Ep.7 ビー玉恋模様(3)「花火とビー玉」
望月が、ビー玉の入った袋を掲げて笑う。
それを見て俺の口元も、自然と緩む。
もう少しだけ、このままでいたい。
もう少しだけ……いや、いっそのこと、時間が止まってくれたらいいのに。
でも、その願いは。
「──あれ? 望月か」
突然、俺の背後から聞こえた声に打ち消された。
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ビー玉恋模様
(3)「花火とビー玉」
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望月 美羽:
「杉野先輩!」
俺の背後を見て、望月が驚く声をあげた。
振り返るとそこには、見慣れない男がいた。
眼鏡をかけ柔和な笑みを浮かべている。身長は、俺よりやや低い。
杉野先輩:
「偶然……ってわけでもないか。やっぱり皆、来てるんだな」
杉野先輩と呼ばれた男は、まわりをぐるりと見ながらそう言った。
先輩ってことは、同じ学校のやつなのか?
望月 美羽:
「は、はい! でも会えるとは、思いませんでした」
杉野先輩:
「俺も。さっきまで山口たちといたんだけど、はぐれてさ」
望月 美羽:
「あ、てことは、ちー先輩も?」
杉野先輩:
「そ。正解」
望月 美羽:
「本当、仲良しですねー」
俺のわからない会話を広げた2人の間にいられなくて、少し体をずらしてしまう。
望月はそんな俺の動きに気づく様子もなく、目の前の男と楽しそうに会話を続けた。
大谷 圭介:
(楽しそう……?)
そうだろうか。
望月は胸元に手を寄せ、指を組み合わせたり後れ毛を気にしたりと、動きがせわしない。
まっすぐに男を見ているかと思いきや、時々伏せて視線をさまよわせる。
そのほっぺは、りんご飴みたいに赤い。
楽しんでるというよりは、緊張しているように俺には見えた。
大谷 圭介:
(なんか……)
大谷 圭介:
(やな感じだ)
何なんだ、目の前にいるこの望月は。
敬語なんか使っちゃって、まるで知らない女の子みたいだ。
そう。
こんな、もじもじ赤らめる顔なんて、俺は知らない。
知らないから、苛立つ。
しかもその顔は、別の男に向けられている。
大谷 圭介:
「……望月!」
気がつけば、彼女の名前を呼んでいた。
望月 美羽:
「え?」
望月は呼ばれた条件反射のように、こちらを見た───その時。
ドン!
夜空に、大輪の花が咲いた。
それは、祭の最終日に打ち上げられる花火だった。
始まったんだ。花火の時間が。
まわりで歓声があがる。
誰もが、大きな音を立て咲いた花を見上げて、その美しさに目を釘付けにさせた。
俺も音につられて、見上げた景色に言葉を失う。
なんて綺麗な夜空なんだろう。
ドン!
ドン!
ドォン!
立て続けに鳴る花火。
止まっていた地上の人の動きも、ゆっくり動き始める。
大谷 圭介:
「………」
ちらりと望月を見た。
でも、そこには。
大谷 圭介:
「……っ! 」
あの男を見つめる望月がいた。
男はまだ、花火を見ていて気がついていない。でも、その隙をついて視線を向けるように、望月はまっすぐにそいつを見ていた。
──その視線の意味が、嫌でもわかる。
望月は男の視線につられるように、また花火へと顔を上げた。
花火の光が作る極彩色の影が、彼女を包む。
望月はうっとりと、花火を見上げている。
下ろしている右手に、ぶらりと俺のあげたビー玉袋がぶら下がった。
「当たりだよ。 だってキレイだもん」
そう言ってくれたのに。
今では花火に視線を奪われ、見向きもされないビー玉。
──ああ。あれは、俺だ。
ビー玉は花火に、勝てやしないんだ。
大谷 圭介:
「………」
とたんに、いたたまれなくなる。
あんなに嬉しかった望月の隣なのに、何とも居心地が悪い。
俺はそっと離れて、射的をしていた他のみんなに合流した。
すると、望月の友達の戸田と羽鳥の会話が耳に届いてしまう。
羽鳥 梢:
「ねぇるり! あれが例の美羽の本命?」
戸田 るり:
「あ、あの人だよ。園芸部の部長さん!」
羽鳥 梢:
「へー、真面目そうな人だね」
戸田 るり:
「美羽が今まで豪語してた、王子様って感じではないよね。美羽にしては珍しい」
羽鳥 梢:
「それだけ本気ってことじゃないの〜」
そこで2人してキャアキャアはしゃぐもんだから、俺はそこでの居心地も悪くなっちまった。
こんなん……こんなんありかよぉ!
泣きたくなるのをぐっと堪えて、俺は上を向く。
いつだって、辛いときは空を見上げていれば元気が出た。
でも、今は。
大きな花火が夜空を邪魔していて、さらに泣きたくなったんだ。
◇ 続く ◇




