Ep.42 素直まであと4センチ (1)「変化までの2ヶ月」
今でも思い出す。
春休み、みんなで行った遊園地。
大好きな小池くんと、まわれて嬉しかった。楽しかった。
途中、小池くんが私の好きな人を大谷だと勘違いしていたことを知ったときは、思わず怒っちゃったけど。
小池 隼人:
「変な勘違いしてごめんね、松宮さん」
小池 隼人:
「今日の遊園地、楽しみにしてたんだ。また一緒に楽しもう?」
そう言ってくれた小池くんに。
松宮 茜:
「……うん」
あっという間に許しちゃった私は、笑ってうなずいた。
あーあ、こういうのって、惚れた弱みって言うんだろうな。
松宮茜、14才。
中1から続く小池くんへの片想い、中3の今も、絶賛継続中である。
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素直まであと4センチ
(1)「変化までの2ヶ月」
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5月中旬の放課後。
私はうきうきと通学カバンに、教科書や荷物を詰め込んでいた。
桃香:
「茜、行くよー」
松宮 茜:
「あ、待って待って」
声をかけてきたクラスメイトの桃香に呼ばれて、慌てる私。
小学校以来久しぶりに同じクラスになった桃香は、腰に手を当てて教室の扉付近で待っている。
せっかちなのは、相変わらずだ。
彼女の隣に駆けつけると、桃香は足早に歩き始める。
背は私の方が高いのに、さっさか進む桃香は私よりも歩くのが早い。陸上部だからだろうか。
桃香:
「あーあ、委員会面倒くさいな。早く終わらせて部活に行きたいよ」
松宮 茜:
「ん、私も」
なんて答えたけど、嘘だ。
だって私は、今から参加する委員会を楽しみにしていたのだから。
2ヶ月後の7月にある、スポーツ大会に向け集まることになった、体育委員会。
私は3年生になると、はりきって体育委員に立候補した。
その理由はもちろん。
松宮 茜:
(小池くんも、体育委員なんだよね~)
彼は1年生から、ずっと体育委員に所属している。
今年もやるよ、と遊園地のときに話をしていたから、私も勇気を出して立候補したのだ。
1年生のときも私は体育委員だったし、活動内容はある程度は把握できている。
桃香:
「でも茜、なんかはりきってない?」
松宮 茜:
「え、そ、そう?」
私の恋愛事情を知らない桃香は、不思議そうに私を見る。慌ててごまかす。
うう、これ以上、私の好きな人バレはしたくない。
転校してしまった詩音のせいで、戸田さんたちにまでバレている私の好きな人。そのことは、少人数に留めたい。
松宮 茜:
(羽鳥には前バレバレだよって言われたけど……)
そんなことないよね?
と、ほっぺをポリポリかいてるうちに、体育委員会を行う空き教室に着いた。
ガラリと扉を開けると、中にはもう数人の体育委員会メンバーが席に着いている。
その中に。
松宮 茜:
(いた、小池くん……!)
彼は、隣の男子生徒と笑顔で談話していた。
小池隼人くん。
今、彼は2組で、私は5組だ。
階も違ってしまったから、めったに会えなくなっていた。
こんなに近づけたのも、あの遊園地以来かも。
松宮 茜:
(はぁ~、笑顔がやっぱりステキだなぁ)
黒板に書かれた指定の席に座る、私と桃香。
ふと、近づいた私に気づいたのだろう小池くんが、こちらを見た。
小池 隼人:
「あ、松宮さん。久しぶり」
松宮 茜:
「!」
松宮 茜:
「ひ、久しぶり! 小池くん!」
ひゃあ、声が変に裏返った!
顔が赤くなってしまいそうで、私はつい目をそらしてしまう。
桃香:
「あれ? 茜、小池くんと仲良いんだ」
見ていた隣の桃香が、そんな風に声をかけてくる。
松宮 茜:
「う、うん。1年のとき同じクラスでさっ」
桃香:
「へー」
必要以上に声を強くして答える私。
しかし桃香は、あまり興味はないのだろう。会話はそこで終わる。
そして体育委員担当の先生が入ってきて、第1回の体育委員会会議が始まった。
・ ・ ・
1時間ほどで、会議は終わった。
今日は、委員長決めとスポーツ大会での係決めで、時間が費やされた。
しかしこの1時間で、私は当分のラッキーポジションを手に入れる。
桃香:
「まさか、あんたが副委員長になるなんてね。やっぱりはりきってたんじゃん」
松宮 茜:
「あはは、さ……最後のスポーツ大会だしさ! なんつーの、思い出作り?」
ふーん? と首をかしげる桃香の背後の黒板には『体育委員長 小池隼人』と書かれ、その横に『副委員長 松宮茜』とちゃっかり並んでいた。
──はい、下心丸出しの立候補です。
桃香:
「……っと、私先に部活行くね!」
松宮 茜:
「うん、お疲れ!」
せっかちな桃香は、あっという間に部活へと向かう。
他の体育委員メンバーも、続々と教室から出ていった。
松宮 茜:
(桃香が恋愛に興味なしでよかった)
というか、茉莉といい羽鳥といい、私が仲良しな友人は揃いに揃って、恋愛には興味なしである。
なんてことを考えていたら。
小池 隼人:
「松宮さん、これからよろしくね」
松宮 茜:
「!」
なんと小池くんが、話しかけにきてくれた。
まだ座っていた私は、慌てて来てくれた彼に体を向けるため立ち上がる。
松宮 茜:
「小池くん、こちらこそ!」
松宮 茜:
「足引っ張らないように、頑張るね」
小池 隼人:
「そんなことないよ。体育委員経験者の松宮さんなら、頼りになるよ」
小池くんは嬉しいことを言ってくれる。
でも実際、小池くんの方が頼りになっていた。
さっきも体育委員長としてスポーツ大会の係を決めていくとき、テキパキと進行をしていた。
私はただ、決められていく係名と名前を黒板に書いただけ。
松宮 茜:
「じゃあ、頼れることはどんどん言ってね!」
久しぶりの小池くんとの会話が嬉しくて、早口になっちゃう。
照れてそう言うと、彼は「うん」と穏やかに笑ってくれた。そして突然、ジッと私の頭らへんを見つめる。
小池 隼人:
「……」
小池 隼人:
「ねぇ、松宮さん。今何センチ?」
松宮 茜:
「へ?」
向き合って私は、パチパチと目をまばたきした。
何センチって……あれ?
そういえば、小池くんとの目線が……前と違う?
私は混乱しかける頭の中で、必死に4月に行われた身体測定の結果を思い出す。
松宮 茜:
「えっと……163センチ」
去年より2センチしか伸びてなかった。
ようやく私の身長も、ストップしてきているようだと、その結果を見て安心したものだ。
その言葉を聞いて、小池くんは。
小池 隼人:
「そっか、じゃあ4センチだ」
なんて言った。
松宮 茜:
「え?」
何の4センチ? と首をかしげてしまう。
そんな私に、小池くんはどこか嬉しそうに言う。
小池 隼人:
「僕との差。もうすぐ追いつくよ」
松宮 茜:
「!」
ということは、小池くんは今159センチか。
中3男子としては高いとは言えないかもだけど、今までの小池くんからしたら、だいぶ伸びている。
と、いうか……。
松宮 茜:
(小池くん、なんか雰囲気が……)
背が高くなっただけじゃない。
顔の輪郭に、柔らかさがなくなっている。
首筋に見える喉仏が、目立ってきた。
着せられていたような学ランだって、もう手首の長さが足りてない。
いつも、遠目に見てたから気づかなかった。
遊園地以来の約2ヶ月。
たったそれだけで、小池くんは変化していた──「男の子」に。
松宮 茜:
「………っ」
それに気づいて私は、なぜか恥ずかしくて、いたたまれなくて。
名前に負けないほどの赤さを、頬に浮かべてしまったんだ。
◇ 続く ◇




