Ep.5 お姫様ではいられない (前編)
あの消しゴム事件から、1ヶ月が経った。
もう、夏休み直前となっている。
中曽根 悠:
「どっちが先に使いきれるか、勝負な!」
あの日、中曽根はそう言って去った。
おそらく、多分、きっと。
私たちは両想い。
そうとはわかっていても。
一向になくならない消しゴムに反して、私の自信はどんどんなくなっていく。
本当にあれは、現実だったの?
私が都合よく見てしまった、夢なんじゃないかな?
あれ以来、中曽根との仲は元に戻ったけれど、あまりにも以前と同じすぎて、あの出来事が本当だったのか自信がなくなっていた。
私……どうすればいいのかな?
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お姫様ではいられない
(前編)
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望月 美羽:
「そりゃあ、るりっちからいくしかないでしょう!!」
戸田 るり:
「ええ〜!」
ビシッと人差し指を突き刺してくる美羽に、やっぱりと思いつつも動揺した。
羽鳥 梢:
「まあ、みずから動かないとねぇ」
戸田 るり:
「梢ちゃんまで……」
いつもなら美羽のたしなめ役となる梢ちゃんまで、美羽のアドバイスを肯定する。
私は「ううぅ」と、うなりながら抱きしめたクッションに顔を突っ込んだ。
今日は、私の部屋に美羽と梢ちゃんを招いて、夏休みの遊びの計画を立てることにした。
……というのは建前で。
私の恋愛相談に乗ってもらうことが、本来の目的だったりする。
戸田 るり:
「やっぱ、そうなのかぁ」
わかってはいた。
動かなきゃ、何も始まらないって。
でも、どうしてもその踏ん切りがつかなくて、2人に背中を押してもらいたかったんだ。
望月 美羽:
「あのねぇ、るりっち」
美羽はやけに神妙な顔を、ずいっと近づけてきた。
望月 美羽:
「もう、男子にばかり期待をする時代は終わっているの! 今は女子から動かないと、なーんにも始まらないんだから! 」
戸田 るり:
「そ、そうなの?」
やけに迫力あるその物言いに、私は思わず身を正す。
望月 美羽:
「そう! 白馬の王子様なんて、現実にはいないんだから! お姫様が待って寝ていたら、あっという間におばさんよ!! 」
うう、美羽にしては、妙に説得力のある言い方……。
そんな美羽の背後にある私の本棚には、幼い頃の「シンデレラ」や「白雪姫」なんかの絵本の背表紙が見えていて、よけいいたたまれなくなる。
待っていて幸運が巡ってくるのは、絵本のお姫様だけ、か。
戸田 るり:
(美羽のことだから、ここからガンガン押せ押せってなるかなぁ)
と覚悟していたら。
望月 美羽:
「──でもまぁ、不安になる気持ちはわかるけどね。 やっぱり本命相手となると 」
あれ?
やけに落ち着いた言葉になった。
羽鳥 梢:
「美羽にしては、大人な意見ね」
梢ちゃんも同じことを思ったらしく、美羽にそう言った。
望月 美羽:
「まぁ、私も成長してるってことで」
羽鳥 梢:
「なになに、不安になるような本命相手ができたわけ?」
梢ちゃんが少しにやけて、そう言うと。
望月 美羽:
「え!!」
思いがけず、美羽は顔を赤らめて動揺した。
珍しい、恋愛特攻隊長のあの美羽が。
戸田 るり:
「え、そうなの美羽!? 誰だれ? 」
望月 美羽:
「もー、今はるりっちの話でしょ〜!」
美羽は慌てて話を戻そうとする。
わぁ、本当に珍しいな。
いつもなら、ペラペラ聞いてもないのに話してくれるあの美羽が。
でも、それだけ今回の恋は真剣なのかもしれない。
それだと、変にからかうのも悪いような気がして、私はそれ以上追求することをやめた。
梢ちゃんも、私の話に戻そうとこちらを向く。
羽鳥 梢:
「そうそう、るりの話だったね」
羽鳥 梢:
「で、どうするの? いつ告白する? 」
望月 美羽:
「告白っていうかこの場合、両思い確認だよねー。 いいなぁ、両思い確定組は 」
戸田 るり:
「うう、プレッシャー与えないで……」
私は2人の視線を逃れて、壁にあるカレンダーを見つめた。
夏休み開始の日にちまで、あと1週間弱。
戸田 るり:
「決戦は……」
戸田 るり:
「夏休み前に!!」
拳をぐっと握りしめて、上を向いた私に。
望月 美羽:
「おお、るりっちの闘魂が見える!」
羽鳥 梢:
「イケイケるりー!」
美羽と梢ちゃんははやし立てた。
・ ・ ・
──なんてことがあったのが、三日前。
篠田 かなえ:
「じゃあ私、しばらく出てるから」
戸田 るり:
「! 篠田先生……っ」
保健室にて思いがけず手に入れた告白のチャンスは、あまりにも唐突だった。
パタリ、と静かに閉じられた保健室の扉。
戸惑う私の真向かいには、どこか少しぼんやりとこちらを見ている中曽根の姿があった。
◇ 後編へ続く ◇




