Ep.51 手を伸ばせ (3)「黒田くんの想い」
大谷 圭介:
「当たり前だろ。俺だって、お前にはなれねーよ」
黒田 睦実:
「!」
部活後、中曽根先輩に呼び出されたハンバーガー屋。
大谷先輩も小池先輩もいて、その3人の前で、俺は弱音を吐きまくった。
俺に部長は務まらない。
大谷先輩のようにはできない。
そんな、情けない愚痴をこぼした俺に。
大谷先輩は明るい笑顔で、そう言ったのだ。
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手を伸ばせ
(3)「黒田くんの想い」
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大谷先輩は大きな口にポテトを放り、ジュースで流し込んでから、あらためて俺と向き合ってくれた。
大谷 圭介:
「黒田さ、毎朝ボール磨いてただろ」
黒田 睦実:
「!」
知られていたのか。俺は驚く。
大谷 圭介:
「サッカーも中学から始めたのにレギュラーを取るし、すげぇ努力家だ」
黒田 睦実:
「そんなことありませんよ」
大谷 圭介:
「謙遜すんな。今の2年はサボりがちなやつが多いから、お前みたいにしっかり頑張っていけるやつが、部長として必要なんだよ」
黒田 睦実:
「……」
努力家というのなら、俺の斜め前に座る小池先輩の方がすごい。
身長や体格のハンデも飛び越えて、見事レギュラーを取り返した彼。大谷先輩とはまた違う点で、尊敬できる存在だ。
そんな小池先輩に視線を向けたのは、この状況に助け船を出してほしかったからかもしれない。
しかし小池先輩はただ強くうなずいて、大谷先輩に同意した。
小池 隼人:
「僕もそう思うよ」
そしてこんなことを言った。
小池 隼人:
「黒田くん。今の悩み、部活仲間に言ったことはある?」
その問いに、俺は緩く顔を横に振る。
すると小池先輩はやっぱり、と苦笑した。
小池 隼人:
「言ってみなよ。僕らに言ったこと、そのままにさ」
黒田 睦実:
「! そんな……無理っすよ!」
あいつらに言えって!?
自信がない、大谷先輩には追いつけない、そんな情けない愚痴を言えって!?
そんなの──そんなのまっぴら御免だ!
黒田 睦実:
「嫌です」
きっぱりそう言った俺。
すると、隣に座る中曽根先輩が「おい」と、鋭い声を投げかけてきた。
中曽根 悠:
「もう少しまわりを頼れよ」
──頼る?
中曽根先輩に顔を向ければ、彼は最初怒ったような顔をしていたが、すぐに柔らかいものに変えた。
口の端を上げて言う。
中曽根 悠:
「大谷なんか、まわりに頼りっぱなしだったぞ。レギュラー編成も作戦も、ほとんど小池頼りだ」
大谷 圭介:
「う、中曽根クンよ」
大谷先輩は居心地悪そうにつぶやく。
しかし畳みかけるように、小池先輩が続けた。
小池 隼人:
「そうそう。黒田くんのボール磨きも気づいたのは悠くんで、ケイちゃんは聞いて知っただけなんだから」
大谷 圭介:
「隼人までバラすんじゃねぇよぉ」
大谷先輩は、何とも情けない声を出す。
意外だった。
だって大谷先輩は、俺たちの前ではいつも自信満々に指示を出していた。
大きな声で、ハキハキ指針を示してくれる。
それに後輩である俺たちは安心して、ついて行くことができたんだ。
でも。
大谷 圭介:
「仕方ねーじゃん。俺ができるのは、でかい態度と盛り上げだけだ」
なんてあっけらかんと言う。
大谷 圭介:
「ゲームの展開を考えるのは、隼人のがうまいし」
大谷 圭介:
「後輩の変化は、中曽根のが気づきやすいしな」
……それって、部長としていかがなものか。
でも目の前の大谷先輩は、全然気にする様子もなく言うんだ。
大谷 圭介:
「部長なんてなぁ、自信あるふりして、あれこれ口だけ出してりゃいいんだ」
そして、イタズラめいて笑う。
大谷 圭介:
「──て、柴田先輩も言ってたぞ」
黒田 睦実:
「あの柴田先輩が?」
今年の春に卒業していった、2つ上の元部長、柴田先輩を思い出す。
大谷先輩よりもさらに自信過剰な彼は、最初は怖かったが、引退する頃には部長らしくなってたかな……と考える。
すると。
なぜかフッと、肩が軽くなった気がした。
そうか。
みんな最初から、部長らしいわけじゃないんだ。
やっていくうちに、らしくなっていったわけで……。
黒田 睦実:
「…………」
黒田 睦実:
「お……俺……」
俺の唇は、震えていた。
目頭が熱い。
嘘だろう。
そう思ったのに、熱い液体が目からあふれ出した。
黒田 睦実:
「俺も……ちゃんとした部長になりたいです」
黒田 睦実:
「みんなを引っ張っていける」
黒田 睦実:
「大谷先輩みたいに、なりたいです」
まさか俺が泣くとは思わなかったのだろう。
3人はぎょっと俺を見て、前に座る大谷先輩は身を乗り出した。
大谷 圭介:
「だからー、俺みたいじゃなくていいんだって!」
小池 隼人:
「そうだよ。黒田くんは黒田くんらしくいかなきゃ」
中曽根 悠:
「まずはさ、まわりに頼るところから始めろよ?」
黒田 睦実:
「……はい……」
そう答えたものの、まわりに頼ることは俺にとって、とてつもなく高いハードルに思えた。
だって今の俺は、部内で孤立状態だ。
この3人みたいに、何でもかんでも話せる仲間なんていない。
ふと、井野口のことが頭をよぎったりもしたけれど。
あいつだって中学からの付き合いで、そこまで仲良しってわけじゃない。
だからやっぱり俺は、まだ1人で頑張ろう。
自信をつけられたら、井野口に相談してみよう。
黒田 睦実:
「そのうち、言ってみるっス……」
そうつぶやいた俺の横で。
中曽根 悠:
「本当にわかったかぁ?」
中曽根先輩はどこか心配そうに、こぼしていた。
・ ・ ・
週末の日曜日。
部活は休みだが、どうしてもジッとしていられなかった俺は、学校へ出向いた。
すると、他の部活の試合があるのか、門は開いてて俺は中に入ることができた。
私服姿のまま、ふらりと入る。
どうやら体育館で試合が行われているらしい。ということは、バスケ部か卓球部か。
人気のないグラウンドを通り抜け、俺はサッカー部更衣室へ向かった。
サッカーボールに触りながら、部室で今後のことを考えてみよう。
そう思ったんだ。
黒田 睦実:
「……はぁ」
黒田 睦実:
(どうやって自信をつけてりゃいいんだろ)
汚い更衣室で、ため息を吐き捨てる。
とりあえずサッカーボールでも磨こうかと、解決にならない行動を起こそうと考える。
隅のボールカゴに、近づいた時だった。
井野口 栄治:
「お前、何してんの」
背後から声がかかる──井野口だった。
黒田 睦実:
「!」
驚いて振り向く俺。
井野口も私服姿で、なぜか唇を尖らせて出入口に立っていた。
黒田 睦実:
「い、井野口……!」
お前こそなんで、とつぶやいた俺に対し、井野口は両手をパーカーのポケットにつっこみ、ズイッと更衣室内に入ってきた。
井野口 栄治:
「お前が入ってくの、見えたから」
どこか不穏な表情だった。
何でだ?
井野口……なんか、怒ってないか?
そう感じた俺は少し戸惑う。
黒田 睦実:
「井野口、どうした」
井野口 栄治:
「は?」
黒田 睦実:
「お前……なんかイラついてる?」
言い方がまずかったのだろうか。
その言葉にカチンときたように、井野口の眉間がぎゅっと寄った。
井野口 栄治:
「……お前、先輩たちと何話してたんだよ」
黒田 睦実:
「え?」
井野口 栄治:
「駅前のバーガー屋に、いただろ。先輩たちと」
黒田 睦実:
「!」
見られていたのか。
目を見開いてしまう。
そんな俺の目の前で、井野口は睨みつけてくる。
笑顔が多い井野口が、そんな表情をどうしてしているのか──俺にはわからず、背をのけ反らせるしかできなかった。
◇ 続く ◇




