Ep.5 お姫様ではいられない (後編)
静寂に満たされた、保健室の中。
私は、中曽根と向き合っていた。
『好きですよ! 中曽根のこと!』
戸田 るり:
(聞かれてたよね……?)
篠田先生に挑発されたようなカタチで、発してしまった私の告白。
それは思いがけず、本人に伝わってしまったが、もうこの際これでよかったのかもしれない。
だって私は、ちゃんと中曽根に伝えようと思っていたんだから。
好きだよって。
消しゴムなんかじゃなくて、自分の言葉で。
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お姫様ではいられない
(後編)
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戸田 るり:
「──あの!」
中曽根 悠:
「──あのさ!」
戸田 るり:
「え?」
中曽根 悠:
「え?」
戸田 るり:
「…………」
中曽根 悠:
「…………」
戸田 るり:
「……あのさっ」
中曽根 悠:
「あのさっ」
戸田 るり:
「ご、ごめんっ」
中曽根 悠:
「いや、俺こそっ」
ううう、何なに、何なのこの安いコントみたいなやりとりは!?
思わず、自分のつま先を睨んでしまう。
恥ずかしくていたたまれなくて、中曽根の顔がうまく見られない。
戸田 るり:
(でもここで、勇気を出さなきゃ……!)
ここで伝えなかったら、絶対に後悔する。
夏休みに入ってしまったら、しばらくは会えなくなっちゃうんだから!
私は拳をぎゅっと握って、うるさい心臓を抑えながら声を出した。
戸田 るり:
「わ……」
戸田 るり:
「私、中曽根が好き!」
戸田 るり:
「彼女になりたいの!」
中曽根 悠:
「!」
い、言った!!
ついに伝えてしまった、私の気持ち。
ドクドクドクドクと、心臓はこれ以上ないかと思うくらい早い鼓動を打ちつけている。
中曽根が、どんな顔をしているのか見るのが怖くて、私はまだ自分のつま先しか見られていない。
中曽根、どう思った?
私たち、両思いなんだよね?
そう心で必死に訴える。でも静寂だけが過ぎていく。
返事がない。
戸田 るり:
(──え……なんで答えてくれないの?)
早まっていた鼓動が、今度は別の意味で加速していく。
もしかして、両思いなんだと思っていたのは私だけで、中曽根は本当は何にも思っていなかったんじゃ。
全部全部私の勘違いで、何こいつ、とか思っているんじゃ。
戸田 るり:
(………中曽根、何か言ってよ!)
たまりかねて、中曽根を見上げる。
戸田 るり:
「──え!?」
いつの間にか、中曽根が近くにいる。
真っ赤な顔をして近づいて……。
中曽根 悠:
「戸田、俺……」
戸田 るり:
「!?」
中曽根は、私の肩に両手を置くと、ボスッと顔をうずめた。
なかば体重を預けるようにされたその体勢に、私は思わずフラつきそうになるのを必死で踏ん張った。
戸田 るり:
「中曽根……?」
中曽根 悠:
「──すっげぇ、嬉しい」
戸田 るり:
「!」
中曽根 悠:
「ありがとう。俺も……」
戸田 るり:
「…………」
中曽根 悠:
「…………」
戸田 るり:
「…………」
戸田 るり:
「…………な、中曽根?」
あの、その、肝心の続きは?
でもこの体勢だと、中曽根の顔が見られない。
中曽根は私の肩に顔をうずめたまま、動かない。
そしてようやく、私は気付く。
何か中曽根の体、熱い……?
戸田 るり:
(あっ!)
そういえば篠田先生、中曽根は熱があるから保健室に来たと言っていたような……!
戸田 るり:
「中曽根、あんたもしかしてっ」
中曽根 悠:
「んあ?」
私は無理矢理、寄りかかっていた中曽根を引き剥がし、その顔を見つめた。
その目は朦朧としていて、顔は真っ赤になっている。
戸田 るり:
「バカ! 熱上がってるんじゃないの!? 」
中曽根 悠:
「ああ? そうなんかなぁ…… 」
のんきにそう言う、中曽根のおでこに手を当てる。
うん! 熱い!
私の保健委員センサーはすぐに中曽根を病人と判断して、慌てて彼の背中を押してベッドへ誘導した。
戸田 るり:
「大人しくベッドで寝てなさい!」
中曽根 悠:
「えぇー……」
中曽根はなぜか不服そうな顔をして、でも私の指示通りにベッドへ戻った。
なかば倒れるようにベッドに横になったので、やはり辛かったのだろう。私は少し申し訳なく思う。
戸田 るり:
「ごめんね、中曽根」
思わずシュンとなって、布団をかけた。
中曽根 悠:
「なんで? 戸田は悪くないよ」
戸田 るり:
「でも……」
私が中曽根の体調に気づかずに、告白なんてしちゃったから。
うなだれる私に、中曽根は少し熱に浮かされたぼんやりした瞳を向けた。
中曽根 悠:
「戸田、ありがとうな」
中曽根 悠:
「俺も……好きだから」
戸田 るり:
「!」
中曽根 悠:
「ちゃんと……好き……だから……」
戸田 るり:
「……中曽根?」
…………寝ちゃった。
目を閉じた中曽根はどこか安心したように、静かに寝息を立て始める。
布団に入ってすぐ寝ちゃうなんて、子どもみたい。
小さく笑って、私は彼の頭を撫でた。
熱で少し汗ばんでいた髪はしっとりしている。ちょっと苦しそう。
濡らしたガーゼを中曽根のおでこに乗せると、ベッドから離れた。
まだ篠田先生が帰ってきていない保健室は、静かだ。
中央のテーブルの上には、篠田先生に頼まれたプリントの山が残っている。
戸田 るり:
(篠田先生……)
戸田 るり:
(結構、イジワルな人だったのね)
まさか先生に、してやられるとは思わなかった。
でも、腹が立つとかは思わない。
戸田 るり:
(こうなったら、先生にはとことん付き合ってもらうんだから!)
今の私には、怖いものなんてない。
だってようやく、両思いを確認できたんだもん!
意気揚々と、頼まれていたプリント仕分けに手をつけ始めた。
それを終わらせると、篠田先生宛てへの手紙を書く。反撃とお礼と、今後のおねだりをちょっぴり入れて。
それが終わって中曽根の様子を見ると、さっきよりも赤みが薄くなった彼の顔は、熱が下がっているようだった。
戸田 るり:
(可愛い寝顔だな)
まだ幼さの残る彼の寝顔を見て、そっと微笑む。
本当は起きるまでそばにいてあげたいけれど、今日は塾の日だったので、早く帰らなければならない。
戸田 るり:
「またね」
中曽根 悠:
「…………」
そっと声をかけても、中曽根は目を覚まさなかった。
眠っている中曽根と、それを見つめている私。
まるで、王子様とお姫様が逆になったみたい。
でもね。
お姫様ばっかりが待っているなんて、そんなことはありえないんだから。
戸田 るり:
「──よし! 帰ろう!」
私はそう独りごちて、踵を返した。
彼氏彼女になれた私たち。
明日から中曽根との仲がどう変わっていくかなんて、まだわからないけれど。
でも、待ってばかりじゃいられないから。
お姫様なんかじゃ、いられないから。
これから中曽根と一緒に、ゆっくり歩いていこう。
ね。
◇ 終わり ◇
❀次エピソードへ続く




