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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第三章 最終便、発車します《3年生編》
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Ep.49 かんざし恋模様(3・終)「2人とみんな」

 みんなから逃げるようにたどり着いた、祭り会場奥の小さな社前。

 そこに腰かけていても、私と小池くんの手は離れなかった。

 つないだ手を離すきっかけがわからない。


 ううん。それだけじゃなくって。


 この温もりを、できるだけ長く感じていたいからだ。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 かんざし恋模様

(3)「2人とみんな」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 小池 隼人:

「……松宮さん。ごめんね」


 松宮 茜:

「え?」


 突然小池くんが謝った。


 どうして謝るんだろうと驚いた私が横を向くと、小池くんの少しだけ気まずそうな表情とかち合った。


 小池 隼人:

「僕、今日みんながこの祭りに来ること、知ってたんだ」


 松宮 茜:

「えっ!」


 まさかの真実に目を丸くする。

 小池くんは苦笑して、教えてくれた。


 小池 隼人:

「ケイちゃんたちが、祭りの初日にみんなを集めて楽しもうって、企画してて」


 小池 隼人:

「僕も誘われたけど、それは断って、松宮さんを誘ったんだ」


 松宮 茜:

「な、なんで……」


 それなら、あれだけ知り合いに遭遇したのも納得だ。

 でもどうして小池くんはそんなことをしたのだろう、と思ってつぶやく。

 小池くんはまた、すまなそうに眉を寄せた。


 小池 隼人:

「僕らが付き合ってること、バレちゃえって考えたから」


 松宮 茜:

「……!」


 小さく私の心臓が鳴った。


 小池 隼人:

「松宮さんが、まだ隠したいことを知ってたのに……ごめんね」


 謝りつつも、悪気はあまりなさそうに柔らかく笑う。

 そしてつないだ手を一瞬、強く握られて、ますます私は息苦しくなった。


 松宮 茜:

「そ……それなら」


 松宮 茜:

「何で一緒に、逃げてくれたの?」


 小池 隼人:

「……」


 小池くんの目的がみんなにバレることなら、今こうして逃げていることは、彼の行動としてはおかしくはないだろうか。


 その指摘は、彼の顔をうつむかせた。

 気のせいか少し赤らんだ小池くんの頬が、遠い露店からの明かりでぼんやりと浮かぶ。


 小池 隼人:

「……見せたくなかったから」


 ポツリと彼は言った。


 小池 隼人:

「今日の松宮さんを、他の男の子に見せたくないって……思ったんだ」


 松宮 茜:

「!」


 動揺する私。

 かんざしが連動したように、チリリと顔の横で揺れた。

 彼のその言葉。

 その裏側にあるのは、つまり……。


 松宮 茜:

「……えっと……」


 対応につまる私に、小池くんがつないでいた手を離して、それを私の顔に近づけた。

 赤いかんざしに、彼の指先がふれる。

 そんな彼の動きを見つめていたら、自然と互いの目が合った。


 息が──止まりそうだ。


 松宮 茜:

「…………」


 小池 隼人:

「…………」


 小池 隼人:

「やっぱり、よく似合ってるよ」


 そう言った小池くんは、見たことのない表情を浮かべた。


 優しいだけの微笑みとも違う。

 少しいじわるな笑みとも違う。


 困ったようにはにかんだ顔。

 私も今──こんな顔を、しているのだろうか。


 松宮 茜:

「…………あ、あの」


 小池 隼人:

「?」


 鳴りやめ、心臓。

 私は激しくなりそうな動悸を抑えて、小池くんに伝えた。


 松宮 茜:

「私、小池くんと付き合ってること、みんなにもうバレてもいいの」


 小池 隼人:

「!」


 松宮 茜:

「その……まだ、ちょっと照れちゃうけど」


 松宮 茜:

「小池くんともっと……堂々と付き合いたい」


 小池 隼人:

「松宮さん……」


 さっき、手をつないで会場を歩いたときに思ったんだ。

 恥ずかしいけれど、まわりからカップルだと見られるのは、やっぱり嬉しいって。


 小池くんは私の彼氏だよ。

 横にいる男の子、素敵でしょ。

 とっても優しいんだよ。

 たまにちょっと、いじわるもするけど。

 私の自慢の彼氏なんだよ。


 恥ずかしがり屋なくせに、そんなことをまわりのみんなに発信したいくらい、手をつないで幸せに思えたんだ。


 だから。

 もう、いいんだ。


 松宮 茜:

「もう逃げなくても、大丈夫!」


 私は照れくささを隠すために、歯を見せて笑った。

 小池くんは手を下ろして、またつないでくれる。


 小池 隼人:

「ありがとう、松宮さん」


 私たちは手をつないだまま笑い合った。


──とそのとき、まさにタイミングよく、見知った多くの顔が近くを通り過ぎた。


 大谷 圭介:

「おっ、隼人いたいた!」


 望月 美羽:

「え、茜ちゃんも一緒!? 2人ともどーしたの!?」


 いつの間に合流したのか、ぞろぞろと団体で動いていた。


 大谷と中曽根。

 るりちゃんと美羽ちゃん、そして羽鳥の5人がいる。

 私は、慌ててつないでいた手を離そうとしたけれど、小池くんがぐっと掴んで離さなかった。


 松宮 茜:

「!」


 小池 隼人:

「バレてもいいんだよね?」


 小さくつぶやいた小池くん。

 そ、そりゃあバレてもいいとは、言ったけれど……!

 手をつないだままは、やっぱり恥ずかしい!


 でも小池くんは、たまに見せるいじわるさをここで発揮して、慌てる私を引っ張って立ち上がると、みんなの元へ近づいた。


 小池 隼人:

「みんな、一緒に回ってたんだ」


 なんて白々しく言うし。


 望月 美羽:

「なんで2人一緒なの!?」


 戸田 るり:

「え、もしかして……!?」


 るりちゃんと美羽ちゃんは、期待を込めた目で私たちを見る。

 羽鳥だけが黙って見ていたことが気になったけど、私は勇気を出して、小さくうなずいた。


 松宮 茜:

「えっと……はい」


 するとみんながワッと、驚いた。

 小池くんが隣で嬉しそうに笑っているのが見える。


 中曽根 悠:

「え、マジかよ小池!」


 大谷 圭介:

「隼人ー、やったな!」


 大谷が落ち着いて受け止めているあたり、ひょっとしたら小池くんは、彼にだけは教えていたのかもしれないと思った。

 私は隠していたことに少しだけ申し訳なさを覚えて、女子たちの顔をうかがい見る。


 すると。


 羽鳥 梢:

「この幸せもん!」


 松宮 茜:

「あだっ」


 羽鳥からなぜか、頭を軽くチョップされた。その拍子に小池くんとの手も離れる。


 ええ、なんで!?

 羽鳥ならいの一番にからかってきそうなのに!

 なぜか羽鳥はじっと私を見る。少しだけ目が潤んで見えたのは、気のせいだろうか。


 羽鳥 梢:

「やったじゃん!」


 しかし、すぐにニコッと笑ってそう言ってくれた。

 何だか今日の羽鳥は、いつもとちょっと違う。


 大谷 圭介:

「隼人たちも、今から一緒にまわる?」


 小池 隼人:

「そうだね、せっかく会えたわけだし」


 そんな私たちの横で小池くんは、大谷と合流話をしている。


 あーあ、2人きりデートはおしまいかぁ。

 でも、それでよかったのかも。

 あれ以上、小池くん相手にドキドキしていたら、私の心臓が保たない。


 松宮 茜:

「私、まだ全然食べれてないや」


 戸田 るり:

「今から焼きそば買いに行こーって言ってたんだよ」


 松宮 茜:

「あ、いいねそれ」


 自然に女子グループ、男子グループに分かれて歩き出した。

 小池くんも、大谷や中曽根と楽しそうにしゃべっている。


 でも。

 時々かち合う視線は、いつもと同じじゃない。

 こっそりじゃなくて、素直に向き合える。


 小池くん、これからも、こんな私だけどよろしくね。


 私の気持ちに呼応するように、また小さくかんざしがチリリと揺れた。




 ◇ 終わり ◇

❀次エピソードへ続く

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