Ep.44 ふれる(2)「君と私の宝物」
1日目は移動で慌ただしい。
京都駅から、また電車を乗り継いで奈良へ向かい、観光バスに乗り込む。
東大寺では、有名な奈良の大仏を見た。
男子なんかは、大仏の鼻の穴と同じ大きさだという柱の穴で、何やら楽しそうにはしゃいでいる。
大谷 圭介:
「これくぐると、ご利益あるらしーぞ! 井本くぐってみろよー」
井本 修:
「無理無理! 肩も入んねー……って大谷、ケツ押すな!!」
サッカー部の悪ガキコンビは、ここでも騒がしい。
そんな2人を見て、悠も顔を崩して笑っていた。
中曽根 悠:
「井本、押し込んでやろーぜ!」
井本 修:
「中曽根やめろー! いだだだだ!」
そんな彼らを見て、女子は「バッカだー」「やだもー」なんてクスクス笑っている。
私はホッとした。
戸田 るり:
(よかった。悠、いつもどおり元気だよね)
昨日から心にくすぶる何かが、遠くに見える悠の存在を私に意識させる。
そんな風にして、1日目は過ぎていった。
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ふれる
(2)「君と私の宝物」
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1日目の宿泊先は、奈良と京都の県境にある老舗の大きな旅館だった。
そこでは、一部屋の大和室に約10名ずつが割り振られることになる。
私の班は1組の子と同じで、なんと嬉しいことに梢ちゃんと一緒になった。
夕食も食べ終えた今、生徒たちはわずかな自由時間を堪能する。
戸田 るり:
「梢ちゃんと同じ部屋で寝るのって、久しぶりだね!」
羽鳥 梢:
「小学校の修学旅行以来だ」
カバンを開けて入浴準備をしながら、梢ちゃんとお話する。
するとそこに、瞳ちゃんが「ねぇねぇ」と声をかけてきた。
それはどうやら私ではなく、梢ちゃんに、のようだ。
羽鳥 梢:
「湯山さん、なーに?」
瞳ちゃんとそこまで接点はなかったはずの梢ちゃんだけど、くるっと明るい表情を振り向かせる。さすが、みんなとすぐに仲良くなれる梢ちゃんだ。
でもそれも、次の瞳ちゃんの発言で、ピタッと固まってしまう。
湯山 瞳:
「羽鳥さん、秋山くんに告白されたって本当!?」
羽鳥 梢:
「!!」
その言葉に、他の子たちも一斉に梢ちゃんに注目して集まった。
生徒1:
「あ、それ私も気になってた-!」
生徒2:
「噂になってたよねー、秋山フラれたんじゃない? て」
羽鳥 梢:
「えぇー……」
珍しく、梢ちゃんは少し赤くなって困惑している。
否定をすぐにしないのを見ると、どうやら事実らしい。
戸田 るり:
(ひゃー、あの梢ちゃんにも、ついに恋バナが……!)
私もちょっとだけワクワクして、つい身を乗り出したくなってしまう。
でも、梢ちゃんがムッとしたのがわかって、私は出そうになった好奇心を引っ込めた。
羽鳥 梢:
「……そんなの、ペラペラ言っていいことじゃないよ」
それはいつもより少し、トーンが低い声だった。
でも気づかないみんなは、ワイワイ梢ちゃんに話しかける。
生徒1:
「でもあの秋山が応援団入ってたから、噂になってたよー」
生徒2:
「絶対羽鳥さん狙いだよねーって」
生徒1:
「スポーツ大会後、めちゃくちゃ落ち込んでるしさぁ」
湯山 瞳:
「あいつ、わかり易すぎだよね! まぁそこが、いいところでもあるんだろうけど」
きゃいきゃいと、はしゃぐみんな。
ちょっとだけ心配した私は、梢ちゃんにこっそり声をかける。
戸田 るり:
「梢ちゃん、あんまり気にしないでね。みんなテンション高いだけだから」
羽鳥 梢:
「わかってる」
でもくだらない、なんて言いそうな顔で、梢ちゃんはため息をついた。
あー、梢ちゃんはやっぱり梢ちゃんだ。
苦笑した私。
すると、テンションが高くなったみんなはそのままなんと、近くにいた私へとターゲットを切り替えた。
湯山 瞳:
「るりちゃんはさ、中曽根くんとはどんな馴れ初めだったの?」
新幹線でのことは忘れていなかった湯山さん。なんともキラキラした目で、私に質問を投げかける。
戸田 るり:
「え!? えーと……」
湯山 瞳:
「告白ってどっちからしたの?」
戸田 るり:
「え……えっと……私……?」
消しゴムに私の名前を書いて、両想いだと教えてくれたのは悠。
保健室で告白したのは私。
少し混乱しかけて、首をかしげて拙く答える。
湯山 瞳:
「わー、るりちゃんやるー!」
生徒1:
「どんなふうに告白したの?」
戸田 るり:
「え……えーと……」
生徒2:
「デートとか、どこ行ってるの?」
湯山 瞳:
「キスはもうしたの!?」
戸田 るり:
(ひ、ひゃー、勘弁してぇ~)
困っていた私を助けてくれたのは、やっぱり梢ちゃんだった。
いつの間にか準備し終えた入浴道具を持って、すくっと立ち上がる。
羽鳥 梢:
「はいはい、早くお風呂行かないと、時間なくなっちゃうよ~!」
腰に片手を当てて立ち上がるその姿は、何とも頼もしい。
私は梢ちゃんの助け船に乗っかり「そうそう、早く行こう!」と準備を進めた。
みんなも空気を読んでくれたのか、それ以降は強い追求もなく、わいわいと大浴場へと向かうことになった。
・ ・ ・
女の子は、基本的に恋バナが好きだ。
それは私にだってもちろん当てはまっていて、人の恋愛話を聞くのはドキドキして楽しい。たまに、ついからかったり、詳しく質問しちゃうときもある。
戸田 るり:
(でも……)
戸田 るり:
(それって、あんまりよくないことだったよね)
と反省して、天然露天風呂に顔の半分をつけてぶくぶくと沈んだ。
さっきの悠との仲の質問攻めは、本当にまいった。
そして思い出したのは、1年生の頃の悠と付き合うに至るまでのあれこれだ。
おまじないが見つかりそうになって、ケンカをした春先の教室。
消しゴムの名前を見せてくれた悠の笑顔と、放課後の理科室。
篠田先生のおせっかいで告白する羽目になった、彼と2人きりの保健室。
それのどれもが、私にとっては大切な思い出で。
心の中で、神聖なものをしまっておく宝箱があるならば、奥の奥にしまいこんでおきたい宝物だった。
それに興味本位でふれられるのは、少しだけ心苦しい。
戸田 るり:
(梢ちゃんと美羽は、片想い時代からだから、そうでもないけれど……)
友達でも、ふれてほしくない子と、ふれてもいい子がいる。
それって、自己中心的な考えだろうか。
ちょっと自分に嫌悪感。
その時。
望月 美羽:
「るりっち、はっけーん!」
バシャン! と勢いよく美羽が、私の横にやってきた。裸んぼう同士、肩を並べて露天風呂につかる。
望月 美羽:
「なんかボーッとしてた?」
戸田 るり:
「ううん。お湯が気持ちいいなーって」
美羽の笑顔を見られて、ホッとする。
美羽も恋愛話が好きだけど、私が本当に嫌がるところまでは突っ込んで聞かない。
主に自分のことを話してくれるから安心だ。
望月 美羽:
「気持ちいいよねー! 大きい温泉最高っ」
美羽はパシャパシャお湯を顔にかけながら、美容成分があるんだよ! なんて教えてくれる。
戸田 るり:
「美羽」
望月 美羽:
「ん?」
戸田 るり:
「……ありがとう」
望月 美羽:
「え、何が!?」
何だか突然美羽にお礼を言いたい気分になって、目を丸くする美羽に微笑んだ。
・ ・ ・
でも、お風呂上がり。
部屋に戻った私は、スマホに届いていた悠からのメッセージを見て、戸惑う羽目になる。
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悠:
「ごめん! 明日の自由行動、行けなくなった」
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その画面を見て、私は「えぇっ」と、小さく悲鳴を上げた。
◇ 続く ◇




