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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第三章 最終便、発車します《3年生編》
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Ep.48 雷と夕焼け(3)「梢と信広」

 翌日、また雨降りとなった自由参加の夏期講習。

 めずらしく、中曽根も参加していた。


 羽鳥 梢:

「あれ、部活はいいの」


 中曽根 悠:

「もう、引退したんだよ。大会も終わったからさ」


 教室に入って出くわした中曽根と、そんな話をする。

 中曽根いわく、今年は地区予選大会突破を逃してしまったという。彼にとっては最後になる試合だったので、悔しくもあったのだろう。

 少しだけ唇を尖らせていた。


 中曽根 悠:

「これからは勉強漬けだよ。やだなー」


 羽鳥 梢:

「うーん。それは同意」


 私だって、勉強よりは本を読んだり、どっかへ遊びに行きたい。

 でもそう言いつつも、この講習に来た中曽根は、勉強に本気になり始めているのだろう。


 するとそこに、るりもやってきた。

 全クラス合同で行われるので、違うクラスの子もいるのだ。


 戸田 るり:

「おはよう。梢ちゃん、悠」


 羽鳥 梢:

「おはよう、るり!」


 中曽根 悠:

「うーっす」


 幼馴染み3人は、久しぶりに同じ教室に集まると、固まって座った。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 雷と夕焼け

(3)「梢と信広」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 夏期講習と言っても、先生から講義を受けるわけではない。

 それぞれが、成績や志望校に合ったプリントを渡され、各自解いていくのだ。


 今日は数学担当であり、私たち1組の担任でもある福原先生が当番だった。

 私たちは配られたそれぞれのプリントを解いている。

 ちなみに最前列は、強制参加──つまりは成績に問題有りの生徒が集められている。


 羽鳥 梢:

(あれ、堂本くん来てない)


 昨日まではちゃんと来ていたのに。

 今日は、あのでかい図体を見ていないなと気づく。

 しかしそれを見計らったかのように、教室の前の扉がガラリと開き、あの生意気少年が現れた。


 堂本 信広:

「……っす」


 彼らしい、眠たそうな小さい挨拶だった。


 福原先生:

「堂本! 遅刻だぞ」


 教卓の前に立っていた福原先生が、そんな堂本くんを叱る。

 堂本くんは頭をボリボリかいて、空いていた手前の席に座った。


 堂本 信広:

「さーせん。寝坊しました」


 福原先生:

「……ったく、お前は」


 ブツブツ言いつつもじつは面倒見のいい福原先生は、堂本くんにプリントを渡してあーだこーだと説明をする。

 でも堂本くんは、面倒臭そうにわかっているのかわかっていないのか、適当にうなずいている。


 羽鳥 梢:

(……克弘さんとは、えらい違いだ)


 私は再び、自分のプリントに顔を向けた。



 ・   ・   ・



 講習が終わるお昼頃、また外では雨が強く降り始めていた。


 そんな外をふと見ていたら、福原先生が「じゃあ今日はこれで終了だー」と、声をかける。

 生徒たちはプリントをそれぞれしまい、帰り支度を始める。

 これから部活に参加する者、家に帰る者、勉強を残って続けようとする者、様々だ。


 戸田 るり:

「梢ちゃん、一緒に帰ろうよ」


 るりが声をかけてくれた。

 その後ろには中曽根もいる。

 3人で一緒に帰るなんて久しぶりかも、なんて私は笑顔で立ち上がろうとした……そのとき。


 福原先生:

「おい羽鳥、ちょっと来てくれ」


 福原先生が、教卓前で私を呼び出した。


 羽鳥 梢:

「はい?」


 私はるりに「ちょっとごめんね」と言ってから、教卓前へ駆けつけた。

 その近くには堂本くんもなぜかいる。

 彼は近づいた私をチラリと見ながら、手持ち無沙汰に立っていた。

 福原先生は、そんな彼と私に声をかける。


 福原先生:

「ちょっと悪いが、お前たちに資料作りを頼んでいいか」


 羽鳥 梢:

「え!?」


 堂本 信広:

「うへー……」


 私は驚いて、堂本くんはげんなりした。

 慌てて私は、福原先生に抗議する。


 羽鳥 梢:

「なんで私なんですかー」


 遅刻した堂本くんが罰としてするのはわかるが、なぜ私もなのだ!

 しかし、私を小間使いとして散々使ってくれている福原先生は、馴染みある頼み顔で「まあまあ」なんて言う。


 福原先生:

「堂本だけだと、やり方もよくわからんだろ。お前なら手順もよく知っているし」


 羽鳥 梢:

「そりゃあ先生、よく私をこき使ってますからねぇ」


 つい私も、嫌味を言ってしまう。

 でも、頼まれると断れない。小さく息を吐いて引き受けてしまう。


 あーあ、こういうところが、福原先生につけこまれる要因なんだろうなぁ。


 堂本 信広:

「お前は、相変わらずだな」


 羽鳥 梢:

「ほっといてちょうだい!」


 私は待ってくれていたるりに説明をして、先に帰ってもらうことにした。

 手伝おうか? とるりと中曽根は言ってくれたけど、それは2人に悪いし断った。

 午後から2人とも、塾があるって言ってたしな。


 私は先生に言われたとおり、逃げようとする堂本くんを引きずって、1階の資料室へと向かった。



 ・   ・   ・



 堂本 信広:

「うげ、なんだよこの量は」


 羽鳥 梢:

「あの先生は、いつもこんなんだよ」


 案の定、資料室の長テーブルにホチキス留めを待っている大量のプリントの山が置かれていた。

 福原先生は、本当に仕事を溜め込むのがうまい。


 私はプリントをホチキス留めしやすい位置に置きながら、堂本くんに指示を出した。


 羽鳥 梢:

「私がここにまとめたの置いてくから、堂本くんは、それで留めてって。終わったら、私もホチキス留めにまわるから」


 そんな私を、椅子に座った堂本くんが呆れたように見つめてくる。


 堂本 信広:

「慣れてんなぁ」


 羽鳥 梢:

「残念ながらね」


 早く終わらせて帰りましょ、と言って私たちは作業を始めた。


 ペラ、ペラ、トントン、と私が資料を1部ずつ作る。

 パチン、パチン、と堂本くんがホチキス留めをする。

 そんな単調な音が、資料室で静かに響いた。


 2人とも特に何も話さないから、この中は静かだ。

 黙々と作業を進めていると、外から雨音が聞こえてきた。


 羽鳥 梢:

「…………」


 堂本 信広:

「…………」


 ……今日の堂本くん、減らず口も叩かないな。

 なんか変な感じ。


 ちょっとやりにくいな、なんて思ってしまう。

 外ではザーザーと雨音が響いてて、少し空いた左隣に堂本くん。

 それが、少しだけ昨日の克弘さんとのやりとりを思い出させて、また胸がぎゅっとなる。


 雷を怖がってしまった私を、優しくフォローしてくれた克弘さん。

 あんなお兄ちゃんがいたら、本当によかったのにな……なんて考えてしまう。


 羽鳥 梢:

「…………」


 羽鳥 梢:

(やっぱりちょっと、似てるかも)


 チラリと、堂本くんの顔をのぞき見た。

 下に向けてホチキス留めをしているその横顔は、克弘さんに少し似ている。

 まぁ兄弟だから、当たり前だよね。


 でも、克弘さんの顔は、なんていうかこう……柔らかいというか、もっとふんわりしてるというか……。


 堂本 信広:

「……何だよ」


 羽鳥 梢:

「へ?」


 ギロッと堂本くんがこちらを見た。


 堂本 信広:

「ガンつけしてんじゃねーぞ」


 羽鳥 梢:

「いや、してないし!?」


 どうやら、堂本くんの顔を見すぎてしまっていたらしい。

 ガンつけしてるのはそっちじゃん! と憤慨して、私は再び手を動かし始めた。


 しかし、その時。


 ゴロゴロと、嫌な音が外から響いてきた。




 ◇ 続く ◇

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