Ep.54 乙女は聖なる夢を見る(1)「出会い」
いつ私たちは、夢の世界から覚めたのだろう。
怖いお化けに幽霊。
可愛い妖精やおどけた妖怪。
そんな存在を「いるわけないじゃん」て否定するようになったのは、大人になった証拠なのかな。
そんなのはいないって。
まやかしだって。
全部ぜーんぶ、嘘なんだって。
そう思って、子どもの殻を脱ぎ捨ててしまったのは、いつだったんだろう。
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乙女は聖なる夢を見る
(1)「出会い」
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12月23日の冬休み。
クリスマスがもうすぐとなるその日、私、望月美羽は、友達のるりっちと梢ちゃんと近所のファストフード店にいた。
早めに一緒にお昼を食べて、たくさんおしゃべりをして出たのは午後2時近く。
受験シーズン真っ只中の、ちょっとした息抜きタイムだ。
望月 美羽:
「あー、食べた食べた! そしてしゃべった!」
戸田 るり:
「だねぇ。なんかスッキリした」
羽鳥 梢:
「3時間近く居座っちゃったね。お尻痛いや」
お店から出た私たちは、そんな会話をしながら歩いた。
商店街を抜け、住みなれた街並みを歩く。
冷たい冬の寒気が、私たちの間を通りぬけるものだから、首元のマフラーに「うぅ、さむーい」と口元を埋めた。
戸田 るり:
「美羽、そのマフラー可愛いね」
るりっちの言葉に私は反応し、えへへーとつい、だらしない笑みをこぼしてしまう。
望月 美羽:
「これ、今年の圭介くんからの誕生日プレゼントなんだ!」
羽鳥 梢:
「わあ、相変わらずラブラブだ」
梢ちゃんは嬉しいことを言ってくれる。
こんなに優しくて大好きだと思える友達がいて、私は本当に幸せだなぁって、最近とくに思う。
るりっちと梢ちゃんは、私とは違う高校を目指している。
圭介くんとは同じ高校を目指しているけれど、大好きな友達とは離れちゃう。
そう考えると最近、小さな寂しさが私の心をチクチク刺すんだ。
望月 美羽:
(あーあ、私ももうちょっと頭がよかったらなぁ)
私の頭では、徳瑛高校なんて無理である。
だから、卒業したらるりっちと梢ちゃんとは、なかなか会えなくなっちゃうんだ。
望月 美羽:
(それは……)
望月 美羽:
(やっぱり寂しいなぁ)
仕方ないとは思いつつも、近づいている卒業と避けられない受験のプレッシャーに、ちょっぴりブルー。
白い息を、小さく吐き出した。
その時ふいに、小さな路地の隙間から子どもたちの声が聞こえた。
女の子:
「──ウソじゃないもん! 本当にパパはお手伝いしてるのっ」
男の子1:
「じゃあ、証拠見せてみろよー」
男の子2:
「そうだぞ、言葉だけじゃ信じらんねーよ」
女の子:
「それは……すぐにはできないけど……っ」
男の子1:
「ほら、やっぱりウソなんだ」
女の子:
「ち……違うもんっ」
ん? と思って路地をのぞきこめば、そこには小学1、2年生くらいの女の子1人と男の子2人がいた。
どうやら女の子に対して、男の子たちが詰めよっている感じだ。
女の子は泣きそうな表情をして、そんな男の子たちを見つめていた。
しかも。
望月 美羽:
(うひゃあ、かっわいい子ー!)
肌が白くて目がくりっとしていて、胸元まである髪の毛は淡い栗色をしてふわふわと揺れていた。
少しだけ日本人離れした顔つき。もしかしたら、ハーフの子なのかな。
そんな女の子は、ますます大きな瞳をウルウルさせて、唇を噛みしめる。
女の子:
「ウソじゃ……ないもん!」
ぎゅっと、白のダッフルコートの裾を掴む。
しかし男の子たちは、からかうように女の子に声をかけるんだ。
男の子2:
「なんだ泣くのかよー」
男の子1:
「女はこれだからいやだよなー。泣きゃいいって思ってさー」
こ、このガキンチョー!
女の子をイジメる男の子なんて、サイテーだぁ!!
立ち止まる私を「どうしたの?」と気にしたるりっちたちを置いて、その小さな路地へと入っていった。
望月 美羽:
「コラー! イジメはいけませーん!!」
男の子1:
「うわ!?」
男の子2:
「なんだ!?」
女の子:
「!」
突然現れた私に、男の子たちは目を丸くする。
女の子は驚いて、こちらを見る。
あ、やっぱりこの子、すっごく可愛い。お人形みたい。
そう思いつつも、私は男の子2人に向かってプリプリと怒って声をかけた。
望月 美羽:
「あのねぇ、女の子に対して男の子が2人も意地悪するなんて超サイテーよ!? そんなんじゃ将来モテないし、可愛い彼女もゲットできないよ!?」
戸田 るり:
「美羽、後半内容がちょっとズレてる……」
背後から追いついたるりっちから冷静なツッコミが入るが、そんなのは気にしてられないのである!
望月 美羽:
「あんたたち、この子が可愛いからって意地悪してるんでしょー」
男の子1:
「はぁ!? んんんんなわけねーし!」
望月 美羽:
「またまた照れないのー! でもねぇ、それじゃあよけい嫌われるだけなんだからねっ。好きな子には優しくしなさい! ジェントルマンでありなさい!」
男の子1:
「な、なんだよこいつ……」
男の子2:
「変なやつ! 行こ行こっ」
男の子たちはそそくさと逃げて、路地の奥に走って向こうの道路へと消えてしまった。
それを見送っていた私に、るりっちと梢ちゃんが声をかける。
戸田 るり:
「もう美羽、ビックリしたよー」
羽鳥 梢:
「あの子たちも驚いてたね」
望月 美羽:
「いいの! これで少しはこりたでしょ」
そんな私たちに、取り残された女の子が目をパチパチさせて視線を向けていた。
うう、この子にも変なお姉さんって思われたかな。
私は今さらながらにその子にニコッと微笑みかけて、安心してもらえるように声をかけた。
望月 美羽:
「ええっと、大丈夫だった? もうイジメっ子はいないからね!」
すると女の子は小さくうなずき、おずおずと声を出した。
女の子:
「あ……りがとう」
まだちょっと緊張していそうな小さな声。
そりゃそうか。
年上のお姉さんが、3人も集まっていたら怖いよね。
私は女の子の前にしゃがみこんで、目線を合わせて言った。
望月 美羽:
「何かあったの?」
しゃがんで近くで見ると、女の子の顔が本当に可愛くてみとれそうになっちゃった。
少しだけ色素の薄い茶色の瞳。
それが潤んで濡れていた。
女の子:
「……わ、私のパパね。サンタさんと知り合いなの」
望月 美羽:
「え?」
女の子:
「本当なのに、あの子たちウソつきって言うの」
女の子:
「本当なの」
女の子:
「パパはサンタさんとお友達なのよ」
望月 美羽:
「…………」
こういう時。
なんて言ったらいいんだろう。
だってサンタクロースがいないなんて、私はとっくの昔に知っている。
でも目の前のこの子は、まだ信じているんだ。
サンタクロースの存在を。
そうだね、サンタはいるもんね。
そんなふうに言ってあげた方が、この子には嬉しいことなのかもしれない。
でもそれって、本当にいいことなのかなぁ。
だってこのくらいの年齢なら、そろそろまわりもわかり始める頃だ。
すぐにウソだってバレちゃうウソだ。
それを今さら、ついたって……。
戸田 るり:
「……すごい、サンタさんとお友達なんて素敵だね」
望月 美羽:
「!」
私の横に、るりっちが一緒にしゃがみこんで女の子に声をかけた。
そちらに女の子は、ハッと顔を上げて安心したように笑う。
女の子:
「うん! ……素敵でしょ」
とっても可愛い笑顔だった。
そしていつの間にか、梢ちゃんもしゃがみこんで、女の子に声をかけていた。
羽鳥 梢:
「もしかしてあなた、蛍原町のおもちゃ屋の子?」
おもちゃ屋?
梢ちゃんに視線を向けると、女の子もそちらに顔を向けて、驚いたようにうなずいた。
女の子:
「うん! 知ってるの?」
羽鳥 梢:
「知ってる知ってる。私行ったことあって、その時にあなたを見たよ。お手伝いしていたよね。リボン、上手にハサミで切ってた」
女の子:
「……えへへ」
ほめられたことが本当に嬉しそうに、女の子は笑った。
さすが、妹のいる梢ちゃんだ。
小さい女の子の扱いには慣れている。
とその時、私たちの背後から大人の男性の声がかかった。
男性:
「ノエル! こんな所にいたのか!」
ノエル:
「パパ!」
ノエルと呼ばれた女の子は、駆けつけた男性に駆け寄ってひょい、と抱きかかえられた。
まるで映画のワンシーンのような親子の再会に、私たち3人は思わず笑みをこぼす。
男性:
「心配したぞ。急にいなくなるから」
ノエル:
「ごめんなさい。クラスメイトの子たちがいたの。話しこんじゃって……」
ノエルちゃんは、意地悪されたことは男性に言わない。
男性は純日本人顔の普通の男性だったが、とても優しそうな人に見えた。
ホッとしたようにノエルちゃんを下ろすと、彼女の頭を優しく撫でる。
そして私たちの方を見て、ペコリと頭を下げてくれた。
男性:
「すみません、ご迷惑をおかけしました」
望月 美羽:
「いえいえ、そんな!」
大人の人に頭を下げられるって、なんだか慣れない。
慌てて手を振る私。
しかし、ふいに服を引っ張られる感触に、下を見下ろした。
ノエルちゃんが私のマフラーを引っ張ったのだ。
ノエル:
「お姉ちゃん、ありがとう」
ニコリと笑って、そして。
ノエル:
「今から、お礼をさせて!」
望月 美羽:
「え!?」
ノエルちゃんの発言に、私たちは3人とも目を丸くした。
◇ 続く ◇




