Ep.8 ボーイ・アンド・ガール(3)「少年は少女を想う」
小池 隼人:
(まいったなぁ……)
体育倉庫に閉じ込められた、僕と松宮さん。
明かり取りの窓があるため、真っ暗じゃないのが幸いだ。
ただ、その窓は天井近くの本当に小さな窓で、通れるのなんて猫くらいの縦幅のないものだ。
あそこから出るのは無理だろう。というか、遠すぎてそもそも届かない。
小池 隼人:
「困ったね、松宮さん」
小池 隼人:
「……松宮さん?」
ふと、そばにいるはずの彼女へ視線を向ける。
すると、松宮さんはしゃがみ込んで、フルフルと小さく震えていた。
小池 隼人:
「ど、どうしたの!?」
僕は慌てて、彼女のそばにしゃがんだ。
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ボーイ・アンド・ガール
(3)「少年は少女を想う」
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松宮 茜:
「……ご、ごめん」
松宮さんが絞り出した声は、かすかに震えていた。
松宮 茜:
「私……閉所…恐怖症で」
松宮 茜:
「……ダメなんだ…こういうの」
そう言った彼女は、自分を抱きしめるように膝を抱え込み、ぎゅっと目を瞑っていた。
僕より背が高いはずの松宮さんが、僕より小さくなって震えている。
──本当に、怖いんだ。
小池 隼人:
「大丈夫?」
松宮 茜:
「……っ、わかん…ない」
こんなに弱々しい松宮さんは、初めて見た。
いつも活発に動いていて、ハツラツとしている印象の松宮さん。
そんな彼女が、閉ざされた空間を怖がって震えている。
僕は安心させようと、そっと松宮さんの肩に手をのせた。
小池 隼人:
「大丈夫だよ。きっとすぐに出られるよ」
松宮 茜:
「……うん」
まだ顔を俯かせたまま、松宮さんは小さく頷いた。
しばらくすると少し落ち着いたのか、震えはなくなる。
その代わり、小さな声が松宮さんから漏れた。
松宮 茜:
「……情けないなぁ、私」
それはいつになく自信の無い声で、僕はそんな声を聞いて、胸がぎゅっと締め付けられた。
小池 隼人:
「そんなことないよ」
松宮さんは、情けなくなんかない。
そもそも、森くんと金田くんの変なイタズラのせいで、こんな目に遭っているのに。
僕は凹んでいる松宮さんを元気づけたくて、誰にも言えなかった秘密を口にした。
小池 隼人:
「僕も、じつはちょっぴり怖いんだ」
松宮 茜:
「え?」
松宮さんがようやく顔をあげる。眉が八の字になっていて、少し可愛い。
小池 隼人:
「僕、暗いの苦手だから。じつは今、ちょっと怖い」
それは、誰にも言ったことのない僕の秘密だった。
親ぐらいしか知らない、僕の秘密。
でも、松宮さんを安心させられるなら、ケイちゃんたちさえ知らない僕の弱点を、伝えてもいいと思えたんだ。
松宮 茜:
「……そんなふうに見えないな」
小池 隼人:
「うん、強がってる。男の子だから」
松宮 茜:
「………」
松宮 茜:
「……ふふ」
松宮さんからようやく笑顔を引き出せたことが嬉しくて、僕も笑った。
よいしょ、と松宮さんの隣に腰を下ろす。
体育倉庫の床はコンクリートだから、ひんやり冷たい。
小池 隼人:
「それにしても、今回は酷すぎる。あの2人」
松宮さんも同じようにお尻をつけて、膝を抱えると床を見つめた。
松宮 茜:
「……あいつらね、昔からあんなんだよ」
小池 隼人:
「松宮さんは、小学校が一緒なんだっけ?」
松宮 茜:
「うん、西小」
松宮さんは小さく溜息をついた。
松宮 茜:
「小学校のときもあいつら、私をよくからかってきたんだ。おとこ女って。まぁ実際、男勝りだからさ」
──男勝り?
その言葉が引っかかって、僕は松宮さんを見つめた。
松宮さんの伏された目からは、長い睫毛が伸びて影を頬に落としている。
怒っているように唇を突き出している表情は、全然男っぽくない。
……というか。
小池 隼人:
「松宮さんは、松宮さんだよ」
そう思った。
松宮 茜:
「え?」
小池 隼人:
「男勝りとかおとこ女とか、そんなんじゃなくて……ええと」
何て言ったらいいのかな。
僕は普段働かせない脳みそを、フル回転させた。
小池 隼人:
「松宮さんはスポーツが得意だ。僕は裁縫が得意だ」
小池 隼人:
「でもそれって、ただの個性だよね」
小池 隼人:
「男っぽいとか、女っぽいとかじゃなくてさ」
小池 隼人:
「だから、ええと」
言っているうちに、喉がなんとなく掠れている気がして、こほんと咳をした。
小池 隼人:
「今日、松宮さんがバスケしてるのを見て、すごくカッコいいなって思ったよ。だから……」
小池 隼人:
「そのままでいいんだよ」
松宮 茜:
「………」
松宮 茜:
「……そっか」
松宮さんがそこで、ふわりと笑った。
松宮 茜:
「……ありがとう」
その笑顔は、とても可愛くて。
やっぱり松宮さんは女の子なんだな、とあらためて実感した。
くまのマスコットが大切で。
バスケが得意で。
閉所恐怖症で。
笑顔が可愛い、普通の女の子なんだ。
小池 隼人:
「……そ、それにしても」
僕の声は相変わらず枯れていて、またコホンと咳をして立ち上がる。
小池 隼人:
「誰か、気づかないかな。さすがに昼休みに僕らがいないこと、不審に思うはずなんだけど……」
体育座りしたままの松宮さんが、僕を見上げる。
その時。
誰かが体育館に入ってくる気配がしたので、2人して顔を見合わせた。
◇ 続く ◇




