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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第三章 最終便、発車します《3年生編》
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Ep.49 かんざし恋模様(2)「祭りデート」

 慣れない下駄を鳴らしながら、待ち合わせ場所に向かった。


 祭り会場から、少し離れた小さな公園。

 そこに小池くんはいた。

 同じように待ち合わせをしている人たちもいたけれど、知り合いはいなかった。


 松宮 茜:

「お待たせ!」


 小池くんは、黒のポロシャツにジーパン、白いスニーカーを合わせていた。

 彼の貴重な私服姿は、春休み以来だ。


 小池 隼人:

「こんばんは、松宮さん」


 小池くんは、近づく私に手を振ってくれる。

 向かい合った私たち。

 浴衣姿の私は、ちょっと恥ずかしい。


 松宮 茜:

「えっと……」


 松宮 茜:

「ど、どうかな」


 照れくさくて耳元をかいたら、かんざしから垂れたビーズに指が触れて、チリリと揺れた。

 目の前の小池くんは目を細める。


 小池 隼人:

「……うん」


 小池 隼人:

「すごく可愛い」


 松宮 茜:

「!」


 うわああぁ!

 う、嬉しすぎる……!


 しかも小池くんも、ちょっと照れているのか、視線をそらしてそう言うし。

 とたんに2人の間に変な沈黙が落ちて、私はそわそわとしてしまう。

 胸元が苦しいのは──帯のせいだけじゃないはずだ。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 かんざし恋模様

(2)「祭りデート」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 小池 隼人:

「じ、じゃあ行こうか」


 松宮 茜:

「う、うん」


 小池くんと並んで歩き出した。

 私は緊張したまま両手でしっかり巾着袋を持って、ちらりと小池くんをのぞき見る。

 すると、目が合った。


 松宮 茜:

「!」


 小池 隼人:

「!」


 パッとつい視線をそらしてしまう。

 私だけじゃない。小池くんも。


 あれ、おかしいな。

 何だかいつもより、すごく緊張する。

 それは夜に近づく暗闇のせいか、慣れない浴衣のせいか、ちゃんとした初デートを迎えたせいか。


 松宮 茜:

(なんか、落ち着かない)


 思わず頬に手を添える。

 その横では小池くんも珍しく、ただ黙って静かに歩いていた。



 ・   ・   ・



 会場に着くと、祭りの賑やかさのおかげで私たちの口数も増えた。

 今ではリラックスして、2人並んで歩いている。


 小池 隼人:

「気になる屋台があったら言ってね」


 松宮 茜:

「うん、小池くんも」


 小池 隼人:

「僕、揚げ物が 食べたいなぁ」


 松宮 茜:

「あ、いいね! あそこのから揚げ屋さんとか美味しそう」


 小池くんって、意外と食いしん坊だ。

 そんなところがちょっと可愛いなぁなんて思うけど、言ったらいやがるかな?

 なんて考えつつ、お目当ての屋台に向かおうとしたら。


 ドンッ!


 松宮 茜:

「わっ」


 すれ違う人との距離を間違えて、肩がぶつかってしまった。


 松宮 茜:

「すみません」


 女性:

「あ、ごめんねー」


 ぶつかった女子高生らしき女の人も、謝りつつ去っていく。隣の小池くんが、心配そうに私を見た。


 小池 隼人:

「大丈夫?」


 松宮 茜:

「うん。ちゃんと見て歩かないとね」


 恥ずかしいところを見せてしまった、と頭をかこうとした──けど、できなかった。

 小池くんが、その手を握ったからだ。


 松宮 茜:

「!」


 小池 隼人:

「……はぐれないようにしよう」


 松宮 茜:

「……う、うん」


 手をつなぐのは、初めてではなかった。

 京都の自由行動の時にも少しだけ、つないだのだ。

 でもそれは、2人きりのときだったから。

 こんなにたくさんの人の中で手をつなぐのは、初めてだった。


 手をつないでいるなんて、異性同士ならば、ただの友達には見えないだろう。

 まわりにはきっと、私たちが友達じゃない、特別なものに見えるはずだ。


 ああ──まわりにバレちゃう。

 私が小池くんを大好きなこと。


 変に意識してしまう。

 今、もし知り合いにこれを見られたらと思うと、恥ずかしくなってしまう。

 彼のことが大好きだと公言しているようなこの手つなぎが、とても照れくさくて仕方なかった。


 松宮 茜:

(ドキドキする……)


 胸元が苦しくて、巾着袋を持った手を添える。

 隣の小池くんが見られない。息苦しい。

 ちょっと深呼吸しようと、うつむきかけた顔を前へ向けたときだった。


 松宮 茜:

(ん?)


 人混みの中、頭1つ飛び出している男の子の後ろ姿。

 なーんか見覚えのあるあの後頭部は……もしかして……。


 中曽根 悠:

「大谷、あそこのイカ焼きうまそーだぞ」


 大谷 圭介:

「おっ、いいね~」


 松宮 茜:

「!!」


 遠くから聞こえた、大谷と中曽根の声。


 え、嘘!?

 まさかの遭遇!?


 離れた前方を歩く2人は、まだこちらに気づいていない。

 しかも、他にも何人か同じ中学の男子がそこにはいるようだった。

 慌てて隣の小池くんを見れば、彼も大谷たちの存在に気づいたようだ。

 私と目を合わせて、小さくつぶやく。


 小池 隼人:

「あっちに行こう」


 松宮 茜:

「う、うん」


 小池くんの手に引っ張られて、違う道に入る。

 また違う人混みに紛れて歩き進め、私たちはホッと息を吐き出した。


 松宮 茜:

「偶然だったね。まさか大谷たちがいるなんてさ」


 小池 隼人:

「う、うん。そうだね」


 小池くんはなぜか、そっぽを向いた。

 その先にまた違うから揚げ屋があって、彼はそこを指差し歩き出す。


 小池 隼人:

「あっちにも、から揚げ屋があるよ。行こうか」


 松宮 茜:

「うん」


 小池くんもちょっと、そわそわしてるな。

 やっぱり彼も、友達に会うのは照れくさいのかな。

 そして、歩き出した小池くんの足が止まる。


 小池 隼人:

「……あ。堂本くんだ」


 松宮 茜:

「へ!?」


 彼の言葉に驚いてから揚げ屋を見れば、なんと私の天敵堂本が、から揚げ屋でから揚げを買っていた。

 しかも隣に、井本までいる。


 井本 修:

「ノブくん、俺に1個ちょうだい~」


 堂本 信広:

「お前、1個分がいくらかわかって言ってんのか」


 松宮 茜:

(なな、なんであいつらまでいるのよ~!)


 堂本、祭りに友達と来るようなやつだったっけ!?

 いやいやそれよりも、こんな小池くんといるところを見られたら、またからかわれるし、いじられる!


 松宮 茜:

「こ、小池くん、あっちに行こう」


 小池 隼人:

「う、うん」


 2人でまた違う道に入ったけれど。


 望月 美羽:

「ねーねー、あのクレープ美味しそう!」


 戸田 るり:

「うわぁ、本当だ」


 羽鳥 梢:

「買ってこうか」


 松宮 茜:

(ええ、あの3人も!?)


 またバタバタ移動するも。


 上田 里美:

「茉莉ちゃん、すごい腕前だね!」


 早乙女 茉莉:

「私……射的得意だったんだ!」


 松宮 茜:

(ま、茉莉まで来てる!)


 なぜか行く先々に知り合いがいる。


 林 和葉:

「みーちゃんあのマスコット取って! あのイヌのやつ!」


 御手洗 満:

「カズ、肩を揺らされたらすくえないでしょ……」


 松宮 茜:

(お、多すぎる……!)


 一体、何。

 何ごとなのだ!


 気がつけば私たちは、祭会場のかなり奥まで来ていた。

 やっと人気が少なくなった頃、私と小池くんは「ふー」と、互いに息を吐く。

 まるで追い立てられたみたいに行き着いたのは、何が納められているのかもわからない小さな社《やしろ》の前だ。


 松宮 茜:

「な、なんか知り合いが多いね」


 小池 隼人:

「……うん」


 そうして、見つめ合った私たち。

 その時ようやく、私はずっと小池くんと手をつないでいたことに、気がついたのだった。




 ◇ 続く ◇

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