 大谷はさっきまであんなに慌てていたのに、今は興味津々といった顔で聞いてくる。

 俺は、なるべく表情を崩さず答えた。


 中曽根 悠:

「……夏休み前」


 大谷 圭介:

「てことは、今が10月だから、もう少しで三ヶ月か」


 小池 隼人:

「気づかなかったなぁ」


 気づくも何も、夏休み中だったしな。


 大谷 圭介:

「で、なになに。デートとかしちゃったわけ!?」


 中曽根 悠:

「え? してねーよ。夏祭りくらいか?」


 大谷 圭介:

「は? 何それ。せっかくの夏休みに、何してんの」


 大谷がポカンと口を開けた。

 まるで、信じられないものでも見るかのようだ。


 大谷 圭介:

「夏祭りなんか集団行動じゃねーか! あんなのデートとは言わねえよ!」


 中曽根 悠:

「そうなのか?」


 大谷 圭介:

「付き合ってんなら、電話とかメッセージとか、何かあるだろ!?」


 中曽根 悠:

「だって俺、スマホ持ってねーし」


 姉貴のスマホ所持が高校からだったので、強制的に俺も、高校から持たせてもらう流れに何となくなっている。

 まだ中学1年生。親の言いつけには逆らえない。

 戸田のやつは、持ってるらしいけど。


 中曽根 悠:

「……てかさぁ」


 俺は、ボリボリと頭をかいた。

 バレたんだ。この際、こいつらに悩みを聞いてもらおうと口を開く。


 中曽根 悠:

「付き合うって何すればいいんだ? よくわかんねーよ」


 そんな俺を見て、大谷と小池は顔を見合わせた。


 夏休み中も二学期も、戸田に対して何かアクションを起こした方がいいのかと、ずっと考えていた。

 でも、会うといつも通りのやりとりになって、それでいいのかな……と何となく時間だけが過ぎていった。


 でも、そのままでいいのかとも思うし。

 うーん、よくわからん。


 大谷 圭介:

「まぁ、付き合うならデートしたりとか?」


 小池 隼人:

「一緒に帰ったりとかも、いいんじゃないの?」


 大谷 圭介:

「あー、いいね。それで相合傘とか、手をつないだりなんかして〜」


 中曽根 悠:

「ほうほう」


 2人のアイデアを頭の中にメモする。

 そうか、彼氏彼女はそういうことをするのか。


 大谷 圭介:

「あとあと、やっぱチューとかしちゃったりー」


 大谷の妄想が若干、暴走しそうになったとき。


 坂本先生:

「お前ら、なーに煩悩を走らせてんだ」


 サッカー部顧問の坂本先生が、俺らの背後で仁王立ちしていた。


 中曽根 悠:

「ゲッ、先生!」


 き、聞かれてないよな!?


 坂本先生:

「ゲッとはなんだ、ゲッとは! もう始まるぞー!」


 大谷 圭介:

「ひぇ〜」


 坂本先生に急かされ、俺たちは蜘蛛の子を散らすようにグラウンドに駆け出した。


 中曽根 悠:

(……一緒に帰る、か)


 さっき2人から提案された中で、すぐに実行できそうなそれを頭の中で考える。


 ちらりと校舎を見上げる。

 家庭科室には電気がついていて、その中で家庭科部が活動していることがわかった。

 戸田も、あの中にいるはず。


 俺はそれだけ確認すると、ストレッチを始めようとする先輩たちの輪の中に溶け込んだ。



 ・   ・   ・



 部活後。

 まだ明かりが点いていたことにホッとして、俺は家庭科室に訪れた。

 そこからは甘い香りが漂っていて、空腹を刺激してくる。

 ひょい、と窓から中を覗くと、数人の家庭科部メンバーが見えた。


 全員エプロンをつけている。後片付け中らしく、ボールや泡立て器などをしまっていた。

 そんな中、戸田を見つけた。

 仄かな桜色のエプロンをつけている。


 中曽根 悠:

「おーい、戸田」


 窓を開けて、声をかけた。


 戸田 るり:

「え?」


 戸田 るり:

「! 中曽根?」


 戸田は驚いた様子で、こちらに近づく。

 俺は上半身を窓枠に預け、そんな戸田を見上げた。


 中曽根 悠:

「いい匂いだな」


 戸田 るり:

「あ、今日はクッキー作りだったから」


 戸田 るり:

「……て、どうしたの?」


 中曽根 悠:

「よかったら、一緒に帰ろうと思って」


 戸田 るり:

「え! 」


 戸田の顔が、エプロンと同じ色になった。

 この表情、久しぶりに見たなぁ。


 中曽根 悠:

「ダメか?」


 戸田 るり:

「……だ、ダメじゃない」


 戸田は、小さく首を横に振る。

 よかった。これで断られたら、大谷と小池にイジられながら帰る羽目になるところだった。

 戸田はちらちらと家庭科室の中を振り返りながら、こちらにコソッと言う。


 戸田 るり:

「靴箱のところで待ってて。片付けが終わったら、すぐに行くから」


 中曽根 悠:

「ん、わかった」


 まわりの視線が恥ずかしいのかな?

 まぁ、散々さっき大谷たちに話をさせられた俺としても気持ちはわかるから、素直に頷いた。

 去ろうとして窓から体を離した。そのとき。


 戸田 るり:

「あの!」


 戸田がまた小さく呟いた。


 戸田 るり:

「……ありがとう。嬉しい」


 口端を少し上げて微笑んだ戸田。

 それが見て、何だか──


 中曽根 悠:

「……ん」


 俺は急にむず痒くなって、小さく返事をして靴箱に向かった。




 ◇ 続く ◇

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