表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
36/47

Ep.8 ボーイ・アンド・ガール(3)「少年は少女を想う」

小池 隼人:

(まいったなぁ……)


体育倉庫に閉じ込められた、僕と松宮さん。

明かり取りの窓があるため、真っ暗じゃないのが幸いだ。

ただ、その窓は天井近くの本当に小さな窓で、通れるのなんて猫くらいの縦幅のないものだ。

あそこから出るのは無理だろう。というか、遠すぎてそもそも届かない。


小池 隼人:

「困ったね、松宮さん」


小池 隼人:

「……松宮さん?」


ふと、そばにいるはずの彼女へ視線を向ける。

すると、松宮さんはしゃがみ込んで、フルフルと小さく震えていた。


小池 隼人:

「ど、どうしたの!?」


僕は慌てて、彼女のそばにしゃがんだ。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


ボーイ・アンド・ガール

(3)「少年は少女を想う」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



松宮 茜:

「……ご、ごめん」


松宮さんが絞り出した声は、かすかに震えていた。


松宮 茜:

「私……閉所…恐怖症で」


松宮 茜:

「……ダメなんだ…こういうの」


そう言った彼女は、自分を抱きしめるように膝を抱え込み、ぎゅっと目を瞑っていた。

僕より背が高いはずの松宮さんが、僕より小さくなって震えている。


──本当に、怖いんだ。


小池 隼人:

「大丈夫?」


松宮 茜:

「……っ、わかん…ない」


こんなに弱々しい松宮さんは、初めて見た。

いつも活発に動いていて、ハツラツとしている印象の松宮さん。

そんな彼女が、閉ざされた空間を怖がって震えている。

僕は安心させようと、そっと松宮さんの肩に手をのせた。


小池 隼人:

「大丈夫だよ。きっとすぐに出られるよ」


松宮 茜:

「……うん」


まだ顔を俯かせたまま、松宮さんは小さく頷いた。


しばらくすると少し落ち着いたのか、震えはなくなる。

その代わり、小さな声が松宮さんから漏れた。


松宮 茜:

「……情けないなぁ、私」


それはいつになく自信の無い声で、僕はそんな声を聞いて、胸がぎゅっと締め付けられた。


小池 隼人:

「そんなことないよ」


松宮さんは、情けなくなんかない。

そもそも、森くんと金田くんの変なイタズラのせいで、こんな目に遭っているのに。


僕は凹んでいる松宮さんを元気づけたくて、誰にも言えなかった秘密を口にした。


小池 隼人:

「僕も、じつはちょっぴり怖いんだ」


松宮 茜:

「え?」


松宮さんがようやく顔をあげる。眉が八の字になっていて、少し可愛い。


小池 隼人:

「僕、暗いの苦手だから。じつは今、ちょっと怖い」


それは、誰にも言ったことのない僕の秘密だった。

親ぐらいしか知らない、僕の秘密。

でも、松宮さんを安心させられるなら、ケイちゃんたちさえ知らない僕の弱点を、伝えてもいいと思えたんだ。


松宮 茜:

「……そんなふうに見えないな」


小池 隼人:

「うん、強がってる。男の子だから」


松宮 茜:

「………」


松宮 茜:

「……ふふ」


松宮さんからようやく笑顔を引き出せたことが嬉しくて、僕も笑った。

よいしょ、と松宮さんの隣に腰を下ろす。

体育倉庫の床はコンクリートだから、ひんやり冷たい。


小池 隼人:

「それにしても、今回は酷すぎる。あの2人」


松宮さんも同じようにお尻をつけて、膝を抱えると床を見つめた。


松宮 茜:

「……あいつらね、昔からあんなんだよ」


小池 隼人:

「松宮さんは、小学校が一緒なんだっけ?」


松宮 茜:

「うん、西小」


松宮さんは小さく溜息をついた。


松宮 茜:

「小学校のときもあいつら、私をよくからかってきたんだ。おとこ女って。まぁ実際、男勝りだからさ」


──男勝り?


その言葉が引っかかって、僕は松宮さんを見つめた。


松宮さんの伏された目からは、長い睫毛が伸びて影を頬に落としている。

怒っているように唇を突き出している表情は、全然男っぽくない。


……というか。


小池 隼人:

「松宮さんは、松宮さんだよ」


そう思った。


松宮 茜:

「え?」


小池 隼人:

「男勝りとかおとこ女とか、そんなんじゃなくて……ええと」


何て言ったらいいのかな。

僕は普段働かせない脳みそを、フル回転させた。


小池 隼人:

「松宮さんはスポーツが得意だ。僕は裁縫が得意だ」


小池 隼人:

「でもそれって、ただの個性だよね」


小池 隼人:

「男っぽいとか、女っぽいとかじゃなくてさ」


小池 隼人:

「だから、ええと」


言っているうちに、喉がなんとなく掠れている気がして、こほんと咳をした。


小池 隼人:

「今日、松宮さんがバスケしてるのを見て、すごくカッコいいなって思ったよ。だから……」


小池 隼人:

「そのままでいいんだよ」


松宮 茜:

「………」


松宮 茜:

「……そっか」


松宮さんがそこで、ふわりと笑った。


松宮 茜:

「……ありがとう」


その笑顔は、とても可愛くて。

やっぱり松宮さんは女の子なんだな、とあらためて実感した。


くまのマスコットが大切で。

バスケが得意で。

閉所恐怖症で。

笑顔が可愛い、普通の女の子なんだ。


小池 隼人:

「……そ、それにしても」


僕の声は相変わらず枯れていて、またコホンと咳をして立ち上がる。


小池 隼人:

「誰か、気づかないかな。さすがに昼休みに僕らがいないこと、不審に思うはずなんだけど……」


体育座りしたままの松宮さんが、僕を見上げる。


その時。

誰かが体育館に入ってくる気配がしたので、2人して顔を見合わせた。




◇ 続く ◇

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ