番外編その1 大好きな笑顔で〈茉莉side〉中2の春休み
中学2年生を終えたばかりの、春休み。
私、早乙女茉莉は、大好きな茜ちゃんの家に遊びに来ていた。
スポーティで元気な彼女の部屋は、見事にぬいぐるみだらけ。
うさぎやくまや猫のぬいぐるみに囲まれながら、私は茜ちゃんとローテーブルに置いたノートパソコンに向き合っていた。
松宮 茜:
「──あ、聞こえる?」
そうつぶやく茜ちゃんの横で、私もパソコン画面をのぞいて言った。
早乙女 茉莉:
「き……」
早乙女 茉莉:
「聞こえる? 詩音ちゃん!」
すると画面の中の彼女は、懐かしい笑顔を浮かべて手を振ってくれたのだ。
飯田 詩音:
「聞こえてるし、映ってるよ~」
飯田 詩音:
「てか茉莉、近すぎ!」
早乙女 茉莉:
「ご、ごめん!」
慌ててカメラから離れる私。
そんな私を、去年イタリアに引っ越してしまった詩音ちゃんが、くすぐったそうに笑って見ていた。
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番外編その1 大好きな笑顔で
〈茉莉side〉中2の春休み
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詩音ちゃんと春休みに、スカイプで話をする約束をしていた。
目的は、茜ちゃんたちやサッカー部の男の子たちと行った、遊園地のご報告。
小池くんと茜ちゃんの近況を、どうしても聞きたい! と言った詩音ちゃんのために、3人で顔を合わせて話せる無料通信サービスを利用することにした。
県外だって海外だって、ネット環境と通信機器があれば、おしゃべりができる。文明の利器に感謝感謝。
飯田 詩音:
「ええー、告白しなかったのぉ?」
報告を終えた茜ちゃんに対して、詩音ちゃんは不満そうに眉を下げた。
音声と少しずれる表情が、可愛い。
松宮 茜:
「当たり前でしょ! 詩音せっかち過ぎ!」
飯田 詩音:
「茜がとろ過ぎなんでしょー」
バスケ部エースのくせにさぁ、なんて、詩音ちゃんは相変わらず茜ちゃんの恋には手厳しい。
私は久しぶりに聞く2人の会話が嬉しくて、小さく笑っていた。
ああ、先週の遊園地は楽しかったなぁ。
男の子たちと遊ぶのはちょっと緊張したけど、茜ちゃんやるりちゃんたちと遊べて、本当に楽しかった。
途中、気持ち悪くなって迷惑かけちゃったことだけが、残念だったけど。
飯田 詩音:
「茉莉、ちゃんと協力した!?」
早乙女 茉莉:
「したよ! 頑張って小池くんと2人になれるようにしたよ!」
飯田 詩音:
「偉い! じゃあやっぱり、茜がヘタレなだけね」
松宮 茜:
「し……詩音~」
ふにゃり、といつものように茜ちゃんの眉が下がる。
そして私たちは、それから沢山のおしゃべりをした。
とくに詩音ちゃんから聞く、イタリアの話は面白かった。
学校の終了時間が、とても早いこと。
学校に、おやつを持って行くことが当たり前なこと。
まわりの子たちが、とても大人びて見えること。
あと、女性へのエスコートや褒め言葉がみんな完璧で、まるでお姫様になったみたい、と聞いたときにはドキドキしちゃった。
そんなこんなで楽しい時間は、あっという間に過ぎる。
時差の関係もあり、夕方ギリギリまで話していたけれど、向こうの詩音ちゃんはまだ午前で、今から昼食だと言う。日本が8時間早いのだ。
松宮 茜:
「じゃあね詩音。また話そうね!」
飯田 詩音:
「うん! また3人で合わせよう!」
早乙女 茉莉:
「詩音ちゃん、またね!」
飯田 詩音:
「うん、また!」
そして詩音ちゃんを映してくれていた画面は、面白くもないデスクトップに戻る。
あーあ、寂しいなぁ。
松宮 茜:
「詩音、相変わらずだったね」
早乙女 茉莉:
「うん、元気そうでよかった」
しゃべり疲れた私たちは、冷たいお茶を飲んで喉を潤す。
でもまだしゃべり足りないように、私と茜ちゃんは顔を合わせた。
そして、詩音ちゃんについてのたわいない話の中、ふと茜ちゃんはつぶやいた。
松宮 茜:
「なんか、詩音には励まされてばかりだな。恋愛のことも、部活のことも」
早乙女 茉莉:
「部活?」
何のことだろう、ときょとんとした私に、茜ちゃんは少し照れたように笑う。
松宮 茜:
「そういえば、茉莉には言ってなかったね」
松宮 茜:
「じつはさ、去年の夏……」
茜ちゃんは、去年のお話をしてくれた。
それは7月、スポーツ大会が終わった2年生の夏休み中のことだったという。
…………………………………
私スポーツ大会でさ、ちょっとドジして足怪我しちゃったでしょ。
夏にバスケ部の大会があったっていうのに、エースの私がそんなことになっちゃったから、すごく反省してさ。
チームメイトはいいよって言ってくれたけど、私、早く練習に混ざりたくて体育館の隅で練習させてもらってたんだ。
でも、それが一部の子達には気に入らなかったみたい。
「練習をあまりしない私たちの当てつけ?」……て。
女子バスケ部はさ、メンバーによってすんごい温度差があるんだよね。
真剣にバスケをやる子と、所詮部活じゃんって手を抜きたい子。
後者の子からしたら、張りきる私は目障りだったみたい。
で、その陰口を聞いちゃって、つい体育館裏で泣いてたんだよ。
そしたら、詩音に見つかってさ。
飯田 詩音:
「何してんの、茜」
松宮 茜:
「詩音……」
飯田 詩音:
「え、なんで泣いてるの!? どうしたの!?」
ぜーんぶ詩音に愚痴ったらさ。
詩音ってば、あっけらかんと言ったんだよね。
飯田 詩音:
「そんなくだらない事で、エースが泣くんじゃないの!」
松宮 茜:
「く、くだらないって……」
飯田 詩音:
「くだらないよ。だって茜がバスケを頑張りたくて一生懸命なことに、その子たちのやる気は関係ないんだから」
松宮 茜:
「関係あるよ。だってバスケって、チームプレイだし……」
飯田 詩音:
「チームプレイだからこそ!」
飯田 詩音:
「そんなマイナスに引きずられないで、茜のプレイをしなくっちゃ!」
飯田 詩音:
「茜が一生懸命やれば、きっとまわりもわかってくれる」
飯田 詩音:
「大丈夫。いつもみたいに、楽しそうにバスケすればいいんだよ。笑顔でさ、シュートしてやるんだ! て、あの張りきり顔でさ」
松宮 茜:
「…………」
松宮 茜:
「……うん」
その詩音の言葉は、すごく私を安心させてくれたんだ。
正直さ、エースだ時期キャプテンだって持てはやされて、私いい気になってたなーって反省してた時期だったの。
だから、周りの目がすごく気になってて、自分らしいプレイが全然できてなかった。
でも詩音はそれ、見抜いてたんだ。
私が私らしく、バスケできてないって。
本当にまいっちゃうよなぁ、詩音には。
…………………………………
一気に話してくれた茜ちゃんは、話し終えてお茶をまたコクンと飲んだ。
私は、2人がそんなやり取りをしていたんだ、と聞きながら何度もうなずいていた。
知らなかった、茜ちゃんがエースとして、そんなふうに悩んでいたなんて。
詩音ちゃんが、茜ちゃんの背中を押してあげていたんだ。
早乙女 茉莉:
「茜ちゃん、そういえばキャプテンになってたね」
松宮 茜:
「うん! 4月からは1年生も入るし、また頑張っていかなきゃね」
ニコッと笑う茜ちゃん。
その笑顔を見て私は、身を乗り出して言った。
早乙女 茉莉:
「あ、あの、茜ちゃん!」
松宮 茜:
「ん?」
早乙女 茉莉:
「私……詩音ちゃんみたいに、鋭くないけど、茜ちゃんのことは一生懸命応援するからね!」
早乙女 茉莉:
「恋も……部活も……!」
私がそう言い切ると、茜ちゃんの目はクリッとして──そして細くたわんだ。
松宮 茜:
「ふふっ、ありがとう茉莉!」
松宮 茜:
「……てか近い近い! 身を乗り出しすぎ!」
早乙女 茉莉:
「あ、ご、ごめんっ」
つい力を入れすぎて、茜ちゃんに思いっきり顔を近づけていた。
そんな私を見て茜ちゃんは、また口を開けて笑う。
茜ちゃんも詩音ちゃんも、私大好きだよ。
部活を頑張りながら恋する茜ちゃんのために、できること。
それは何だろうと考えた私は、ある提案をする。
早乙女 茉莉:
「ねえ茜ちゃん! 体育委員は、またやらないの?」
松宮 茜:
「え?」
早乙女 茉莉:
「小池くん、3年もやるって言ってたし、茜ちゃんも入ったら、また一緒に活動できるよっ」
松宮 茜:
「う……だ、だよね」
茜ちゃんもちょっと考えていたのか、ほっぺをポリポリかいて赤くなっている。
私はまたしても身を乗り出して、茜ちゃんに近づいてしまう。
早乙女 茉莉:
「小池くん、委員長やろうかなって言ってたし、茜ちゃん副委員長とかに立候補してみたら? サポートしてるうちに、意識してもらえるかも!」
松宮 茜:
「ええ!? そんなの無理無理! もろ下心丸出しじゃん!」
早乙女 茉莉:
「大丈夫……ほら、『愛は真心、恋は下心』って言うし!」
松宮 茜:
「…………」
松宮 茜:
「……ま、茉莉。それ、詩音の入れ知恵だね?」
早乙女 茉莉:
「え、何でわかったの?」
松宮 茜:
「……やっぱり」
茜ちゃんは、見えぬ詩音ちゃんをにらむかのように赤くなる。
恋とか部活の悩みとか、私には正直わからないけれど。
でも、目の前の大好きな友達が、いつも笑顔でいてくれたら嬉しいなぁ、なんて思ったんだ。
◇ 終わり ◇




