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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第三章 最終便、発車します《3年生編》
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Ep.44 ふれる(2)「君と私の宝物」

 1日目は移動で慌ただしい。

 京都駅から、また電車を乗り継いで奈良へ向かい、観光バスに乗り込む。


 東大寺では、有名な奈良の大仏を見た。

 男子なんかは、大仏の鼻の穴と同じ大きさだという柱の穴で、何やら楽しそうにはしゃいでいる。


 大谷 圭介:

「これくぐると、ご利益あるらしーぞ! 井本くぐってみろよー」


 井本 修:

「無理無理! 肩も入んねー……って大谷、ケツ押すな!!」


 サッカー部の悪ガキコンビは、ここでも騒がしい。

 そんな2人を見て、悠も顔を崩して笑っていた。


 中曽根 悠:

「井本、押し込んでやろーぜ!」


 井本 修:

「中曽根やめろー! いだだだだ!」


 そんな彼らを見て、女子は「バッカだー」「やだもー」なんてクスクス笑っている。

 私はホッとした。


 戸田 るり:

(よかった。悠、いつもどおり元気だよね)


 昨日から心にくすぶる何かが、遠くに見える悠の存在を私に意識させる。

 そんな風にして、1日目は過ぎていった。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 ふれる

(2)「君と私の宝物」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 1日目の宿泊先は、奈良と京都の県境にある老舗の大きな旅館だった。

 そこでは、一部屋の大和室に約10名ずつが割り振られることになる。

 私の班は1組の子と同じで、なんと嬉しいことに梢ちゃんと一緒になった。

 夕食も食べ終えた今、生徒たちはわずかな自由時間を堪能する。


 戸田 るり:

「梢ちゃんと同じ部屋で寝るのって、久しぶりだね!」


 羽鳥 梢:

「小学校の修学旅行以来だ」


 カバンを開けて入浴準備をしながら、梢ちゃんとお話する。

 するとそこに、瞳ちゃんが「ねぇねぇ」と声をかけてきた。

 それはどうやら私ではなく、梢ちゃんに、のようだ。


 羽鳥 梢:

「湯山さん、なーに?」


 瞳ちゃんとそこまで接点はなかったはずの梢ちゃんだけど、くるっと明るい表情を振り向かせる。さすが、みんなとすぐに仲良くなれる梢ちゃんだ。

 でもそれも、次の瞳ちゃんの発言で、ピタッと固まってしまう。


 湯山 瞳:

「羽鳥さん、秋山くんに告白されたって本当!?」


 羽鳥 梢:

「!!」


 その言葉に、他の子たちも一斉に梢ちゃんに注目して集まった。


 生徒1:

「あ、それ私も気になってた-!」


 生徒2:

「噂になってたよねー、秋山フラれたんじゃない? て」


 羽鳥 梢:

「えぇー……」


 珍しく、梢ちゃんは少し赤くなって困惑している。

 否定をすぐにしないのを見ると、どうやら事実らしい。


 戸田 るり:

(ひゃー、あの梢ちゃんにも、ついに恋バナが……!)


 私もちょっとだけワクワクして、つい身を乗り出したくなってしまう。

 でも、梢ちゃんがムッとしたのがわかって、私は出そうになった好奇心を引っ込めた。


 羽鳥 梢:

「……そんなの、ペラペラ言っていいことじゃないよ」


 それはいつもより少し、トーンが低い声だった。

 でも気づかないみんなは、ワイワイ梢ちゃんに話しかける。


 生徒1:

「でもあの秋山が応援団入ってたから、噂になってたよー」


 生徒2:

「絶対羽鳥さん狙いだよねーって」


 生徒1:

「スポーツ大会後、めちゃくちゃ落ち込んでるしさぁ」


 湯山 瞳:

「あいつ、わかり易すぎだよね! まぁそこが、いいところでもあるんだろうけど」


 きゃいきゃいと、はしゃぐみんな。

 ちょっとだけ心配した私は、梢ちゃんにこっそり声をかける。


 戸田 るり:

「梢ちゃん、あんまり気にしないでね。みんなテンション高いだけだから」


 羽鳥 梢:

「わかってる」


 でもくだらない、なんて言いそうな顔で、梢ちゃんはため息をついた。

 あー、梢ちゃんはやっぱり梢ちゃんだ。

 苦笑した私。


 すると、テンションが高くなったみんなはそのままなんと、近くにいた私へとターゲットを切り替えた。


 湯山 瞳:

「るりちゃんはさ、中曽根くんとはどんな馴れ初めだったの?」


 新幹線でのことは忘れていなかった湯山さん。なんともキラキラした目で、私に質問を投げかける。


 戸田 るり:

「え!? えーと……」


 湯山 瞳:

「告白ってどっちからしたの?」


 戸田 るり:

「え……えっと……私……?」


 消しゴムに私の名前を書いて、両想いだと教えてくれたのは悠。

 保健室で告白したのは私。

 少し混乱しかけて、首をかしげて拙く答える。


 湯山 瞳:

「わー、るりちゃんやるー!」


 生徒1:

「どんなふうに告白したの?」


 戸田 るり:

「え……えーと……」


 生徒2:

「デートとか、どこ行ってるの?」


 湯山 瞳:

「キスはもうしたの!?」


 戸田 るり:

(ひ、ひゃー、勘弁してぇ~)


 困っていた私を助けてくれたのは、やっぱり梢ちゃんだった。

 いつの間にか準備し終えた入浴道具を持って、すくっと立ち上がる。


 羽鳥 梢:

「はいはい、早くお風呂行かないと、時間なくなっちゃうよ~!」


 腰に片手を当てて立ち上がるその姿は、何とも頼もしい。

 私は梢ちゃんの助け船に乗っかり「そうそう、早く行こう!」と準備を進めた。


 みんなも空気を読んでくれたのか、それ以降は強い追求もなく、わいわいと大浴場へと向かうことになった。



 ・  ・  ・



 女の子は、基本的に恋バナが好きだ。

 それは私にだってもちろん当てはまっていて、人の恋愛話を聞くのはドキドキして楽しい。たまに、ついからかったり、詳しく質問しちゃうときもある。


 戸田 るり:

(でも……)


 戸田 るり:

(それって、あんまりよくないことだったよね)


 と反省して、天然露天風呂に顔の半分をつけてぶくぶくと沈んだ。

 さっきの悠との仲の質問攻めは、本当にまいった。

 そして思い出したのは、1年生の頃の悠と付き合うに至るまでのあれこれだ。


 おまじないが見つかりそうになって、ケンカをした春先の教室。

 消しゴムの名前を見せてくれた悠の笑顔と、放課後の理科室。

 篠田先生のおせっかいで告白する羽目になった、彼と2人きりの保健室。

 それのどれもが、私にとっては大切な思い出で。

 心の中で、神聖なものをしまっておく宝箱があるならば、奥の奥にしまいこんでおきたい宝物だった。


 それに興味本位でふれられるのは、少しだけ心苦しい。


 戸田 るり:

(梢ちゃんと美羽は、片想い時代からだから、そうでもないけれど……)


 友達でも、ふれてほしくない子と、ふれてもいい子がいる。

 それって、自己中心的な考えだろうか。

 ちょっと自分に嫌悪感。


 その時。


 望月 美羽:

「るりっち、はっけーん!」


 バシャン! と勢いよく美羽が、私の横にやってきた。裸んぼう同士、肩を並べて露天風呂につかる。


 望月 美羽:

「なんかボーッとしてた?」


 戸田 るり:

「ううん。お湯が気持ちいいなーって」


 美羽の笑顔を見られて、ホッとする。

 美羽も恋愛話が好きだけど、私が本当に嫌がるところまでは突っ込んで聞かない。

 主に自分のことを話してくれるから安心だ。


 望月 美羽:

「気持ちいいよねー! 大きい温泉最高っ」


 美羽はパシャパシャお湯を顔にかけながら、美容成分があるんだよ! なんて教えてくれる。


 戸田 るり:

「美羽」


 望月 美羽:

「ん?」


 戸田 るり:

「……ありがとう」


 望月 美羽:

「え、何が!?」


 何だか突然美羽にお礼を言いたい気分になって、目を丸くする美羽に微笑んだ。



 ・  ・  ・



 でも、お風呂上がり。

 部屋に戻った私は、スマホに届いていた悠からのメッセージを見て、戸惑う羽目になる。


………………………………


 悠:

「ごめん! 明日の自由行動、行けなくなった」


………………………………


 その画面を見て、私は「えぇっ」と、小さく悲鳴を上げた。




 ◇ 続く ◇

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