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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第三章 最終便、発車します《3年生編》
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223/273

Ep.47 彼女がほしい!

1話完結

 おい。

 おいおいおい。

 冗談じゃねーぞ!


 井本 修:

(う……)


 井本 修:

(嘘だろー!?)


 でろん、と抹茶ソフトクリームが、コーンからはみ出て俺の手に落ちる。


 修学旅行2日目の、京都自由行動の時間。

 俺、井本修は、趣きある古都の町並みを悲しきかな、野朗どもとともにしていた。

 そんな中。

 見つけちまった、超ショックな現場!!


 井本 修:

(こ……)


 井本 修:

(小池の裏切り者ー!!)


 細い路地の奥。

 隠れるように手をつないでいた、俺たちと同じ青葉中の制服の男女。

 小池隼人と松宮茜だった。


 はにかむように笑い合う2人。

 身長が同じぐらいだから顔が近い、近いぞぉ!


 小池……お前だけが、俺の味方だったはずなのにー!!



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 彼女がほしい!


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 その日の夜、俺は大谷を引き連れて小池の部屋へと押しかけた。

 小池と同室のやつもまた、別の部屋に遊びに行っているらしく、1人部屋にいた小池は突然押しかけた俺たちにビックリしている。


 井本 修:

「どーいうことだ小池! 説明してもらおうか!」


 大谷 圭介:

「そうだぞー、俺にも内緒なんてつれねーぞ!」


 小池 隼人:

「えぇー……」


 俺と大谷がベッドに座り、小池は窓際の椅子に腰掛けながら困惑している。

 中曽根も連れてきたかったが、やつは行方をくらましていた。

 2対1で追求されては、さすがの小池も観念せざるを得ない。

 ふぅ、と息を吐いて説明した。


 小池 隼人:

「うん、僕ら付き合い始めたんだ」


 ちょっと嬉しそうな顔をして告げた。


 ぐぬぬ……!

 ま、まさかお子ちゃま小池にまで先を越されるとはー!


 大谷 圭介:

「隼人まじか! やったじゃん!」


 大谷は単純に喜んでいる。

 ちくしょう、これが彼女持ちの余裕ってやつなのか……!


 小池 隼人:

「内緒にしておいてね。松宮さん、まだ秘密にしておきたいんだって」


 その口ぶりからして、松宮が口止めをしているらしい。

 少しやさぐれかけている俺。つい意地悪なことを言ってしまう。


 井本 修:

「ふーん。松宮のやつ、本当に小池のこと好きなのかねぇ」


 小池 隼人:

「え?」


 井本 修:

「だって好きなら、堂々と付き合うもんじゃねーの?」


 ケッと吐いた俺に、大谷が「テメェ井本!」と叱咤する。

 しかし、目の前の小池は腹立たしくもこう言いやがったのだ。


 小池 隼人:

「松宮さん、照れ屋だから」


 小池 隼人:

「そういうところが、可愛いんだけどね」


 うわあああ!

 めっちゃ腹立つこの惚気ー!!


 井本 修:

「こ、小池がそんなやつだとは思わなかった!!」


 大谷 圭介:

「やー、隼人も男だねー」


 よよよと泣く俺に、はははと笑う大谷。

 悲しきことに今、男の明暗がしっかり俺たちを隔てているのだ。


 ちくしょー!

 俺だって……彼女ほしいー!!



 ・   ・   ・



 青葉中は、3年生の夏にカップルが増えると聞いたことがある。


 なぜなら応援団のハチマキの伝統や、この修学旅行に向けて告白をするやつらが後を絶たないからである。

 くそう、俺は乗り遅れちまったのか……!


 3日目の最後の京都観光。

 俺たちはガイドに連れられ、清水寺を歩いている。

 クラスごとに動くそこでは、気のせいか男女で歩くやつらが多いように感じてしまう。


 せっかくの修学旅行。

 髪型もワックスでバッチリと決めているというのに。

 ああ、俺の青春はどこでどう間違ったのか。


 上田 里美:

「ちょっと井本、あんたどこに行こうとしてんの」


 井本 修:

「ぐえ」


 俺の首根っこを掴んできたのは里美だ。

 どうやら俺は、いつの間にか列からはみ出ていたようで、里美によって引き戻される。


 井本 修:

「……里美、男には1人になりたい時があるんだよ」


 上田 里美:

「はいはい。それは大変ですね」


 くそう、なんて可愛くない女なのだ!


 里美は幼馴染みという恰好のポジションにいるくせに、まったく恋愛対象にならない。

 なんというか、しおらしさや女の子らしさが足りないんだよな。

 あーあ、どうせなら中曽根みたいに、戸田さんのような可愛い女の子の幼馴染みがよかったぜ。


 はぁ、と深くため息を吐く俺。

 立ち止まり空を見上げれば、青い空が俺をなぐさめるように爽やかな風を吹かしている。


 井本 修:

(ふっ……今日の風は身にしみるぜ……)


 しみたついでに彼女も寄こしてください。

 なんて考えていたら、誰かが俺の背中に激突した。


 井本 修:

「いだっ」


 早乙女 茉莉:

「ふぇっ」


 クラスメイトの早乙女だった。


 井本 修:

「んだよ早乙女ー、ぶつかるなよなー」


 早乙女 茉莉:

「ご、ごめん」


 すると里美が、俺の頭を軽く小突いた。


 上田 里美:

「あんたがぼーっと突っ立ってるからでしょ! なに茉莉ちゃんに当たってんのよ!」


 井本 修:

「いて! 暴力反対!」


 早乙女 茉莉:

「だ、大丈夫だよ、里美ちゃん」


 早乙女が慌てて里美に声をかけた。


 早乙女茉莉は、3年生で初めて同じクラスになったが、その前に一緒に遊園地へ行ったことがある。

 団体で行ったあの遊園地。

 思えば、もうあの中で2組もカップルはいて、そして小池と松宮もくっついてしまったのだ。


 井本 修:

(てことは……俺とこいつー?)


 なんて考えたこともあったけど。

 ないない、無理だね。

 俺のタイプはもっと可愛くて、ボンキュッボーンで、セクシーも兼ね揃えた女の子だ。

 早乙女じゃ、お子ちゃますぎるぜ!


 しかし早乙女は、何やら俺のことをジッと見てくる。

 な、なんだ?

 こいつって表情読めねーから、そうされるとちょっと怖い。


 早乙女 茉莉:

「……井本くん、髪型変えた?」


 井本 修:

「ん? あ、おう!」


 変えたというか、ワックスつけただけだけど。

 それが何だろうと思った瞬間。


 早乙女 茉莉:

「──ちょっと、カッコよくなったね!」


 井本 修:

「!?」


 早乙女は突然そんなことを言って笑った──ように見えた。


 井本 修:

「……はぁ!?」


 しかしそこで、早乙女は里美に呼ばれて向こう側に行ってしまう。

 いつの間にか、自由時間になったらしい。

 背を向け去る彼女に俺は、動揺を隠せない。


 井本 修:

(カカカカ……カッコいい!?)


 あいつ……まさか!!


 井本 修:

(俺に気があるのか!)


 ガーン、知らなかった!

 俺って案外モテるんだ……うわあ、やべえ。


 井本 修:

(ふっ……まいっちまったなぁ。お子ちゃまは興味ねーんだけどよぉ)


 でへへへ。

 でもまあ、彼女候補くらいになら、してやってもいいかもなぁ。

 早乙女も磨けば光るかもしんねーしぃ。

 俺も罪作りな男だぜ!


 とその時、清水寺のあるゾーンで、男子が集まり始めていた。

 何やら戸田さんと中曽根に何かあったみたいだ。

 キラリと目を光らせた俺は、ダッシュでそこに駆けつけた。



 …………………………………



 上田 里美:

「茉莉ちゃん、さっき井本にカッコイイなんて言ってなかった?」


 早乙女 茉莉:

「うん! 私、るりちゃんを見習って人をきちんと褒めようと思って」


 上田 里美:

「……本当にカッコいいって思ったの?」


 早乙女 茉莉:

「んー? そう言ったら喜ぶかなぁって……井本くん今日、すごく髪型決めてるし」


 上田 里美:

「……茉莉ちゃん」


 上田 里美:

「そういうところが、あいつを勘違いさせるのよ」


 早乙女 茉莉:

「ふぇ?」


 …………………………………



 そんな会話を里美と早乙女がしていることも知らず、俺は「キスした」発言をしやがった中曽根に、鬼の形相で詰め寄っていたのだった。




 ◇ 終わり ◇

❀次エピソードへ続く

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