Ep.49 かんざし恋模様(3・終)「2人とみんな」
みんなから逃げるようにたどり着いた、祭り会場奥の小さな社前。
そこに腰かけていても、私と小池くんの手は離れなかった。
つないだ手を離すきっかけがわからない。
ううん。それだけじゃなくって。
この温もりを、できるだけ長く感じていたいからだ。
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かんざし恋模様
(3)「2人とみんな」
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小池 隼人:
「……松宮さん。ごめんね」
松宮 茜:
「え?」
突然小池くんが謝った。
どうして謝るんだろうと驚いた私が横を向くと、小池くんの少しだけ気まずそうな表情とかち合った。
小池 隼人:
「僕、今日みんながこの祭りに来ること、知ってたんだ」
松宮 茜:
「えっ!」
まさかの真実に目を丸くする。
小池くんは苦笑して、教えてくれた。
小池 隼人:
「ケイちゃんたちが、祭りの初日にみんなを集めて楽しもうって、企画してて」
小池 隼人:
「僕も誘われたけど、それは断って、松宮さんを誘ったんだ」
松宮 茜:
「な、なんで……」
それなら、あれだけ知り合いに遭遇したのも納得だ。
でもどうして小池くんはそんなことをしたのだろう、と思ってつぶやく。
小池くんはまた、すまなそうに眉を寄せた。
小池 隼人:
「僕らが付き合ってること、バレちゃえって考えたから」
松宮 茜:
「……!」
小さく私の心臓が鳴った。
小池 隼人:
「松宮さんが、まだ隠したいことを知ってたのに……ごめんね」
謝りつつも、悪気はあまりなさそうに柔らかく笑う。
そしてつないだ手を一瞬、強く握られて、ますます私は息苦しくなった。
松宮 茜:
「そ……それなら」
松宮 茜:
「何で一緒に、逃げてくれたの?」
小池 隼人:
「……」
小池くんの目的がみんなにバレることなら、今こうして逃げていることは、彼の行動としてはおかしくはないだろうか。
その指摘は、彼の顔をうつむかせた。
気のせいか少し赤らんだ小池くんの頬が、遠い露店からの明かりでぼんやりと浮かぶ。
小池 隼人:
「……見せたくなかったから」
ポツリと彼は言った。
小池 隼人:
「今日の松宮さんを、他の男の子に見せたくないって……思ったんだ」
松宮 茜:
「!」
動揺する私。
かんざしが連動したように、チリリと顔の横で揺れた。
彼のその言葉。
その裏側にあるのは、つまり……。
松宮 茜:
「……えっと……」
対応につまる私に、小池くんがつないでいた手を離して、それを私の顔に近づけた。
赤いかんざしに、彼の指先がふれる。
そんな彼の動きを見つめていたら、自然と互いの目が合った。
息が──止まりそうだ。
松宮 茜:
「…………」
小池 隼人:
「…………」
小池 隼人:
「やっぱり、よく似合ってるよ」
そう言った小池くんは、見たことのない表情を浮かべた。
優しいだけの微笑みとも違う。
少しいじわるな笑みとも違う。
困ったようにはにかんだ顔。
私も今──こんな顔を、しているのだろうか。
松宮 茜:
「…………あ、あの」
小池 隼人:
「?」
鳴りやめ、心臓。
私は激しくなりそうな動悸を抑えて、小池くんに伝えた。
松宮 茜:
「私、小池くんと付き合ってること、みんなにもうバレてもいいの」
小池 隼人:
「!」
松宮 茜:
「その……まだ、ちょっと照れちゃうけど」
松宮 茜:
「小池くんともっと……堂々と付き合いたい」
小池 隼人:
「松宮さん……」
さっき、手をつないで会場を歩いたときに思ったんだ。
恥ずかしいけれど、まわりからカップルだと見られるのは、やっぱり嬉しいって。
小池くんは私の彼氏だよ。
横にいる男の子、素敵でしょ。
とっても優しいんだよ。
たまにちょっと、いじわるもするけど。
私の自慢の彼氏なんだよ。
恥ずかしがり屋なくせに、そんなことをまわりのみんなに発信したいくらい、手をつないで幸せに思えたんだ。
だから。
もう、いいんだ。
松宮 茜:
「もう逃げなくても、大丈夫!」
私は照れくささを隠すために、歯を見せて笑った。
小池くんは手を下ろして、またつないでくれる。
小池 隼人:
「ありがとう、松宮さん」
私たちは手をつないだまま笑い合った。
──とそのとき、まさにタイミングよく、見知った多くの顔が近くを通り過ぎた。
大谷 圭介:
「おっ、隼人いたいた!」
望月 美羽:
「え、茜ちゃんも一緒!? 2人ともどーしたの!?」
いつの間に合流したのか、ぞろぞろと団体で動いていた。
大谷と中曽根。
るりちゃんと美羽ちゃん、そして羽鳥の5人がいる。
私は、慌ててつないでいた手を離そうとしたけれど、小池くんがぐっと掴んで離さなかった。
松宮 茜:
「!」
小池 隼人:
「バレてもいいんだよね?」
小さくつぶやいた小池くん。
そ、そりゃあバレてもいいとは、言ったけれど……!
手をつないだままは、やっぱり恥ずかしい!
でも小池くんは、たまに見せるいじわるさをここで発揮して、慌てる私を引っ張って立ち上がると、みんなの元へ近づいた。
小池 隼人:
「みんな、一緒に回ってたんだ」
なんて白々しく言うし。
望月 美羽:
「なんで2人一緒なの!?」
戸田 るり:
「え、もしかして……!?」
るりちゃんと美羽ちゃんは、期待を込めた目で私たちを見る。
羽鳥だけが黙って見ていたことが気になったけど、私は勇気を出して、小さくうなずいた。
松宮 茜:
「えっと……はい」
するとみんながワッと、驚いた。
小池くんが隣で嬉しそうに笑っているのが見える。
中曽根 悠:
「え、マジかよ小池!」
大谷 圭介:
「隼人ー、やったな!」
大谷が落ち着いて受け止めているあたり、ひょっとしたら小池くんは、彼にだけは教えていたのかもしれないと思った。
私は隠していたことに少しだけ申し訳なさを覚えて、女子たちの顔をうかがい見る。
すると。
羽鳥 梢:
「この幸せもん!」
松宮 茜:
「あだっ」
羽鳥からなぜか、頭を軽くチョップされた。その拍子に小池くんとの手も離れる。
ええ、なんで!?
羽鳥ならいの一番にからかってきそうなのに!
なぜか羽鳥はじっと私を見る。少しだけ目が潤んで見えたのは、気のせいだろうか。
羽鳥 梢:
「やったじゃん!」
しかし、すぐにニコッと笑ってそう言ってくれた。
何だか今日の羽鳥は、いつもとちょっと違う。
大谷 圭介:
「隼人たちも、今から一緒にまわる?」
小池 隼人:
「そうだね、せっかく会えたわけだし」
そんな私たちの横で小池くんは、大谷と合流話をしている。
あーあ、2人きりデートはおしまいかぁ。
でも、それでよかったのかも。
あれ以上、小池くん相手にドキドキしていたら、私の心臓が保たない。
松宮 茜:
「私、まだ全然食べれてないや」
戸田 るり:
「今から焼きそば買いに行こーって言ってたんだよ」
松宮 茜:
「あ、いいねそれ」
自然に女子グループ、男子グループに分かれて歩き出した。
小池くんも、大谷や中曽根と楽しそうにしゃべっている。
でも。
時々かち合う視線は、いつもと同じじゃない。
こっそりじゃなくて、素直に向き合える。
小池くん、これからも、こんな私だけどよろしくね。
私の気持ちに呼応するように、また小さくかんざしがチリリと揺れた。
◇ 終わり ◇
❀次エピソードへ続く




