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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第三章 最終便、発車します《3年生編》
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番外編その3 僕の彼女がナンバーワン!〈悠side〉卒業後の春休み

 カブトムシみたいに、真っ黒な学ランを着ていた俺たち。

 でも卒業した今、俺の前に用意されたのは、紺色のシックな落ち着いた制服だった。


 徳瑛高等学校の制服は、紺色ブレザーに、落ち着いた色の赤ネクタイ。

 慣れない帯状のそれを首元に巻きつけ、慣れない手つきで結びあげた。

 家で散々練習したそれを、友人宅でも行う。


 中曽根悠、15才。

 ただいま中学を卒業し、まだ高校には入学してはいない、身分が宙ぶらりんな春休み中である。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 番外編その3 僕の彼女がナンバーワン!

 〈悠side〉卒業後の春休み


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 大谷 圭介:

「あれ、あれ、これってどこに通すわけ?」


 制服を着終わった俺の横で、大谷がまだネクタイに四苦八苦していた。

 今日は、小池の家で互いの制服を持ち寄り見せ合うことになっている。

 集まったメンバーは、もちろんサッカー部。

 俺を含む大中小トリオに井本、そして御手洗だ。


 大谷と同じ桜塚高校へ行く御手洗は、もう制服を着て、慌てている大谷の首元に手をやった。


 御手洗 満:

「大谷、通す部分間違えてる。この輪っか」


 大谷 圭介:

「おお、こうか!」


 シュッと引っ張られたネクタイが、ようやく大谷の首元を引き締める。

 もう他のメンバーは、それぞれの制服に身を包んでいた。


 井本 修:

「御手洗、若奥様かよ!」


 御手洗 満:

「あはは。大谷みたいな旦那様はごめんだね」


 大谷 圭介:

「バッキャロー! 俺だってこんなゴツい奥様は嫌だわっ」


 大谷は、ようやく着終えた制服の襟を正した。

 桜塚高校の制服は、徳瑛に似た紺色だが、ネクタイはブルーの斜めストライプだ。

 長身の大谷と御手洗は、どこかもう着慣れた雰囲気をかもし出して、自らを鏡に映した。


 小池 隼人:

「2人とも、バッチリ似合ってるね」


 大谷 圭介:

「隼人は、ザ・新入生って感じだな!」


 小池 隼人:

「母さんが、どうせ背が伸びるからって、大きめのを買ったんだ。ちょっと裾折ってるの、バレないかなぁ」


 小池は、俺と同じ徳瑛の制服を着てそんなことを言っているが、着こなしには清潔感がある。

 この今いる部屋といい、小池はきっちりかっちりしている。


 井本 修:

「てか大谷さ、教師かサラリーマンみてぇだな!」


 南星高校の独特な深緑チェックのズボンにブレザーを羽織った井本は、ベッドに腰かける。

 南星のネクタイはもう結んであるものをフックでつけられる、いわゆる「なんちゃってネクタイ」だから、楽らしい。


 大谷 圭介:

「り……リーマンだと!?」


 小池 隼人:

「あはは、たしかに」


 大谷 圭介:

「隼人まで、ひでぇ!」


 ショックを受ける大谷。

 話題を変えようとしたのか、もともとその話題を出したかったのかは知らないが、ふいにニヤリとスケベったらしく笑った。


 大谷 圭介:

「俺は野郎の制服よりも、早く彼女のが見たいんだよ!」


 中曽根 悠:

「うわ、出たよ。のろけ」


 こぼしてしまった呆れ声。

 そんな俺の肩を、ガシッと抱きながら大谷は近づく。


 大谷 圭介:

「だってよ~、桜塚の女子の制服、超可愛いんだぜ! チェックスカートに、大きな赤リボン! もう美羽にぴったりすぎるだろー」


 大谷 圭介:

「あーやべぇ。どうして俺の彼女は、あんなに可愛いんだ」


 大谷は、相変わらずの彼氏バカだ。

 呆れた俺たちの中で唯一、優しい声をかけたのは、仏顔の御手洗だった。


 御手洗 満:

「たしかに桜塚の制服は女子の可愛いよね。男子は手抜き感あるのに」


 大谷 圭介:

「やぁもう、女子に力入れてくれればいいんだよ。まじ入学式が楽しみー」


 でへへ、と大谷の鼻の下が伸びる。

 頭の中は、おそらく望月の制服姿でいっぱいなのだろう。


 御手洗 満:

「そういえば、清女の制服も可愛いって好評だよね」


 ふいに御手洗はそう言って、小池を見た。

 小池の彼女、松宮茜は清水ヶ浜女子高だ。

 ここらでは有名な文武両道を謳う女子高で、制服は水色のシャツに一つラインが入った紺色スカート。

 首元の細いリボンは、桜塚のボリュームあるのとはまた違う可愛らしさあると、一部男子で評判──らしい。


 小池 隼人:

「みたいだね。入学式後に会う約束してるから、楽しみだよ」


 珍しく小池が、はにかんで笑った。

 そんな小池に、じりじりと井本が近づいて、意地悪そうに言う。


 井本 修:

「気をつけろよ、小池ー。清女の電車の沿線、痴漢スポットらしいぜ」


 小池 隼人:

「え?」


 井本 修:

「あそこ、清女やら天崎やらで女子多いだろ。被害けっこうあるみてぇだぜ」


 小池 隼人:

「……!」


 小池の表情が固まる。

 俺も大谷も彼女と一緒に登校できるが、小池だけは違う電車利用だ。

 そんななか聞いたその情報は、確実に心配を助長させるだろう。

 小池は腕を組み口元に手を当て、何やらブツブツと言い出した。


 小池 隼人:

「知らなかったな。でもたしかにあの沿線混むし、人も多いし……」


 小池 隼人:

「そうか、スタンガンとかあげたらいいかな」


 井本 修:

「いや、まずは防犯ブザーだろ!?」


 物騒な発言をした小池に井本がツッコむ。


 井本 修:

「てか、松宮なら大丈夫だろ~! 痴漢撃退するんじゃねぇの」


 小池 隼人:

「ううん。松宮さん、か弱いんだから。心配だよ」


 小池はいたって真面目にそう言うのだが、活発なイメージのある松宮がか弱いなんて、俺の印象とはだいぶ違うな。

 しかし小池は、まだ腕組みしながらつぶやく。


 小池 隼人:

「心配だなぁ。松宮さん可愛いから……大丈夫かなぁ」


 井本 修:

「小池もたいがい、のろけやがる……!」


 その横で井本が悔しそうにつぶやいていた。

 意外な小池の一面に目を瞬かせていた俺に、腕をまだかけていた大谷は、不敵に笑う。


 大谷 圭介:

「中曽根も楽しみだろ? 戸田の制服姿~」


 中曽根 悠:

「俺はべつに……」


 大谷 圭介:

「なーに見栄張ってんの! アリスコスプレに興奮してたくせによー」


 中曽根 悠:

「バッ……! 誰が興奮した!」


 大谷 圭介:

「お前だよ、イケメン中曽根クン! やだやだ、これだからカッコつけたがりは」


 ガハハと、大谷はますます俺の肩に体重を乗っけてきやがる。

 こ、このエロ親父がぁ~!


 しかし、うまく反論できない俺に、御手洗まで腑に落ちない言葉をかけてくる。


 御手洗 満:

「中曽根って、隠れムッツリ?」


 中曽根 悠:

「誰がムッツリだこら! 御手洗、お前まで!」


 御手洗 満:

「だって中曽根、あんまりのろけないから」


 そこで井本も会話に加わってくる。


 井本 修:

「でも徳瑛の制服は、地味だよなぁ。戸田さんせっかく可愛いのにもったいない」


 その言葉に、俺はムッと口をへの字にした。


 中曽根 悠:

「もったいないって何が」


 井本 修:

「だって、華のJKの魅力は制服だぜ!? それがあーんな地味な紺色無地じゃ、魅力半減しちまうよ」


 るりに対して魅力半減、とほざきやがった井本にますますムッとしてしまう。

 こいつ何にもわかってねぇ!


 中曽根 悠:

「るりは、そのまんまで可愛いんだよ」


 大谷 圭介:

「!」


 小池 隼人:

「!」


 御手洗 満:

「!」


 井本 修:

「!」


 中曽根 悠:

「……」


 中曽根 悠:

「……な、何だよ」


 目を急に見開いた4人に、俺はついたじろぐ。

 大谷は顔をニヤリとさせた。


 大谷 圭介:

「中曽根がついにのろけたな!」


 小池 隼人:

「貴重な一言だね!」


 中曽根 悠:

「や、やめろ、お前ら……」


 御手洗 満:

「中曽根って、やっぱり天然でたらしだよね」


 井本 修:

「くそぅ、このムッツリイケメンが!」


 中曽根 悠:

「うるせぇ!」


 散々いじられた俺は、居心地悪く着慣れない制服を整える。


 お揃いで着るはずの、るりの徳瑛の制服姿。

 それはどんなに可愛いと噂の望月や、松宮たちの高校の制服よりも、きっとずっと可愛いに違いない。


 ──なんて思ったのは、こいつらには絶対に教えてやらねーんだ。




 ◇ 終わり ◇

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