Ep.8 ボーイ・アンド・ガール(4)「少年は声を枯らす」
静かだった、扉の向こうの体育館。
そこに何人かの足音が響いたことに、僕と松宮さんは気がついた。
そして聞き覚えのある声が、厚い扉の向こうで小さく聞こえる。
大谷 圭介:
「早く開けろよ!」
森:
「るっせえなぁ、わかってるよ」
小池 隼人:
(ケイちゃんの声だ! それに森くん……!)
続けざまに、女の子の声も聞こえた。
飯田 詩音:
「茜! 茜、大丈夫!?」
早乙女 茉莉:
「茜ちゃん……!」
松宮 茜:
「詩音! 茉莉……!」
松宮さんは友達の声を聞いて、縋るように扉に手を当てた。
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ボーイ・アンド・ガール
(4)「少年は声を枯らす」
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ガチャリ、と鍵の解かれた音が響く。
鈍い音を立てて開いた、体育倉庫の扉。
僕は光を、松宮さんは開放感を得て安堵する。
扉の向こうには、6人いた。
ケイちゃんと悠くん。
松宮さんの友達の、飯田さんと早乙女さん。
そして、この騒動を作り上げた張本人の、森くんと金田くんだ。
中曽根 悠:
「小池、よかった……!」
悠くんが体育倉庫から出てきた僕を、ホッとした様子で出迎えた。
松宮さんも、すぐそばで友達に駆けつけられている。
飯田 詩音:
「茜、大丈夫だった!?」
松宮 茜:
「平気平気」
さっきまで震えていたことなど、なかったかのように笑う松宮さん。
彼女が強がっていることが、僕にはわかった。
そんな僕たちから離れたところで、森くんと金田くんが、居心地悪そうにこちらを睨んでいる。
どういう経緯かはわからないが、この2人の仕業だとすぐにバレたのだろう。
2人に対して、ケイちゃんが怒鳴った。
大谷 圭介:
「お前ら、ちゃんと2人に謝れ!」
それに対し森くんと金田くんは、さして反省などしていないような態度を取る。
森:
「何だよ、ちょっとしたジョークじゃんかよ」
金田:
「そうだよ、むしろ2人をくっつけてあげようと思ってさ」
ヘラヘラしたその態度は、悪いことをしたなんてまったく思っていない。
さすがの僕も、カチンときた。
キッと睨むが、2人にはあまり効いてなさそうだ。
そして2人はあろうことか、僕ではなく、松宮さんに向けて言葉を吐いた。
金田:
「松宮、小池を中で襲ってねーよな?」
森:
「あっはっは、おとこ女なら、やりかねねぇ!」
松宮 茜:
「なっ……」
カッと。
松宮さんは耳朶まで、赤く染めた。
それは、侮辱され傷ついたゆえの赤。
一瞬泣きそうな表情を見せた松宮さんを見て。
小池 隼人:
「……! 」
僕は。
僕は、喉が震えた。
小池 隼人:
「……謝れよ! 」
松宮 茜:
「! 」
森 & 金田:
「!?」
体育館に反響した声。
それが自分の発した声だということを認識して、さらに僕の感情が大きくなった。
小池 隼人:
「松宮さんに謝れ! 」
小池 隼人:
「謝れよ!!」
それは自分でも聞いたことのない、掠れた声だ。
絞り出すように出した声は、いつもより低くて、震えていて。
わなわなと握られた拳も、それに合わせたように震えていた。
森:
「な……何だよ」
金田:
「小池のくせに……」
森くんも金田くんも、突然の僕の大声にさすがにたじろぐ。
でも。
金田:
「生意気なんだよ!」
ドン! と金田くんが、僕の肩を突いた。
小池 隼人:
「……っ!」
その瞬間、僕の中の何かが弾けて飛んだ。
気がつけば金田くんに飛びかかり、その体を思い切り突き飛ばしていた。
小池 隼人:
「謝れーー!! 」
大谷 圭介:
「わー! 隼人、ストップストップ!!」
中曽根 悠:
「ちょ……よせって、お前ら! 」
金田くんの上に馬乗りになる僕に、ケイちゃんが慌てて静止の声をかける。
そんな僕に、金田くんが下から拳を突き上げて猛反発する。
悠くんは、森くんまで僕を攻撃してくるもんだから、それを止めようと必死になるが収拾がつかない。
飯田 詩音:
「きゃあー! 」
早乙女 茉莉:
「せ、先生……! 先生呼んでこなきゃ……!」
遠くで悲鳴をあげる女子の声が、かすかに聞こえる。
でも、必死になっている僕は、ちらりと目の端に松宮さんを捕らえるだけで精一杯だった。
松宮さん、大丈夫かな?
君が傷つく必要なんか、ないんだ。
こいつらの言葉に傷つく必要なんて、1ミリもないんだよ。
そう思って、彼女の姿を捕らえたのに。
松宮 茜:
「……っ小池…くん」
泣きそうな顔で、松宮さんが僕を呼ぶもんだから。
僕の動きは一瞬止まって、その隙に2人からボコボコにされてしまったんだ。
◇ 続く ◇




