Ep.56 咲け、さくら (3)「卒業」
中学の卒業というのは、小学校の頃とはまたちょっと違う。
義務教育が終わって、私たちはいよいよ完全に子どもとして見られなくなる。
大人へと階段を上がる最初の一歩。
それを踏み出すための大きな転機。
羽鳥梢、15才。
卒業式を明日に控えた夜。
ほんのちょっとだけ、美羽の言葉を借りるなら──センチメンタルだ。
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咲け、さくら
(3)「卒業」
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自室の勉強机の上に、大量の小物を並べていた。
それはこの3年間の思い出を象徴する、大切な宝物たち。
羽鳥 梢:
(これは茉莉ちゃんたちとのリレーで使ったリボン)
羽鳥 梢:
(これは夏祭りでお揃いでつけたブレスレット)
それらをひとつひとつ、通学カバンに付けている。
明日は思い出をたくさんつけたカバンで登校して、卒業式を迎えるんだ。
私のカバンはすっかり、カラフルな小物たちに囲まれていた。
羽鳥 梢:
「あ、お守りもつけなくちゃ」
るりと美羽と、お揃いで買った姫泣神社のお守り。
丸くて珍しい形をしてるなと思ったけど、もしかしてこれ、涙の形なのかな。
以前、大谷から教えてもらった姫泣川の伝説を思い出す。
お守りもくくりつけて、すっかりカバンは彩られた。
このお守り、私にはご利益はなかったけど。
羽鳥 梢:
(るりと同じところ、行きたかったなぁ)
幼稚園から一緒のるり。
もともと大人しくて、引っ込み思案だったるりを、いつも私がかばったり引っ張ったりしていた。
同じように中曽根もそんなるりをかまって、私たちはいつも一緒だった。
そこに美羽も加わって。
中学では茜ちゃんや茉莉ちゃんたちとも仲良くなって。
振り返ればそこにたくさんの大好きな友達がいた。
あーあ。
離ればなれになっちゃうのかぁ。
じんわりまた、涙が出てきそうになる。
羽鳥 梢:
(う……明日、私やばいかも)
卒業式、泣いちゃいそう。
最近泣いてばかりだな、なんて苦笑しそうになる。
そしてそこから連想されるのは、堂本くんの前で大泣きしたあの日のことだった。
羽鳥 梢:
(情けないところ、見せちゃったなぁ)
堂本くんには怒ったり泣いたり、変なところばかり見せてる気がする。
なーんか、あの生意気小僧の前だと油断しちゃうんだよねぇ。
たぶん堂本くんが、からかってきたり減らず口を叩くから、それに対抗するためにそうなっちゃうんだろうけど。
堂本 信広:
「怒ったり泣いたりは、俺の前でしたら」
笑っていたいと泣いた私に、そんなふうに言ってくれた堂本くん。
その声が少し穏やかに聞こえて、心が落ち着いたのを覚えている。
羽鳥 梢:
「……」
堂本くん……本当に変わったな。
減らず口は相変わらずだけど、雰囲気や表情が、すごく柔らかくなった。
時に優しく見えるそれは、克弘さんに似ているようで、似ていない。
堂本くんだけの、優しい顔だ。
羽鳥 梢:
(そうだ、堂本くんといえば……)
私は、プライベートで使っているリュックに手を伸ばした。
そこにつけている私の好きなキャラクター、紳士ネコのストラップを外す。
羽鳥 梢:
「これも付けなくちゃね」
3年間、クラスが同じだった堂本くん。
彼も、私の大切な友達だから。
私は彼がくれたストラップを大切に、通学カバンに付け加えた。
・ ・ ・
そうしていよいよ迎えた、卒業式当日。
案の定というか、私はやっぱりぼろぼろと式の途中から、ハンカチで涙を抑えて泣いてしまった。
教室に戻って、ホームルームで聞いた福原先生のお話にも泣いちゃう。
福原先生:
「──ではこれで、最後のホームルームを終わります」
福原先生:
「みんな、卒業しても、いつでも遊びにこいよ!」
福原先生にしては、くだけた最後のセリフ。それにみんなも笑顔になった。
最後のホームルームが終わった教室では、それぞれが動き出して、賑やかな声が響き始める。
クラスメイト:
「写真撮ろー!」
クラスメイト:
「なぁなぁ、カバンにメッセージ書いてよ」
クラスメイト:
「グラウンドもう行くー? 後輩すごい待ってるじゃん」
みんなはまだ、名残惜しそうに教室に残っている。
グラウンドでは、恒例の卒業生送り出しをするための後輩たちが、卒業生を待ちかまえている。けれど、まだ出ているクラスはないようだ。
クラスメイト:
「梢ちゃん、写真撮ろうっ」
羽鳥 梢:
「うん、撮る撮る」
私も仲良くしていた子たちとスマホで写真を撮り合う。
1人ひとりの友達との思い出が、撮るたびにスマホに閉じ込められていく。
ああ、本当に卒業しちゃったんだなぁ。
クラスメイト:
「中曽根くん、写真撮ろうよ!」
ふいに、中曽根に声をかけるクラスメイトの女の子の声が聞こえた。
見れば男子と談笑していた中曽根に、女の子たちが写真を撮ろうと誘っている。
あ、るりがいないからって!
中曽根 悠:
「ん、いーよ!」
しかし中曽根は、悪気もなくクラスの女子と写真を撮ろうとする。
まぁ、団体での記念撮影だからいいかな?
堂本くんも巻き込まれているのが、なんだか面白い。
見ていたら、堂本くんと目が合った。
そしてその隣の中曽根が、楽しそうに手を上げる。
中曽根 悠:
「おい、お前らも撮ろうぜー」
私たちも中曽根は巻き込もうとする。
中曽根と撮っていた女子グループも、おいでおいでと手を招くから、私たちは駆け込んで大人数になった。
クラスメイト:
「うわー、入りきらないって! スタンドセットしてくる」
1人が机に、スマホカメラのセルフタイマーをセッティングする。
私たちはその間、撮影位置とポーズを話し合う。
いろいろ動いてるうちに、堂本くんの隣へと来ていた。
羽鳥 梢:
「堂本くんと写真って、初めてだねー!」
テンション高くなっていた私は、堂本くんにそう言う。
堂本 信広:
「そうだったか?」
羽鳥 梢:
「そうだよ、修学旅行で撮ろうって誘ったとき『くだらねー』って逃げるしさぁ」
堂本 信広:
「あー、魂取られるから苦手なんだよ」
羽鳥 梢:
「老人みたいなこと言わないの!」
堂本 信広:
「ははっ」
堂本くんも、少しいつもよりテンションが高いのか、珍しく明るいジョークを言う。
私たちは団体で写真を撮る。
私のスマホでも撮らせてもらって、その中に大切な思い出をしまった。
羽鳥 梢:
「あとでみんなに送るね!」
そう言ったあと、ふとグラウンドに視線を向けたら、すでに卒業生たちがゾロゾロと出ていた。
グラウンドでの卒業生送り出しイベントが、始まりつつある。
羽鳥 梢:
「あ、そろそろグラウンドに行こうかな」
クラスメイト:
「そうだね」
私の所属する美術部は、似顔絵付きの色紙を渡してくれるはずだ。
小物をたくさん付けたカバンを肩にかけて、グラウンドへと向かった。
・ ・ ・
グラウンドに出ると、人数はますます増えていた。
それぞれの部活動の送り出しや、友達同士での撮影会。
家族や先生との記念撮影をしている子もいる。
私は美術部の後輩たちから、ありがたく色紙を受け取っていた。
後輩:
「羽鳥先輩、卒業おめでとうございます!」
羽鳥 梢:
「ありがとう、みんなも頑張ってね」
色紙には、私をデフォルメして可愛く描いてくれた似顔絵がある。それがくすぐったくて嬉しい。
羽鳥 梢:
(あ、美羽も受け取ってる)
視界の端に、涙ぐんで後輩たちから花束を受け取る美羽が見えた。
その近くにるりもいて、るりも部活の後輩たちから受け取ったのか、小さな紙袋をぶら下げている。
羽鳥 梢:
(るりたちと、写真撮ろうっと)
私はるりに声をかけようと、そちらに足を踏み出した。
──その時。
名前を背後から呼ばれたので、人混みの中、振り返った。
◇ 続く ◇




