Ep.7 ビー玉恋模様(5・終)「一生懸命に、君を」
父ちゃん:
「勝負する前に、諦めたくなかったんだ」
父ちゃんのその言葉は、ひどく俺の心を突き刺した。
俺は、何かしただろうか。
勝負を挑もうとしただろうか。
……していない。
していないんだ。
何もせずに、ただ見ていただけだった。
ふと、望月の笑顔が浮かんだ。
「ありがとね」
帰り際、そう言ってビー玉袋を掲げて笑ってくれた望月。
あの笑顔を、こっちにもっと向けられるなら。
大谷 圭介:
(やっぱり、諦めたくないな)
そう思った。
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ビー玉恋模様
(5)「一生懸命に、君を」
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父ちゃんのために買ったたこ焼きと玉せんは、家に帰ってから一緒に食った。
仕事明けで疲れていた父ちゃんは、腹がいっぱいになると、ソファに身を投げ出して眠りこける。
母ちゃん:
「もー、お風呂にも入らないで」
母ちゃんはそう言いながらも、クーラーの風が当たらないように調整しブランケットをかけた。
昔は高嶺の花だった相手にそうされているのに、父ちゃんはだらしなくいびきをかいている。
そんな様子を見て、ダイニングの椅子に座り直した母ちゃんに俺は呟いた。
大谷 圭介:
「……母ちゃんさあ」
母ちゃん:
「ん?」
大谷 圭介:
「父ちゃんの何がよかったの?」
母ちゃん:
「え!?」
息子からの突然の質問にびっくりする母ちゃん。
でも俺はどうしても知りたくて、父ちゃんを見ながら言葉を続ける。
大谷 圭介:
「父ちゃんから聞いたよ。母ちゃんには、付き合ってた人がいたけど勝ち取ったんだって」
母ちゃん:
「……もう! お父さんったら子どもに何を言って……」
母ちゃんはソファに向けギッと視線を送ったけれど、そこにはトドのようなおっさんしかいない。
ため息を優しくつくと、俺に顔を向けて言いづらそうに告げた。
母ちゃん:
「……気持ちが嬉しかったのよ」
大谷 圭介:
「……気持ち?」
母ちゃん:
「ほら、お父さんって、何にでも一生懸命になる人でしょ。私へのアプローチも、一生懸命にしてくれてね」
母ちゃんは湯飲みのお茶をぐいっと飲むと、意を決したかのように言葉を続けてくれた。
母ちゃん:
「最初は何にも思ってなかったけど、なんだかあの一生懸命さを見ていたら、嬉しくなってた自分に気がついてね」
母ちゃん:
「ああ、この人のこと好きかもしれない」
母ちゃん:
「……て、ある時ふっと気がついて」
母ちゃん:
「で、そこからはお付き合いしていた人と、きちんと別れて、お父さんとお付き合いしたのよ」
そして母ちゃんは、嬉しそうに笑う。
母ちゃん:
「ま、根負けしたのよ」
とって付けたようなその理由に、俺もつられて笑ってしまった。
大谷 圭介:
「母ちゃん、負けたんだ」
母ちゃん:
「そう、負けたの」
その時、ソファから「ふがっ」と父ちゃんのいびきが響いた。
それを聞いて俺たちは顔を見合わせて、また笑う。
──そっか。
好きな人に好きな人がいても、一生懸命になっていいのか。
そう思えただけで、俺の心がなんだかふわりと軽くなった。
親の馴れ初め話に救われるなんて、なんだか悔しいけれど、それもまあ……悪くないよな。
・ ・ ・
夏休みは、あっという間に終わってしまった。
二学期となり、久しぶりの面子と顔を合わせる。
隼人と中曽根などのサッカー部仲間はそうでもないけど、他のやつらは久々だ。
もちろん、望月も。
望月 美羽:
「るりっち、梢ちゃん、二学期もよろしく〜!」
望月は朝一に、俺のクラスへと顔を出した。
毎朝こうして2組にやってきては、戸田と羽鳥とおしゃべりをする。一学期からの恒例である。
それを知っている俺は、クラスに入ってきた望月を意識して見ていた。
キャピキャピ小鳥のように朝の挨拶をしている望月たち。
それにチラチラと視線をよこしながら、望月と目が合うのを待った。
──あ、合った。
大谷 圭介:
「うっす、望月」
望月 美羽:
「大谷くん、久しぶりー!」
言葉を返してくれた望月。
それを聞いて俺は「よし!」と心の中でガッツポーズを決めた。
──俺は、父ちゃんみたいに押せ押せとはできないけれど。
こうやって、少しずつ望月と会話をしていこう。
距離を縮めていこう。
そう決めたんだ。
夏休み明けの朝の挨拶は、その大いなる決意の第一歩だった。
大谷 圭介:
(まずは、印象つけねーと!)
友達の枠から出られるように、とりあえず頑張るしかない。
それが今、俺にできる精一杯の一生懸命だった。
望月 美羽:
「あ、見て見て、大谷くん」
大谷 圭介:
「ん?」
挨拶だけで終わるかと思っていた俺は、さらに声をかけてきた望月に顔を向ける。
すると、望月は何やらストラップのようなものを、その顔の前に掲げた。
望月 美羽:
「じゃーん! こんなん作ってみました!」
大谷 圭介:
「あ! これって……」
それを見て俺は驚く。
だって、それは。
望月 美羽:
「そ。お祭りのビー玉だよ」
ビー玉で作られた、ストラップだったから。
紐で編み込まれたビー玉が2つ連なって、端っこにビーズなんかも付いている。
何とも可愛らしいストラップが、望月の顔の横で揺れていた。
大谷 圭介:
「……器用だな」
望月 美羽:
「へへ。もらった時から、これ作ろうって思ったんだ〜」
紐の中で、朝日を浴びて光るビー玉。
あの日、花火から視線を奪われたそいつも、今は誇らしげにストラップとして揺れている。
それを見て俺の胸が、グッとこみ上げる。
大谷 圭介:
「………望月」
望月 美羽:
「ん?」
俺は望月に、ビシッ! と指さした。
大谷 圭介:
「今に見てろ!!」
望月 美羽:
「え!? 何が!?」
一部始終を見ていた戸田も羽鳥も、隼人も中曽根も「え?」と首をかしげる。
でもそんなのは、どうでもいいのだ!
見ていろ望月。
ぜってーいつか、振り向かせてみるからな!!
◇ 終わり ◇
❀次エピソードへ続く




