Ep.41 恋する女の子の味方
1話完結
昔から「女の子には優しくね」と、親に言われて育ってきた。
でもそんなこと言われなくても、女の子には優しくしたい。
女の子は、優しくて可愛い。
とくに恋する女の子は、別格に可愛くて応援したくなってしまう。
だからかな、女の子の恋愛相談を聞くのは苦じゃなかった。むしろ喜んで、引き受けた。
目が細い仏顔で、話しやすさもあったのだろう。俺はあっという間に女の子の間では、有名な恋愛相談者となってしまう。
そんな俺は友人からは「変わってる」とよく言われるが、まぁ気にはしない。
御手洗満、15才。
恋する女の子の味方である。
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恋する女の子の味方
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体育館の出入り口で、まだ望月さんにデレている大谷。
俺は彼のジャージを、背中からつかんで引っ張った。
御手洗 満:
「はいはい大谷、練習始めるぞ」
大谷 圭介:
「ああっ、望月~!」
ずるずると、でかい大谷を体育館奥へ引きずり込む。その向こうで望月さんは、可愛らしく手を振っていた。
よかったね、望月さん。
無事におバカな大谷と、和解できたようで何よりだ。
まったく大谷のやつ、彼女を不安にさせておいて、自分はいい気になろうなんて言語道断。女の子の敵だ。
「ヤキモチ」なんて言葉の響きは可愛らしいが、つまりはねたみそねみ。負の感情を持つのはつらい。
御手洗 満:
(だからつい、首を突っ込んじゃったなぁ)
相談は言われれば引き受けるが、普段なら自分から聞こうとなんてしない。
でも今回の件は他人事には思えず、つい関わってしまった。
俺も知っているのだ。ヤキモチのつらさなんて。
中曽根 悠:
「御手洗、俺は何すればいい?」
ようやく大谷を太鼓の元へと送った俺に、中曽根が話しかけてきた。
放課後、急に助っ人に呼んだのに、駆けつけてくれたいいやつである。
御手洗 満:
「2年生に、まだフリを覚えられてないやついるからさ。団長と相談して、そいつたちの指導をしてほしいかな」
適当なお願いを口にして、中曽根に頼む。
今回呼ばれた理由が、じつは大谷の伸びた鼻をへし折ってやるためだとは、思ってもいないだろう。
中曽根 悠:
「ん、わかった!」
中曽根は俺にも爽やかな笑顔を送って、応援団長のもとへと駆け寄った。
いかつい応援団長に、指導の詳細でも聞いているのだろう。並ぶとより、中曽根のスタイルのよさが際立った。
御手洗 満:
(そりゃまぁ、モテるわけだ)
でも、見た目だけでモテてるわけではない。
中3ともなれば、男を見る女の子の目もシビアになり、何人かのモテる男子が見もされなくなる例をいくつか見てきた。もちろんその逆もあって、目立ってなかった男子が注目されることもある。
でも中曽根という男は、いつだって女の子たちのアイドルだ。
後輩女子1:
「ひゃー、中曽根先輩見られてラッキー」
後輩女子2:
「今日は戸田先輩もいないし、あとで写真撮らせてもらおうかな~」
後輩女子1:
「あの2人、本当に仲良いから、中曽根先輩に近づけないんだよねぇ」
御手洗 満:
「……」
後輩女子の会話が耳に届く。
彼女たちにとっての不満も、俺からしたら願ってもないことだ。
中曽根と戸田さん、いつまでもそのままでいてくれよ。
そんなことを考えてからやつを見ると、中曽根はジャージを腕まくりして、後輩に応援団の振り付け指導をしていた。
何にでも、一生懸命取り組むやつだ。
サッカーにも、恋愛にも。
中曽根が純粋一途な鈍感男でよかったと、心から思うのだった。
・ ・ ・
翌日朝の、ホームルーム。
バンッと俺の席に、両手をついて現れた女の子が1人。
林 和葉:
「みーちゃん、ひどいよ!」
俺をみーちゃん、なんてセンス悪いあだ名で呼ぶのは1人しかいない。林和葉だ。
俺は彼女を男の子みたいにカズ、と呼んでやるのが、せめてもの仕返しだった。
御手洗 満:
「何が? カズ」
彼女が言わんとしてることは何となくわかってはいるが、あえて頬杖をついて聞いてみる。
カズは声を小さくして、周りに聞こえないように言った。
林 和葉:
「昨日の応援団練習! 中曽根くんも来たって本当なの?」
御手洗 満:
「あー……」
やっぱりそれね。
まったく、中曽根情報には敏感なカズである。
カズは中曽根と同小で、小4から片想いをしていたという。
中1の夏に告白、そして玉砕。
その後、すぐに中曽根と戸田さんが付き合いだした時には、俺は耳がタコになるほどたくさんの泣き言と愚痴を聞かされたものだ。
御手洗 満:
「俺も知らなかったんだ。ごめんね」
誘い出した張本人のくせにしれっと言う。
もちろん仏の顔は忘れない。
林 和葉:
「連絡くれれば、見に行ったのに~」
御手洗 満:
「練習中に無理を言うなよ」
呆れた笑みを浮かべて、カズを指さす。
御手洗 満:
「ていうかカズ、中曽根はもう諦めたんでしょ?」
するとカズは「うっ」とひるむ。
林 和葉:
「あ、諦めてるよ。ただその、アイドル的存在というか、見てたいっていうか」
ごにょごにょと言葉尻をすぼめるカズ。
──ったく、バカカズ。
貴重な中学生時代を、不毛な片想いで終わらせる気か。
でもたしかに、去年と違い、カズの中曽根を見つめる視線はどこか変わったものになった。
去年までは、切なさや哀しみも秘めた視線ではあったが、今はどこか明るい。
2年生の時に中曽根の彼女である戸田さんと同じクラスとなって、ある意味吹っ切れたのだろう。
失恋の特効薬は、いつだって時間なのだ。
そんな会話をカズとしていたら、隣の席の望月さんが明るく教室に入ってきた。
望月 美羽:
「おっはよー!」
いるだけで室内の雰囲気が明るくなるような彼女。さすがは、あのムードメーカー大谷の彼女だ。
向き合っていた俺とカズにも、元気よく挨拶してくれる。
御手洗 満:
「おはよう。昨日は大谷と、仲良く帰れた?」
部活後に大谷は「今度こそジェラート屋デートをする!」と宣言して、疾風のごとく帰っていった。
なので聞いてみたのだが、望月さんはなぜかたちまち顔を赤らめる。
望月 美羽:
「え、あ、うん!」
望月 美羽:
「な、仲良く帰ったよ」
んー?
これは何かあったな、この2人。
でも突っ込んで聞くなんていう、野暮なことはしない。
ただ幸せそうに笑って頬を染める望月さんを見て、よかったよかったと胸をなでおろす。
うん、やっぱり恋する女の子は可愛い。
林 和葉:
「美羽ちゃん、よかったね」
昨日一緒に望月さんの話を聞いていたカズも、安心したように笑う。
お人好しカズ。
自分の恋が上手くいかなくても、他人の恋で笑っていられるんだから。
御手洗 満:
(ま、俺も……人のことは言えないかもだけど)
俺は、恋する女の子2人にスマホを取り出して見せた。
御手洗 満:
「昨日の応援団の練習、撮影したのあるんだけど見る?」
林 和葉:
「えっ!」
望月 美羽:
「あー、撮ってたね。見る見る~」
はしゃぐ望月さんの向こうで、カズが口をパクパクさせている。
俺にはわかる。「先に言ってよー」と、訴えているのだ。
素知らぬフリをして、スマホで動画を流した。
昨日の応援団の練習風景の中には、大太鼓を叩く大谷はもちろん、隅で後輩に指導する中曽根もちゃっかり映っていた。
望月 美羽:
「わぁ、よく撮れてるー」
林 和葉:
「ほ、本当だねー」
望月さんに付き合うフリをして、スマホを覗くカズが何を見ているかなんて丸わかりだ。
大谷ににやける望月さんの背後で、カズは俺にボソッと言った。
林 和葉:
「これ撮るヒマあったなら、私に連絡もできたんじゃないの?」
まったくカズは、こういうところだけは頭の回転が速い。
御手洗 満:
「んー、そうだったかもね」
ニコッと笑った俺が、何で連絡しなかったかまでは、頭回らないのかな?
目立ちたがり屋でない俺が、なんで今年は、応援団に参加したかなんてことも。
「みーちゃん」というカッコ悪いあだ名を、カズだけには許している理由も。
まったく。恋してるカズは、憎たらしいくらい可愛いよ。
俺、御手洗満は「『恋する女の子』の味方」。
そして「恋する『女の子の味方』」でもある。
この意味、カズはわかるだろうか。
にやけてスマホを見つめるカズのおでこを、ペチッと軽くデコピンした。
◇ 終わり ◇
❀次エピソードへ続く




