Ep.50 挑め!プロポーズ大作戦 (7・終)「作戦開始!そして結果」
スポーツの作戦だって、立てたっていつでも上手くいくわけじゃないんだ。
相手が思わぬ戦術をしたり。
作戦の穴があったり。
トラブルは付きものってもんだ。
ああ、でも。
かなちゃんが理想とするプロポーズを、俺は今できているのだろうか。
彼女の部屋の中央。
立っている彼女の前にひざまずき、俺はバラの花束を差し出している。
夜景も美味しい料理もないけれど。
作戦通りじゃないけれど。
俺にあるのは──かなちゃん、君が好きだという、揺るぎない自分の気持ちだけだ。
だから。どうか。
受け止めてくれないだろうか。
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挑め!プロポーズ大作戦
(7)「作戦開始!そして結果」
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ヒリヒリと喉奥がひりついていた。
すごい緊張だ。
学生時代の部活の試合や受験とはまた違う、正解のない勝負に挑む。
花束のビニールがかすかにカサカサと揺れて、俺の緊張がバレそうで怖かった。
坂本 平八:
「……かなちゃん」
坂本 平八:
「俺と結婚……してください」
篠田 かなえ:
「!」
かなちゃんが驚いて、口元を両手で抑える。
俺は花束を片腕に寄せると、その下に隠していた小さな箱を、もう一方の手で差し出した。
ああ、まさか自分が、こんな行為をするなんて思ってもみなかったぞ。
こんなシチュエーション、俺が今まで生きてきた中には存在しなかったのだ。
でもかなちゃんが望むなら、どんなに恥ずかしくても叶えてあげたい。
だから、顔を真っ赤にしつつも俺は、このプロポーズに挑むのだ。
ゴキュッと変な音を立て、唾を飲み込む。
挑め、俺。
坂本 平八:
「これ……君が気に入るかわからないけれど」
坂本 平八:
「受け取ってほしい」
そして俺は、箱を彼女に向けて開ける。
中には俺が彼女に似合うと思って選んだ、ダイヤが埋め込まれた細い指輪が鎮座していた。
篠田 かなえ:
「……!!」
かなちゃんは、限界まで目を見開く。
そして。
篠田 かなえ:
「……ふふ」
こぼれたのは──微笑み。
篠田 かなえ:
「ふふ……やだ、もう……」
篠田 かなえ:
「ふふふ……」
坂本 平八:
「か、かなちゃん?」
肩を震わせ、笑い始めた彼女。
両手で耐えられないように顔を隠して、見たこともない破顔を、俺に向けてくれた。
はっきりとした声で言ってくれる。
篠田 かなえ:
「──もちろんです、平八さん!」
坂本 平八:
「!」
次の瞬間、なんと彼女から俺に抱きついてきた。
坂本 平八:
「わぁ!」
ひざまずいたままの俺は、そんな彼女を受け止める。
俺とかなちゃんの間からひょっこり出ているバラの花束が、驚いたように赤い花弁を部屋に散らした。
坂本 平八:
「か、かなちゃん……」
篠田 かなえ:
「嬉しいです、平八さん」
篠田 かなえ:
「最高の誕生日です!」
こんなに全身全霊で喜びを表している彼女は、初めてかもしれない。
ぎゅうぎゅうと俺にしがみつく彼女は、本当に嬉しそうだ。
やばい……俺も嬉しいぞ!!
坂本 平八:
「……や」
坂本 平八:
「やったぁ!」
篠田 かなえ:
「きゃっ」
ぎゅうっと俺が抱きしめ返したので、間に挟まれた花束が、ビニールの悲鳴をあげて潰れる。
でもそんなのにかまってられないくらい、嬉しくてたまらない!
坂本 平八:
「俺、絶対かなちゃんを幸せにするから!」
篠田 かなえ:
「……ふふ。するんじゃなくて、一緒になりましょう」
かなちゃんは嬉しいことを言ってくれる。
そして、抱きしめていた俺の腕をそっと押しやり、少し潤んだ瞳でこちらを見る。
篠田 かなえ:
「指輪……つけてくれますか」
坂本 平八:
「う、うん」
俺は花束を置き、指輪をケースから取り出すと、彼女の左手を手に取った。
ゆっくりと、細い彼女の指に指輪をとおす。
調査のおかげで、サイズはぴったりのようだ。
指輪は彼女の指に、馴染んではまった。
篠田 かなえ:
「……ありがとうございます。平八さん」
その左手を、右手で大切そうに包んで。
かなちゃんは幸せそうに笑った。
・ ・ ・
福原先生:
「やあ坂本先生、先日は呼び出してすまなかったね」
幸せな休日明け。
俺にサッカー部トラブルの連絡をしてくれた福原先生が、声をかけた。
駐車場から職員室へ向かう途中、俺の隣に並ぶ。
坂本 平八:
「いえ、うちの部員が迷惑をおかけしました」
卓球部顧問の福原先生は、日曜日の練習試合のために出勤していた。
学年主任をこなしつつも、バリバリ働く彼に頭が上がらない。
福原先生:
「休み潰れちゃって、彼女に迷惑かけなかった?」
坂本 平八:
「え!?」
か、彼女!?
まだ仕事仲間には、内緒にしている俺とかなちゃんの付き合い。
それなのに福原先生の口から、そんな単語が飛び出してきてドキッとする。
福原先生は少しだけ、ニヤニヤして笑っていた。
福原先生:
「デートだったんでしょ。服装がいつもと違ってたし」
坂本平八:
「ははは……」
なるほど、服のせいか。
相手が誰かまではわかっていないようだ。
ここは笑ってごまかそう、と頭をかく。
福原先生:
「坂本先生も、もう30近いんだっけ。結婚とかしないの?」
坂本 平八:
「いやー、いつかはしたいですけどねぇ」
何ともタイムリーな話である。
バレたわけじゃないよな?
と少しドキドキしてしまう。
福原先生と並んで廊下を歩いていたら、向こうからかなちゃんが保健室に入るのが見えた。
どうやら彼女も、ちょうど出勤してきたところのようだ。
福原先生:
「篠田先生は、今日もキレイだなぁ」
隣の福原先生は言う。その感想に対して、
坂本 平八:
「キレイというか、可愛い……」
なんて俺はつぶやいてしまう。
福原先生:
「え?」
坂本 平八:
「あ! いえ、何でも!」
あ、危ない危ない!!
俺はフーッと息を吐き出した。
こんなところで、つまずいてはいられない。
これからまだまだ、かなちゃんと乗り越えるべき試練はいくつもあるのだ。
坂本 平八:
(まずは彼女の……ご両親だな)
今年中には、両方の家へ挨拶に行こう、と彼女と話し合った。
彼女の父親はかなり厳粛な人だと聞いている……き、緊張するぞ!
でもきっと、彼女とならどんな壁だって越えられる。
越えられなくても、立ち向かうパワーをもらえるだろう。
大丈夫。
作戦を立てるのは、もう自分1人じゃないんだから。
これから人生のパートナーとなる彼女の笑みを思い浮かべて、俺は小さく微笑んだ。
◇ 終わり ◇
❀次エピソードへ続く




