Last Ep. 空色バス、終点です
そのバスは 空を走る
様々な想い抱いた 少年少女を乗せ
青空のような 爽やかなひと時も
雨降り模様の 寂しい時間も
雷落ちる激しい 天候の時も
虹のアーチをくぐり抜け
その車体に 空色映し
飛び交う鳥たちと 歌を歌う
行く先は うららかな春
この空色バス──春先行き
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空色バス、終点です
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私、戸田るりは、新しい制服に身を包む。
徳瑛高校の制服はブレザーだ。
女子はリボン、男子はネクタイで、その色は少しくすんだ赤色。紺色の上着も合わさって、落ち着いた雰囲気だ。
戸田 るり:
「お……」
戸田 るり:
「おはよう、悠!」
中曽根 悠:
「うっす、おはよー」
近所の曲がり角で、悠と待ち合わせた。
私と同じ、徳瑛高校の制服を着ている彼。真新しいブレザーに、きっちりネクタイを結んでいて、なんだかずいぶんと大人っぽく見える。
戸田 るり:
「うわあ、似合ってるね」
中曽根 悠:
「んー……なんか慣れないよな」
並んで歩き出した私の横で、悠はその言葉どおりに慣れないネクタイを指先でいじる。
でも私は、初めて見る悠のネクタイ姿に、ドキドキが止まらなかった。
戸田 るり:
(うわああ。カッコいい……!)
付き合ってからもう3年経とうとしているのに、いまだに悠に対してドキドキしてしまう。
中曽根 悠:
「るり、髪型変えたんだ」
戸田 るり:
「うんっ」
私も負けないように、子どもっぽい髪型から少し変えて下ろしてみたんだけど、変じゃないかなぁ。
気になった前髪を指でいじると、悠が私の顔をのぞき込んできた。
中曽根 悠:
「雰囲気変わるな」
戸田 るり:
「そりゃ、同じじゃ困る」
そんな私の言葉に悠は笑った。
2人で向かう先は、近くの駅。
憧れの電車通学となった私たちは、最寄りの菜南駅から乗車する。
小さなその駅につくと、出口に小池くんが立っていた。
彼とも、入学式へ一緒に行く約束をしていたのだ。
小池 隼人:
「おはよう、2人とも」
小池くんも、キレイな制服を身にまとっていた。
背が私よりも高くなった彼は、以前よりも幼さがなくなって、落ち着いた雰囲気になっている。
ネクタイもきっちりと、悠よりキレイに結んでいる。
中曽根 悠:
「小池おはよ! 決まってんじゃん」
小池 隼人:
「悠くんも似合ってるよ」
小池くんは私にも笑顔を向けて「戸田さんも可愛いね」と、サラリと言ってくれた。
戸田 るり:
「あ、ありがとう」
中曽根 悠:
「……こ、小池ぇ……」
肝心の悠は、なーんにも誉めてくれなかったもんね。私は悠に恨めしそうに視線を向けて、意地悪く笑った。
そんな私たちは、苦笑した小池くんとともに改札口へと向かう。
小池 隼人:
「明日からは、僕1人で行くから」
戸田 るり:
「え、どうして?」
小池 隼人:
「2人の邪魔しちゃ悪いでしょ」
そんなの、気にしなくてもいいのに。
でも小池くんは、笑いながら言う。
小池 隼人:
「悠くんに、恨まれたくないからね」
中曽根 悠:
「お、俺はそんな心の狭い男じゃないぞ!」
慌てる悠は、改札口の定期券がうまく反応せずガードに弾かれる。
苦笑して悠を待ってから、また3人でホームへと向かった。
職場へ向かう人々や、私たちのような学生たちで溢れかえっている。
中曽根 悠:
「うわ、やっぱり人が多いな」
戸田 るり:
「でもまだ増えるよね。明日が桜塚の入学式だっけ」
小池 隼人:
「そうそう。だから明日は、ケイちゃんたちもいるはずだよ」
桜塚高校は、同じ沿線だから利用する駅も同じ子が多かった。
美羽や和葉ちゃんが、明日からここを利用するはずだ。
たしか美羽、大谷くんと行くんだってはしゃいでいたな。
小池 隼人:
「明日からは、ケイちゃんと行こうかな」
中曽根 悠:
「大谷には恨まれてもいいのか?」
小池 隼人:
「うん、ケイちゃんならいいでしょ」
小池くんは、意地悪そうに笑う。
彼は好きな相手にこそ、意地悪さが出るらしい。
茜ちゃん、苦労するのかも。
そしてしばらくすると、目的地まで運んでくれる電車が来た。
私たちはぞろぞろと乗り込む。
慣れない満員電車に入って、奥へ奥へと押し込まれた。
戸田 るり:
「うわわっ」
中曽根 悠:
「大丈夫か、るり」
悠は私が押しつぶされないように、奥の扉の前に寄って、私を閉じこめてくれた。
私は近くの悠の顔を見上げながら、背中に冷たい扉のガラスを背中に感じる。
戸田 るり:
「だ、大丈夫。……あれ、小池くんは?」
中曽根 悠:
「あれ? どこ行った」
すると、少し離れたところから小池くんの「ここだよー」が聞こえた。
なだれ込んだ時に、はぐれてしまったらしい。
中曽根 悠:
「まぁ仕方ないな」
戸田 るり:
「空くまでは、近寄れないね」
そして、動き出す電車。
ガタンと揺れたせいで一瞬、悠の顔が近くなった。
戸田 るり:
(うわぁ……近いなぁ)
こうしていると、初めてデートをしたときのことを思い出しちゃう。
初デートは、市バスで動物園へ行った。
その時のことは、今でも大切な思い出として私の心の宝箱にしまってある。
あの頃は、バスに揺られていた私たち。
今は、電車に揺られて高校へと向かっている。
後ろを振り返り見上げれば、青空がそこに広がっていた。
まるであの時、バスから見たような春の空だ。
戸田 るり:
(そういえば……)
戸田 るり:
(梢ちゃんも今頃、駅かな)
梢ちゃんも、今日は清水ヶ浜女子高校の入学式。
違う沿線を利用する梢ちゃんは、乗り換えの都合のため梅見駅まで自転車で行って、そこから乗ると言っていた。
今度、梢ちゃんや美羽と集まって、高校がどんな感じだったかおしゃべりしたいなぁ。
中曽根 悠:
「……あ、桜」
戸田 るり:
「え?」
空ばかり見ていた私に、悠のつぶやきが聞こえた。
私の目の前の悠は、嬉しそうに窓の外の下ばかり見ている。
中曽根 悠:
「ほら、あそこ。桜が咲いててキレイ」
戸田 るり:
「あ、本当だ」
彼の言ったとおり、川沿いに視線を向ければ桜が続いていて、キレイに桜吹雪を舞わせていた。
風に舞うピンク色。
春が来たよと、町に告げている。
戸田 るり:
「……キレイ」
思わずつぶやく。
中曽根 悠:
「うん」
中曽根 悠:
「……る」
中曽根 悠:
「……るりもキレイだぞ」
戸田 るり:
「!」
私にだけ囁くように聞こえた言葉。
驚いて見上げれば、真っ赤な悠の顔。
うわぁ……!
悠がそんなキザなこと言うなんて!
もしかして小池くんへの、対抗のつもり?
戸田 るり:
「…………」
戸田 るり:
「……ふふ」
すごく嬉しくて笑みがこぼれる。
私の微笑みと悠の照れ顔を乗せて、電車はガタゴトと空を見せながら走っていた。
・ ・ ・
羽鳥 梢:
(な……)
羽鳥 梢:
(何よ、この人の多さはー!)
羽鳥梢、ただいま高校の入学式へと向かうため電車に乗車中である。
今日は茜ちゃんと一緒に行くはずだったのに、茜ちゃんったら、忘れ物をしたとかでまた家に戻ってしまった。
先に行っててという言葉に甘えて、先に乗っちゃったけれど……。
羽鳥 梢:
(この駅、利用者すごく多いんだな)
乗り換え駅だから仕方ないのかもしれないけれど、ホームの時点でも人が溢れていた。
だから、知り合いをなかなか見つけることができなかった。
羽鳥 梢:
(あの生意気小僧も、いるはずなんだけど……)
なんて考えている間も。
ガタン!
と揺れた電車のせいで、ギュ〜ッと体を押されて苦しくなる。
車両の角に押し込まれた私は、窓も遠いため景色も拝めず、ただ人混みの塊に潰されていた。
うう、私そんなに背が高くないから、きついよ!
サラリーマンのカバンも痛いし、お姉さんの髪の毛も顔に当たってくすぐったい!
と、苦しんでいたら。
羽鳥 梢:
(……あれ?)
ふっと、私にかかる重圧が軽くなった。
私の前に誰かが立って、負荷をその背中に引き受けてくれたからだ。
あの生意気小僧──堂本くんだった。
堂本 信広:
「よう、久しぶり」
羽鳥 梢:
「堂本くん!」
彼は片手を手すりに、もう片手を壁につけていた。
そのシールドのおかげで、私はようやく楽になる。
堂本 信広:
「潰されてねぇか」
羽鳥 梢:
「つ、潰されかかってた」
私の言葉に、堂本くんが笑う。
卒業式以来だ。
学ランではなく、天崎高校の制服を着ていて、慣れないように首元のネクタイが変に曲がっている。
堂本 信広:
「お前、小さいから見つけるの大変だったぞ」
羽鳥 梢:
「探してくれたの?」
堂本 信広:
「……そうだよ」
ふん、と昔のように鼻を鳴らす堂本くん。
でも、以前と雰囲気の違う横顔だ。
堂本くんは、少しあたりを見渡して言った。
堂本 信広:
「松宮はどうしたんだよ」
羽鳥 梢:
「あ、茜ちゃん、忘れ物したとかで一旦家に戻ったの」
堂本 信広:
「何してんだあいつ。いっつも肝心なところでドジするな」
呆れたように言葉をもらす堂本くん。
そういえば堂本くんって、茜ちゃんとは小学校から一緒なんだよね。
仲はあんまりよくなさそうだけど、互いの性格はよく知っているようだった。
もしかしたら、互いに誤解しているだけで、仲良くできるんじゃないのかな。
茜ちゃんも堂本くんも、私にとっては大切な友達。
その2人が、仲良くしてくれたら私も嬉しい。
羽鳥 梢:
「明日なら、茜ちゃんもいるよ」
堂本 信広:
「別にあいつはいいよ」
羽鳥 梢:
「もー、素直になりなさいよ」
そう言った私に、堂本くんは久しぶりにムッとした顔を見せてくれた。
堂本 信広:
「……お前さ。変な勘違いしてねぇか」
羽鳥 梢:
「勘違い?」
堂本 信広:
「……いや。別にいいけどさ」
視線を外してしまう堂本くん。
とそのとき、電車がまた激しく動いて、車内で「きゃあっ」や「おっと」といった人々の声が聞こえた。
──と同時に。
羽鳥 梢:
「!」
堂本くんの突っ張っていた腕がついに折れて、私の顔が堂本くんの肩に押しつぶされた。
羽鳥 梢:
「ふがっ」
堂本 信広:
「わ、悪りぃ」
しかし堂本くんも、背中を圧迫されて私から体を離せられないらしい。腕で耐えるように、しっかりと壁や手すりから支えていた。
羽鳥 梢:
「鼻、痛い……」
堂本 信広:
「仕方ねぇだろ。てか、色気のねぇ悲鳴だったな」
羽鳥 梢:
「うるさい」
近くなった堂本くんを、恨みたらしく睨み上げる。
そういえば、いつぞやも橋の下で、こんなふうに堂本くんに壁に閉じ込められたことがある。
あの時は睨んで「大嫌い」と言ってくれた堂本くん。
でも。
見上げると、やけに穏やかな表情の彼と目が合ってしまった。
羽鳥 梢:
「!」
──あれ。堂本くんって、こんな顔だったっけ。
何でだろう。
ちょっと、いつもと違って見えた。
なんて言うか……優しくて。
そんな彼の目を見ていると、少しドキッとしてしまう。
堂本 信広:
「……何」
羽鳥 梢:
「へ? な、何も──」
その時。
後ろから、ドンッと押された堂本くんの顔が近づいた。
驚いて目を閉じた私のおでこに、何か柔らかな感触がぶつかる。
羽鳥 梢:
「!」
堂本 信広:
「!」
額に感じた柔らかな感触──それはどうやら堂本くんの……口らしく。
予想外のアクシデントに、目を見開く。
こ、ここ、これって……キ……。
堂本 信広:
「こ、これは事故だぞ」
羽鳥 梢:
「わ……わかってるっ」
わかってる!
わかっているけれども……!
羽鳥 梢:
「…………」
堂本 信広:
「…………」
私も堂本くんも、もうお互いに顔を見ることができない。
あれ。
あれれ。
何でこんなことになってるの。
鳴り止まない、胸の動悸。
どこか懐かしくも新しく感じるそのドキドキに、私はしばらく顔を上げることができなかった。
・ ・ ・
望月 美羽:
「あ、あの電車に明日、私たち乗るんだよね」
大谷 圭介:
「そーそー、まぁもっと早朝の、混み混み電車だろうけど」
そう言って圭介くんが隣で笑った。
私、望月美羽は今、圭介くんとデート中である。
さっきまで地元のショッピングモールをまわっていて、今は明日の入学式のために、早めにお家へ帰ろうと帰路を歩いている。
私たちの横には、姫泣川。
夕日に映えるオレンジ色の遠くに、橋にかかる線路上を走っていく電車が見えていた。
望月 美羽:
「るりっちたち、どんな入学式だったのかなー」
大谷 圭介:
「明日聞いてみよっか」
望月 美羽:
「もちろん! 制服姿も楽しみっ」
るりっちの通う徳瑛高校は同じ沿線だから、同じ菜南駅を利用する。
明日は私たちも入学式だから、駅で会えるかもしれない。
大谷 圭介:
「美羽はいいよなぁ、制服似合ってて」
望月 美羽:
「え、圭介くんも似合ってるよ?」
大谷 圭介:
「そうかぁ? 俺、井本にリーマンみたいだって言われたんだけど……」
圭介くんたちは春休み中に、制服見せ合いっこをしたらしい。
桜塚高校の制服は女子はチェック柄のスカートにブレザーだけど、男子はシンプルな紺色の上下だ。
ネクタイは斜めのストライプで、私は圭介くんにバッチリ似合っていると思ったんだけど。
大谷 圭介:
「俺、老けてる……!?」
望月 美羽:
「そんなことないよぉ」
真剣にそんなことを悩む圭介くんに、私は思わず笑ってしまう。
大好きな圭介くんと同じ高校へと明日、入学する。
それが本当に楽しみで、ウキウキしちゃって、でもちょっぴりの不安も私に植えさせる。
でも。
さわさわと涼やかな春風が、私たちの間を駆け抜けて、そんな不安を吹き飛ばすかのように過ぎ去ってくれた。
望月 美羽:
(もう高校生かぁ)
体の成長で悩んでいた頃が、嘘みたい。
でも見た目はあんまり変わっていないから、そこまで変化した実感もない。
こんなので高校生になっちゃって、いいのかなぁ。
まだまだ、子どもみたいな気もするんだけど。
大谷 圭介:
「もう高校生だな」
私の気持ちが聞こえていたかのように、圭介くんが同じことを言った。
それに私はうなずいて「信じられないよねぇ」なんてつぶやいた。
望月 美羽:
「中学に上がった頃は、圭介くんと付き合うとは思わなかったなぁ」
大谷 圭介:
「俺もだし。ていうか、美羽は別のやつ好きだったしなー」
少し拗ねたように言う圭介くん。
それを言われると、ちょっぴり罪悪感。
でもでも、それがあったからこそ圭介くんと付き合っているんだよ!
望月 美羽:
「大丈夫! 今は圭介くんが大好きなんだから」
大谷 圭介:
「……!」
大谷 圭介:
「う……そうだな」
珍しく圭介くんが照れて、視線をさまよわせる。
彼は、不意打ちのことに弱いのだ。
そうして、私たちは手をつなぐ。
これから迎える新生活を、また2人で一緒に楽しんでいけるように。
ほっぺが痛くなるくらいに、笑えるように。
泣くことがあっても、支えられるように。
どんな高校生活になるだろう。
どんな人達に出会えるだろう。
乗合バスのように、様々な人が集まっていた中学校。
そこから出た私たちは、次は電車に乗って高校へと向かう。
ガタゴト揺れるあの電車に、私たちも明日から乗り込む。
大谷 圭介:
「美羽」
望月 美羽:
「ん?」
大谷 圭介:
「高校、楽しみだな!」
望月 美羽:
「……うん!」
笑い合って、つないだ手を大きく振る。
太陽みたいな彼の後ろから、春風が舞い込む。
春の香りを含んだ、優しい風。
桜の花弁を散らすそれは。
ピンクを川に色付けて、この街を春に染めた。
❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀
こ
の
空
色
バ
ス
、
春
先
行
き
。
❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀
.。.:*・゜+.。.:*・゜+.。.:*・゜
お し ま い
。.:*・゜+.。.:*・゜.。.:*・゜+
これにて本編はおしまいです。よければ感想・評価いただけるとうれしいです!
❀番外編へ続く




