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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第一章 ご乗車ください《1年生編》
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Ep.8 ボーイ・アンド・ガール(4)「少年は声を枯らす」

 静かだった、扉の向こうの体育館。

 そこに何人かの足音が響いたことに、僕と松宮さんは気がついた。

 そして聞き覚えのある声が、厚い扉の向こうで小さく聞こえる。


 大谷 圭介:

「早く開けろよ!」


 森:

「るっせえなぁ、わかってるよ」


 小池 隼人:

(ケイちゃんの声だ! それに森くん……!)


 続けざまに、女の子の声も聞こえた。


 飯田 詩音:

「茜! 茜、大丈夫!?」


 早乙女 茉莉:

「茜ちゃん……!」


 松宮 茜:

「詩音! 茉莉……!」


 松宮さんは友達の声を聞いて、縋るように扉に手を当てた。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 ボーイ・アンド・ガール

(4)「少年は声を枯らす」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 ガチャリ、と鍵の解かれた音が響く。

 鈍い音を立てて開いた、体育倉庫の扉。

 僕は光を、松宮さんは開放感を得て安堵する。


 扉の向こうには、6人いた。

 ケイちゃんと悠くん。

 松宮さんの友達の、飯田さんと早乙女さん。

 そして、この騒動を作り上げた張本人の、森くんと金田くんだ。


 中曽根 悠:

「小池、よかった……!」


 悠くんが体育倉庫から出てきた僕を、ホッとした様子で出迎えた。

 松宮さんも、すぐそばで友達に駆けつけられている。


 飯田 詩音:

「茜、大丈夫だった!?」


 松宮 茜:

「平気平気」


 さっきまで震えていたことなど、なかったかのように笑う松宮さん。

 彼女が強がっていることが、僕にはわかった。


 そんな僕たちから離れたところで、森くんと金田くんが、居心地悪そうにこちらを睨んでいる。

 どういう経緯かはわからないが、この2人の仕業だとすぐにバレたのだろう。

 2人に対して、ケイちゃんが怒鳴った。


 大谷 圭介:

「お前ら、ちゃんと2人に謝れ!」


 それに対し森くんと金田くんは、さして反省などしていないような態度を取る。


 森:

「何だよ、ちょっとしたジョークじゃんかよ」


 金田:

「そうだよ、むしろ2人をくっつけてあげようと思ってさ」


 ヘラヘラしたその態度は、悪いことをしたなんてまったく思っていない。


 さすがの僕も、カチンときた。

 キッと睨むが、2人にはあまり効いてなさそうだ。

 そして2人はあろうことか、僕ではなく、松宮さんに向けて言葉を吐いた。


 金田:

「松宮、小池を中で襲ってねーよな?」


 森:

「あっはっは、おとこ女なら、やりかねねぇ!」


 松宮 茜:

「なっ……」


 カッと。

 松宮さんは耳朶まで、赤く染めた。

 それは、侮辱され傷ついたゆえの赤。

 一瞬泣きそうな表情を見せた松宮さんを見て。


 小池 隼人:

「……! 」


 僕は。


 僕は、喉が震えた。


 小池 隼人:

「……謝れよ! 」


 松宮 茜:

「! 」


 森 & 金田:

「!?」


 体育館に反響した声。

 それが自分の発した声だということを認識して、さらに僕の感情が大きくなった。


 小池 隼人:

「松宮さんに謝れ! 」


 小池 隼人:

「謝れよ!!」


 それは自分でも聞いたことのない、掠れた声だ。


 絞り出すように出した声は、いつもより低くて、震えていて。

 わなわなと握られた拳も、それに合わせたように震えていた。


 森:

「な……何だよ」


 金田:

「小池のくせに……」


 森くんも金田くんも、突然の僕の大声にさすがにたじろぐ。


 でも。


 金田:

「生意気なんだよ!」


 ドン! と金田くんが、僕の肩を突いた。


 小池 隼人:

「……っ!」


 その瞬間、僕の中の何かが弾けて飛んだ。

 気がつけば金田くんに飛びかかり、その体を思い切り突き飛ばしていた。


 小池 隼人:

「謝れーー!! 」


 大谷 圭介:

「わー! 隼人、ストップストップ!!」


 中曽根 悠:

「ちょ……よせって、お前ら! 」


 金田くんの上に馬乗りになる僕に、ケイちゃんが慌てて静止の声をかける。

 そんな僕に、金田くんが下から拳を突き上げて猛反発する。

 悠くんは、森くんまで僕を攻撃してくるもんだから、それを止めようと必死になるが収拾がつかない。


 飯田 詩音:

「きゃあー! 」


 早乙女 茉莉:

「せ、先生……! 先生呼んでこなきゃ……!」


 遠くで悲鳴をあげる女子の声が、かすかに聞こえる。

 でも、必死になっている僕は、ちらりと目の端に松宮さんを捕らえるだけで精一杯だった。


 松宮さん、大丈夫かな?

 君が傷つく必要なんか、ないんだ。

 こいつらの言葉に傷つく必要なんて、1ミリもないんだよ。


 そう思って、彼女の姿を捕らえたのに。



 松宮 茜:

「……っ小池…くん」



 泣きそうな顔で、松宮さんが僕を呼ぶもんだから。


 僕の動きは一瞬止まって、その隙に2人からボコボコにされてしまったんだ。




 ◇ 続く ◇

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