Ep.40 ジェラート・ジェラシー (6・終)「大好きな彼女」
体育館で、応援団の練習が始まろうとしていた。
2年生の初心者ばかりが多い今年は、去年よりも練習量を多くせざるを得なくなる。
俺も最初は慣れない大太鼓に苦労したが、今は何とかものになった。
ウォーミングアップがてら、軽く大太鼓を鳴らす。
舞台上に置かれた太鼓のそばで、俺は体育館出入り口を気にしている。
大谷 圭介:
(望月、まだ来てないなぁ)
そのかわり、後輩女子がまたいた。
後輩の女の子たち:
「大谷せんぱーい、今日も頑張ってくださーい!」
大谷 圭介:
「おーっす!」
そう俺が応えると、キャーッとはしゃぐ女の子たち。
な……何て可愛いのだっ!
いやぁ、俺も隅におけませんなぁ。
今俺は、モテ期なのかもしれん。
そんなことを考えていたら。
大谷 圭介:
「……へ!?」
体育館の出入り口に現れた人物に、目を丸くした。
何で──何で望月、御手洗と一緒に来てるわけ!?
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ジェラート・ジェラシー
(6)「大好きな彼女」
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太鼓のバチを握りしめながら、ぐるぐると考える。
大谷 圭介:
(同じクラスだから、一緒に来ただけか?)
大谷 圭介:
(でも、今まで1度もそんなことしてなかったよなぁ)
大谷 圭介:
(てかあいつ、望月狙うとか……まさかマジで……)
嫌な考えが頭をよぎる。
2人を見ると、出入り口のところに立って何やらおしゃべりをしている。
差が開きすぎてしまう俺と望月よりも、御手洗はちょうどいい身長差で、望月を見下ろしていた。
大谷 圭介:
(な、何をしゃべってんだっ)
というか望月、なぜこちらに背を向ける!?
バチを痛くなるほどに握って、2人を見る。
すると。
大谷 圭介:
「!?」
望月がふいにうつむいて、前に立つ御手洗が顔をのぞいて何と──頭を撫でやがった。
大谷 圭介:
「!!」
それは、いつも俺が望月にしていることで、でも俺よりも、優しそうに撫でている。
いつもなら望月は俺が手をのっけると、髪型をそそくさと直すくせに、御手洗には静かに撫でられている。
なんだ……なんだあれは!!
大谷 圭介:
「てめえ、御手洗!」
気づけばバチを放り投げ舞台から降り、2人の元へと駆けつけていた。
望月の背後に立ち、肩から腕をまわして、自分の方へと引き寄せる。
望月 美羽:
「圭介くん!」
ちっちゃな望月はすっぽり腕におさまって、驚いて下から俺を見上げた。
御手洗 満:
「予想以上に、早くかかったな」
なんて御手洗は言いやがった。
しかし怒っていた俺に、そんな言葉は耳に届かない。
大谷 圭介:
「お前、人の彼女にベタベタしてんじゃねぇよ!」
御手洗 満:
「ふーん? 自分は他の女子にデレデレしてたのに?」
大谷 圭介:
「な……っ!」
してねーよ! と言った俺を、御手洗は冷ややかにじとっと見つめる。
そして腰に手を当て、淡々と言った。
御手洗 満:
「望月さんを責めるなよ。俺の言ったとおりに、してもらっただけだから」
大谷 圭介:
「はぁ?」
御手洗 満:
「ヤキモチがどれだけしんどいか、バカな彼氏に再認識させてやろうってね」
大谷 圭介:
「!」
そこで御手洗は、困ったように笑う。
御手洗 満:
「そりゃ、妬いてもらえたら嬉しいけどさ。あんまり妬かせすぎると、望月さんに愛想尽かされるぞ」
大谷 圭介:
「御手洗……」
まさか御手洗に、そんなことを言われるとは思わなかった。
腕の中の望月を見下ろせば、彼女は赤い顔をして困っている。
望月 美羽:
「あ、あの……離してもらっていい?」
俺の腕をつかんで、困り顔をする望月。
どうやら近くにいる後輩女子の、好奇な視線が気になっているようだ。
後輩女子1:
「え、あの人彼女だったの?」
後輩女子2:
「やだー、知らずに彼女の前で応援しちゃってたよー」
なんて後輩女子は話している。
あれ、こいつら知らなかったのか、望月のこと。
そういや俺は、そんなことも言わずに、ただ喜んで女の子の声援を受けていたのかも。
あーあ。こりゃもう、声援はもらえないかもしれないな。
でも、いいや。
そんなのは、どうでもいいのだ。
望月 美羽:
「圭介くん……あの、手……」
まだ腕の中で困っている望月に。
大谷 圭介:
「やだ」
俺はさらに腕を強めた。
彼女の頭に顔を埋めて、御手洗の撫でたことを打ち消すように、鼻を擦りつける。
そうだ俺……言わなきゃ。望月に。
大谷 圭介:
「……ごめんな、望月」
望月 美羽:
「!」
大谷 圭介:
「俺、調子に乗りすぎてた」
望月 美羽:
「圭介くん……」
思えば望月は、ちゃんと電話で謝ってくれたのに。俺は望月にヤキモチさせたことを、そのままにしようとしていたんだ。
というか、さらに妬かせたいなんて思っちゃって。
俺はいい彼氏じゃないのかもしんない。
大谷 圭介:
「反省してます……」
そこでようやく俺は望月を解放して、彼女がこちらに向いた時に頭を下げた。
ごめんな、ともう一度謝る。
望月 美羽:
「へへ……もう大丈夫だよっ」
望月はこんな俺にも、笑って許してくれる。
ああ、女神かもしれない……!
なんて感動していたときだった。
中曽根 悠:
「何してんだ? お前ら」
なぜか中曽根が、体育館に現れた。
しかもジャージに着替えて、動きやすい格好をしている。
大谷 圭介:
「あ? 中曽根がなんでここに」
せっかくのラブシーンに水を差された俺がそう言うと、中曽根はタオルを肩にかけながら答えた。
中曽根 悠:
「御手洗に助っ人頼まれたんだよ」
大谷 圭介:
「助っ人?」
存在を忘れかけていた御手洗を見ると、やつは「ああ」と笑ってうなずいた。
御手洗 満:
「応援団練習、やっぱり指導側に経験者がもうちょっと欲しいじゃん?」
俺も初参加だしさ、と笑う御手洗。
こいつまだ、何か企んでねーか?
なんていぶかしんだ時だった。
後輩女子1:
「きゃー! 中曽根先輩だーっ!」
後輩女子2:
「か、カッコいいー!」
おやや──後輩女子たちが、急に色めき立ち始めたぞ!?
気のせいだと思いたいが、俺に向けた声援よりも、1オクターブ声が高くないだろうか。
後輩女子1:
「あ、ああああの、頑張ってください!」
中曽根 悠:
「ん?」
1人が勇気を出した様子で中曽根に声をかける。
それに気づいてやつは。
中曽根 悠:
「ありがとう。でも、頑張るのはあいつらだから」
なんて言って、爽やかな笑顔を見せやがった。
後輩女子1:
「きゃああー! クール!」
後輩女子2:
「でも優しい~っ!」
あ、あのー、後輩女子ちゃんたち?
今まで応援していた俺が近くにいるんだけど、何もなしかい?
と言いそうになる俺の横で、御手洗が小さくつぶやいた。
御手洗 満:
「大谷、モテるとはああいうことだ」
大谷 圭介:
「……うっせーよ!」
御手洗満。
こいつは、敵にまわしたくないやつナンバーワンだ!!
・ ・ ・
その日、応援団練習と部活の後に、望月と例のジェラート屋に行った。
サッカー部の終了まで待っていた望月が、いじらしい。
今回のジェラートは、今までの詫びも含めて俺の奢りとなった。
望月 美羽:
「へへー、おーいしーい」
望月は嬉しそうにピーチジェラートを食べている。財布には痛手だったが、可愛い望月の笑顔ですべてチャラになる。
ああ、可愛いなぁと、幸せな気分で望月を見つめた。
テイクアウトしたので、今は歩きながら食べている。
日も暮れた、午後7時。
初夏の薄闇が街に落ちていた。人気の少ない道を望月と歩く。
望月 美羽:
「次にヤキモチ妬かせたら、また奢ってもーらお」
大谷 圭介:
「ジェラート目当てに、わざと妬くなよ?」
苦笑して望月を見下ろせば、薄暗い日に浮かぶ彼女の横顔が見えた。
大好きな望月。
そんな望月も俺のことを大好きでいてくれたことが、今回の件で確認できて嬉しかった。
悔しいけれど──御手洗のおかげでもある。
大谷 圭介:
「……なぁ、望月」
望月 美羽:
「ん?」
大谷 圭介:
「本当にごめんな、変に心配させて」
望月 美羽:
「へへ。もう気にしてないよ! 大丈夫っ」
──あー、やっぱりすっごく可愛いな。
きょろきょろと辺りを見渡す。
誰もいないことを確認すると、望月の名前をまた呼んだ。
望月 美羽:
「なにー?」
ジェラートを食べて幸せそうな望月の肩に手をおいて、立ち止まらせ。
不思議そうに見上げた彼女の唇に、トン、と。
身をかがめて自分の唇を押しつけた。
まぁ──キスをしたわけだ。
望月 美羽:
「!?」
望月はビックリして、体を固まらせた。
ジェラートを持つ手が緩まるから、俺は慌てて落ちそうになるジェラートを支える。
望月 美羽:
「な……な、圭介くん!?」
大谷 圭介:
「へへー、ピーチ味ー」
ファーストキスは、レモン味ではなくピーチ味だった。
柔らかくて小さかった望月の唇に、心臓がはちきれそうなほどドキドキしている。顔をわざと空に上げて、望月からは見えないようにした。
照れを隠してわざとはしゃぐと、望月はそんな俺の腕にしがみついてぐいぐい引っ張った。
望月 美羽:
「も、もっと雰囲気とか! ムード作りとか! あるでしょー!」
大谷 圭介:
「だって今、したかったんだよ」
言い訳をする俺に「デリカシーないっ」と望月は赤い頬を膨らます。
そんな彼女の顔も可愛いと思う。
大好きだぞ、望月。
そう思って俺も赤くなりつつ見下ろし笑えば、望月もこちらを見上げて笑い返す。
地面に伸びた2つの影。
今度は互いに近づいて、くっついた。
◇ 終わり ◇
❀次エピソードへ続く




