↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第三章 最終便、発車します《3年生編》
PR
238/273

Ep.50 挑め!プロポーズ大作戦 (5)「物品調達をせよ!」

 いよいよ、かなちゃんの誕生日が近づいた。

 ショッピングが好きな彼女との今までのデートで、彼女の好きなアクセサリー店はチェック済みだ。

 そこで悪戦苦闘しつつ、把握した指輪サイズを伝え、デザインを選ぶ。


 店員:

「最近はゴールドも人気があるんですよ。それに、こういった内側に石を埋め込んだシックなタイプもありまして」


 坂本 平八:

「はぁ……」


 スラスラと解説をしてくれる店員さんには申し訳ないが、俺には目の前の並べられた指輪が、どれも同じように見える。

 というかまわりはカップル客が多く、男1人で買いにきているのは俺だけのようだ。

 もしかして、浮いてる?


 普段はジャージが戦闘服の俺。

 今日は、着慣れないスーツ姿でこの高級アクセサリー店へと足を運んだが、どうもそわそわしていた。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 挑め!プロポーズ大作戦

(5)「物品調達をせよ!」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 店員:

「ありがとうございました」


 店員に見送られ、ようやく店から出られた。

 その手に持つのは、高そうな小さなショップ袋。


 ついに──ゲットしてしまったぞ!!


 坂本 平八:

(ええと、花は当日の朝、取りに行くでいいな)


 事前に花屋でバラの花束を予約しておいた。

 その時もちょっと恥ずかしかったが、今日の指輪購入はそれよりももっと緊張したな。

 しかし、無事に購入できてホッとした。

 俺が選んだこの指輪。彼女は気に入ってくれるだろうか。


 坂本 平八:

(なんか、ドキドキしてきたなぁ)


 無骨な俺の手にぶら下がった、華やかなショップ袋。

 それを揺らす俺の頬は、いつの間にか緩んでいた。



 ・   ・   ・



 そうして迎えた、かなちゃんの誕生日。

 車のトランクに花束と指輪を隠して、俺はかなちゃんを迎えにいった。


 アパート前に車を止めて、やってきた彼女に手を振る。

 助手席に乗り込んだ彼女に、さっそくお祝いの言葉を伝えた。


 坂本 平八:

「かなちゃん、誕生日おめでとう!」


 篠田 かなえ:

「ありがとうございます」


 いつまで経っても礼儀正しい彼女は、にっこり笑いペコリと頭を下げる。

 昨夜、日にちが変わった瞬間にもメッセージを送ったが、その時にもペコリと頭を下げる可愛いキャラクターのスタンプを送ってくれた。

 そんな彼女が可愛いと思うし、俺は大好きだ。


 かなちゃんがシートベルトを締めたのを確認すると、車のエンジンを回した。

 今日は映画とショッピング、そして夜はレストランに行く予定だ。

 ちなみにもうひとつ、夜景を見に大きな公園へ行く予定もあるのだが、それは彼女には秘密だ。


 ニヤつきそうになる表情を抑えて、ハンドルを握った。


 篠田 かなえ:

「あら、何かいい香りがしますね」


 坂本 平八:

「え、そう?」


 篠田 かなえ:

「はい。ローズのアロマ……?」


 坂本 平八:

「!!」


 ドッキーン! と心臓が跳ねる。

 うわあ、バラってそんなに香るもんなのか?


 俺は慌てて笑い飛ばした。


 坂本 平八:

「あはは、そうそう! さっき消臭剤を振りかけたから。それがローズのやつだったかな〜」


 篠田 かなえ:

「平八さんにしては、珍しいチョイスですね」


 坂本 平八:

「い、妹のを借りたんだ」


 その言葉に、かなちゃんはとりあえず納得してくれたようだ。

 ふう、危ない危ない。

 俺は気を取り直して運転を開始した。



 ・   ・   ・



 映画を楽しみ、ショッピングを満喫する。

 いつもどおりの幸せなデートを、俺たちは過ごしていた。


 俺はかなちゃんのウィンドウショッピングに付き合うのが、好きだったりする。

 男としては珍しいのかもしれないが、彼女が好きなものを知ることができる、この時間が好きなんだ。

 彼女の好きな服、好きな小物、好きな色。

 そういったものを知られるこの時間が、俺にとっては幸せだ。


 篠田 かなえ:

「すみません。なんだか催促してしまったみたいで」


 坂本 平八:

「あはは、いいんだよ」


 あるお店を出たところで、彼女は俺にそう言った。

 手には、彼女が一目惚れした靴が入ったショップ袋を持っている。

 キレイなアイボリーのヒール靴を試着して、とても気に入っていたかなちゃん。

 誕生日プレゼントとしてそれを買い、彼女にあげたのだ。


 坂本 平八:

「かなちゃんが気に入ったもの、プレゼントできてよかったよ」


 篠田 かなえ:

「ありがとうございます」


 でもじつは、プレゼントはまだ他にあるんだけどね。


 ほくそ笑みそうになって、口元を手で隠す。

 その時、スマホが俺のズボンポケットで震えた。

 画面を見ればなんと、学年主任の福原先生からの着信で、俺はなんとなく嫌な予感がしつつも通話ボタンを押した。

 すると。


 坂本 平八:

「ええ、黒田と井野口がケンカ!?」


 篠田 かなえ:

「!」


 なんと、俺の受け持つサッカー部で、最近部長になった黒田が同じサッカー部員の井野口と、殴り合いのケンカをしたという。

 場所はサッカー部更衣室。しかもサッカー部員同士のトラブルということで、俺に連絡が来たようだ。


 あいつら一体、何やってんだ……!


 坂本 平八:

「ええ、はい。大丈夫です。すぐ行きます」


 条件反射のように俺はそう答えていたが、ハッとしてかなちゃんを見た。

 しかし彼女は、強い瞳でコクンとうなずいている。

 口パクで「大丈夫です」と言っていた。


 坂本 平八:

「……」


 ああ。

 今日は彼女の誕生日なのに。


 それでも生徒の状況を、どうしても放っておけない。

 どうしようもない男だ。


 坂本 平八:

「ごめん。家まで送るから、待っててくれる? 時間がかかるようなら、連絡するから」


 篠田 かなえ:

「いえ。ここからなら、電車で帰れるのですぐに行ってあげてください」


 篠田 かなえ:

「黒田くん……最近、部長としての責務で悩んでたみたいですから。今、坂本先生を必要としています」


 坂本 平八:

「!」


 坂本 平八:

「……ありがとう」


 かなちゃん。

 君は本当に、生徒たちのことをよく見ているんだな。


 プロポーズだなんだと浮かれていた自分……少しだけ、恥ずかしくなる。

 俺はグッと両手で拳を握った。


 坂本 平八:

「俺、頑張ってくるから!」


 篠田 かなえ:

「はい……!」


 彼女に、情けない姿を見せたくない。

 俺は最後にかなちゃんを1度だけ抱きしめて、身をひるがえし走り出した。




 ◇ 続く ◇


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。