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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第三章 最終便、発車します《3年生編》
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Ep.54 乙女は聖なる夢を見る(1)「出会い」

 いつ私たちは、夢の世界から覚めたのだろう。

 怖いお化けに幽霊。

 可愛い妖精やおどけた妖怪。

 そんな存在を「いるわけないじゃん」て否定するようになったのは、大人になった証拠なのかな。


 そんなのはいないって。

 まやかしだって。

 全部ぜーんぶ、嘘なんだって。


 そう思って、子どもの殻を脱ぎ捨ててしまったのは、いつだったんだろう。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 乙女は聖なる夢を見る

(1)「出会い」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 12月23日の冬休み。

 クリスマスがもうすぐとなるその日、私、望月美羽は、友達のるりっちと梢ちゃんと近所のファストフード店にいた。


 早めに一緒にお昼を食べて、たくさんおしゃべりをして出たのは午後2時近く。

 受験シーズン真っ只中の、ちょっとした息抜きタイムだ。


 望月 美羽:

「あー、食べた食べた! そしてしゃべった!」


 戸田 るり:

「だねぇ。なんかスッキリした」


 羽鳥 梢:

「3時間近く居座っちゃったね。お尻痛いや」


 お店から出た私たちは、そんな会話をしながら歩いた。

 商店街を抜け、住みなれた街並みを歩く。

 冷たい冬の寒気が、私たちの間を通りぬけるものだから、首元のマフラーに「うぅ、さむーい」と口元を埋めた。


 戸田 るり:

「美羽、そのマフラー可愛いね」


 るりっちの言葉に私は反応し、えへへーとつい、だらしない笑みをこぼしてしまう。


 望月 美羽:

「これ、今年の圭介くんからの誕生日プレゼントなんだ!」


 羽鳥 梢:

「わあ、相変わらずラブラブだ」


 梢ちゃんは嬉しいことを言ってくれる。

 こんなに優しくて大好きだと思える友達がいて、私は本当に幸せだなぁって、最近とくに思う。


 るりっちと梢ちゃんは、私とは違う高校を目指している。

 圭介くんとは同じ高校を目指しているけれど、大好きな友達とは離れちゃう。

 そう考えると最近、小さな寂しさが私の心をチクチク刺すんだ。


 望月 美羽:

(あーあ、私ももうちょっと頭がよかったらなぁ)


 私の頭では、徳瑛高校なんて無理である。

 だから、卒業したらるりっちと梢ちゃんとは、なかなか会えなくなっちゃうんだ。


 望月 美羽:

(それは……)


 望月 美羽:

(やっぱり寂しいなぁ)


 仕方ないとは思いつつも、近づいている卒業と避けられない受験のプレッシャーに、ちょっぴりブルー。

 白い息を、小さく吐き出した。


 その時ふいに、小さな路地の隙間から子どもたちの声が聞こえた。


 女の子:

「──ウソじゃないもん! 本当にパパはお手伝いしてるのっ」


 男の子1:

「じゃあ、証拠見せてみろよー」


 男の子2:

「そうだぞ、言葉だけじゃ信じらんねーよ」


 女の子:

「それは……すぐにはできないけど……っ」


 男の子1:

「ほら、やっぱりウソなんだ」


 女の子:

「ち……違うもんっ」


 ん? と思って路地をのぞきこめば、そこには小学1、2年生くらいの女の子1人と男の子2人がいた。

 どうやら女の子に対して、男の子たちが詰めよっている感じだ。

 女の子は泣きそうな表情をして、そんな男の子たちを見つめていた。


 しかも。


 望月 美羽:

(うひゃあ、かっわいい子ー!)


 肌が白くて目がくりっとしていて、胸元まである髪の毛は淡い栗色をしてふわふわと揺れていた。

 少しだけ日本人離れした顔つき。もしかしたら、ハーフの子なのかな。

 そんな女の子は、ますます大きな瞳をウルウルさせて、唇を噛みしめる。


 女の子:

「ウソじゃ……ないもん!」


 ぎゅっと、白のダッフルコートの裾を掴む。

 しかし男の子たちは、からかうように女の子に声をかけるんだ。


 男の子2:

「なんだ泣くのかよー」


 男の子1:

「女はこれだからいやだよなー。泣きゃいいって思ってさー」


 こ、このガキンチョー!

 女の子をイジメる男の子なんて、サイテーだぁ!!


 立ち止まる私を「どうしたの?」と気にしたるりっちたちを置いて、その小さな路地へと入っていった。


 望月 美羽:

「コラー! イジメはいけませーん!!」


 男の子1:

「うわ!?」


 男の子2:

「なんだ!?」


 女の子:

「!」


 突然現れた私に、男の子たちは目を丸くする。

 女の子は驚いて、こちらを見る。

 あ、やっぱりこの子、すっごく可愛い。お人形みたい。

 そう思いつつも、私は男の子2人に向かってプリプリと怒って声をかけた。


 望月 美羽:

「あのねぇ、女の子に対して男の子が2人も意地悪するなんて超サイテーよ!? そんなんじゃ将来モテないし、可愛い彼女もゲットできないよ!?」


 戸田 るり:

「美羽、後半内容がちょっとズレてる……」


 背後から追いついたるりっちから冷静なツッコミが入るが、そんなのは気にしてられないのである!


 望月 美羽:

「あんたたち、この子が可愛いからって意地悪してるんでしょー」


 男の子1:

「はぁ!? んんんんなわけねーし!」


 望月 美羽:

「またまた照れないのー! でもねぇ、それじゃあよけい嫌われるだけなんだからねっ。好きな子には優しくしなさい! ジェントルマンでありなさい!」


 男の子1:

「な、なんだよこいつ……」


 男の子2:

「変なやつ! 行こ行こっ」


 男の子たちはそそくさと逃げて、路地の奥に走って向こうの道路へと消えてしまった。

 それを見送っていた私に、るりっちと梢ちゃんが声をかける。


 戸田 るり:

「もう美羽、ビックリしたよー」


 羽鳥 梢:

「あの子たちも驚いてたね」


 望月 美羽:

「いいの! これで少しはこりたでしょ」


 そんな私たちに、取り残された女の子が目をパチパチさせて視線を向けていた。

 うう、この子にも変なお姉さんって思われたかな。

 私は今さらながらにその子にニコッと微笑みかけて、安心してもらえるように声をかけた。


 望月 美羽:

「ええっと、大丈夫だった? もうイジメっ子はいないからね!」


 すると女の子は小さくうなずき、おずおずと声を出した。


 女の子:

「あ……りがとう」


 まだちょっと緊張していそうな小さな声。

 そりゃそうか。

 年上のお姉さんが、3人も集まっていたら怖いよね。

 私は女の子の前にしゃがみこんで、目線を合わせて言った。


 望月 美羽:

「何かあったの?」


 しゃがんで近くで見ると、女の子の顔が本当に可愛くてみとれそうになっちゃった。

 少しだけ色素の薄い茶色の瞳。

 それが潤んで濡れていた。


 女の子:

「……わ、私のパパね。サンタさんと知り合いなの」


 望月 美羽:

「え?」


 女の子:

「本当なのに、あの子たちウソつきって言うの」


 女の子:

「本当なの」


 女の子:

「パパはサンタさんとお友達なのよ」


 望月 美羽:

「…………」


 こういう時。

 なんて言ったらいいんだろう。

 だってサンタクロースがいないなんて、私はとっくの昔に知っている。

 でも目の前のこの子は、まだ信じているんだ。

 サンタクロースの存在を。


 そうだね、サンタはいるもんね。

 そんなふうに言ってあげた方が、この子には嬉しいことなのかもしれない。

 でもそれって、本当にいいことなのかなぁ。

 だってこのくらいの年齢なら、そろそろまわりもわかり始める頃だ。

 すぐにウソだってバレちゃうウソだ。


 それを今さら、ついたって……。


 戸田 るり:

「……すごい、サンタさんとお友達なんて素敵だね」


 望月 美羽:

「!」


 私の横に、るりっちが一緒にしゃがみこんで女の子に声をかけた。

 そちらに女の子は、ハッと顔を上げて安心したように笑う。


 女の子:

「うん! ……素敵でしょ」


 とっても可愛い笑顔だった。

 そしていつの間にか、梢ちゃんもしゃがみこんで、女の子に声をかけていた。


 羽鳥 梢:

「もしかしてあなた、蛍原町《ほとはらまち》のおもちゃ屋の子?」


 おもちゃ屋?

 梢ちゃんに視線を向けると、女の子もそちらに顔を向けて、驚いたようにうなずいた。


 女の子:

「うん! 知ってるの?」


 羽鳥 梢:

「知ってる知ってる。私行ったことあって、その時にあなたを見たよ。お手伝いしていたよね。リボン、上手にハサミで切ってた」


 女の子:

「……えへへ」


 ほめられたことが本当に嬉しそうに、女の子は笑った。

 さすが、妹のいる梢ちゃんだ。

 小さい女の子の扱いには慣れている。


 とその時、私たちの背後から大人の男性の声がかかった。


 男性:

「ノエル! こんな所にいたのか!」


 ノエル:

「パパ!」


 ノエルと呼ばれた女の子は、駆けつけた男性に駆け寄ってひょい、と抱きかかえられた。

 まるで映画のワンシーンのような親子の再会に、私たち3人は思わず笑みをこぼす。


 男性:

「心配したぞ。急にいなくなるから」


 ノエル:

「ごめんなさい。クラスメイトの子たちがいたの。話しこんじゃって……」


 ノエルちゃんは、意地悪されたことは男性に言わない。

 男性は純日本人顔の普通の男性だったが、とても優しそうな人に見えた。


 ホッとしたようにノエルちゃんを下ろすと、彼女の頭を優しく撫でる。

 そして私たちの方を見て、ペコリと頭を下げてくれた。


 男性:

「すみません、ご迷惑をおかけしました」


 望月 美羽:

「いえいえ、そんな!」


 大人の人に頭を下げられるって、なんだか慣れない。

 慌てて手を振る私。

 しかし、ふいに服を引っ張られる感触に、下を見下ろした。

 ノエルちゃんが私のマフラーを引っ張ったのだ。


 ノエル:

「お姉ちゃん、ありがとう」


 ニコリと笑って、そして。


 ノエル:

「今から、お礼をさせて!」


 望月 美羽:

「え!?」


 ノエルちゃんの発言に、私たちは3人とも目を丸くした。




 ◇ 続く ◇

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