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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第一章 ご乗車ください《1年生編》
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Ep.5 お姫様ではいられない (前編)

 あの消しゴム事件から、1ヶ月が経った。

 もう、夏休み直前となっている。


 中曽根 悠:

「どっちが先に使いきれるか、勝負な!」


 あの日、中曽根はそう言って去った。

 おそらく、多分、きっと。

 私たちは両想い。

 そうとはわかっていても。

 一向になくならない消しゴムに反して、私の自信はどんどんなくなっていく。


 本当にあれは、現実だったの?

 私が都合よく見てしまった、夢なんじゃないかな?


 あれ以来、中曽根との仲は元に戻ったけれど、あまりにも以前と同じすぎて、あの出来事が本当だったのか自信がなくなっていた。


 私……どうすればいいのかな?



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 お姫様ではいられない

(前編)


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 望月 美羽:

「そりゃあ、るりっちからいくしかないでしょう!!」


 戸田 るり:

「ええ〜!」


 ビシッと人差し指を突き刺してくる美羽に、やっぱりと思いつつも動揺した。


 羽鳥 梢:

「まあ、みずから動かないとねぇ」


 戸田 るり:

「梢ちゃんまで……」


 いつもなら美羽のたしなめ役となる梢ちゃんまで、美羽のアドバイスを肯定する。

 私は「ううぅ」と、うなりながら抱きしめたクッションに顔を突っ込んだ。


 今日は、私の部屋に美羽と梢ちゃんを招いて、夏休みの遊びの計画を立てることにした。

 ……というのは建前で。

 私の恋愛相談に乗ってもらうことが、本来の目的だったりする。


 戸田 るり:

「やっぱ、そうなのかぁ」


 わかってはいた。

 動かなきゃ、何も始まらないって。

 でも、どうしてもその踏ん切りがつかなくて、2人に背中を押してもらいたかったんだ。


 望月 美羽:

「あのねぇ、るりっち」


 美羽はやけに神妙な顔を、ずいっと近づけてきた。


 望月 美羽:

「もう、男子にばかり期待をする時代は終わっているの! 今は女子から動かないと、なーんにも始まらないんだから! 」


 戸田 るり:

「そ、そうなの?」


 やけに迫力あるその物言いに、私は思わず身を正す。


 望月 美羽:

「そう! 白馬の王子様なんて、現実にはいないんだから! お姫様が待って寝ていたら、あっという間におばさんよ!! 」


 うう、美羽にしては、妙に説得力のある言い方……。

 そんな美羽の背後にある私の本棚には、幼い頃の「シンデレラ」や「白雪姫」なんかの絵本の背表紙が見えていて、よけいいたたまれなくなる。

 待っていて幸運が巡ってくるのは、絵本のお姫様だけ、か。


 戸田 るり:

(美羽のことだから、ここからガンガン押せ押せってなるかなぁ)


 と覚悟していたら。


 望月 美羽:

「──でもまぁ、不安になる気持ちはわかるけどね。 やっぱり本命相手となると 」


 あれ?

 やけに落ち着いた言葉になった。


 羽鳥 梢:

「美羽にしては、大人な意見ね」


 梢ちゃんも同じことを思ったらしく、美羽にそう言った。


 望月 美羽:

「まぁ、私も成長してるってことで」


 羽鳥 梢:

「なになに、不安になるような本命相手ができたわけ?」


 梢ちゃんが少しにやけて、そう言うと。


 望月 美羽:

「え!!」


 思いがけず、美羽は顔を赤らめて動揺した。

 珍しい、恋愛特攻隊長のあの美羽が。


 戸田 るり:

「え、そうなの美羽!? 誰だれ? 」


 望月 美羽:

「もー、今はるりっちの話でしょ〜!」


 美羽は慌てて話を戻そうとする。

 わぁ、本当に珍しいな。

 いつもなら、ペラペラ聞いてもないのに話してくれるあの美羽が。

 でも、それだけ今回の恋は真剣なのかもしれない。

 それだと、変にからかうのも悪いような気がして、私はそれ以上追求することをやめた。

 梢ちゃんも、私の話に戻そうとこちらを向く。


 羽鳥 梢:

「そうそう、るりの話だったね」


 羽鳥 梢:

「で、どうするの? いつ告白する? 」


 望月 美羽:

「告白っていうかこの場合、両思い確認だよねー。 いいなぁ、両思い確定組は 」


 戸田 るり:

「うう、プレッシャー与えないで……」


 私は2人の視線を逃れて、壁にあるカレンダーを見つめた。

 夏休み開始の日にちまで、あと1週間弱。


 戸田 るり:

「決戦は……」


 戸田 るり:

「夏休み前に!!」


 拳をぐっと握りしめて、上を向いた私に。


 望月 美羽:

「おお、るりっちの闘魂が見える!」


 羽鳥 梢:

「イケイケるりー!」


 美羽と梢ちゃんははやし立てた。



 ・   ・   ・



──なんてことがあったのが、三日前。


 篠田 かなえ:

「じゃあ私、しばらく出てるから」


 戸田 るり:

「! 篠田先生……っ」


 保健室にて思いがけず手に入れた告白のチャンスは、あまりにも唐突だった。


 パタリ、と静かに閉じられた保健室の扉。

 戸惑う私の真向かいには、どこか少しぼんやりとこちらを見ている中曽根の姿があった。




 ◇ 後編へ続く ◇

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