Ep.50 挑め!プロポーズ大作戦 (3)「リサーチせよ!②」
プロポーズやら結婚やら、俺たちには何ら関係のないことである。
中曽根悠、15歳。
とりあえず俺のすべきことは、坂本先生のプロポーズを黙っていることだけだ。
と、思っていたが。
坂本 平八:
「おい、中曽根」
中曽根 悠:
「ん?」
廊下を歩いていたら、曲がり角からこそっと坂本先生が俺を呼んでいた。
何だろう。もうサッカー部も引退したんだけどな。
しかし坂本先生は、手招きして俺を呼んでいる。
とりあえず近寄った。
中曽根 悠:
「何でしょう」
坂本 平八:
「じつはお前に、頼みたいことがあってな」
見慣れない坂本先生の赤ら顔。
そんな先生は片手にペランと何やら、A4用紙を1枚持っていた。
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挑め!プロポーズ大作戦
(3)「リサーチせよ!②」
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俺にとっては、あまり縁のない保健室。
そこに1人でやってきて、ちょっと緊張した気持ちでその扉を開けた。
中曽根 悠:
「失礼します」
ガラ、と引き戸を引くと、案の定その中にいた篠田先生は意外そうに俺を見る。
篠田 かなえ:
「あら中曽根くん。体調でも悪いの?」
俺は中に入り、他に人がいないことを確認する。
いるのが俺だけだとわかると、ホッと息を吐いて答えた。
中曽根 悠:
「いいえ。今日は先生にアンケート持ってきたんです」
篠田 かなえ:
「アンケート?」
首をかしげる篠田先生に近寄って、俺は持っていた紙を差し出す。
先ほど坂本先生から託されたそれ。
それには「先生へのQ&A」なんて書かれていた。
中曽根 悠:
「これ、生徒で今企画している、卒業アルバムに使うアンケートなんです。先生のページもあるから、持ってきました」
篠田 かなえ:
「あらそうなの。知らなかったわ」
素直に受け取ってくれた篠田先生には申し訳ないが、まったくの嘘だ。
俺は卒業アルバム委員でもないし、そんなアンケートも聞いたことはない。
というか、差し出したそれは坂本先生作のものである。
坂本先生はそのアンケートに紛れ込ませた「好きな花は?」の答えが知りたいらしい。
そんなの直接聞けばいいじゃないかと思うのに、テンパっている坂本先生は、こんな回りくどいやり方しか思いつかないらしい。
大人ってのは、変なもんだな。
中曽根 悠:
「すみませんが、今書いてもらってもいいですか? 俺、回収も担当してるんで」
篠田 かなえ:
「わかったわ。ちょっと待っててね」
篠田先生はそう言って、事務机に座ってアンケートを書き始めた。
サラサラと流されるペン先。
それを持つ指先は長く、爪も艶やかだ。
こうして見ると、篠田先生ってキレイだよな。
篠田 かなえ:
「……そういえば昨日、戸田さんが来たわよ」
中曽根 悠:
「え?」
るりの名前が出されてドキッとした。
昨日、るりがここに来たことは知っている。
篠田先生の「理想のプロポーズ」やらをリサーチするんだ! なんて、彼女ははりきっていたから。
篠田 かなえ:
「修学旅行のお礼をしてくれてね。クッキーをくれたの」
中曽根 悠:
「そうなんですか」
るりがどうやって誤魔化して調査したのか、何となく理解した。
そして、修学旅行時のことを思い出して少しだけ切なくなる。
愛猫スズを亡くした悲しみは、最近ようやく癒えてきた。
それは、るりという存在がとても大きかったからに違いない。
るりがあの時、泣いた俺を受け止めて、慰めてくれたから。
寂しさに寄り添ってくれたから。
だから俺は、またこうして笑っていられるんだ。
中曽根 悠:
「あの時はすみませんでした。あと……ありがとうございました」
篠田 かなえ:
「いいのよ」
あの時、篠田先生がいなければ、るりは1人で泣いていたのかもしれない。
そう思うと胸がぎゅっとなる。
もう、るりを泣かせたくない。
中曽根 悠:
「るりのクッキー、美味しかったでしょ」
るりのことが頭に浮かんで、何となくさっきの会話の流れでそう言った。
篠田 かなえ:
「ええ、とっても」
中曽根 悠:
「あいつ、お菓子作りも料理もすげーうまいんだよなぁ」
篠田 かなえ:
「そうね。すごく上手」
中曽根 悠:
「たまに俺ももらって食うけどさ。すごいよなぁって思う」
普段なら、るりのことを他人にあまり話したりしない。
友人にだって言わないのは、ノロケだと思われたくないからだ。
でも篠田先生が相手だと、何となく話しやすくて、ついしゃべってしまう。物静かな雰囲気のせいかな。さすが保健室の先生だ。
そんな俺に、何を思ったのだろう。
篠田先生は柔らかく笑って、こんなことを言った。
篠田 かなえ:
「素敵なお嫁さんになりそうね」
中曽根 悠:
「──へ!?」
よよよよ、嫁!?
突然の思わぬ単語に、俺の心臓がドキドキ鳴り始める。
胸に手を当て、慌てて答えた。
中曽根 悠:
「お、俺ら、結婚とかまだ考えてないし……!!」
篠田 かなえ:
「あら。私は、ただ戸田さんが『素敵なお嫁さん』になりそうって言っただけよ?」
中曽根 悠:
「……!!」
ぼ……墓穴を掘った!
顔が真っ赤になっただろう俺に、篠田先生はいつのまにか書き終えたアンケート用紙をこちらに差し出す。
篠田 かなえ:
「はい、書けたわよ」
中曽根 悠:
「あ……ありがとうございます」
くそう。
るりに告白された時のことといい、保健室にいると俺は情けない男になってしまうのかもしれない。
受け取った俺は、そそくさと保健室を後にした。
・ ・ ・
中曽根 悠:
「はい、回収してきましたよ」
坂本 平八:
「よくやった、中曽根!」
昨日と同じように、資料室で待っていた俺。
中曽根からアンケートを受け取ると、さっそく内容に目を通した。
注目すべきは「好きな花」。
どれどれ。
坂本 平八:
「バ、バラだと!?」
中曽根 悠:
「坂本先生とバラの花束、似合わねー」
中曽根はケラケラと楽しそうに慌てる俺を見た。
イケメン生徒にからかわれるのは、ちょっと悔しいぞ!
しかし笑っていたはずの中曽根は、何やら急に真面目な顔つきになり、俺をじっと見る。
それに気づいた俺は「何だ?」と問いかけた。
中曽根 悠:
「坂本先生は何で、篠田先生と結婚しようと思うの」
坂本 平八:
「へ?」
まさか、戸田でなく中曽根からもそんなことを聞かれるとは。こいつは興味なさげに見えたのにな。
しかし生徒から問われれば、全力で回答しなければと考えてしまうのは職業病か。
俺はううんと唸ると、ポツポツと話し始めた。
坂本 平八:
「そりゃあ、夫婦になりたいからさ」
中曽根 悠:
「恋人じゃダメなの?」
坂本 平八:
「ダメじゃないけど……夫婦になることは、けじめだと思うからさ」
中曽根 悠:
「……けじめ?」
中曽根は、ピンときていないように首をかしげる。
まあこの年頃なら、当然だろう。
というか俺も、三十路前にようやく決意できたけじめだ。照れくさくもあるが、俺は言葉を続けた。
坂本 平八:
「これからこの人と人生を歩みます、ていう、相手と世間に対してのけじめみたいなもんかな」
中曽根 悠:
「……」
中曽根 悠:
「ふーん……」
中曽根は興味があるんだかないんだかわからぬ返事をもらす。
気のせいか、ほんのりと頬が赤い。
坂本 平八:
「ま、俺なりの答えだけどな」
結婚する理由なんか人それぞれだろう。
俺は恥ずかしさを隠すように苦笑した。
そうして中曽根が帰ったのを見届けると、俺はまた頭を悩ませ始める。
さて、花のリサーチはできた。
次は肝心の……指輪だ!!
◇ 続く ◇




