↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第一章 ご乗車ください《1年生編》
PR
30/273

Ep.7 ビー玉恋模様(2)「不器用に、君を」

 久しぶりの同小メンバーで揃った俺たちは、ぞろぞろと連れ合いながら、祭り会場まで足を運んだ。

 女子はほとんどが浴衣姿できていて、男子はいつもどおりに振る舞いながらも、少しだけそわそわしている。


 大谷 圭介:

「おうおう中曽根、戸田と何話してたんだよー」


 中曽根 悠:

「るっせーよ、大谷」


 中曽根をからかいつつも、チラチラと望月を覗き見た。


 桃色と白の華やかな浴衣の望月が、なんだか眩しくて、まともに見ることができない。

 お団子に結われた髪に、揺れるかんざし。

 ちまちまと、歩く速度を遅らせる下駄。

 ちょこんと、両手で持っている巾着。

 そのどれもが、望月をよりいっそう「女の子」として意識させる。


 結局、会場に着くまで、俺は望月と話すことができなかった。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 ビー玉恋模様

(2)「不器用に、君を」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 大谷 圭介:

「ひゃー、すっげぇ人だなぁ」


 羽鳥 梢:

「はぐれないように気をつけなきゃね」


 学級委員らしく羽鳥が呟いた。

 最終日ともあってか、姫泣祭の会場はすごい人混みになっていた。

 今日は花火もあるから、押し合いへし合いの人だらけ。

 俺たちの集団は、よりいっそう固まってはぐれないように近づきあった。

 するとラッキーなことに、望月が俺に近づいた。


 望月 美羽:

「やほ、大谷くん」


 大谷 圭介:

「おう、望月か」


 なんて、さも今気がついたかのように白々しく答えてしまう。

 本当はすっげぇ嬉しいのに、知られたくなくてぶっきらぼうになっちまう。


 望月 美羽:

「すごい人だねぇ」


 大谷 圭介:

「だな。望月ちっこいから、隠れちまいそう」


 望月 美羽:

「そん時は、大谷くんが目印になるから大丈夫!」


 にこっと笑う望月はやっぱり可愛い。今日は浴衣姿の相乗効果で、最上級に可愛く見えた。


 不思議なもんだな。

 望月なんて、小学校も同じで何回か同じクラスになったこともあるのに、こんなふうに好きになるなんて、最近まで想像もしていなかった。

 それなのに今は、ただ隣にいるってだけで嬉しい。

 クラスが違うから、よりいっそう嬉しいんだ。


 大谷 圭介:

「はぐれんなよ」


 それだけしか言えなくて、俺はまた集団にまぎれた。

 これ以上、望月と話をしていたら、まわりに片想いが見透かされてしまいそうで。


 望月 美羽:

「うん」


 頷いた望月を気にしながら、一歩前を歩いた。



 ・   ・   ・



 俺たちは、いろんな出店をまわった。

 夕食代わりに焼きそばやお好み焼きを食べて、バナナチョコや綿菓子の甘さを堪能する。

 主に食べ物メインに楽しむうちに、俺の変な緊張も解け、純粋に祭りを楽しんでいた。


 中曽根 悠:

「なぁ、次は射的しよーぜ」


 小池 隼人:

「ん、いいね」


 中曽根が射的を提案し、何人かがそっちに付いていった。俺の横にいた隼人も、そっちに流れて離れる。

 ふと団体の後ろで、望月が別の店を見ていることに気がついた。


 大谷 圭介:

「望月、何見てんの」


 望月 美羽:

「あれ、してみよっかな」


 そう言って望月が指差したのは「くじ引き」と書かれた出店だった。

 あまり人気がないのか、今すぐにでも引けそうなくらい閑散としていた。


 大谷 圭介:

「くじか。やってみたら?」


 望月 美羽:

「でも、みんな射的に行ってるし……」


 そこで、俺は最大の勇気を出した。


 大谷 圭介:

「……俺もやろっかな」


 望月 美羽:

「え!」


 望月は目を大きく開く。

 うっ、いやって思われてないかな……。


 望月 美羽:

「やろやろ! やった〜、仲間ゲット!」


 その望月の言葉にホッとする。

 そしてなんと、俺と望月だけが、くじ引きの出店に向かった。

 思いがけない二人だけの別行動に、心が浮き立つ。

 と言っても、すぐそこに射的を楽しむみんながいるのだが。


 出店のおじさん:

「一回二百円ね」


 出店のおじさんにそれぞれお金を渡すと、俺たちはどのくじを引こうかと手を伸ばした。


 ここのくじ引きは、束になった紐から一本選んで引っ張り、その先に付いていたものがもらえるシステムだった。

 二百円という値段だから、もちろん大したものは付いてない。

 でも、望月と同じくじ引きを楽しめることがただ嬉しい。


 望月 美羽:

「せーので、一緒に引こう!」


 大谷 圭介:

「よし、わかった」


 望月 美羽:

「せーの!」


 ぐい!

 互いに選んだ紐を引っ張った。


 おじさんが引かれていく景品を見つけて、それぞれに渡してくれる。


 出店のおじさん:

「はい、ありがとさん。こちらが景品だよ」


 おじさんは、俺にビー玉の入った袋を、望月にはキャンディを渡した。


 望月 美羽:

「わ、可愛い飴だぁ」


 望月はハート形の棒キャンディに喜んだ。

 俺は渡されたビー玉の袋を持って、苦虫を噛み潰したような顔をする。


 大谷 圭介:

「俺はハズレだよ」


 ビー玉なんか、腹の足しにもなんねぇ。

 そう呟いた俺を、望月が下から覗き込んだ。


 望月 美羽:

「そうかなぁ?」


 透明袋に乱雑に入っているビー玉を見つめる望月。

 キラキラしたビー玉が、そんな望月の肌にカラフルな影を落とした。


 望月 美羽:

「当たりだよ。だって、キレイだもん」


 そう言っている望月の目ん玉も、ビー玉みたいにキレイだった。


 大谷 圭介:

(……ああ、俺)


 大谷 圭介:

(望月のこういうところが……)


 好きなんだ。

 そう実感した。


 前もこんなふうに、後ろ向きな俺に前向きな言葉をかけてくれたっけ。


 いつも笑ってて。

 いつも楽しそうにしていて。

 いつも前を向いている。

 向日葵みたいな子だ。

 そんな望月が好きだと、あらためて思う。


 大谷 圭介:

「……これ、望月にやるよ」


 ビー玉の袋を差し出した。


 望月 美羽:

「え、いいの?」


 大谷 圭介:

「俺いらないし。やる」


 なんだか照れ臭くて、ぶっきらぼうにしか言えなかった。

 でも。


 望月 美羽:

「嬉しい! ありがとう」


 そう言いながら笑って受け取る望月を見て、俺も自然に笑ってしまったんだ。




 ◇ 続く ◇

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。