Ep.42 素直まであと4センチ (6)「パニック!」
いったい何が何だか。
どうして──こうなってるの!?
小池 隼人:
「僕、松宮さんが好きだよ」
小池くんにそう言われただけでも、パニックなのに。
森 直人:
「俺だって、松宮が好きだ!」
なぜかそう叫んだ森に、私のキャパはオーバーする。
寝耳に水、青天の霹靂、薮から棒が飛び出して、足元からは突然鳥が羽ばたいた。
──ええい、何が何なんだか!!
松宮 茜:
(え……え……えー!?)
松宮茜、中学3年生。
人生初の告白は、大好きな人と大嫌いなやつからの、まさかのダブルブッキングだった。
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素直まであと4センチ
(6)「パニック!」
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人間、パニックを起こすと本当に口はパクパクして、息も止まるらしい。
頭の中は、猫がじゃれまくった後の毛糸みたいにこんがらがって、もうまともに考えることができない。
松宮 茜:
(えー、えー、えー?)
まるで壊れたように、リピートされる脳内の悲鳴。
キャパオーバー。もう駄目だ。
それなのに何やら目の前で、小池くんと森が口論を始めた。
小池 隼人:
「森くん……人の告白に乗っからないでよ」
森 直人:
「るせー! 俺は小学校の時から好きだったんだぞ!」
えっ、それは知らなかった。
小池 隼人:
「そんなの関係ないよ。早い者勝ちじゃないだろう」
少しだけムッとして答える小池くんが可愛いけれど、凜々しくもあってカッコいいなぁなんてちょっと思う。
でも、まだ混乱している私は「私も小池くんが好きです」が言えなくて、どうすればいいのかわからない。
というか、ヒートアップしていく2人のやり取りに口が挟めない。
森 直人:
「なら告白だってそうだろ!」
小池 隼人:
「図々しいよ、森くん」
……あの。
森 直人:
「お前の方がだろ! つーか、お前マジで前から気にくわなかったんだよ!」
小池 隼人:
「僕もだよ。松宮さんをいじめてさ。あれって、好きな子いじめだったんだ。そんなのもうやめなよ」
……その。
森 直人:
「はぁ!? 何でお前に言われなきゃなんねーわけ?」
小池 隼人:
「それはこっちのセリフだよ」
───もう。
いい加減に…………。
森 直人:
「やるか!?」
小池 隼人:
「……っ!!」
森が、小池くんの体操着の胸ぐらを掴んだ。
その瞬間。
松宮 茜:
「いい加減にしてよ!!」
たまらず私は、大声で叫んだ。
2人の動きはピタッと止まって、こっちを見る。
でも私はもう、頭の中がわけのわからない恥ずかしさで、いっぱいで。
嬉しいのに、それを上回る羞恥心が、私をおののかせ震えさせる。
そして私は。
松宮 茜:
「ふ……」
松宮 茜:
「2人とも、大っキライ!!」
大嘘を吐き出して、前に立つ2人の間を押しのけると体育館倉庫から抜け出した。
バスケ部エースをなめないでよね!
私のダッシュスタートは、ロケット並みに速かったに違いない。
小池 隼人:
「松宮さん!」
松宮 茜:
「!」
それなのに、背後から小池くんの声が聞こえた。
そうだ、彼もサッカー部のレギュラーだ。その脚力は強いに違いない。
ちらりと背後を向けば、小池くんが必死な顔をして追いかけてきている。
う──嘘でしょ!?
松宮 茜:
(な、何でぇ!?)
慌てて体育館出入り口に、走り寄った。
小池くんの後ろに、森はいなかった。どうやら彼は追いかけてきてはいないらしい。
ということは、これは私と小池くんの鬼ごっこだ。
──いやだ、絶対に捕まりたくない!
だって……私、今どんな顔をして小池くんと向き合えばいいのか、わからないよ!
靴を履くことさえ、もどかしい。靴下のまま体育館から飛び出ると、渡り廊下を走り、特別教室棟に駆け込んだ。
人気のないその校舎に、さいわい誰もいないようで、私と小池くんだけの足音が響く。
2人とも靴下のままだから、滑りそうになりながら足をもつれさせ、響かない足音をダンダンと小さくこだまさせる。
私はとにかく、階段を駆け上がる。
つられて小池くんも、駆け上がる。
小池 隼人:
「待って、松宮さん……!」
そんな小池くんの声も聞こえたけれど。
松宮 茜:
「お……」
松宮 茜:
「追いかけてこないでよぉー!!」
泣きそうになって、そう叫んだ。
小池くんは、それでも階段下から私を追うことを止めない。
3階から屋上につながる階段の踊り場で少し振り返れば、小池くんの怒ったような顔が見えた。
小池 隼人:
「……やめないよっ……」
そんな声が一瞬、聞こえた。
そして私は、自分の行動が愚かだったと思い知る。
屋上への扉は──閉まっているのだ。
小池 隼人:
「逃がさないから!」
松宮 茜:
「!」
屋上の扉を開けられない私の背後から。
バンッ!
と小池くんは両手を扉につけて、私を閉じこめる。
すぐ後ろに、小池くんの荒い呼吸が聞こえる。
背が同じくらいだから、私のうなじに彼の息遣いが伝わった。
松宮 茜:
「……っ」
涙目になりそうな、私の後ろで。
小池 隼人:
「……お願い……」
小池 隼人:
「……逃げないで」
小池くんの、懇願めいた声が響く。
そんな彼を、恐る恐る振り返ると。
松宮 茜:
「……っ」
いつにない強い瞳とぶつかって、私はよろっと、背後の扉に背中をあてた。
◇ 続く ◇




