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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第三章 最終便、発車します《3年生編》
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Ep.51 手を伸ばせ (3)「黒田くんの想い」

 大谷 圭介:

「当たり前だろ。俺だって、お前にはなれねーよ」


 黒田 睦実:

「!」


 部活後、中曽根先輩に呼び出されたハンバーガー屋。

 大谷先輩も小池先輩もいて、その3人の前で、俺は弱音を吐きまくった。


 俺に部長は務まらない。

 大谷先輩のようにはできない。

 そんな、情けない愚痴をこぼした俺に。


 大谷先輩は明るい笑顔で、そう言ったのだ。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 手を伸ばせ

(3)「黒田くんの想い」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 大谷先輩は大きな口にポテトを放り、ジュースで流し込んでから、あらためて俺と向き合ってくれた。


 大谷 圭介:

「黒田さ、毎朝ボール磨いてただろ」


 黒田 睦実:

「!」


 知られていたのか。俺は驚く。


 大谷 圭介:

「サッカーも中学から始めたのにレギュラーを取るし、すげぇ努力家だ」


 黒田 睦実:

「そんなことありませんよ」


 大谷 圭介:

「謙遜すんな。今の2年はサボりがちなやつが多いから、お前みたいにしっかり頑張っていけるやつが、部長として必要なんだよ」


 黒田 睦実:

「……」


 努力家というのなら、俺の斜め前に座る小池先輩の方がすごい。

 身長や体格のハンデも飛び越えて、見事レギュラーを取り返した彼。大谷先輩とはまた違う点で、尊敬できる存在だ。

 そんな小池先輩に視線を向けたのは、この状況に助け船を出してほしかったからかもしれない。

 しかし小池先輩はただ強くうなずいて、大谷先輩に同意した。


 小池 隼人:

「僕もそう思うよ」


 そしてこんなことを言った。


 小池 隼人:

「黒田くん。今の悩み、部活仲間に言ったことはある?」


 その問いに、俺は緩く顔を横に振る。

 すると小池先輩はやっぱり、と苦笑した。


 小池 隼人:

「言ってみなよ。僕らに言ったこと、そのままにさ」


 黒田 睦実:

「! そんな……無理っすよ!」


 あいつらに言えって!?

 自信がない、大谷先輩には追いつけない、そんな情けない愚痴を言えって!?


 そんなの──そんなのまっぴら御免だ!


 黒田 睦実:

「嫌です」


 きっぱりそう言った俺。

 すると、隣に座る中曽根先輩が「おい」と、鋭い声を投げかけてきた。


 中曽根 悠:

「もう少しまわりを頼れよ」


──頼る?


 中曽根先輩に顔を向ければ、彼は最初怒ったような顔をしていたが、すぐに柔らかいものに変えた。

 口の端を上げて言う。


 中曽根 悠:

「大谷なんか、まわりに頼りっぱなしだったぞ。レギュラー編成も作戦も、ほとんど小池頼りだ」


 大谷 圭介:

「う、中曽根クンよ」


 大谷先輩は居心地悪そうにつぶやく。

 しかし畳みかけるように、小池先輩が続けた。


 小池 隼人:

「そうそう。黒田くんのボール磨きも気づいたのは悠くんで、ケイちゃんは聞いて知っただけなんだから」


 大谷 圭介:

「隼人までバラすんじゃねぇよぉ」


 大谷先輩は、何とも情けない声を出す。


 意外だった。

 だって大谷先輩は、俺たちの前ではいつも自信満々に指示を出していた。

 大きな声で、ハキハキ指針を示してくれる。

 それに後輩である俺たちは安心して、ついて行くことができたんだ。


 でも。


 大谷 圭介:

「仕方ねーじゃん。俺ができるのは、でかい態度と盛り上げだけだ」


 なんてあっけらかんと言う。


 大谷 圭介:

「ゲームの展開を考えるのは、隼人のがうまいし」


 大谷 圭介:

「後輩の変化は、中曽根のが気づきやすいしな」


 ……それって、部長としていかがなものか。


 でも目の前の大谷先輩は、全然気にする様子もなく言うんだ。


 大谷 圭介:

「部長なんてなぁ、自信あるふりして、あれこれ口だけ出してりゃいいんだ」


 そして、イタズラめいて笑う。


 大谷 圭介:

「──て、柴田先輩も言ってたぞ」


 黒田 睦実:

「あの柴田先輩が?」


 今年の春に卒業していった、2つ上の元部長、柴田先輩を思い出す。

 大谷先輩よりもさらに自信過剰な彼は、最初は怖かったが、引退する頃には部長らしくなってたかな……と考える。


 すると。

 なぜかフッと、肩が軽くなった気がした。


 そうか。

 みんな最初から、部長らしいわけじゃないんだ。

 やっていくうちに、らしくなっていったわけで……。


 黒田 睦実:

「…………」


 黒田 睦実:

「お……俺……」


 俺の唇は、震えていた。

 目頭が熱い。

 嘘だろう。


 そう思ったのに、熱い液体が目からあふれ出した。


 黒田 睦実:

「俺も……ちゃんとした部長になりたいです」


 黒田 睦実:

「みんなを引っ張っていける」


 黒田 睦実:

「大谷先輩みたいに、なりたいです」


 まさか俺が泣くとは思わなかったのだろう。

 3人はぎょっと俺を見て、前に座る大谷先輩は身を乗り出した。


 大谷 圭介:

「だからー、俺みたいじゃなくていいんだって!」


 小池 隼人:

「そうだよ。黒田くんは黒田くんらしくいかなきゃ」


 中曽根 悠:

「まずはさ、まわりに頼るところから始めろよ?」


 黒田 睦実:

「……はい……」


 そう答えたものの、まわりに頼ることは俺にとって、とてつもなく高いハードルに思えた。

 だって今の俺は、部内で孤立状態だ。

 この3人みたいに、何でもかんでも話せる仲間なんていない。


 ふと、井野口のことが頭をよぎったりもしたけれど。


 あいつだって中学からの付き合いで、そこまで仲良しってわけじゃない。

 だからやっぱり俺は、まだ1人で頑張ろう。

 自信をつけられたら、井野口に相談してみよう。


 黒田 睦実:

「そのうち、言ってみるっス……」


 そうつぶやいた俺の横で。


 中曽根 悠:

「本当にわかったかぁ?」


 中曽根先輩はどこか心配そうに、こぼしていた。



 ・   ・   ・



 週末の日曜日。

 部活は休みだが、どうしてもジッとしていられなかった俺は、学校へ出向いた。


 すると、他の部活の試合があるのか、門は開いてて俺は中に入ることができた。

 私服姿のまま、ふらりと入る。

 どうやら体育館で試合が行われているらしい。ということは、バスケ部か卓球部か。


 人気のないグラウンドを通り抜け、俺はサッカー部更衣室へ向かった。

 サッカーボールに触りながら、部室で今後のことを考えてみよう。

 そう思ったんだ。


 黒田 睦実:

「……はぁ」


 黒田 睦実:

(どうやって自信をつけてりゃいいんだろ)


 汚い更衣室で、ため息を吐き捨てる。

 とりあえずサッカーボールでも磨こうかと、解決にならない行動を起こそうと考える。

 隅のボールカゴに、近づいた時だった。


 井野口 栄治:

「お前、何してんの」


 背後から声がかかる──井野口だった。


 黒田 睦実:

「!」


 驚いて振り向く俺。

 井野口も私服姿で、なぜか唇を尖らせて出入口に立っていた。


 黒田 睦実:

「い、井野口……!」


 お前こそなんで、とつぶやいた俺に対し、井野口は両手をパーカーのポケットにつっこみ、ズイッと更衣室内に入ってきた。


 井野口 栄治:

「お前が入ってくの、見えたから」


 どこか不穏な表情だった。


 何でだ?

 井野口……なんか、怒ってないか?


 そう感じた俺は少し戸惑う。


 黒田 睦実:

「井野口、どうした」


 井野口 栄治:

「は?」


 黒田 睦実:

「お前……なんかイラついてる?」


 言い方がまずかったのだろうか。

 その言葉にカチンときたように、井野口の眉間がぎゅっと寄った。


 井野口 栄治:

「……お前、先輩たちと何話してたんだよ」


 黒田 睦実:

「え?」


 井野口 栄治:

「駅前のバーガー屋に、いただろ。先輩たちと」


 黒田 睦実:

「!」


 見られていたのか。

 目を見開いてしまう。


 そんな俺の目の前で、井野口は睨みつけてくる。

 笑顔が多い井野口が、そんな表情をどうしてしているのか──俺にはわからず、背をのけ反らせるしかできなかった。




 ◇ 続く ◇

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