Ep.50 挑め!プロポーズ大作戦 (1)「作戦を立てよ!」
坂本 平八:
「俺と、結婚前提で付き合ってほしい」
篠田 かなえ:
「こんな私で、よかったら」
そんなふうにしてスタートした、俺とかなちゃんのお付き合い。
気がつけば1年が経過していた。
忙しい日々を過ごしながらも、彼女との交際は順調で、何も問題はない。
ともなれば。
男・坂本平八が決断すべきことは、ただひとつ。
坂本 平八:
(お……俺は)
坂本 平八:
(かなちゃんにプロポーズをする!!)
人生最大のターニングポイント。
結婚というステージに彼女と進もうと、俺は密かに決意した。
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挑め!プロポーズ大作戦
(1)「作戦を立てよ!」
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坂本 平八:
「……とは言っても、どうすればいいのやら」
夏休みも明けた、9月のある日。
うーむ、と眉間にしわを寄せつつ、手元の資料をトントンと教卓につけて整えた。
今いるのは、3年2組の教室。
今年度、俺が担任を受け持つクラスである。
放課後の今は俺1人で誰もおらず、窓の外には静かなグラウンドが広がっていた。
今日は土曜授業の日で、昼前に終わった今、生徒たちは帰宅し始めている。
部活も今日はすべて休みということで、受け持っているサッカー部も今日はない。
久しぶりにゆっくりできる。
そしてそうなってくると、考えるのは来月に控えた彼女の誕生日だ。
坂本 平八:
「やっぱり、誕生日にプロポーズが鉄板だよなぁ」
10月7日が、かなちゃんの誕生日である。
ちょうど日曜日でもあるため、その日にデートの約束をしている。
ともなれば、その日にプロポーズしようと決意するのは、自然な流れだろう。
俺もこの夏に29歳となったし、かなちゃんだって告白した時に結婚前提を伝えたら嬉しそうにしていたので、俺とのことは考えてくれているはずだ。……よな?
坂本 平八:
「でも、どうやればいいんだ……」
当たり前だが、プロポーズするのは人生初である。
どんなふうにして彼女に伝えればいいのか、俺にはてんでわからない。
誰もいない教室の中。
ブツブツとつい、独り言を漏らしてしまう。
坂本 平八:
「かなちゃん、結婚してください!」
いや、これはひねりもなく印象が薄すぎる。
坂本 平八:
「かなえさん……今後の人生をともにしてください」
キリッと眉をあげて言ってみる。
うーん……なんだか俺のキャラじゃないな。
坂本 平八:
「君の味噌汁が毎朝飲みたい!」
いやいや、いつの時代の男だよ。
第一、家事を押し付けるこのセリフは印象よくないよなぁ。
うーん。うーん。
もっとこう、彼女の心にストレートに響くような……。
坂本 平八:
「かなちゃん……」
俺はゆっくり教卓の前で、かなちゃんの姿を思い出す。
うん、やっぱり。
ひねりはなくても、俺らしくストレートに言えばいいのかもしれないな。
坂本 平八:
「君と夫婦になりたい。……結婚してください!」
お、これがやっぱりいいかもなぁ。
納得がいき「うんうん」と頷いた時だった。
中曽根 悠:
「…………」
戸田 るり:
「…………」
坂本 平八:
「…………」
…………。
ん?
んん!?
坂本 平八:
「うわあああ!?」
中曽根 悠:
「うわああ! き、聞いてません!」
中曽根 悠:
「俺たち、先生のプロポーズ練習、聞いてませんから!」
坂本 平八:
「いや、思いっきり聞いてるな!?」
なんと教室の前方扉に、中曽根と戸田が立っていた。
この青葉中の名物カップルだ。
こ、こいつら、いつの間に……!!
戸田 るり:
「す、すみません!忘れ物を取りに来てて」
ほんのり赤くなった戸田が、慌てて弁解している。
戸田るりは今、俺が担任している2組の生徒だ。
くそう、生徒たちは全員もう帰ったと安心していたのに……!
しかし、見られたのがこいつらだったのは不幸中の幸いかもしれない。
なぜなら、こいつらには俺とかなちゃんの関係はもうすでにバレているのだ。
まぁ練習を見られたのは、すごく恥ずかしいけど。
坂本 平八:
「し、篠田先生には言うなよ!」
俺は真っ赤になりながらも、ごほんと咳をして言った。
2人はコクコクと同じリズムでうなずく。
しかし戸田が、おずおずとこちらに話しかけてきた。
戸田 るり:
「坂本先生、プロポーズするんですか?」
目を輝かせて聞いてくる戸田。
とてもキラキラしている彼女の瞳に、俺は思わずたじろぐ。
坂本 平八:
「あ、ああ……」
戸田 るり:
「わぁ、素敵! 篠田先生、絶対に喜びますよ!」
ぱぁっと花開くように笑う戸田に、俺もつい微笑んでしまう。
そんなにまっすぐに言われると、悪い気はしない。
坂本 平八:
「そ、そうかな」
戸田 るり:
「うん!」
坂本 平八:
「はは、そう言ってもらえると安心するな」
頭をかいて戸田と会話をする俺。
そんな俺たちに、中曽根も楽しそうに口を挟んでくる。
中曽根 悠:
「いつ伝えるの?」
坂本 平八:
「ああ、来月の彼女の誕生日にな」
中曽根 悠:
「へー、坂本先生もついに結婚かぁ」
坂本 平八:
「おいおい、気が早いぞ」
うーん、こいつらは人の気をよくするのがうまいのかもしれん。
いや、ただ単純に、俺が乗せられやすいのか?
しかし俺とかなちゃんの関係を知っているこの2人には、つい本音が出やすくなっている。
俺は鼻をこすりながら、つい言ってしまう。
坂本 平八:
「でも、いざプロポーズするとなると、不安だよなぁ。彼女、嫌じゃないかな」
戸田 るり:
「そんなことありませんよ、絶対!」
そういえば戸田は、保健委員だったな。
ということは、かなちゃんと親しいのかもしれない。ちょっと聞いてみた。
坂本 平八:
「戸田って、篠田先生と仲がいいのか?」
戸田 るり:
「うん! 1年生の頃からずっと保健委員だから。恋愛話もよくしてますよ」
隣の中曽根が「そうなの?」と、ちょっと意外に戸田を見る。
戸田は「あ、しまった」みたいな顔をした。
そういえばかなちゃん、戸田の告白を助けてしまったみたいな話をしていたな。
彼女はそのことを「おせっかいをした」と反省していたけれど、今こんなふうに2人が幸せそうなら、よいおせっかいだったんじゃないかなと思う。
坂本 平八:
「…………」
坂本 平八:
「と、戸田……あのな」
戸田 るり:
「?」
また小さく咳をして、戸田に声をかける。
小首をかしげた彼女に、俺は藁にもすがる思いで言った。
坂本 平八:
「し、篠田先生にちょっと、さりげなーく、どんなプロポーズが理想とか……聞けないか」
教師としては何とも情けない言葉である。
いや、男としても情けない言葉だろう。
しかし、背に腹はかえられない。
彼女が理想とするプロポーズを実現させるためならば、教え子にだって懇願してしまう俺。
こんな姿、絶対かなちゃんには見せられない。
戸田 るり:
「! もちろん聞けますよ!」
とたんに戸田は、嬉しそうに笑った。
ぎゅっと両手を握って、頭をぶんぶんと振ってうなずいている。
戸田 るり:
「私たち協力しますよ! ね、悠!」
中曽根 悠:
「へ、俺も!?」
まさか自分にも及ぶとは思わなかったのだろう。中曽根は目を丸くする。
しかし、ここまで知られたからには、こいつも放ってはおけない。
こうなったらこいつも巻き込んでやろう。
坂本 平八:
「ありがとう中曽根!」
がっちり肩を組んでやる。
中曽根 悠:
「俺、とくに役に立たねーよ?」
坂本 平八:
「いいんだいいんだ。お前は黙っていてさえいれば」
くれぐれも大谷には言うんじゃないぞ、と釘をさす。
中曽根自身はいいのだが、こいつの周りには大谷やら井本やら、おしゃべり男子が多いのがちょっと怖い。
戸田 るり:
「じゃあ明日、さっそく篠田先生に聞いてみますね!」
坂本 平八:
「おう! さりげなーく頼むな!」
うんうん、戸田はいい子だ。
かくして俺の、かなちゃんに対するプロポーズ作戦は、静かに始動した。
◇ 続く ◇




