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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第三章 最終便、発車します《3年生編》
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番外編その1 大好きな笑顔で〈茉莉side〉中2の春休み

 中学2年生を終えたばかりの、春休み。

 私、早乙女茉莉は、大好きな茜ちゃんの家に遊びに来ていた。


 スポーティで元気な彼女の部屋は、見事にぬいぐるみだらけ。

 うさぎやくまや猫のぬいぐるみに囲まれながら、私は茜ちゃんとローテーブルに置いたノートパソコンに向き合っていた。


 松宮 茜:

「──あ、聞こえる?」


 そうつぶやく茜ちゃんの横で、私もパソコン画面をのぞいて言った。


 早乙女 茉莉:

「き……」


 早乙女 茉莉:

「聞こえる? 詩音ちゃん!」


 すると画面の中の彼女は、懐かしい笑顔を浮かべて手を振ってくれたのだ。


 飯田 詩音:

「聞こえてるし、映ってるよ~」


 飯田 詩音:

「てか茉莉、近すぎ!」


 早乙女 茉莉:

「ご、ごめん!」


 慌ててカメラから離れる私。


 そんな私を、去年イタリアに引っ越してしまった詩音ちゃんが、くすぐったそうに笑って見ていた。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 番外編その1 大好きな笑顔で

 〈茉莉side〉中2の春休み


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 詩音ちゃんと春休みに、スカイプで話をする約束をしていた。

 目的は、茜ちゃんたちやサッカー部の男の子たちと行った、遊園地のご報告。


 小池くんと茜ちゃんの近況を、どうしても聞きたい! と言った詩音ちゃんのために、3人で顔を合わせて話せる無料通信サービスを利用することにした。


 県外だって海外だって、ネット環境と通信機器があれば、おしゃべりができる。文明の利器に感謝感謝。


 飯田 詩音:

「ええー、告白しなかったのぉ?」


 報告を終えた茜ちゃんに対して、詩音ちゃんは不満そうに眉を下げた。

 音声と少しずれる表情が、可愛い。


 松宮 茜:

「当たり前でしょ! 詩音せっかち過ぎ!」


 飯田 詩音:

「茜がとろ過ぎなんでしょー」


 バスケ部エースのくせにさぁ、なんて、詩音ちゃんは相変わらず茜ちゃんの恋には手厳しい。

 私は久しぶりに聞く2人の会話が嬉しくて、小さく笑っていた。


 ああ、先週の遊園地は楽しかったなぁ。

 男の子たちと遊ぶのはちょっと緊張したけど、茜ちゃんやるりちゃんたちと遊べて、本当に楽しかった。

 途中、気持ち悪くなって迷惑かけちゃったことだけが、残念だったけど。


 飯田 詩音:

「茉莉、ちゃんと協力した!?」


 早乙女 茉莉:

「したよ! 頑張って小池くんと2人になれるようにしたよ!」


 飯田 詩音:

「偉い! じゃあやっぱり、茜がヘタレなだけね」


 松宮 茜:

「し……詩音~」


 ふにゃり、といつものように茜ちゃんの眉が下がる。

 そして私たちは、それから沢山のおしゃべりをした。


 とくに詩音ちゃんから聞く、イタリアの話は面白かった。

 学校の終了時間が、とても早いこと。

 学校に、おやつを持って行くことが当たり前なこと。

 まわりの子たちが、とても大人びて見えること。

 あと、女性へのエスコートや褒め言葉がみんな完璧で、まるでお姫様になったみたい、と聞いたときにはドキドキしちゃった。


 そんなこんなで楽しい時間は、あっという間に過ぎる。

 時差の関係もあり、夕方ギリギリまで話していたけれど、向こうの詩音ちゃんはまだ午前で、今から昼食だと言う。日本が8時間早いのだ。


 松宮 茜:

「じゃあね詩音。また話そうね!」


 飯田 詩音:

「うん! また3人で合わせよう!」


 早乙女 茉莉:

「詩音ちゃん、またね!」


 飯田 詩音:

「うん、また!」


 そして詩音ちゃんを映してくれていた画面は、面白くもないデスクトップに戻る。

 あーあ、寂しいなぁ。


 松宮 茜:

「詩音、相変わらずだったね」


 早乙女 茉莉:

「うん、元気そうでよかった」


 しゃべり疲れた私たちは、冷たいお茶を飲んで喉を潤す。

 でもまだしゃべり足りないように、私と茜ちゃんは顔を合わせた。

 そして、詩音ちゃんについてのたわいない話の中、ふと茜ちゃんはつぶやいた。


 松宮 茜:

「なんか、詩音には励まされてばかりだな。恋愛のことも、部活のことも」


 早乙女 茉莉:

「部活?」


 何のことだろう、ときょとんとした私に、茜ちゃんは少し照れたように笑う。


 松宮 茜:

「そういえば、茉莉には言ってなかったね」


 松宮 茜:

「じつはさ、去年の夏……」


 茜ちゃんは、去年のお話をしてくれた。

 それは7月、スポーツ大会が終わった2年生の夏休み中のことだったという。



 …………………………………


 私スポーツ大会でさ、ちょっとドジして足怪我しちゃったでしょ。

 夏にバスケ部の大会があったっていうのに、エースの私がそんなことになっちゃったから、すごく反省してさ。

 チームメイトはいいよって言ってくれたけど、私、早く練習に混ざりたくて体育館の隅で練習させてもらってたんだ。

 でも、それが一部の子達には気に入らなかったみたい。

「練習をあまりしない私たちの当てつけ?」……て。


 女子バスケ部はさ、メンバーによってすんごい温度差があるんだよね。

 真剣にバスケをやる子と、所詮部活じゃんって手を抜きたい子。

 後者の子からしたら、張りきる私は目障りだったみたい。


 で、その陰口を聞いちゃって、つい体育館裏で泣いてたんだよ。

 そしたら、詩音に見つかってさ。


 飯田 詩音:

「何してんの、茜」


 松宮 茜:

「詩音……」


 飯田 詩音:

「え、なんで泣いてるの!? どうしたの!?」


 ぜーんぶ詩音に愚痴ったらさ。

 詩音ってば、あっけらかんと言ったんだよね。


 飯田 詩音:

「そんなくだらない事で、エースが泣くんじゃないの!」


 松宮 茜:

「く、くだらないって……」


 飯田 詩音:

「くだらないよ。だって茜がバスケを頑張りたくて一生懸命なことに、その子たちのやる気は関係ないんだから」


 松宮 茜:

「関係あるよ。だってバスケって、チームプレイだし……」


 飯田 詩音:

「チームプレイだからこそ!」


 飯田 詩音:

「そんなマイナスに引きずられないで、茜のプレイをしなくっちゃ!」


 飯田 詩音:

「茜が一生懸命やれば、きっとまわりもわかってくれる」


 飯田 詩音:

「大丈夫。いつもみたいに、楽しそうにバスケすればいいんだよ。笑顔でさ、シュートしてやるんだ! て、あの張りきり顔でさ」


 松宮 茜:

「…………」


 松宮 茜:

「……うん」


 その詩音の言葉は、すごく私を安心させてくれたんだ。


 正直さ、エースだ時期キャプテンだって持てはやされて、私いい気になってたなーって反省してた時期だったの。

 だから、周りの目がすごく気になってて、自分らしいプレイが全然できてなかった。


 でも詩音はそれ、見抜いてたんだ。

 私が私らしく、バスケできてないって。

 本当にまいっちゃうよなぁ、詩音には。


 …………………………………



 一気に話してくれた茜ちゃんは、話し終えてお茶をまたコクンと飲んだ。

 私は、2人がそんなやり取りをしていたんだ、と聞きながら何度もうなずいていた。


 知らなかった、茜ちゃんがエースとして、そんなふうに悩んでいたなんて。

 詩音ちゃんが、茜ちゃんの背中を押してあげていたんだ。


 早乙女 茉莉:

「茜ちゃん、そういえばキャプテンになってたね」


 松宮 茜:

「うん! 4月からは1年生も入るし、また頑張っていかなきゃね」


 ニコッと笑う茜ちゃん。

 その笑顔を見て私は、身を乗り出して言った。


 早乙女 茉莉:

「あ、あの、茜ちゃん!」


 松宮 茜:

「ん?」


 早乙女 茉莉:

「私……詩音ちゃんみたいに、鋭くないけど、茜ちゃんのことは一生懸命応援するからね!」


 早乙女 茉莉:

「恋も……部活も……!」


 私がそう言い切ると、茜ちゃんの目はクリッとして──そして細くたわんだ。


 松宮 茜:

「ふふっ、ありがとう茉莉!」


 松宮 茜:

「……てか近い近い! 身を乗り出しすぎ!」


 早乙女 茉莉:

「あ、ご、ごめんっ」


 つい力を入れすぎて、茜ちゃんに思いっきり顔を近づけていた。

 そんな私を見て茜ちゃんは、また口を開けて笑う。


 茜ちゃんも詩音ちゃんも、私大好きだよ。

 部活を頑張りながら恋する茜ちゃんのために、できること。

 それは何だろうと考えた私は、ある提案をする。


 早乙女 茉莉:

「ねえ茜ちゃん! 体育委員は、またやらないの?」


 松宮 茜:

「え?」


 早乙女 茉莉:

「小池くん、3年もやるって言ってたし、茜ちゃんも入ったら、また一緒に活動できるよっ」


 松宮 茜:

「う……だ、だよね」


 茜ちゃんもちょっと考えていたのか、ほっぺをポリポリかいて赤くなっている。

 私はまたしても身を乗り出して、茜ちゃんに近づいてしまう。


 早乙女 茉莉:

「小池くん、委員長やろうかなって言ってたし、茜ちゃん副委員長とかに立候補してみたら? サポートしてるうちに、意識してもらえるかも!」


 松宮 茜:

「ええ!? そんなの無理無理! もろ下心丸出しじゃん!」


 早乙女 茉莉:

「大丈夫……ほら、『愛は真心、恋は下心』って言うし!」


 松宮 茜:

「…………」


 松宮 茜:

「……ま、茉莉。それ、詩音の入れ知恵だね?」


 早乙女 茉莉:

「え、何でわかったの?」


 松宮 茜:

「……やっぱり」


 茜ちゃんは、見えぬ詩音ちゃんをにらむかのように赤くなる。


 恋とか部活の悩みとか、私には正直わからないけれど。

 でも、目の前の大好きな友達が、いつも笑顔でいてくれたら嬉しいなぁ、なんて思ったんだ。




 ◇ 終わり ◇

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