Ep.50 挑め!プロポーズ大作戦 (5)「物品調達をせよ!」
いよいよ、かなちゃんの誕生日が近づいた。
ショッピングが好きな彼女との今までのデートで、彼女の好きなアクセサリー店はチェック済みだ。
そこで悪戦苦闘しつつ、把握した指輪サイズを伝え、デザインを選ぶ。
店員:
「最近はゴールドも人気があるんですよ。それに、こういった内側に石を埋め込んだシックなタイプもありまして」
坂本 平八:
「はぁ……」
スラスラと解説をしてくれる店員さんには申し訳ないが、俺には目の前の並べられた指輪が、どれも同じように見える。
というかまわりはカップル客が多く、男1人で買いにきているのは俺だけのようだ。
もしかして、浮いてる?
普段はジャージが戦闘服の俺。
今日は、着慣れないスーツ姿でこの高級アクセサリー店へと足を運んだが、どうもそわそわしていた。
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挑め!プロポーズ大作戦
(5)「物品調達をせよ!」
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店員:
「ありがとうございました」
店員に見送られ、ようやく店から出られた。
その手に持つのは、高そうな小さなショップ袋。
ついに──ゲットしてしまったぞ!!
坂本 平八:
(ええと、花は当日の朝、取りに行くでいいな)
事前に花屋でバラの花束を予約しておいた。
その時もちょっと恥ずかしかったが、今日の指輪購入はそれよりももっと緊張したな。
しかし、無事に購入できてホッとした。
俺が選んだこの指輪。彼女は気に入ってくれるだろうか。
坂本 平八:
(なんか、ドキドキしてきたなぁ)
無骨な俺の手にぶら下がった、華やかなショップ袋。
それを揺らす俺の頬は、いつの間にか緩んでいた。
・ ・ ・
そうして迎えた、かなちゃんの誕生日。
車のトランクに花束と指輪を隠して、俺はかなちゃんを迎えにいった。
アパート前に車を止めて、やってきた彼女に手を振る。
助手席に乗り込んだ彼女に、さっそくお祝いの言葉を伝えた。
坂本 平八:
「かなちゃん、誕生日おめでとう!」
篠田 かなえ:
「ありがとうございます」
いつまで経っても礼儀正しい彼女は、にっこり笑いペコリと頭を下げる。
昨夜、日にちが変わった瞬間にもメッセージを送ったが、その時にもペコリと頭を下げる可愛いキャラクターのスタンプを送ってくれた。
そんな彼女が可愛いと思うし、俺は大好きだ。
かなちゃんがシートベルトを締めたのを確認すると、車のエンジンを回した。
今日は映画とショッピング、そして夜はレストランに行く予定だ。
ちなみにもうひとつ、夜景を見に大きな公園へ行く予定もあるのだが、それは彼女には秘密だ。
ニヤつきそうになる表情を抑えて、ハンドルを握った。
篠田 かなえ:
「あら、何かいい香りがしますね」
坂本 平八:
「え、そう?」
篠田 かなえ:
「はい。ローズのアロマ……?」
坂本 平八:
「!!」
ドッキーン! と心臓が跳ねる。
うわあ、バラってそんなに香るもんなのか?
俺は慌てて笑い飛ばした。
坂本 平八:
「あはは、そうそう! さっき消臭剤を振りかけたから。それがローズのやつだったかな〜」
篠田 かなえ:
「平八さんにしては、珍しいチョイスですね」
坂本 平八:
「い、妹のを借りたんだ」
その言葉に、かなちゃんはとりあえず納得してくれたようだ。
ふう、危ない危ない。
俺は気を取り直して運転を開始した。
・ ・ ・
映画を楽しみ、ショッピングを満喫する。
いつもどおりの幸せなデートを、俺たちは過ごしていた。
俺はかなちゃんのウィンドウショッピングに付き合うのが、好きだったりする。
男としては珍しいのかもしれないが、彼女が好きなものを知ることができる、この時間が好きなんだ。
彼女の好きな服、好きな小物、好きな色。
そういったものを知られるこの時間が、俺にとっては幸せだ。
篠田 かなえ:
「すみません。なんだか催促してしまったみたいで」
坂本 平八:
「あはは、いいんだよ」
あるお店を出たところで、彼女は俺にそう言った。
手には、彼女が一目惚れした靴が入ったショップ袋を持っている。
キレイなアイボリーのヒール靴を試着して、とても気に入っていたかなちゃん。
誕生日プレゼントとしてそれを買い、彼女にあげたのだ。
坂本 平八:
「かなちゃんが気に入ったもの、プレゼントできてよかったよ」
篠田 かなえ:
「ありがとうございます」
でもじつは、プレゼントはまだ他にあるんだけどね。
ほくそ笑みそうになって、口元を手で隠す。
その時、スマホが俺のズボンポケットで震えた。
画面を見ればなんと、学年主任の福原先生からの着信で、俺はなんとなく嫌な予感がしつつも通話ボタンを押した。
すると。
坂本 平八:
「ええ、黒田と井野口がケンカ!?」
篠田 かなえ:
「!」
なんと、俺の受け持つサッカー部で、最近部長になった黒田が同じサッカー部員の井野口と、殴り合いのケンカをしたという。
場所はサッカー部更衣室。しかもサッカー部員同士のトラブルということで、俺に連絡が来たようだ。
あいつら一体、何やってんだ……!
坂本 平八:
「ええ、はい。大丈夫です。すぐ行きます」
条件反射のように俺はそう答えていたが、ハッとしてかなちゃんを見た。
しかし彼女は、強い瞳でコクンとうなずいている。
口パクで「大丈夫です」と言っていた。
坂本 平八:
「……」
ああ。
今日は彼女の誕生日なのに。
それでも生徒の状況を、どうしても放っておけない。
どうしようもない男だ。
坂本 平八:
「ごめん。家まで送るから、待っててくれる? 時間がかかるようなら、連絡するから」
篠田 かなえ:
「いえ。ここからなら、電車で帰れるのですぐに行ってあげてください」
篠田 かなえ:
「黒田くん……最近、部長としての責務で悩んでたみたいですから。今、坂本先生を必要としています」
坂本 平八:
「!」
坂本 平八:
「……ありがとう」
かなちゃん。
君は本当に、生徒たちのことをよく見ているんだな。
プロポーズだなんだと浮かれていた自分……少しだけ、恥ずかしくなる。
俺はグッと両手で拳を握った。
坂本 平八:
「俺、頑張ってくるから!」
篠田 かなえ:
「はい……!」
彼女に、情けない姿を見せたくない。
俺は最後にかなちゃんを1度だけ抱きしめて、身をひるがえし走り出した。
◇ 続く ◇




