Ep.49 かんざし恋模様(2)「祭りデート」
慣れない下駄を鳴らしながら、待ち合わせ場所に向かった。
祭り会場から、少し離れた小さな公園。
そこに小池くんはいた。
同じように待ち合わせをしている人たちもいたけれど、知り合いはいなかった。
松宮 茜:
「お待たせ!」
小池くんは、黒のポロシャツにジーパン、白いスニーカーを合わせていた。
彼の貴重な私服姿は、春休み以来だ。
小池 隼人:
「こんばんは、松宮さん」
小池くんは、近づく私に手を振ってくれる。
向かい合った私たち。
浴衣姿の私は、ちょっと恥ずかしい。
松宮 茜:
「えっと……」
松宮 茜:
「ど、どうかな」
照れくさくて耳元をかいたら、かんざしから垂れたビーズに指が触れて、チリリと揺れた。
目の前の小池くんは目を細める。
小池 隼人:
「……うん」
小池 隼人:
「すごく可愛い」
松宮 茜:
「!」
うわああぁ!
う、嬉しすぎる……!
しかも小池くんも、ちょっと照れているのか、視線をそらしてそう言うし。
とたんに2人の間に変な沈黙が落ちて、私はそわそわとしてしまう。
胸元が苦しいのは──帯のせいだけじゃないはずだ。
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かんざし恋模様
(2)「祭りデート」
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小池 隼人:
「じ、じゃあ行こうか」
松宮 茜:
「う、うん」
小池くんと並んで歩き出した。
私は緊張したまま両手でしっかり巾着袋を持って、ちらりと小池くんをのぞき見る。
すると、目が合った。
松宮 茜:
「!」
小池 隼人:
「!」
パッとつい視線をそらしてしまう。
私だけじゃない。小池くんも。
あれ、おかしいな。
何だかいつもより、すごく緊張する。
それは夜に近づく暗闇のせいか、慣れない浴衣のせいか、ちゃんとした初デートを迎えたせいか。
松宮 茜:
(なんか、落ち着かない)
思わず頬に手を添える。
その横では小池くんも珍しく、ただ黙って静かに歩いていた。
・ ・ ・
会場に着くと、祭りの賑やかさのおかげで私たちの口数も増えた。
今ではリラックスして、2人並んで歩いている。
小池 隼人:
「気になる屋台があったら言ってね」
松宮 茜:
「うん、小池くんも」
小池 隼人:
「僕、揚げ物が 食べたいなぁ」
松宮 茜:
「あ、いいね! あそこのから揚げ屋さんとか美味しそう」
小池くんって、意外と食いしん坊だ。
そんなところがちょっと可愛いなぁなんて思うけど、言ったらいやがるかな?
なんて考えつつ、お目当ての屋台に向かおうとしたら。
ドンッ!
松宮 茜:
「わっ」
すれ違う人との距離を間違えて、肩がぶつかってしまった。
松宮 茜:
「すみません」
女性:
「あ、ごめんねー」
ぶつかった女子高生らしき女の人も、謝りつつ去っていく。隣の小池くんが、心配そうに私を見た。
小池 隼人:
「大丈夫?」
松宮 茜:
「うん。ちゃんと見て歩かないとね」
恥ずかしいところを見せてしまった、と頭をかこうとした──けど、できなかった。
小池くんが、その手を握ったからだ。
松宮 茜:
「!」
小池 隼人:
「……はぐれないようにしよう」
松宮 茜:
「……う、うん」
手をつなぐのは、初めてではなかった。
京都の自由行動の時にも少しだけ、つないだのだ。
でもそれは、2人きりのときだったから。
こんなにたくさんの人の中で手をつなぐのは、初めてだった。
手をつないでいるなんて、異性同士ならば、ただの友達には見えないだろう。
まわりにはきっと、私たちが友達じゃない、特別なものに見えるはずだ。
ああ──まわりにバレちゃう。
私が小池くんを大好きなこと。
変に意識してしまう。
今、もし知り合いにこれを見られたらと思うと、恥ずかしくなってしまう。
彼のことが大好きだと公言しているようなこの手つなぎが、とても照れくさくて仕方なかった。
松宮 茜:
(ドキドキする……)
胸元が苦しくて、巾着袋を持った手を添える。
隣の小池くんが見られない。息苦しい。
ちょっと深呼吸しようと、うつむきかけた顔を前へ向けたときだった。
松宮 茜:
(ん?)
人混みの中、頭1つ飛び出している男の子の後ろ姿。
なーんか見覚えのあるあの後頭部は……もしかして……。
中曽根 悠:
「大谷、あそこのイカ焼きうまそーだぞ」
大谷 圭介:
「おっ、いいね~」
松宮 茜:
「!!」
遠くから聞こえた、大谷と中曽根の声。
え、嘘!?
まさかの遭遇!?
離れた前方を歩く2人は、まだこちらに気づいていない。
しかも、他にも何人か同じ中学の男子がそこにはいるようだった。
慌てて隣の小池くんを見れば、彼も大谷たちの存在に気づいたようだ。
私と目を合わせて、小さくつぶやく。
小池 隼人:
「あっちに行こう」
松宮 茜:
「う、うん」
小池くんの手に引っ張られて、違う道に入る。
また違う人混みに紛れて歩き進め、私たちはホッと息を吐き出した。
松宮 茜:
「偶然だったね。まさか大谷たちがいるなんてさ」
小池 隼人:
「う、うん。そうだね」
小池くんはなぜか、そっぽを向いた。
その先にまた違うから揚げ屋があって、彼はそこを指差し歩き出す。
小池 隼人:
「あっちにも、から揚げ屋があるよ。行こうか」
松宮 茜:
「うん」
小池くんもちょっと、そわそわしてるな。
やっぱり彼も、友達に会うのは照れくさいのかな。
そして、歩き出した小池くんの足が止まる。
小池 隼人:
「……あ。堂本くんだ」
松宮 茜:
「へ!?」
彼の言葉に驚いてから揚げ屋を見れば、なんと私の天敵堂本が、から揚げ屋でから揚げを買っていた。
しかも隣に、井本までいる。
井本 修:
「ノブくん、俺に1個ちょうだい~」
堂本 信広:
「お前、1個分がいくらかわかって言ってんのか」
松宮 茜:
(なな、なんであいつらまでいるのよ~!)
堂本、祭りに友達と来るようなやつだったっけ!?
いやいやそれよりも、こんな小池くんといるところを見られたら、またからかわれるし、いじられる!
松宮 茜:
「こ、小池くん、あっちに行こう」
小池 隼人:
「う、うん」
2人でまた違う道に入ったけれど。
望月 美羽:
「ねーねー、あのクレープ美味しそう!」
戸田 るり:
「うわぁ、本当だ」
羽鳥 梢:
「買ってこうか」
松宮 茜:
(ええ、あの3人も!?)
またバタバタ移動するも。
上田 里美:
「茉莉ちゃん、すごい腕前だね!」
早乙女 茉莉:
「私……射的得意だったんだ!」
松宮 茜:
(ま、茉莉まで来てる!)
なぜか行く先々に知り合いがいる。
林 和葉:
「みーちゃんあのマスコット取って! あのイヌのやつ!」
御手洗 満:
「カズ、肩を揺らされたらすくえないでしょ……」
松宮 茜:
(お、多すぎる……!)
一体、何。
何ごとなのだ!
気がつけば私たちは、祭会場のかなり奥まで来ていた。
やっと人気が少なくなった頃、私と小池くんは「ふー」と、互いに息を吐く。
まるで追い立てられたみたいに行き着いたのは、何が納められているのかもわからない小さな社の前だ。
松宮 茜:
「な、なんか知り合いが多いね」
小池 隼人:
「……うん」
そうして、見つめ合った私たち。
その時ようやく、私はずっと小池くんと手をつないでいたことに、気がついたのだった。
◇ 続く ◇




