Ep.43 マイペースにいこう
1話完結
いや、本当にね。あの先生は、私を便利な小間使いにしていると思うの。
羽鳥 梢:
(もー)
羽鳥 梢:
(なんで私が、堂本くん探しをしなくちゃいけないわけ!?)
スポーツ大会の日の午後。
私、羽鳥梢は少しだけ怒っていた。
担任で学年主任である福原先生。
午後の終わりの近くにある、3年生男子全員参加の棒倒しまでに、堂本くんがサボって見えないから探してきてと言ってくれた。
そりゃ私、学級委員だけどもさ!
羽鳥 梢:
(ていうか、堂本くんもサボらないでよねっ)
まったくあの不良は、と恒例になりつつある悪態をつく。
校舎裏にも、倉庫近くにもいなかった。
どこに行ったのだ、あの悪ガキは!
外の水飲み場付近を、肩で風を切り歩いていたら、ふと背後から声をかけられた。
?:
「あ……あの、羽鳥っ!」
羽鳥 梢:
「へ?」
そこに、去年クラスメイトだった男の子が、白いハチマキを握りしめて立っていた。
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マイペースにいこう
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堂本くんは、体育館裏にいた。
大きな名も知らぬ木の下の木陰で1人、タオルを枕にして寝っ転がっている。
羽鳥 梢:
「あー、いたー!」
堂本 信広:
「……げっ」
堂本くんは眉間を寄せて、上半身を起こした。
ずかずかと、そんな彼に近寄る。
羽鳥 梢:
「すっごく探した!」
堂本 信広:
「頼んでねーよ」
羽鳥 梢:
「私が先生に頼まれたんです! 棒倒し、もうすぐだよっ」
腰に手を当てて、仁王立ちになる。
必要以上に大声が出てしまう私に、堂本くんがますます眉間を寄せる。
でも──仕方ないのだ。
さっきの出来事のせいで、私のテンションはおかしくなっていた。
堂本 信広:
「……羽鳥、どうした」
羽鳥 梢:
「……へっ?」
堂本 信広:
「顔、真っ赤だけど」
羽鳥 梢:
「……!!」
慌てて私は、ほっぺに両手を当てる。
あっちっち! となるほどではないが、たしかに少しだけ熱い。
羽鳥 梢:
「えっと……別に……」
堂本 信広:
「……」
堂本 信広:
「何、告白でもされたわけ?」
羽鳥 梢:
「!」
堂本くんの言葉に、私の目玉は飛び出そうになる。
羽鳥 梢:
「な、ななな……!?」
すぐ否定すればよかったのに、慌ててしまった私からは変な叫びしか出ない。
すると堂本くんは、目をパチパチさせて「あ、マジで?」なんて言った。……当てずっぽうかい!
堂本 信広:
「へー、誰だよ、その物好き」
ニヤニヤと堂本くんは顔を歪める。
私が嫌いな彼の表情だ。
羽鳥 梢:
「言うわけないでしょ!」
意地の悪い堂本くんにバレたりなんかしたら、あっという間にみんなに知れ渡りそうでイヤだ。
そんな堂本くんはまだ、下品な笑みを口の端に浮かべて言う。
堂本 信広:
「どうせ、秋山あたりだろ」
羽鳥 梢:
「!」
──正解だった。
な……何でわかったの!?
答えない私を見て、当たったことがわかってしまったのだろう。堂本くんは「やっぱりね」と、また笑う。
しまった。嘘でも全力否定すべきだった。
羽鳥 梢:
「……何でわかるの?」
堂本 信広:
「あ? 簡単だよ」
すると堂本くんは、どこか得意げな顔つきになり、推理ショーでもする探偵かのように考えを披露してくれた。
堂本 信広:
「お前も知ってるだろ、応援団のハチマキのバカらしい伝統」
羽鳥 梢:
「え? ああ、うん」
その言葉にドキッとする。
そう、ここ青葉中のスポーツ大会での応援団には、ある伝統が存在する。
応援団をした男の子のハチマキを受け取ることが「恋人の証」になるという、なんともロマンチックなものだ。
そういえば、るりが中曽根から去年受け取っていたし、美羽もさっき、大谷からもらったとはしゃいでいた。
そして、私も先ほど。
堂本 信広:
「彼女もいねえ3年男子が応援団やる理由は、たいていハチマキ使った告白目当てだよ」
堂本 信広:
「秋山なんか、キャラでもねえのに参加してっから、誰かに告るんだろって噂になってたぞ」
羽鳥 梢:
「そ、それでなんで、相手が私ってわかるの?」
堂本 信広:
「んなの、見りゃわかるだろ」
そ、そういうものなの?
でも去年は、秋山くんも堂本くんも私と同じクラスだったから、気づくことがあったのかもしれない。
まだ戸惑っている私を見て、堂本くんは優越感を感じているのか、へっ、とまた笑う。
堂本 信広:
「で、オッケーしたわけ?」
羽鳥 梢:
「し、してないよ」
堂本 信広:
「だろうな」
わかってるなら聞くな!
私は「ふぅ」と、大きく息を吐いた。
堂本 信広:
「お前、まだ男に興味ねーもんな」
羽鳥 梢:
「うるさいなぁ」
去年、私が小池くんを狙っているというとんでもない誤解を先輩たちがして、嫌がらせを受けたことがあった。
その時に、堂本くんに思いきり八つ当たりした私。この件に関しては何も言えない。
クッと小さく、彼は笑った。
堂本 信広:
「別に、いーんじゃねぇの」
そうしてゴロンと、また堂本くんは寝転がる。
棒倒し競技に参加するつもりはないらしい。
でも私もすっかり気をそがれてしまって、彼を引っ張っていく元気もない。
ぺたんと、彼から少し離れて木の下に私も腰掛けた。
それを堂本くんは、ちらりと見ただけで目を閉じる。
なんてマイペースなのだ。
羽鳥 梢:
「……」
羽鳥 梢:
「堂本くんてさ、人間観察けっこう鋭いよね」
ふとそう言うと、彼は視線だけこちらに向けたようだった。
膝を抱えて座っていた私は、じっと地面を散歩するアリを見ている。
以前も、私のことをビシバシ指摘してくれた堂本くん。
ちょっと腹立たしくもあったけど、案外的を射てもいた。
堂本 信広:
「……」
堂本 信広:
「観察しときゃ、有利になるだろ」
堂本くんがつぶやく。
堂本 信広:
「他人の行動を見ておけば、こっちの身の振り方もわかる」
羽鳥 梢:
「……?」
堂本 信広:
「ムカつく時もあるけどな」
羽鳥 梢:
「……」
彼の言わんとしていることは、わかるようでわからない。
堂本くんなんて、自分勝手でマイペースで、他人の顔色を窺って行動するようなタイプには思えないんだけど。
でも。
なぜだか。
その時一瞬だけ、彼が小さな子どものように見えた。
大人の都合に振り回される、声をあげても声を聞いてもらえない、幼子のような。
羽鳥 梢:
「……」
親が離婚して「金田くん」から「堂本くん」に変わった彼。
名前が変わることで、何か変わったのだろうか。
……いや、影響を受けないわけがないんだ。
彼も14、5の男の子。
身の周りの変化に、振り回されないわけがない。
どんなに、マイペースに見えたって。
どんなに、マイペースでいたくたって。
でも。
羽鳥 梢:
「──よし!」
やっぱり、マイペースにいこうよ!
周りなんて、気にしないでさ。
私は重くなりそうだった腰を上げた。
羽鳥 梢:
「休憩終わりっ! 行くよ、堂本くん!」
堂本 信広:
「あ?」
まだ寝転がっている堂本くんの両腕をむんずと掴むと、ええいっと引っ張った。
堂本 信広:
「お、おい!」
羽鳥 梢:
「ほらほら、早く立ちなさいっ」
堂本 信広:
「だー! わかったから引っ張んな!」
彼は乱暴に私の手を振り払うと、やっとこさ腰を上げる。
ギロッと私を睨むけど、もう慣れてしまった私には通用しない。
羽鳥 梢:
「棒倒し頑張ってよね! うちらのクラス今んとこ3位だけど、これで1位も目指せるんだから」
堂本 信広:
「へーへー」
堂本くんは、頭をかきながら歩き出した。
私もその横について歩く。
2人でマイペースに足を進めて、みんなが待つグラウンドへと向かった。
◇ 終わり ◇
❀次エピソードへ続く




