Ep.42 素直まであと4センチ (3)「隼人の決心」
小池隼人14才。
早生まれでやっと最近、みんなの年齢に追いついた。
いつもみんなの後ろを追ってばかりだなぁ、と嘆きたくなるけれど、そんなのは仕方ない。
誕生日も身長も、僕にはコントロールできないことなのだから。
そんな僕には今、2つの目標がある。
1つは、サッカー部のレギュラーを奪還すること。
夏の大会に向けて重要な目標となるこれは、なんとか達成することができた。
そして、もう1つの目標。それは。
篠田 かなえ:
「えーと、159.5センチね」
小池 隼人:
「!」
4月の身体測定。
淡々と生徒たちの身長測定をしている篠田先生のその言葉に、僕はピクリと反応した。
小池 隼人:
(……やった! もうすぐ160に届くぞっ)
ついうきうきして、身長が書かれた記録簿を受け取る。
僕のもう1つの目標は、彼女より背が高くなること。
彼女というのは──松宮茜さんのことで。
僕より背が高くて、運動神経のいい、元気な女の子。
彼女より、背が高くなったら。
僕は彼女に、告白をする。
そう決心していた。
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素直まであと4センチ
(3)「隼人の決心」
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6月のある日、部活が終わった僕は更衣室で、ケイちゃんに頼んでまた身長を測ってもらっていた。
校舎脇のプレハブの一角にある、サッカー部の更衣室。
奥の壁には、なぜか身体測定ができるように、油性マジックでラインとメートル・センチの単位が書き込まれている。
おそらく卒業生の誰かが書いていったのだろう。その誰かもきっと、僕みたいな背が低い子だったのかもしれない。
大谷 圭介:
「お、隼人もう160超えてるんじゃね?」
小池 隼人:
「え、本当!?」
パッと壁に視線を向ける。
ケイちゃんが僕の頭に当てていた下敷きは、微妙に160センチ上辺りを直角にして突き刺さっていた。
小池 隼人:
「やったぁ!」
ということは、松宮さんとの身長差は3センチにまで縮まっている。
これは思ったよりも、早く越せるかもしれない。
大谷 圭介:
「隼人は今が成長期だなー」
何も知らないケイちゃんは、僕の頭をポンポンする。
まるで子ども扱いのようにするその仕草は、好きじゃない。そういうのは、彼女の望月さんにだけすればいい。
そんな僕たちに、他のサッカー部員3年も「俺も測るー」「俺も俺も」なんて、わらわら集まってくる。
僕が毎日計るせいで、最近はサッカー部員の身長測定がブームになっているのだ。
測定士を買って出た井本くんが、身長を読み上げる。
井本 修:
「中曽根はー、167センチだな」
中曽根 悠:
「おー、順調順調」
井本 修:
「御手洗もでかくなったなー、70超えた?」
御手洗 満:
「大谷には敵わないけどな」
大谷 圭介:
「わっはっは。大魔神大谷と呼びたまえ」
楽しそうに会話をするみんなは、僕より大きい。
以前なら、それを羨ましく思いながら見ていたけれど、今はそんなふうには思わない。
今はそれよりも、松宮さんに告白する時が近づいているかもしれない、ということにドキドキしている。
僕がそんなことを考えているなんて、誰も知らない。
黒田:
「先輩たち、仲いいっすね」
僕の背後でそうつぶやいたのは、2年生の黒田くんだった。
去年、僕からレギュラーを奪ったライバルだったけど、今は僕もレギュラー入りをまた果たし、同じミッドフィルダー仲間としてよくしゃべるようになった。
小池 隼人:
「騒がしいだけだよ」
黒田:
「小池先輩は、冷静ですよね」
小池 隼人:
「そう?」
黒田:
「はい。なんかいつも落ち着いているし、熱くなったり、カッとなったりしなさそう」
小池 隼人:
「……そうかな?」
僕には黒田くんこそ、落ち着いた人に見えるんだけど。
無口な黒田くんは、僕によく話しかけてくれるけど、何を考えているのか正直わかりにくい。
だから彼からそのように思われていたのは、意外だった。
僕が人から、大人しそうに見られるのは昔から。
でも本当は違うんだぞ、と小さく胸の内で言い返した。
・ ・ ・
6月も下旬になると、スポーツ大会の準備も佳境に入ってきた。
副委員長に松宮さんがなってくれたおかげで、僕の体育委員長としてのボルテージも上がっている。
委員長なんて僕の柄じゃないけれど、彼女のおかげで頑張れた。
今日は放課後、頼んでいた資料を取りに、彼女のクラスである5組にまで出向いた。
本当は頼むほどの資料でもなかったけど、接点が欲しくて、つい依頼してしまう。
僕が受け取るときに見せてくれた松宮さんの笑顔は、いつものようにちょっと困り顔で、可愛かった。
小池 隼人:
(座ってたから、身長差はよくわかんなかったなぁ)
なんて思い返す。
受け取った資料を両手でしっかり持って、廊下を1人で歩く。
すると前方に、ある人物が立っていることに気がついた。
森くんだった。
小池 隼人:
「!」
さっき、松宮さんの席の近くにいたな。
2年生の時は堂本くん、3年生では森くんと同じクラスになってしまうなんて、松宮さんも大変だ。
心配したからさっきはつい、松宮さんに声をかけてしまった。
彼女は大丈夫そうにしていたけれど、僕が話しかける前の松宮さんは、森くんのことを少し怖そうに見ていた。
松宮さんって、表情がわかりやすいんだ。
森くんはなぜか、廊下の窓に背を預け、こちらを見ている。
僕はその前を通ろうとして、まっすぐ前を向いて歩いた。
すると。
僕の前にサッと、森くんの足が飛び出した。
小池 隼人:
「!」
すぐに気づいた僕は、パッと飛んでそれを回避する。
引っかかって無様にこける、という大惨事だけは免れた。
小池 隼人:
「何するんだよ!」
つい声を大きくして言ってしまう。
通り過ぎる何人かが顔を向けたが、それよりも森くんが気になった。
森 直人:
「お前、気に食わねーんだよ」
小池 隼人:
「……っ」
森くんに好かれているなんて、思っちゃいない。
でも、こんなふうにあからさまに敵視されたのは、初めてのように思う。
1年生の頃はどちらかというと、からかうようなものだった。
なのに今は、親の仇かのように、僕をギラッと睨んでいる。
小池 隼人:
「……なんで?」
そう問うと、森くんはグッと唇を噛みしめた。
森 直人:
「……っ知るかよ! とにかく目障りなんだよっ」
そんなの滅茶苦茶だ。
しかし森くんは言い捨てると、そのまま身をひるがえして立ち去ってしまう。
僕は呆然としてそれを見送った。
小池 隼人:
「何なんだよ……いったい」
取り残された僕は、ポツリと廊下でつぶやいた。
◇ 続く ◇




