Ep.42 素直まであと4センチ (2)「やっぱり君が好き」
昔から、男の子は苦手じゃないけど、キライだった。
2つ上の兄貴は、全然優しくないし。
同級生の男の子たちは、背が高いってだけで私をおとこ女扱いするし。
だからつい、私も乱暴に対応してしまう。
おとこ女扱いされるうちに、本当におとこ女になっちゃった。
て、思ってたんだ。
あの時までは。
小池 隼人:
「松宮さんは、松宮さんだよ」
中1の秋、閉じ込められた体育館倉庫の中。
小池くんが言ってくれた言葉。
小池 隼人:
「ただの個性だよね。男っぽいとか、女っぽいとかじゃなくてさ」
小池 隼人:
「今日、松宮さんがバスケしてるの見て、すごくカッコいいなって思ったよ。だから……」
小池 隼人:
「そのままでいいんだよ」
ふんわり笑ってくれた小池くん。
その言葉が、どれほど私を救ってくれたかなんて、彼はきっと気づいていない。
そして私がその時、恋に落ちたことだって。
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素直まであと4センチ
(2)「やっぱり君が好き」
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松宮 茜:
(はー……)
松宮 茜:
(小池くん、カッコよかったなぁ)
部活も終わり帰宅した私は、スマホに送られたお母さんからの指示で、洗濯物の取り込みをしている。お母さんは今日はどうやら、残業のようだ。
中に入れた洗濯物をリビングで1人で畳みながら、今日のことを思い出している。
体育委員長として、教卓の前で進行を進める小池くん。
その背中を見て、ただドキドキしていたけれど、今思うとたしかにその背はいつもより高かった。
気づかなかったなぁ。
松宮 茜:
(あと4センチ、か)
小池くんが教えてくれた、私と彼の身長差。
いつの間に、そんなに近づいていたのだろう。
そんなことを考えていたら、玄関先から声がした。兄貴が帰ってきたらしい。
兄貴:
「ただいまー、先風呂入るー」
高2の兄貴は、声だけを玄関から響かせて、リビングに入らずそのまま手前の脱衣所に入った。
松宮 茜:
「んー、おかえりー」
姿を見せない兄貴に生返事をして、洗濯物畳みを続ける私。
バサバサ、バタンッ、と騒々しい音が脱衣室から聞こえて、ふいにリビングの扉がバンッ! と開かれる。
兄貴:
「茜、バスタオルねーんだけど、ちょうだい!」
松宮 茜:
「はいはい……って、わあ!?」
そこには、ハンドタオルで股間だけ隠したすっぽんぽんの兄貴がいた。
松宮 茜:
「ちょっと、汚いもの見せないでよ!!」
畳んで置いていたバスタオルを1枚ひっつかむと、近づいてこようとする兄貴に投げつけた。
兄貴:
「汚いとはなんだ! 花の男子高校生の裸体だぞ!」
松宮 茜:
「バッカじゃないの!」
すね毛ボーボーのきったない足でこっちにくるなぁ!
と私が鬼の形相になったので、兄貴はバスタオルを素直に受け取って「フンッ」と腰に手を当てた。
兄貴:
「男はみんな、このきったねぇ体なんですー」
松宮 茜:
「んなことあるかっ」
柔道部のごつい兄貴を、他の男子と同じにしないでいただきたいっ。
さっさと行け! とそっぽを向いた私に、兄貴は「兄ちゃんは悲しいぞ」と芝居がかって、お尻丸見えのまま脱衣室へと向かった。
あーあ、気分が台無しだ。
松宮 茜:
(小池くんは、そんなことないもんっ)
熊みたいな兄貴と同じ性別だとは思えないくらい、小池くんはステキでカッコいい。
泥まみれになるサッカー部なのに、なぜかいつも爽やかに見えるから、不思議だな。
いつぞや見た、雨天時でのサッカー部の練習風景。
薄汚くなるサッカー部員に混ざって走る小池くんが、どこかキレイに見えた。
それを思い出すだけで、胸がキュッとなる。
うん、やっぱり。
小池くんが好きだなぁ。
・ ・ ・
6月に入ると、体育委員会の集まりも多くなった。
委員長と副委員長である私と小池くんは、連絡を取り合うことが増える。
……………………………………
隼人:
「放課後、頼んでた資料を取りに5組に行くね」
……………………………………
スマホに映し出された小池くんとのメッセージのやりとりを、教室の片隅でにやけながら見つめる。
へへー、今がその放課後である。
小池くんが来てくれるなんて夢のようだ。副委員長になって本当によかった!
うきうきとカバンに教材をしまい込む。
その時。
ドンッ
松宮 茜:
「!」
後頭部に何かがぶつかった。
森 直人:
「あ、わり」
廊下側の一番後ろの私の席。
その後ろを通ろうとした人物に、私の眉間がよった。
森直人だったからだ。
どうやら、彼のカバンが当たったらしい。
松宮 茜:
「……」
ムスッとして森を睨んだ。
私はこいつが大っ嫌いだ。
小学校から一緒のこいつ。
昔から私をおとこ女呼ばわりして、散々からかってくれた。
意地悪で、乱暴者で、下品なやつ。
体育館倉庫に閉じこめられたことは、堂本含めて許してはいない。
森 直人:
「睨むなよ。わざとじゃねーよ」
松宮 茜:
「…………」
ふいと視線をはずした。しゃべりたくもなかったからだ。
昔は私の方が背が高かったし力もあったから、森にいじめられたって平気だった。
でも、今はこいつの方が体も大きく力も強くて──正直怖い存在だ。
できれば、関わりたくない。
森 直人:
「何だよ、無視かよ」
じろっと睨む森の視線に、身がすくみそうになる。
やだな。どうして森は、私に絡もうとするんだろう。
松宮 茜:
「そういうわけじゃ……」
小さく森に目を向けた時だった。
小池 隼人:
「松宮さん、待たせちゃった?」
小池くんの救いの声が、舞い込んできた。
松宮 茜:
「小池くん」
ホッとした私の席に、彼は近寄ってくれる。
小池 隼人:
「僕のクラスのが終わるの遅かったね、ごめん」
松宮 茜:
「ううん、小池くんのせいじゃないよ」
森との会話で張り詰めていた緊張が、和らいだ。
思わずこぼれた笑み。よかった、小池くんが来てくれて。
森はなぜか、私の近くから動かない。
それに小池くんも気づいたのだろう。ふと、後ろに立つ森へと彼は振り返った。
小池 隼人:
「なに? 森くん」
森にさえ柔らかく笑う小池くん。
それに対して森は、ふいと顔を背けた。
森 直人:
「……ふんっ」
そのままズカズカと、やっとどっかへ行ってくれた。
はぁ、よかった。
森の姿が見えなくなると、小池くんは私にまた声をかけた。
小池 隼人:
「松宮さん、森くんにまた、意地悪なことされてない?」
松宮 茜:
「えっ、う……うん」
小池 隼人:
「そっか。ならよかった」
松宮 茜:
「…………」
今でもこんなふうに森とのことを心配してくれるなんて、小池くんは優しいな。
でも、小池くんは誰にでも優しいから、これで勘違いをしてはいけない。
それでもやっぱり──嬉しくて。
資料を彼に渡す私の手は、小さく震えた。
◇ 続く ◇




