Ep.6 君はカムパネルラ (3)「姫泣祭」
ショウヘイくんが、忽然と姿を消した。
あの日以来、彼と会えていない。
まるで砂漠で見た蜃気楼のように、彼の存在は消えた。
羽鳥 梢:
(もう、会えないのかな?)
図書館に行くたびに、私は彼の姿を探す。けれど、見つけることは叶わなかった。
そして時間は流れ、8月となる。
ついに姫泣祭当日。
私は、お母さんが用意してくれた浴衣の着付けをされていた。
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君はカムパネルラ
(3)「姫泣祭当日」
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お母さん:
「あらー? この浴衣も、ちょっと小さくなってきたのかしら 」
お母さんが私に向かい合い、呟いた。
前身頃の左右を合わせながら、丈の長さを調整している。
羽鳥 梢:
「えー、この浴衣、気に入ってたのに」
お母さん:
「来年は、新しいのにしなきゃね」
お母さんはどこか嬉しそうに笑って、シュッと腰紐を巻き付けた。
キュッと結ばれて、グェっと変な声が出る。
お母さん:
「もっと女の子らしい声をあげなさい」
羽鳥 梢:
「ちょっときついよ〜」
毎年、姫泣祭の初日は、家族で灯籠流しを見に行く。
その時は決まって浴衣を着ていくのだけれど、私は動きにくい浴衣があんまり好きじゃないかった。
でも、イベント好きなお母さんは断固として浴衣を譲らない。
お母さん:
「最終日も浴衣、着ればいいのに」
羽鳥 梢:
「やだよ。 みんなで行くから、動きやすい格好がいいもん 」
最終日の3日目は、同小のメンバーで行こうという企画が上がっている。
おそらく10人くらいになりそうな団体行動だから、動きづらい格好はしたくない。
それなのに、お母さんはやたら浴衣を着せたがる。
お母さん:
「でも、男の子も行くんでしょ? こう、可愛い格好した方がいいんじゃないの 」
羽鳥 梢:
「する必要なし!」
お母さん:
「もう、あんたって子は」
苦笑するお母さん。
だって私は今、恋愛に興味はないんだもの。
一緒に行く美羽やるりは、浴衣を着てきそうだな。
2人とも恋愛をしている、今時の女の子だ。
るりなんて両思いになったらしく、中1にしてもうお付き合いというものを始めている。
そんなのは私にとってはまだまだ無縁のものかな、なんてぼんやり思う。
──ふと、ショウヘイくんのことも頭に浮かんだけれど。
羽鳥 梢:
(……でも、なんか)
羽鳥 梢:
(違う気がする)
ショウヘイくんに対する思いはたしかに「好き」だけれど。
それを恋愛と呼ぶには、何だか違うような気がした。
引き続き、黙ってお母さんに浴衣を着つけされた。
毎年のことで手慣れているお母さんは、流れるように私を浴衣姿へと着付けていく。
そんな中ふと、お母さんが笑った。
お母さん:
「やっぱりこの浴衣、銀河鉄道みたいね」
羽鳥 梢:
「え?」
お母さんの口から出てきたキーワードに、つい反応した。
お母さん:
「ほら、濃い青地に絞り模様が、それっぽくない?」
そう言われるとたしかに、私が気に入っているこの浴衣は、宇宙のようにも見えた。
夜の空に散りばめられた星たち。
その中に、川あるいは線路のように光る、穏やかな筋の集まり。
羽鳥 梢:
「……お母さんも、銀河鉄道の夜が好きなの?」
お母さん:
「もちろん。私も宮沢賢治ファンよ」
ということは、私ってお母さん似?
お母さん:
「ふふふ。梢がお腹にいたとき、いっぱい読み聞かせしてあげたから。 だからあんたは読書好きなのよ 」
羽鳥 梢:
「えー、なんかそれって嫌だなあ」
お母さん:
「なにを、この!」
お母さんがグイッと帯を締めたものだから、私は慌てて「わー、嘘です、ゴメンなさい!」と謝った。
羽鳥 梢:
「お母様、好きです、大好きです、尊敬してます〜!」
お母さん:
「なんか嫌味っぽいけど……まあ、許してあげましょう」
お母さんはパッと手を緩め、改めて帯を結びなおし始める。
もう、うちのお母さんって、本当に子どもっぽいんだから!
でも、そんなお母さんが大好きで。
お母さんを独り占めできるこの着付けの時間も、じつは嫌いじゃない。
芽衣:
「ねー、芽衣まだぁ?」
ひょっこりと、順番を待つ芽衣がのぞいてきたけれど。
羽鳥 梢:
「まだだよー」
私はちょっぴり意地悪に、そう答えて笑った。
ようやく私の着付けが終わると、芽衣は待ってましたとばかりにお母さんの前に躍り出る。
離れようとした私に、お母さんが声をかけた。
お母さん:
「梢ごめん、下駄を出すの忘れてたから、押入れから出しといてくれる?」
羽鳥 梢:
「はーい」
私は押入れのそばに立っていたので、すぐにカラリとふすまを開けて中を覗いた。
羽鳥 梢:
「どこにあるの?」
お母さん:
「右手の奥の方かも」
芽衣の着付けをしながら、指示を出すお母さん。
私はお母さんに言われたところを探した。
羽鳥 梢:
「あ、あったあった」
羽鳥 梢:
「えい!」
ちょっと物が乗っていたその箱を引っ張ると。
羽鳥 梢:
「あ」
ダダダ、と雪崩のように上に乗っていたものたちも、落ちてきた。
お母さん:
「何やってんの」
芽衣:
「てんのー」
羽鳥 梢:
「わー、ごめんごめん」
ちょっとした横着が、このざまだ。
慌てて落ちた物を集めた。
羽鳥 梢:
「ん? ……これ何? 」
その中に1つ、気になるものがあって手に取る。
小さな箱型のそれを見て、私は言葉を失った。
◇ 続く ◇




