Ep.8 ボーイ・アンド・ガール(2)「少年は憧れを抱く」
その日の体育の授業は、男女ともにバスケだった。
体育館コートの中央には、緑のネットが天井から垂れ下がり、男女を分けている。
バスケットボールの弾む音が響き渡るコート内。
バスケが苦手な僕は、へたっぴなドリブルをしている。
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ボーイ・アンド・ガール
(2)「少年は憧れを抱く」
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小池 隼人:
「バスケは嫌いだ」
思わずそう言うと、横に立っている悠くんがボールを弾ませながら答えた。
中曽根 悠:
「小池はサッカー、得意なのになぁ」
そういう悠くんは、どのスポーツも万能で羨ましい。だから、女の子に人気があるんだろうなぁ。
小池 隼人:
「足を使うのはいいんだけどね。バスケはゴールも小さいし……」
背が高い方が有利だし……という言葉は、かろうじて飲み込んだ。
それを言っちゃったら、男としてなんか悔しい気がする。
とその時、隣のコートから「わっ」と女子の歓声があがった。
そちらを見ると、松宮さんが沢山の女の子たちに囲まれて、ハイタッチを決めている。
どうやら、女子はハーフコートを使った試合をして、その中で松宮さんが活躍しているらしい。
飯田 詩音:
「茜、今のすごいシュートだね!」
早乙女 茉莉:
「す、スリーポイントシュートくらい、距離あったよ!?」
松宮さんと仲のいい飯田さんと早乙女さんが、彼女に駆け寄る。
松宮さんは嬉しそうに笑った。
松宮 茜:
「へっへーん! バスケ部期待の星ですからっ」
そう言ってブイサインを作る松宮さん。
「自分で言うなっつーの!」という突っ込みを嬉しそうに受ける彼女は、僕の目にとても眩しく見えた。
小池 隼人:
(すごいなぁ、松宮さん)
ネット越しに女子の試合を見ていても、その活躍ぶりはとてもよく目立つ。
期待の星とは、あながち嘘じゃないのかも。
僕が苦手とするバスケを楽しそうにプレイする松宮さんは、とってもカッコいい。
それなのに、彼女をからかう例の2人の声が、耳に入ってしまった。
森:
「あいつ、ぜってー女じゃねーよ」
金田:
「男より男らしいんじゃねぇの?」
ゲラゲラと下品な笑いを響かせたのは、やっぱり森くんと金田くんだ。
この2人はなんで、こうも嫌なことばかり言うのだろう。
小池 隼人:
(そんなこと、ないのに)
裁縫をするから男らしくないとか、スポーツができるから女らしくないとか、そんなの馬鹿らしい。
でも、僕には2人の悪口をやめなよと言える勇気はない。
ただ2人の会話が、松宮さんに届かなければいいなと思って、がむしゃらにドリブルをその場でするだけだ。
このドリブルの音で、松宮さんに聞こえなければいい。
中曽根 悠:
「何で急に、激しいドリブルしてんの?」
小池 隼人:
「いいの、別に!」
きょとんとする悠くんに、僕は大きな声で返した。
・ ・ ・
体育の時間が終わると、次はお昼の時間だ。
お昼前の体育って、本当につらい。お腹がペコペコだもん。
でも、僕はすぐに教室には戻れない。
体育委員として、使われたボールとスコアボードの後片付けをしていた。
小池 隼人:
「これで終わりかな?」
松宮 茜:
「うん、たぶん」
体育倉庫の中へ、同じ体育委員である松宮さんと一緒に、ボールの入ったカゴをゴロゴロとキャスターを動かし運んだ。
今日は、松宮さんとよく話す日だなぁ。
小池 隼人:
「お腹すいたね」
松宮 茜:
「うん、私もペコペコだ」
そんな、たわいもない話をしていた時だった。
ギイイィィ……
ガチャン!
小池 隼人:
「えっ!? 」
松宮 茜:
「!? 」
急に、体育倉庫の扉が閉められた。
慌てて扉に駆け寄るけれど、そこは固く閉ざされビクともしない。
小池 隼人:
「ちょっと! まだ中にいるよ!?」
誰かが勘違いして閉めてしまったのかと、慌てて扉を叩いて訴えた。
でも、その向こうから聞こえてきたのは、耳障りなあの声だった。
森:
「知ってるよ〜。そこでちょっと休んでけよ」
小池 隼人:
「も……森くん!?」
金田:
「昼休み、そこで2人っきりにしてやるよ」
小池 隼人:
(金田くんも……あの2人!)
あろうことか2人は、僕と松宮さんを体育倉庫に閉じ込めると、鍵をかけて笑いながら去っていった。
キーンコーン カーンコーン…
昼休みを告げる、チャイムが鳴る。
誰も来ることのない昼休みの体育倉庫に、僕と松宮さんは、閉じ込められてしまったのだ。
◇ 続く ◇




