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Ep.8 ボーイ・アンド・ガール(2)「少年は憧れを抱く」

その日の体育の授業は、男女ともにバスケだった。

体育館コートの中央には、緑のネットが天井から垂れ下がり、男女を分けている。

バスケットボールの弾む音が響き渡るコート内。


バスケが苦手な僕は、へたっぴなドリブルをしている。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


ボーイ・アンド・ガール

(2)「少年は憧れを抱く」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



小池 隼人:

「バスケは嫌いだ」


思わずそう言うと、横に立っている悠くんがボールを弾ませながら答えた。


中曽根 悠:

「小池はサッカー、得意なのになぁ」


そういう悠くんは、どのスポーツも万能で羨ましい。だから、女の子に人気があるんだろうなぁ。


小池 隼人:

「足を使うのはいいんだけどね。バスケはゴールも小さいし……」


背が高い方が有利だし……という言葉は、かろうじて飲み込んだ。

それを言っちゃったら、男としてなんか悔しい気がする。


とその時、隣のコートから「わっ」と女子の歓声があがった。

そちらを見ると、松宮さんが沢山の女の子たちに囲まれて、ハイタッチを決めている。

どうやら、女子はハーフコートを使った試合をして、その中で松宮さんが活躍しているらしい。


飯田 詩音:

「茜、今のすごいシュートだね!」


早乙女 茉莉:

「す、スリーポイントシュートくらい、距離あったよ!?」


松宮さんと仲のいい飯田さんと早乙女さんが、彼女に駆け寄る。

松宮さんは嬉しそうに笑った。


松宮 茜:

「へっへーん! バスケ部期待の星ですからっ」


そう言ってブイサインを作る松宮さん。

「自分で言うなっつーの!」という突っ込みを嬉しそうに受ける彼女は、僕の目にとても眩しく見えた。


小池 隼人:

(すごいなぁ、松宮さん)


ネット越しに女子の試合を見ていても、その活躍ぶりはとてもよく目立つ。

期待の星とは、あながち嘘じゃないのかも。

僕が苦手とするバスケを楽しそうにプレイする松宮さんは、とってもカッコいい。


それなのに、彼女をからかう例の2人の声が、耳に入ってしまった。


森:

「あいつ、ぜってー女じゃねーよ」


金田:

「男より男らしいんじゃねぇの?」


ゲラゲラと下品な笑いを響かせたのは、やっぱり森くんと金田くんだ。

この2人はなんで、こうも嫌なことばかり言うのだろう。


小池 隼人:

(そんなこと、ないのに)


裁縫をするから男らしくないとか、スポーツができるから女らしくないとか、そんなの馬鹿らしい。


でも、僕には2人の悪口をやめなよと言える勇気はない。

ただ2人の会話が、松宮さんに届かなければいいなと思って、がむしゃらにドリブルをその場でするだけだ。

このドリブルの音で、松宮さんに聞こえなければいい。


中曽根 悠:

「何で急に、激しいドリブルしてんの?」


小池 隼人:

「いいの、別に!」


きょとんとする悠くんに、僕は大きな声で返した。



・   ・   ・




体育の時間が終わると、次はお昼の時間だ。

お昼前の体育って、本当につらい。お腹がペコペコだもん。


でも、僕はすぐに教室には戻れない。

体育委員として、使われたボールとスコアボードの後片付けをしていた。


小池 隼人:

「これで終わりかな?」


松宮 茜:

「うん、たぶん」


体育倉庫の中へ、同じ体育委員である松宮さんと一緒に、ボールの入ったカゴをゴロゴロとキャスターを動かし運んだ。

今日は、松宮さんとよく話す日だなぁ。


小池 隼人:

「お腹すいたね」


松宮 茜:

「うん、私もペコペコだ」


そんな、たわいもない話をしていた時だった。


ギイイィィ……


ガチャン!


小池 隼人:

「えっ!? 」


松宮 茜:

「!? 」


急に、体育倉庫の扉が閉められた。

慌てて扉に駆け寄るけれど、そこは固く閉ざされビクともしない。


小池 隼人:

「ちょっと! まだ中にいるよ!?」


誰かが勘違いして閉めてしまったのかと、慌てて扉を叩いて訴えた。

でも、その向こうから聞こえてきたのは、耳障りなあの声だった。


森:

「知ってるよ〜。そこでちょっと休んでけよ」


小池 隼人:

「も……森くん!?」


金田:

「昼休み、そこで2人っきりにしてやるよ」


小池 隼人:

(金田くんも……あの2人!)


あろうことか2人は、僕と松宮さんを体育倉庫に閉じ込めると、鍵をかけて笑いながら去っていった。


キーンコーン カーンコーン…


昼休みを告げる、チャイムが鳴る。

誰も来ることのない昼休みの体育倉庫に、僕と松宮さんは、閉じ込められてしまったのだ。




◇ 続く ◇

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