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Ep.6 君はカムパネルラ (3)「姫泣祭」

ショウヘイくんが、忽然と姿を消した。


あの日以来、彼と会えていない。

まるで砂漠で見た蜃気楼のように、彼の存在は消えた。


羽鳥 梢:

(もう、会えないのかな?)


図書館に行くたびに、私は彼の姿を探す。けれど、見つけることは叶わなかった。

そして時間は流れ、8月となる。

ついに姫泣祭当日。

私は、お母さんが用意してくれた浴衣の着付けをされていた。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


君はカムパネルラ

(3)「姫泣祭当日」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



お母さん:

「あらー? この浴衣も、ちょっと小さくなってきたのかしら 」


お母さんが私に向かい合い、呟いた。

前身頃の左右を合わせながら、丈の長さを調整している。


羽鳥 梢:

「えー、この浴衣、気に入ってたのに」


お母さん:

「来年は、新しいのにしなきゃね」


お母さんはどこか嬉しそうに笑って、シュッと腰紐を巻き付けた。

キュッと結ばれて、グェっと変な声が出る。


お母さん:

「もっと女の子らしい声をあげなさい」


羽鳥 梢:

「ちょっときついよ〜」


毎年、姫泣祭の初日は、家族で灯籠とうろう流しを見に行く。

その時は決まって浴衣を着ていくのだけれど、私は動きにくい浴衣があんまり好きじゃないかった。

でも、イベント好きなお母さんは断固として浴衣を譲らない。


お母さん:

「最終日も浴衣、着ればいいのに」


羽鳥 梢:

「やだよ。 みんなで行くから、動きやすい格好がいいもん 」


最終日の3日目は、同小のメンバーで行こうという企画が上がっている。

おそらく10人くらいになりそうな団体行動だから、動きづらい格好はしたくない。

それなのに、お母さんはやたら浴衣を着せたがる。


お母さん:

「でも、男の子も行くんでしょ? こう、可愛い格好した方がいいんじゃないの 」


羽鳥 梢:

「する必要なし!」


お母さん:

「もう、あんたって子は」


苦笑するお母さん。

だって私は今、恋愛に興味はないんだもの。

一緒に行く美羽やるりは、浴衣を着てきそうだな。


2人とも恋愛をしている、今時の女の子だ。

るりなんて両思いになったらしく、中1にしてもうお付き合いというものを始めている。

そんなのは私にとってはまだまだ無縁のものかな、なんてぼんやり思う。


──ふと、ショウヘイくんのことも頭に浮かんだけれど。


羽鳥 梢:

(……でも、なんか)


羽鳥 梢:

(違う気がする)


ショウヘイくんに対する思いはたしかに「好き」だけれど。

それを恋愛と呼ぶには、何だか違うような気がした。


引き続き、黙ってお母さんに浴衣を着つけされた。

毎年のことで手慣れているお母さんは、流れるように私を浴衣姿へと着付けていく。

そんな中ふと、お母さんが笑った。


お母さん:

「やっぱりこの浴衣、銀河鉄道みたいね」


羽鳥 梢:

「え?」


お母さんの口から出てきたキーワードに、つい反応した。


お母さん:

「ほら、濃い青地に絞り模様が、それっぽくない?」


そう言われるとたしかに、私が気に入っているこの浴衣は、宇宙のようにも見えた。

夜の空に散りばめられた星たち。

その中に、川あるいは線路のように光る、穏やかな筋の集まり。


羽鳥 梢:

「……お母さんも、銀河鉄道の夜が好きなの?」


お母さん:

「もちろん。私も宮沢賢治ファンよ」


ということは、私ってお母さん似?


お母さん:

「ふふふ。梢がお腹にいたとき、いっぱい読み聞かせしてあげたから。 だからあんたは読書好きなのよ 」


羽鳥 梢:

「えー、なんかそれって嫌だなあ」


お母さん:

「なにを、この!」


お母さんがグイッと帯を締めたものだから、私は慌てて「わー、嘘です、ゴメンなさい!」と謝った。


羽鳥 梢:

「お母様、好きです、大好きです、尊敬してます〜!」


お母さん:

「なんか嫌味っぽいけど……まあ、許してあげましょう」


お母さんはパッと手を緩め、改めて帯を結びなおし始める。

もう、うちのお母さんって、本当に子どもっぽいんだから!


でも、そんなお母さんが大好きで。

お母さんを独り占めできるこの着付けの時間も、じつは嫌いじゃない。


芽衣:

「ねー、芽衣まだぁ?」


ひょっこりと、順番を待つ芽衣がのぞいてきたけれど。


羽鳥 梢:

「まだだよー」


私はちょっぴり意地悪に、そう答えて笑った。


ようやく私の着付けが終わると、芽衣は待ってましたとばかりにお母さんの前に躍り出る。

離れようとした私に、お母さんが声をかけた。


お母さん:

「梢ごめん、下駄を出すの忘れてたから、押入れから出しといてくれる?」


羽鳥 梢:

「はーい」


私は押入れのそばに立っていたので、すぐにカラリとふすまを開けて中を覗いた。


羽鳥 梢:

「どこにあるの?」


お母さん:

「右手の奥の方かも」


芽衣の着付けをしながら、指示を出すお母さん。

私はお母さんに言われたところを探した。


羽鳥 梢:

「あ、あったあった」


羽鳥 梢:

「えい!」


ちょっと物が乗っていたその箱を引っ張ると。


羽鳥 梢:

「あ」


ダダダ、と雪崩のように上に乗っていたものたちも、落ちてきた。


お母さん:

「何やってんの」


芽衣:

「てんのー」


羽鳥 梢:

「わー、ごめんごめん」


ちょっとした横着が、このざまだ。

慌てて落ちた物を集めた。


羽鳥 梢:

「ん? ……これ何? 」


その中に1つ、気になるものがあって手に取る。

小さな箱型のそれを見て、私は言葉を失った。




◇ 続く ◇

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