Ep.48 雷と夕焼け(4)「優しさと意地悪」
堂本くんと2人で、資料を作るはめになった。
そんな中、資料室内にゴロゴロと、嫌な音が外から響いてきた。
羽鳥 梢:
「!」
こ……これはもしかして。
ピカッ!
羽鳥 梢:
「!!」
うそ、また雷!?
ドーン!!
羽鳥 梢:
「ひゃあ!」
堂本 信広:
「!」
持っていた資料を机に置いて、思わず耳をふさいだ。
昨日よりも近くなったような大きな音は、私をビビらせるのに十分なものだ。
また雷光が走る。
羽鳥 梢:
「うわぁっ」
音に備えて耳に指を突っ込み、窓から背を向ける。
ドドーン! と鳴った雷に肩をすくめさせる私に、堂本くんは机に肘をつけて、楽しそうに笑った。
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雷と夕焼け
(4)「優しさと意地悪」
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堂本 信広:
「へえ、お前、雷が苦手なわけ」
羽鳥 梢:
「う、うるさいなぁ」
ニヤニヤ、なんてイヤな笑い方をする堂本くん。
彼は立ち上がって近寄ると、なんとビクビクする私の両手を無理やり、その手で耳から引き剥がしてくれた。
堂本 信広:
「ほらよ」
と同時に、ドーン! とまた音が鳴る。
羽鳥 梢:
「ひゃああ!」
堂本 信広:
「ははは! おもしれー」
ぎゅっと目を閉じて悲鳴をあげる私に、堂本くんは悪魔のような笑いを浮かべる。
こ・この悪ガキーーー!!
私は本当に雷が怖いのだ。
それなのに堂本くんは、私の両手首をしっかり掴んで離してくれない。
克弘さんの両手は私を音から守ってくれたのに、堂本くんの両手は私を地獄に突き落とす。
ひどい!
ひどすぎる!
羽鳥 梢:
「ちょ……離してよ、堂本くん!」
堂本 信広:
「ほらほら、また光ったぜ」
羽鳥 梢:
「……!!」
雷光が走った外の曇天。
手は掴まれて音はふさげない。
またイヤな音が私の耳をつんざいて、恐怖で身がすくんでしまう。
羽鳥 梢:
「……ほ、本当にやめてよぉ!」
堂本 信広:
「!」
つい涙目になって、しゃがみこんでしまった。
手首は彼に掴まれたままだったので、腕を上げた状態で床にぺたんとお尻をつく。
さすがに堂本くんも、その反応には困ったのだろう。
やっと手を離してくれて、床にへたり込んだ私をしゃがんでのぞき込んできた。
堂本 信広:
「マジで泣いてんの?」
羽鳥 梢:
「な……泣いてないっ」
本当はちょっぴり涙が出かかっていたけれど、こんなやつの前で泣きたくなんかない。
でもまだ外では雷が響いていて、ビクビクと肩を震わせてしまう。これじゃあ、堂本くんに虚勢を張っているのがバレちゃう。
イヤだ、意地悪小僧の前でなんか。
堂本 信広:
「……悪かったな」
本当に悪いと思っているのか、わからない謝り方だ。
私はギッと、つい彼を睨んでしまった。
羽鳥 梢:
「……か、克弘さんは、優しかったよ!」
堂本 信広:
「……は?」
突然兄の名前を出されて、堂本くんも面食らったのだろう。
でも私は、堂本くんへの腹立たしさでいっぱいで、昨日の克弘さんの対応をつい口にしてしまう。
羽鳥 梢:
「克弘さんは雷を怖がってた私に、こんなことしなかった!」
羽鳥 梢:
「優しくしてくれたもんっ」
堂本 信広:
「……そんなの、知るかよ」
堂本くんはムッとしたように唇を尖らせた。
でも私の怒りはおさまらなくて、口からどんどん言葉が出ていってしまう。
羽鳥 梢:
「兄弟なのに、全然違う! 克弘さんは優しくて、素敵なのにさ」
堂本 信広:
「……はあ?」
堂本くんは片眉を上げて、怪訝な顔をした。そして。
堂本 信広:
「……なにお前。あいつに惚れたの?」
なんて言う。
え?
堂本くん、何言ってんの。
羽鳥 梢:
「……へ?」
思わず彼を凝視する。
私が克弘さんに?
惚れている?
そんなこと、あるわけないじゃない。
──て、思ったのに。
「大丈夫?」
柔らかく笑ってくれた、克弘さんの微笑み。
それが、目の前の堂本くんに被って浮かぶ。
羽鳥 梢:
「…………っ!」
大きく心臓が跳ねた。
まるで、誰かに直接わし摑みされたみたいに、そこがぎゅっと痛い。
ドッドッドッと早くなり始めた鼓動は、あの日、克弘さんに対して反応した自分の動悸だった。
羽鳥 梢:
「……そ」
羽鳥 梢:
「そんなことないし……っ」
克弘さんと被る堂本くんの顔を見られなくて、下を向く。
そうだよ、そんなことあるはずがない。
だって克弘さんとは、まだ2回しか会ってない。
喋ったのだって、ほんの少しだ。
そんなので好きになるはずなんて、ないじゃない。
恋愛って、そんなに単純じゃないでしょう?
堂本 信広:
「……」
堂本 信広:
「ふーん?」
堂本くんの、興味なさげな声が落ちてきた。
雷はまだ遠くで、小さく鳴っている。
起き上がれない私は床を見つめたまま、わけのわからぬ自分の動悸ばかりが気になっていた。
数秒ののち、堂本くんが立ち上がる。
窓のカーテンをすべて閉めて、椅子に座り直した。
堂本 信広:
「いつまでへたってんだよ。さっさと片すぞ」
カーテン越しには、まだゴロゴロと雷鳴が小さく響いている。
私は1人でさっさと所定位置に戻った彼を恨めしく睨み、机に手をつけて抜けた腰のまま椅子に座った。
羽鳥 梢:
「堂本くん……優しくない」
堂本 信広:
「今さらだろうが」
それでも、カーテンを閉めてくれたことは、ちょっとありがたかった。
これでもう光には怯えずに済む。
羽鳥 梢:
「カーテン……ありがとう」
だからそう言ったんだけど。
堂本 信広:
「……お前さあ」
堂本くんは、呆れるように私を見た。
堂本 信広:
「簡単に礼を言いすぎ。その前に俺がしたこと、もう忘れたわけ?」
羽鳥 梢:
「……さんざん、雷で嫌がらせしてくれたね」
堂本 信広:
「覚えてるじゃねーか」
羽鳥 梢:
「でも、それとこれとは、話が違うし」
堂本 信広:
「……そうか?」
やっぱりお前はよくわかんねーな、と堂本くんはつぶやく。
そんなの、私だって同じ意見だ。
堂本くんって、意地悪なのか優しいのか、よくわかんない。
私たちはまた無言になって、資料作りを再開した。
書類をまとめる紙の音。
留められるホチキスの音。
その音に混じって。
自分の心臓から響く低い鼓動音だけが、やたら大きく聞こえるような気がした。
こんな音、近くの堂本くんにバレるかもしれない、なんてヒヤヒヤする。
どうしてだろう。
脳裏から、克弘さんの笑顔が離れない。
正体不明の動悸に翻弄されて、私の資料作りのスピードは、いつもより遅くなってしまった。
◇ 続く ◇




