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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第三章 最終便、発車します《3年生編》
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Ep.42 素直まであと4センチ (4)「思い出の倉庫にて」

 7月。

 期末テストも終わると、スポーツ大会がついに開催された。


 土曜日の晴れ渡った青空の下、私は副体育委員長として本部テントの下にいる。

 隣にはなんと、体育委員長として小池くんが座った。

 並んでいるパイプ椅子が近いから、ドキドキしてしまう。


 小池 隼人:

「今のところ、大きなトラブルもないみたいだね」


 松宮 茜:

「うん、小池くんの準備がよかったんだよ」


 スポーツ大会当日は、準備していた段取りをどれだけスムーズに進められるかが鍵だ。

 でも、しっかりと今まで準備を進めていた小池くんのおかげで、委員会メンバーもテキパキと動いている。

 私たちはトラブル時の対応をすればいいだけだが、それも今のところ大きなものはない。


 松宮 茜:

(小池くんて、縁の下の力持ちなのかも)


 仲のいい大谷のようなみんなを引っ張るパワーも、中曽根くんのような注目を集める華やかさもないけれど、しっかりと自分のすべきことをこなしていく。


 それは小池くんらしくて、私が大好きなところ。

 そんな彼の横にいられて、今日は本当に幸せだ。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 素直まであと4センチ

(4)「思い出の倉庫にて」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 しかし午後の部の途中で、ちょっとしたアクシデントが起きた。


 小池 隼人:

「え、玉入れの玉が足りない?」


 本部テントにかけつけた2年生から報告を受けて、小池くんは首をかしげる。


 2年生:

「はい。準備していた玉が、いくつか破損していたみたいで」


 明らかに、準備したメンバーのチェックミスだった。本来なら当日に気づくなんて、あってはならない。

 でも小池くんは2年生を責めることはせず、備品表一覧を見て報告してくれた子に指示をする。


 小池 隼人:

「わかった。体育館の倉庫にまだあるはずだから、そこから補充しよう」


 そしてプログラムを確認する。


 小池 隼人:

「……っと、次は2年生の大縄飛びじゃないか。君も次、参加だろ?」


 2年生:

「はい、でも僕の責任なので……」


 小池 隼人:

「大丈夫、僕が取ってくるから。報告してくれてありがとう」


 小池くんは本当に優しい。

 2年生の子は、しきりに頭を下げてテントから離れていった。


 小池 隼人:

「じゃあ僕、行ってくるよ」


 松宮 茜:

「あ、小池くん待って」


 やりとりを見ていた私は、立ち上がろうとする小池くんに声をかける。


 松宮 茜:

「私が行くよ。委員長がテントにいなくなるのは、やっぱりよくないし」


 小池 隼人:

「え、でも」


 松宮 茜:

「大丈夫! 私も役に立ちたいの」


 小池 隼人:

「……そっか。ありがとう」


 小池くんは戸惑いつつも、また椅子に戻る。

 私は、はりきって体育館へと足を向けた。



 ・  ・  ・



 体育館は、スポーツ大会当日は応援団用の備品置き場兼着替え場となる。

 午後イチで応援団演舞は終わっているので、今はもう使い終わった大太鼓や長ランが、手前の片隅に固められていた。


 松宮 茜:

「うわ、くっさー……」


 汗臭い香りが、片隅から漂う。

 うえー、男の子の汗臭さは勘弁してほしい。

 私は誰もいない体育館に靴下のまま入り込むと、奥の体育館倉庫へと向かった。


 松宮 茜:

(体育館倉庫かぁ。……懐かしい)


 私と小池くんが、閉じこめられた場所だ。

 その扉は開け放たれている。

 今日は備品の出し入れが多いから、そのままにしてあるのだ。


 松宮 茜:

「えーっと、玉入れの玉は……」


 扉から覗くと、目の前の奥の棚に「玉入れ」と書かれた段ボールを見つけた。

 ひんやりとした倉庫の中に足を踏み入れる。

 すると。


 森 直人:

「松……宮?」


 松宮 茜:

「! 森……!」


 奥の見えない場所に敷かれたマットに、寝そべっている森がいた。

 上半身を、慌てたように上げて私を見る。


 松宮 茜:

「あんた……何してんの」


 森 直人:

「……サボってたんだよ」


 森は、居心地悪そうにマットの上であぐらをかく。

 私は少しドキドキしながら、でも平気を装って、段ボールに手を伸ばした。


 森 直人:

「……松宮は、何しに来たんだよ」


 松宮 茜:

「……見てわかんない? 備品を取りに来ただけだし」


 我ながら、冷たい言い方だったと思う。

 でも森に対する感情が、私の声を低くする。

 そんな私の横で、森がゆっくり立ち上がる気配を感じた。


 森 直人:

「お前さ、俺には何でそんな態度なわけ?」


 松宮 茜:

「……はぁ!?」


 何でって……当たり前じゃん!

 私、散々あんたにからかわれてたんだよ!?

 しかも、ここに閉じこめた張本人じゃない!


 そう言い返してやろうと、段ボールを持ったまま森に体を向ける。

 でも。


 ガシャンッ!


 森の両手が、段ボールのあった棚を揺らした。

 驚いた私は段ボールを落としてしまって、ドサッと足元に布の紅白玉が散乱する。

 棚と森に、挟まれた。

 私を見下ろす森の表情が険しくて、怖くて──身がすくむ。


 松宮 茜:

「な……に……」


 唇が震える。

 なぜ森が、こんな行動を取っているのかわからずにパニックになる。

 そんな私に、よりいっそう森は険しい顔をして、ゆっくり吐き捨てた。


 森:

「……小池が好きなの?」


 松宮 茜:

「!」


 何で──それを。

 カァッと顔が赤くなったのがわかった。

 それを見て、森は腕を棚から離して、吹き出した口元に手を寄せた。


 森 直人:

「はは! マジかよ! 似合わねー!」


 松宮 茜:

「……っ!」


 今度は別の意味で、顔が赤らんだ。


 森 直人:

「のっぽとチビのカップルかよ! ていうかさ、お前なんか相手にされないんじゃねぇの?」


 松宮 茜:

「……っ」


 ぷるぷると拳が震えた。

 森の笑い声が、私の胸をざわつかせる。


 そんなの──そんなの私が、1番わかっている。

 私じゃつり合わないって。

 こんなおとこ女、相手にされないことくらい。


 松宮 茜:

「……ない」


 森 直人:

「ははは……え?」


 こちらを見た森に向かって、私は苦し紛れに叫んだ。


 松宮 茜:

「好きじゃないよ、小池くんのことなんて!」


 その声と同時に。


 ガタン!


 と、体育館倉庫の扉が揺れた。


 松宮 茜:

「!?」


 森 直人:

「!!」


 小池 隼人:

「…………えっと……」


 松宮 茜:

「!!」


 体育館倉庫の扉付近。

 そこに立っていたのは、よりにもよって──小池くんだった。




 ◇ 続く ◇

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