↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第三章 最終便、発車します《3年生編》
PR
272/273

番外編その5 みかん後日談〈圭介side〉中2の秋

 月曜日。

 俺、大谷圭介は、11月の学校の廊下をルンルン気分で歩いていた。


 ポケットに隠し持ったスマホ。

 そこには、土曜に産まれたばかりの弟の写真が収められている。


 大谷 圭介:

(俺もついに、お兄ちゃんか〜)


 長年ひとりっ子だった俺にとって、弟の誕生というのは大きな転機だ。

 真っ赤な猿みたいな弟を、母ちゃんから受け取り抱いたとき、そのあまりにも小さな存在に胸がドキドキしたのを覚えている。


 とにかく無事に産まれて本当によかった。

 今日は部活後すぐに帰ろう。帰って、母ちゃんと弟のいる病院に、また行くんだ。

 そんなことを考えていたら、ちょうどトイレから出てきた男子生徒に気づいて俺は声をかけた。


 大谷 圭介:

「お、堂本!」


 堂本 信広:

「あ?」


 2年4組の、金田改め堂本信広。

 1年の時同じクラスだったそいつは、最近金髪から染め直したせいか、やけに違和感のある黒髪でふり返った。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 番外編その5 みかん後日談

 〈圭介side〉中2の秋


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 堂本は弟出産の連絡が来たときに、慌てた俺を落ち着かせてくれた。あとみかんも拾ってくれたし、案外いいやつなのかもしれない。

 そんな彼に俺は近づいて、手をあげる。


 大谷 圭介:

「よっす! 無事産まれたぜー!」


 堂本 信広:

「は?」


 堂本は眉間にシワを寄せて、俺をにらむ。

 しかしすぐに理解したのか、ああ、と小さくつぶやいた。


 堂本 信広:

「弟か」


 大谷 圭介:

「そーそー! おかげさまで無事、兄貴になりましたよ」


 堂本 信広:

「別に何もしてねーよ」


 若干うざそうに言われてしまう。

 うーむ冷たいぜ、堂本クンよぉ。


 大谷 圭介:

「何言ってんだい。みかんを拾ったうえ、俺を励ましてくれたじゃねぇか」


 堂本 信広:

「励ましてねぇ」


 歩き去ろうとする堂本の横に並んで、俺はスマホを取り出した。


 大谷 圭介:

「なぁなぁ、俺の弟見る? すっごく可愛いんだぜ!」


 フリックして、たくさん撮った弟の写真を披露する。

 それを横目で堂本は見て、ハァとため息をついた。


 堂本 信広:

「お前、超絶ウゼェ兄貴になりそうだな」


 大谷 圭介:

「愛溢れる兄貴になるんだよ!」


 しかし堂本は「あっそ」とだけ言って、辿り着いた4組の教室に入ってしまう。

 取り残された俺は、先生に見つからないようにすぐにスマホをポケットに入れた。


 大谷 圭介:

(あーあ、やっぱりあいつ、絡みづらいな)


 せっかく声をかけても、このザマである。

 まぁ別にいいんだけどさ、と俺も教室に帰ろうと2組へと向かった。

 ペタペタとスリッパを打ちつけ、廊下をまた歩く。

 そうしながら頭の中では、ふと1年生の頃の堂本のことを思い出していた。


 あれは──そう。

 まだ金田という姓だったあいつが、森とつるんで、隼人を体育館倉庫に閉じ込めたときのことだ。



 ・   ・   ・



 その日の昼休み時間。

 体育が終わり着替えた俺は、いつものように中曽根の席に近づいた。

 弁当を手に持ちながら、あたりをきょろきょろ見る。


 大谷 圭介:

「隼人、遅いな」


 中曽根 悠:

「うん。着替えもまだのはずだよな」


 すでに何人かの生徒たちは、弁当を食べ始めている。

 でも、まだ隼人の姿は教室にはなかった。

 そんな中、近くで同じようにまわりを見渡しているクラスメイトがいる。飯田と早乙女だ。


 飯田 詩音:

「茜、どうしたんだろう」


 早乙女 茉莉:

「片付けだけにしては、遅いよね」


 俺と中曽根と似たような会話をしている2人に、思わず声をかけた。


 大谷 圭介:

「松宮もいないのか?」


 早乙女 茉莉:

「うん。……も、って?」


 中曽根 悠:

「小池もいないんだよ。あいつら、片付けにそんなに手間取ってんのかなぁ」


 中曽根が眉をひそめた時だった。

 教室の片隅で、笑い合う金田と森が目に入る。

 何となく、ピンと来た。


 だってこの2人は最近、隼人にちょっかいを出す、典型的ないじめっ子だったからだ。

 俺は足をそちらへ向けて、金田と森に詰め寄った。


 大谷 圭介:

「お前ら、何か知ってるだろ」


 わざと威圧感を与えるように、2人を見下ろした。

 こういう時ばかりは、身長が高いのはありがたい。森は案の定、笑うのをやめて肩をすくめた。

 しかし、金田はそんな俺を下から睨みあげて──不敵に笑う。

 それに俺は、カチンときた。


 大谷 圭介:

「何笑ってんだよ。やっぱり何か、知ってんだな」


 金田 信広:

「さあ? 勝手に勘繰ってんじゃねぇよ」


 金田のことが、俺はどうにも苦手だった。

 森はまだいい。ちょっと注意すりゃ、ふて腐れても慌てて逃げていく。


 でもこの金田という男は、下手な対応をしたら、攻撃してきそうな危険をはらんでいた。

 あの気弱な森をつつき操ってるのは、じつはこいつなんじゃないかと疑ってもいた。

 どこか友人も世間も、冷めた目で見ている。

 そんな印象が、こいつにはあった。


 口論しだした俺たちに、中曽根も近づいて横に並ぶ。


 中曽根 悠:

「おい森。お前、何か知ってるんだろ」


 森に聞いた方が話は早いと踏んだのだろう。中曽根は、まっすぐに森を見て言った。

 急に話を振られた森は慌てる。


 森 直人:

「し、知らねーよ!」


 あまりにわかりやすい態度だった。

 森が、ズボンポケットに入れていた手。

 奴の腕に力が入ったのを見て、俺は森のズボンポケット両側をまさぐった。


 森 直人:

「うわ! やめろよ!」


 大谷 圭介:

「何だよこれは! 鍵じゃねぇか!」


 取り出された鍵に付いていたプレートに一瞬「体育館倉庫」の文字を確認する。

 しかし、それはすぐに金田に奪われて、やつは脱兎のごとく廊下に飛び出した。森も慌てて追随する。


 大谷 圭介:

「待て!」


 中曽根 悠:

「おい!」


 慌てて追いかける俺と中曽根。

 そんな俺たちの後ろを、飯田と早乙女も追う気配があった。


 結局すぐに金田と森を捕まえて、噛みついてきそうな金田と不満げな森を引きずり体育館へと出向いた。


 飯田と早乙女は、そんな2人を怖がりつつも松宮のためについてくる。

 そうして俺たちは無事に、体育館倉庫に閉じ込められていた隼人と松宮を、見つけることができたのだ。



 ・   ・   ・



 大谷 圭介:

(本当に、しょうもないやつだったよなぁ)


 2年生になってから金髪にした堂本に、俺は心底呆れていた。

 もうフォローのしようのない不良になっちまったんだと、嫌悪さえも抱いた。


 でも。


 堂本 信広:

「なんで気づかねーんだよ」


 そう言ってみかんを差し出してくれた、堂本の顔を思い出す。

 どこかトゲトゲしさがなくなったのは黒髪のせいか、夕焼けに染まる表情は、少しだけ穏やかに見えた。

 1年生の頃のあいつなら、慌てる俺に「落ちつけ」なんて声もかけずに、無視して去ってたんじゃねぇかな。そもそも、みかんも拾うかどうか。


 金田から堂本になったあいつ。

 それは両親の離婚によるもので、過去に親の離婚危機を経験した俺としても、他人事に思えないことではあった。


 大谷 圭介:

「…………」


 大谷 圭介:

(……ま、変わらないやつなんていないしな)


 気が向いたら堂本に今後、絡んでやってもいいか。

 なんて思って俺は、大好きな彼女が待つ2組へと帰っていった。




 ◇ 終わり ◇

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。