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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第三章 最終便、発車します《3年生編》
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Ep.50 挑め!プロポーズ大作戦 (7・終)「作戦開始!そして結果」

 スポーツの作戦だって、立てたっていつでも上手くいくわけじゃないんだ。


 相手が思わぬ戦術をしたり。

 作戦の穴があったり。

 トラブルは付きものってもんだ。


 ああ、でも。

 かなちゃんが理想とするプロポーズを、俺は今できているのだろうか。


 彼女の部屋の中央。

 立っている彼女の前にひざまずき、俺はバラの花束を差し出している。


 夜景も美味しい料理もないけれど。

 作戦通りじゃないけれど。

 俺にあるのは──かなちゃん、君が好きだという、揺るぎない自分の気持ちだけだ。


 だから。どうか。

 受け止めてくれないだろうか。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 挑め!プロポーズ大作戦

(7)「作戦開始!そして結果」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 ヒリヒリと喉奥がひりついていた。

 すごい緊張だ。

 学生時代の部活の試合や受験とはまた違う、正解のない勝負に挑む。

 花束のビニールがかすかにカサカサと揺れて、俺の緊張がバレそうで怖かった。


 坂本 平八:

「……かなちゃん」


 坂本 平八:

「俺と結婚……してください」


 篠田 かなえ:

「!」


 かなちゃんが驚いて、口元を両手で抑える。


 俺は花束を片腕に寄せると、その下に隠していた小さな箱を、もう一方の手で差し出した。


 ああ、まさか自分が、こんな行為をするなんて思ってもみなかったぞ。

 こんなシチュエーション、俺が今まで生きてきた中には存在しなかったのだ。


 でもかなちゃんが望むなら、どんなに恥ずかしくても叶えてあげたい。

 だから、顔を真っ赤にしつつも俺は、このプロポーズに挑むのだ。

 ゴキュッと変な音を立て、唾を飲み込む。


 挑め、俺。


 坂本 平八:

「これ……君が気に入るかわからないけれど」


 坂本 平八:

「受け取ってほしい」


 そして俺は、箱を彼女に向けて開ける。

 中には俺が彼女に似合うと思って選んだ、ダイヤが埋め込まれた細い指輪が鎮座していた。


 篠田 かなえ:

「……!!」


 かなちゃんは、限界まで目を見開く。

 そして。


 篠田 かなえ:

「……ふふ」


 こぼれたのは──微笑み。


 篠田 かなえ:

「ふふ……やだ、もう……」


 篠田 かなえ:

「ふふふ……」


 坂本 平八:

「か、かなちゃん?」


 肩を震わせ、笑い始めた彼女。

 両手で耐えられないように顔を隠して、見たこともない破顔を、俺に向けてくれた。

 はっきりとした声で言ってくれる。


 篠田 かなえ:

「──もちろんです、平八さん!」


 坂本 平八:

「!」


 次の瞬間、なんと彼女から俺に抱きついてきた。


 坂本 平八:

「わぁ!」


 ひざまずいたままの俺は、そんな彼女を受け止める。

 俺とかなちゃんの間からひょっこり出ているバラの花束が、驚いたように赤い花弁を部屋に散らした。


 坂本 平八:

「か、かなちゃん……」


 篠田 かなえ:

「嬉しいです、平八さん」


 篠田 かなえ:

「最高の誕生日です!」


 こんなに全身全霊で喜びを表している彼女は、初めてかもしれない。

 ぎゅうぎゅうと俺にしがみつく彼女は、本当に嬉しそうだ。


 やばい……俺も嬉しいぞ!!


 坂本 平八:

「……や」


 坂本 平八:

「やったぁ!」


 篠田 かなえ:

「きゃっ」


 ぎゅうっと俺が抱きしめ返したので、間に挟まれた花束が、ビニールの悲鳴をあげて潰れる。

 でもそんなのにかまってられないくらい、嬉しくてたまらない!


 坂本 平八:

「俺、絶対かなちゃんを幸せにするから!」


 篠田 かなえ:

「……ふふ。するんじゃなくて、一緒になりましょう」


 かなちゃんは嬉しいことを言ってくれる。

 そして、抱きしめていた俺の腕をそっと押しやり、少し潤んだ瞳でこちらを見る。


 篠田 かなえ:

「指輪……つけてくれますか」


 坂本 平八:

「う、うん」


 俺は花束を置き、指輪をケースから取り出すと、彼女の左手を手に取った。

 ゆっくりと、細い彼女の指に指輪をとおす。

 調査のおかげで、サイズはぴったりのようだ。

 指輪は彼女の指に、馴染んではまった。


 篠田 かなえ:

「……ありがとうございます。平八さん」


 その左手を、右手で大切そうに包んで。

 かなちゃんは幸せそうに笑った。



 ・   ・   ・



 福原先生:

「やあ坂本先生、先日は呼び出してすまなかったね」


 幸せな休日明け。

 俺にサッカー部トラブルの連絡をしてくれた福原先生が、声をかけた。

 駐車場から職員室へ向かう途中、俺の隣に並ぶ。


 坂本 平八:

「いえ、うちの部員が迷惑をおかけしました」


 卓球部顧問の福原先生は、日曜日の練習試合のために出勤していた。

 学年主任をこなしつつも、バリバリ働く彼に頭が上がらない。


 福原先生:

「休み潰れちゃって、彼女に迷惑かけなかった?」


 坂本 平八:

「え!?」


 か、彼女!?


 まだ仕事仲間には、内緒にしている俺とかなちゃんの付き合い。

 それなのに福原先生の口から、そんな単語が飛び出してきてドキッとする。

 福原先生は少しだけ、ニヤニヤして笑っていた。


 福原先生:

「デートだったんでしょ。服装がいつもと違ってたし」


 坂本平八:

「ははは……」


 なるほど、服のせいか。

 相手が誰かまではわかっていないようだ。

 ここは笑ってごまかそう、と頭をかく。


 福原先生:

「坂本先生も、もう30近いんだっけ。結婚とかしないの?」


 坂本 平八:

「いやー、いつかはしたいですけどねぇ」


 何ともタイムリーな話である。

 バレたわけじゃないよな?

 と少しドキドキしてしまう。


 福原先生と並んで廊下を歩いていたら、向こうからかなちゃんが保健室に入るのが見えた。

 どうやら彼女も、ちょうど出勤してきたところのようだ。


 福原先生:

「篠田先生は、今日もキレイだなぁ」


 隣の福原先生は言う。その感想に対して、


 坂本 平八:

「キレイというか、可愛い……」


 なんて俺はつぶやいてしまう。


 福原先生:

「え?」


 坂本 平八:

「あ! いえ、何でも!」


 あ、危ない危ない!!


 俺はフーッと息を吐き出した。

 こんなところで、つまずいてはいられない。

 これからまだまだ、かなちゃんと乗り越えるべき試練はいくつもあるのだ。


 坂本 平八:

(まずは彼女の……ご両親だな)


 今年中には、両方の家へ挨拶に行こう、と彼女と話し合った。

 彼女の父親はかなり厳粛な人だと聞いている……き、緊張するぞ!


 でもきっと、彼女とならどんな壁だって越えられる。

 越えられなくても、立ち向かうパワーをもらえるだろう。


 大丈夫。

 作戦を立てるのは、もう自分1人じゃないんだから。


 これから人生のパートナーとなる彼女の笑みを思い浮かべて、俺は小さく微笑んだ。




 ◇ 終わり ◇

❀次エピソードへ続く

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