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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第三章 最終便、発車します《3年生編》
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Ep.44 ふれる(3)「君が見えない」

 約束していた2日目の京都での自由行動。

 それに行けなくなったというメッセージをくれた悠。

 私は慌てて返信する。


………………………………


 るり:

「どうしたの? 何かあった?」


………………………………


 悠からの返信は、なかなかすぐにこない。

 もしかしたら、気づいてないのかもしれない。

 しばらくして、悠からのメッセージが届いた。


………………………………


 悠:

「本当にごめん。今度埋め合わせする!」


………………………………


 理由を教えてくれない悠。

 むむー、とつい唇を尖らせてしまう。


 戸田 るり:

(もー、何でぇ?)


 せっかく楽しみにしていたのに!


 カバンの中にある、付箋だらけの情報誌。

 それがすべておじゃんになってしまって、ガックリとうなだれた。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 ふれる

(3)「君が見えない」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 結局2日目は、自由行動を班の子たちとまわることにした。

 まぁ、普通ならばそれが当たり前なのだ。

 もしかしたら悠も、班の子たちに負い目があったか、からかわれたりとかで抜け出せなくなったのかもしれない。


 ……と無理矢理、自分を納得させて京都の町を歩く。

 今は、瞳ちゃんたちと一緒に、私が行きたかった抹茶スイーツのお店へと向かっていた。


 佐々倉:

「今どこー?」


 三橋:

「ここでしょ、あともうちょっとだよ」


 前方を歩く佐々倉さんと三橋さんが、観光案内地図を見ながら奮闘している。

 その後ろでは瞳ちゃんが、昨日の夜のことをずっと私に話していた。


 湯山 瞳:

「昨日、るりちゃん早く寝ちゃうから残念だったー! みんなの暴露話、面白かったのに」


 戸田 るり:

「ご、ごめんね」


 昨日は前日の寝不足もあって、わざとではなく、本当にすぐに眠たくなってしまった。

 気づいたら、就寝時間の前には寝ていたのだ。

 私だって友達とのおしゃべりは好きだから、素直に残念だと思う。


 戸田 るり:

「瞳ちゃんの暴露は何だったの?」


 湯山 瞳:

「え、私!?」


 瞳ちゃんの瞳がくりっと丸くなる。

 そして小さく笑うと「へへー、じつは」と続けた。


 湯山 瞳:

「私の夢はなんと、少女漫画家なのです!」


 そう言った瞳ちゃんの笑顔は、とっても素敵だ。

 ちょっとだけ赤らんだほっぺが、本人が照れていることを証明していたけれど、でも恥ずかしがる様子もなく堂々と言える彼女はすごいと思う。


 戸田 るり:

「へえ、すごい! 今も描いたりしてるの?」


 湯山 瞳:

「うん、ノートにちょこちょこね〜」


 戸田 るり:

「私、読んでみたいなぁ」


 少女漫画は私も好きだ。

 とくに恋愛漫画はドキドキしちゃって、私もこんな風に恋をしたいなぁなんて思っちゃう。

 しかしその私の言葉に、瞳ちゃんの目がキラリと光った。


 湯山 瞳:

「それなら、取材させてるりちゃん!」


 戸田 るり:

「え?」


 湯山 瞳:

「ネタ提供、ネタ提供! リアルな恋愛話、聞かせてよ〜」


 ひゃあ、やぶ蛇だった!


 でも、そう言って腕を絡ませてくる瞳ちゃんを何だか無下に振りほどけない。

 くすぐったい戸惑いに、つい悠とのことで落ち込んでいた私も笑ってしまう。

 瞳ちゃんの、こういう底抜けに明るいところ、好きだなぁ。


 三橋:

「はいはーい! いちゃついてるところ、すみません! 2人とも、お店に着いたよー」


 私が瞳ちゃんとじゃれ合っていると、振り返った三橋さんが声をかけてくれた。

 どうやら、目当てのお店を見つけたらしい。


 佐々倉:

「わーい、着いた着いた!」


 見つけたのは、抹茶パフェが美味しいと噂のレトロカフェだ。

 木目調の濃茶色の引き戸を、佐々倉さんがうきうきと引く。

 すると、中から出てきた人物と、彼女は正面衝突してしまった。


 佐々倉:

「あだ!」


 堂本 信広:

「っと!」


 出てきたのは、うちの制服姿の男子生徒──堂本くんだった。

 しかも、その後ろからぞろぞろと、3人の男子がお店から現れる。


 勝山:

「何だお前らもかー」


 そう言ったこの子はたしか勝山くんだ。あとの2人は、吉井くんと藤原くん。

 どうやら彼らも、ここで休憩をしていたらしい。


 戸田 るり:

(あれ……このメンバーって)


 たしか、悠と同じ班の子じゃなかったっけ。5月の雨の日の会話を思い出す。

 でも、悠の姿は出てこない。

 お店をのぞいても姿はない。


 何となく──嫌な予感がして、私は去っていこうとする堂本くんに声をかけた。


 戸田 るり:

「あの、悠は一緒じゃないの?」


 堂本 信広:

「中曽根?」


 堂本くんはきょとんと私を見つめると、首をかしげて言った。


 堂本 信広:

「あいつなら抜けてったぞ。てっきり戸田と会うのかと思ったけど、違うのか?」


 戸田 るり:

「……!」


 心臓が大きく跳ねた。


 え。

 それって一体、どういうこと。


 湯山 瞳:

「あれ、るりちゃんたしか、中曽根くんとの約束がなしになったって……」


 私の背後にいた瞳ちゃんが、話を聞いていたのかつぶやく。


 湯山 瞳:

「えー、まさか中曽根くん、浮気してたりしてー!」


 戸田 るり:

「……!」


 戸田 るり:

「やめてよ!」


 湯山 瞳:

「!!」


 つい出てしまった怒鳴り声。

 それに瞳ちゃんの体が硬直してしまう。


 あ──私、今、嫌な顔をきっとしている。


 湯山 瞳:

「……ご、ごめん、るりちゃんっ」


 瞳ちゃんは慌てて、謝った。

 佐々倉さんと三橋さんも「あんた言い過ぎだよ」「もー、瞳ちゃんはー」と、私を擁護してくれる。


 でも。

 でも最悪なのは、私のほうだ。


 最初は自由時間も抜け出すつもりでいて。でも急にできなくなって、仲間にまた入れてもらったのに。

 八つ当たりをしてしまった私だ。


 それなのに。


 戸田 るり:

(何で……? 悠……)


 私の頭の中は真っ白で、それだけしかなくて、謝っている瞳ちゃんに「いいよ」と言えることができなかった。


 楽しいはずだった、修学旅行の自由時間。

 それを私は、私の都合だけで、班の子たちにも嫌な気持ちを味わわせてしまったんだ。



 ・   ・   ・



 結局あれからは、明るい瞳ちゃんと佐々倉さん、そしてフォロー上手な三橋さんとのおかげで、自由行動の雰囲気も何とか戻すことができた。


 私は申し訳ない気持ちでいっぱいで、無理やり悠のことを頭から追い出して、楽しむことに全力投球する。


 でも。

 それでも頭の片隅では、悠の行方が気になってる。

 トイレに行くフリをして、一度悠に連絡を取ってみた。


………………………………


 るり:

「さっき堂本くんたちに会ったよ。悠、どこに行ってるの?」


………………………………


 聞くのはとても、勇気がいることだった。

 でも私は、不安を抑えきることができなくて、震えそうになる指先でそのメッセージを送信する。


 すぐに返ってきた彼からの返事。

 でもそれは、私の望んでいるものじゃなかった。


………………………………


 悠:

「ごめん。ちょっと一人にさせて」


………………………………


 戸田 るり:

「……!?」


 そのメッセージを見て、心がざわつく。


 一人にさせてって、一体どういうこと?

 悠は今、一人でどこかに行ってるってこと?

 何で……何で一人でいたいの?


 戸田 るり:

「…………」


 聞いて……いいのだろうか。

 彼にそのことを、ぶつけてもいいのだろうか。


 わからない。

 だって今、悠は確実に私に対して線を引いている。


 ここから立ち入らないでほしい、という境界線。

 ピッと引かれた、まっすぐな線。

 それを前に私はただ、立ち尽くすしかなかった。


 戸田 るり:

(悠……わかんないよ……)


 それ以上みんなを待たせることもできず、私は使用していないトイレの水を流して、グッと顔を上げた。




 ◇ 続く ◇

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