↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第三章 最終便、発車します《3年生編》
PR
209/273

Ep.42 素直まであと4センチ (6)「パニック!」

 いったい何が何だか。

 どうして──こうなってるの!?


 小池 隼人:

「僕、松宮さんが好きだよ」


 小池くんにそう言われただけでも、パニックなのに。


 森 直人:

「俺だって、松宮が好きだ!」


 なぜかそう叫んだ森に、私のキャパはオーバーする。

 寝耳に水、青天の霹靂、薮から棒が飛び出して、足元からは突然鳥が羽ばたいた。


──ええい、何が何なんだか!!


 松宮 茜:

(え……え……えー!?)


 松宮茜、中学3年生。

 人生初の告白は、大好きな人と大嫌いなやつからの、まさかのダブルブッキングだった。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 素直まであと4センチ

(6)「パニック!」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 人間、パニックを起こすと本当に口はパクパクして、息も止まるらしい。

 頭の中は、猫がじゃれまくった後の毛糸みたいにこんがらがって、もうまともに考えることができない。


 松宮 茜:

(えー、えー、えー?)


 まるで壊れたように、リピートされる脳内の悲鳴。

 キャパオーバー。もう駄目だ。

 それなのに何やら目の前で、小池くんと森が口論を始めた。


 小池 隼人:

「森くん……人の告白に乗っからないでよ」


 森 直人:

「るせー! 俺は小学校の時から好きだったんだぞ!」


 えっ、それは知らなかった。


 小池 隼人:

「そんなの関係ないよ。早い者勝ちじゃないだろう」


 少しだけムッとして答える小池くんが可愛いけれど、凜々しくもあってカッコいいなぁなんてちょっと思う。

 でも、まだ混乱している私は「私も小池くんが好きです」が言えなくて、どうすればいいのかわからない。

 というか、ヒートアップしていく2人のやり取りに口が挟めない。


 森 直人:

「なら告白だってそうだろ!」


 小池 隼人:

「図々しいよ、森くん」


 ……あの。


 森 直人:

「お前の方がだろ! つーか、お前マジで前から気にくわなかったんだよ!」


 小池 隼人:

「僕もだよ。松宮さんをいじめてさ。あれって、好きな子いじめだったんだ。そんなのもうやめなよ」


 ……その。


 森 直人:

「はぁ!?  何でお前に言われなきゃなんねーわけ?」


 小池 隼人:

「それはこっちのセリフだよ」


───もう。

 いい加減に…………。


 森 直人:

「やるか!?」


 小池 隼人:

「……っ!!」


 森が、小池くんの体操着の胸ぐらを掴んだ。

 その瞬間。


 松宮 茜:

「いい加減にしてよ!!」


 たまらず私は、大声で叫んだ。

 2人の動きはピタッと止まって、こっちを見る。


 でも私はもう、頭の中がわけのわからない恥ずかしさで、いっぱいで。

 嬉しいのに、それを上回る羞恥心が、私をおののかせ震えさせる。


 そして私は。


 松宮 茜:

「ふ……」


 松宮 茜:

「2人とも、大っキライ!!」


 大嘘を吐き出して、前に立つ2人の間を押しのけると体育館倉庫から抜け出した。


 バスケ部エースをなめないでよね!

 私のダッシュスタートは、ロケット並みに速かったに違いない。


 小池 隼人:

「松宮さん!」


 松宮 茜:

「!」


 それなのに、背後から小池くんの声が聞こえた。

 そうだ、彼もサッカー部のレギュラーだ。その脚力は強いに違いない。

 ちらりと背後を向けば、小池くんが必死な顔をして追いかけてきている。


 う──嘘でしょ!?


 松宮 茜:

(な、何でぇ!?)


 慌てて体育館出入り口に、走り寄った。


 小池くんの後ろに、森はいなかった。どうやら彼は追いかけてきてはいないらしい。

 ということは、これは私と小池くんの鬼ごっこだ。


──いやだ、絶対に捕まりたくない!

 だって……私、今どんな顔をして小池くんと向き合えばいいのか、わからないよ!


 靴を履くことさえ、もどかしい。靴下のまま体育館から飛び出ると、渡り廊下を走り、特別教室棟に駆け込んだ。


 人気のないその校舎に、さいわい誰もいないようで、私と小池くんだけの足音が響く。

 2人とも靴下のままだから、滑りそうになりながら足をもつれさせ、響かない足音をダンダンと小さくこだまさせる。


 私はとにかく、階段を駆け上がる。

 つられて小池くんも、駆け上がる。


 小池 隼人:

「待って、松宮さん……!」


 そんな小池くんの声も聞こえたけれど。


 松宮 茜:

「お……」


 松宮 茜:

「追いかけてこないでよぉー!!」


 泣きそうになって、そう叫んだ。


 小池くんは、それでも階段下から私を追うことを止めない。

 3階から屋上につながる階段の踊り場で少し振り返れば、小池くんの怒ったような顔が見えた。


 小池 隼人:

「……やめないよっ……」


 そんな声が一瞬、聞こえた。

 そして私は、自分の行動が愚かだったと思い知る。


 屋上への扉は──閉まっているのだ。


 小池 隼人:

「逃がさないから!」


 松宮 茜:

「!」


 屋上の扉を開けられない私の背後から。


 バンッ!


 と小池くんは両手を扉につけて、私を閉じこめる。


 すぐ後ろに、小池くんの荒い呼吸が聞こえる。

 背が同じくらいだから、私のうなじに彼の息遣いが伝わった。


 松宮 茜:

「……っ」


 涙目になりそうな、私の後ろで。


 小池 隼人:

「……お願い……」


 小池 隼人:

「……逃げないで」


 小池くんの、懇願めいた声が響く。

 そんな彼を、恐る恐る振り返ると。


 松宮 茜:

「……っ」


 いつにない強い瞳とぶつかって、私はよろっと、背後の扉に背中をあてた。




 ◇ 続く ◇

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。