Ep.42 素直まであと4センチ (4)「思い出の倉庫にて」
7月。
期末テストも終わると、スポーツ大会がついに開催された。
土曜日の晴れ渡った青空の下、私は副体育委員長として本部テントの下にいる。
隣にはなんと、体育委員長として小池くんが座った。
並んでいるパイプ椅子が近いから、ドキドキしてしまう。
小池 隼人:
「今のところ、大きなトラブルもないみたいだね」
松宮 茜:
「うん、小池くんの準備がよかったんだよ」
スポーツ大会当日は、準備していた段取りをどれだけスムーズに進められるかが鍵だ。
でも、しっかりと今まで準備を進めていた小池くんのおかげで、委員会メンバーもテキパキと動いている。
私たちはトラブル時の対応をすればいいだけだが、それも今のところ大きなものはない。
松宮 茜:
(小池くんて、縁の下の力持ちなのかも)
仲のいい大谷のようなみんなを引っ張るパワーも、中曽根くんのような注目を集める華やかさもないけれど、しっかりと自分のすべきことをこなしていく。
それは小池くんらしくて、私が大好きなところ。
そんな彼の横にいられて、今日は本当に幸せだ。
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素直まであと4センチ
(4)「思い出の倉庫にて」
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しかし午後の部の途中で、ちょっとしたアクシデントが起きた。
小池 隼人:
「え、玉入れの玉が足りない?」
本部テントにかけつけた2年生から報告を受けて、小池くんは首をかしげる。
2年生:
「はい。準備していた玉が、いくつか破損していたみたいで」
明らかに、準備したメンバーのチェックミスだった。本来なら当日に気づくなんて、あってはならない。
でも小池くんは2年生を責めることはせず、備品表一覧を見て報告してくれた子に指示をする。
小池 隼人:
「わかった。体育館の倉庫にまだあるはずだから、そこから補充しよう」
そしてプログラムを確認する。
小池 隼人:
「……っと、次は2年生の大縄飛びじゃないか。君も次、参加だろ?」
2年生:
「はい、でも僕の責任なので……」
小池 隼人:
「大丈夫、僕が取ってくるから。報告してくれてありがとう」
小池くんは本当に優しい。
2年生の子は、しきりに頭を下げてテントから離れていった。
小池 隼人:
「じゃあ僕、行ってくるよ」
松宮 茜:
「あ、小池くん待って」
やりとりを見ていた私は、立ち上がろうとする小池くんに声をかける。
松宮 茜:
「私が行くよ。委員長がテントにいなくなるのは、やっぱりよくないし」
小池 隼人:
「え、でも」
松宮 茜:
「大丈夫! 私も役に立ちたいの」
小池 隼人:
「……そっか。ありがとう」
小池くんは戸惑いつつも、また椅子に戻る。
私は、はりきって体育館へと足を向けた。
・ ・ ・
体育館は、スポーツ大会当日は応援団用の備品置き場兼着替え場となる。
午後イチで応援団演舞は終わっているので、今はもう使い終わった大太鼓や長ランが、手前の片隅に固められていた。
松宮 茜:
「うわ、くっさー……」
汗臭い香りが、片隅から漂う。
うえー、男の子の汗臭さは勘弁してほしい。
私は誰もいない体育館に靴下のまま入り込むと、奥の体育館倉庫へと向かった。
松宮 茜:
(体育館倉庫かぁ。……懐かしい)
私と小池くんが、閉じこめられた場所だ。
その扉は開け放たれている。
今日は備品の出し入れが多いから、そのままにしてあるのだ。
松宮 茜:
「えーっと、玉入れの玉は……」
扉から覗くと、目の前の奥の棚に「玉入れ」と書かれた段ボールを見つけた。
ひんやりとした倉庫の中に足を踏み入れる。
すると。
森 直人:
「松……宮?」
松宮 茜:
「! 森……!」
奥の見えない場所に敷かれたマットに、寝そべっている森がいた。
上半身を、慌てたように上げて私を見る。
松宮 茜:
「あんた……何してんの」
森 直人:
「……サボってたんだよ」
森は、居心地悪そうにマットの上であぐらをかく。
私は少しドキドキしながら、でも平気を装って、段ボールに手を伸ばした。
森 直人:
「……松宮は、何しに来たんだよ」
松宮 茜:
「……見てわかんない? 備品を取りに来ただけだし」
我ながら、冷たい言い方だったと思う。
でも森に対する感情が、私の声を低くする。
そんな私の横で、森がゆっくり立ち上がる気配を感じた。
森 直人:
「お前さ、俺には何でそんな態度なわけ?」
松宮 茜:
「……はぁ!?」
何でって……当たり前じゃん!
私、散々あんたにからかわれてたんだよ!?
しかも、ここに閉じこめた張本人じゃない!
そう言い返してやろうと、段ボールを持ったまま森に体を向ける。
でも。
ガシャンッ!
森の両手が、段ボールのあった棚を揺らした。
驚いた私は段ボールを落としてしまって、ドサッと足元に布の紅白玉が散乱する。
棚と森に、挟まれた。
私を見下ろす森の表情が険しくて、怖くて──身がすくむ。
松宮 茜:
「な……に……」
唇が震える。
なぜ森が、こんな行動を取っているのかわからずにパニックになる。
そんな私に、よりいっそう森は険しい顔をして、ゆっくり吐き捨てた。
森:
「……小池が好きなの?」
松宮 茜:
「!」
何で──それを。
カァッと顔が赤くなったのがわかった。
それを見て、森は腕を棚から離して、吹き出した口元に手を寄せた。
森 直人:
「はは! マジかよ! 似合わねー!」
松宮 茜:
「……っ!」
今度は別の意味で、顔が赤らんだ。
森 直人:
「のっぽとチビのカップルかよ! ていうかさ、お前なんか相手にされないんじゃねぇの?」
松宮 茜:
「……っ」
ぷるぷると拳が震えた。
森の笑い声が、私の胸をざわつかせる。
そんなの──そんなの私が、1番わかっている。
私じゃつり合わないって。
こんなおとこ女、相手にされないことくらい。
松宮 茜:
「……ない」
森 直人:
「ははは……え?」
こちらを見た森に向かって、私は苦し紛れに叫んだ。
松宮 茜:
「好きじゃないよ、小池くんのことなんて!」
その声と同時に。
ガタン!
と、体育館倉庫の扉が揺れた。
松宮 茜:
「!?」
森 直人:
「!!」
小池 隼人:
「…………えっと……」
松宮 茜:
「!!」
体育館倉庫の扉付近。
そこに立っていたのは、よりにもよって──小池くんだった。
◇ 続く ◇




