Ep.40 ジェラート・ジェラシー (5)「ご機嫌な彼とお悩み彼女」
とりあえず中曽根を解放し、家に帰った俺。
御手洗の意味深な言葉と態度を気にしながら、制服から部屋着に着替える。
大谷 圭介:
(あいつが望月を?)
大谷 圭介:
(まさかなぁ……)
御手洗はサッカー部でしか縁がないから、じつは性格がよくわからん。
ただ、女子と気さくに話しているところは、よく見ているのだが。
大谷 圭介:
(俺をからかっただけだよなー?)
うーん、と腕を組んでいたら、机に置いたスマホが鳴り始めた。
望月からの、電話だった。
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ジェラート・ジェラシー
(5)「ご機嫌な彼とお悩み彼女」
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まさか、望月から連絡が来るとは思わなかった。しかも電話。
俺はベッドに座り、慌てて通話にする。やや落ち着いた声を、わざと出した。
大谷 圭介:
「……望月、どうした?」
望月 美羽:
「あ、圭介くん……あの……」
電子の音で伝わる望月の声が、いつもより幼く、可愛く聞こえる。
彼女らしくない遠慮がちな、小さい声が響いていた。
望月 美羽:
「まだ、怒ってる……?」
大谷 圭介:
「……」
恐る恐る聞いてくる、望月の表情が見えるようだった。
……あーあ。
俺弱いんだ、望月の上目遣い。
大谷 圭介:
「もう怒ってないよ」
それは実際、本当だった。
甘いドーナツで空腹は満たされてるし、望月がヤキモチを妬いてたかもの話で、機嫌はとっくに直っている。
望月 美羽:
「本当?」
大谷 圭介:
「本当本当」
すると、スマホの向こうから、聞き慣れた「えへへぇ」の笑い声が聞こえた。
望月 美羽:
「よかった!」
そして望月は、慌てるように言葉を続けた。
望月 美羽:
「あの、杉野先輩と会ったのは、本当に偶然だからね」
大谷 圭介:
「わかってるよ」
そういや、杉野なんて名前だったか。
正直あいつの名前を出されるだけでムッとしたが、電話でよかった。小さな不機嫌はバレない。
望月 美羽:
「あとね、デリカシーないって言ったことなんだけど……」
望月 美羽:
「私、最近ヤキモチ妬いてたの。その、圭介くんを応援する子たちに……」
大谷 圭介:
「!」
望月の口から実際に、ヤキモチを妬いていたという言葉が出てきて、俺は一気に身を乗り出した。
にやけたせいで、口が綻んだ。
口元を手で覆いながら「そうだったのか」なんて、白々しく言う。
望月 美羽:
「うん。だからその……ごめんね」
大谷 圭介:
「! 気にしてねーよ!」
気にしまくって、中曽根と御手洗に大いに愚痴ったことは秘密である。
しかしすっかり機嫌がよくなった俺は、声がつい明るくなる。
カッコ悪い部分は言えないが、素直な気持ちは伝えたくなった。
大谷 圭介:
「俺、望月にヤキモチ妬かれて嬉しいし」
望月 美羽:
「え?」
大谷 圭介:
「なんか、俺ばっかり好きだって思ってたから。望月が気にしてたの知って、嬉しいんだ」
望月 美羽:
「圭介くん……」
今が電話での会話なのが、本当に残念だ。
直接会ってたなら、望月のめちゃくちゃ可愛い顔が見られたに違いない。
いつの間にか俺の顔も、だらしなくなる。
大谷 圭介:
「だからさ望月、気にすんなよなっ」
望月 美羽:
「う、うん」
大谷 圭介:
「これからは堂々と、ヤキモチ妬いてくれ!」
望月 美羽:
「うん。…………へ?」
とその時、扉の向こうから「圭介、ご飯よー」という母ちゃんの声が聞こえた。
慌てて俺はスマホを抑え返事をしたから、望月の変な声に気づかなかった。
大谷 圭介:
「じゃあ望月、また学校でな!」
望月 美羽:
「あ、うん……」
タップして通話を切り、部屋から出て夕食に向かう。
ドーナツで腹はすいてなかったが、テンション高い俺は、かき込むようにノリノリで夕食にのぞんだのだった。
・ ・ ・
通話が切れたスマホを、ジッと見つめた。
望月 美羽:
「……ちょっと、圭介くん~?」
むむむ、と眉間にしわが寄る。
なんだろう。
仲直りできたはずなのに、すごく釈然としない。
ヤキモチとは違う、すっきりしないモヤモヤが胸の中にくすぶっている。
望月 美羽:
(堂々と妬いてくれって……)
望月 美羽:
(私、妬きたくなんかないのにー!)
えいっと、スマホをクッションに投げつけた。
圭介くんは、私がメラメラ嫉妬の火に焼き尽くされちゃってもいいの!?
ジェラートも溶けちゃったら食べられなくって、みっともないんだからね!
私は自分の顔をクッションに押しつけると「もーっ」と叫んだ。
どんな言葉で、このこんがらがってる気持ちを表せばいいのかわからずに、毛糸に絡まった猫みたいに身もだえた。
・ ・ ・
休みが明けて、火曜日がきた。
今日は私が所属する園芸部は休みで、応援団の練習がある日だ。
火曜日はいつも練習を見に行っていたから、圭介くんは今日も私が来るって思ってる。
でも。
望月 美羽:
(あーあ。なんか行きたくないなぁ)
終礼が終わったのに、私はまだ席から立たずにいる。
クラスの応援団員の男の子たちが数人、教室から出ていくのをじっと見た。
望月 美羽:
(また後輩ちゃんたち、いるだろうなぁ)
すっかり中曽根くんファンから圭介くんファンにチェンジしたあの子たち。可愛いうえに、私より身長高いのが、何かいやだ。
望月 美羽:
「……」
望月 美羽:
「うう、みっともないよぅ」
机に上半身を突っ伏したときだった。
御手洗 満:
「望月さん、今日も練習見にくるの?」
望月 美羽:
「御手洗くん」
隣の席の御手洗くんに、声をかけられた。
御手洗くんは、圭介くんと同じサッカー部で、今年初めて同じクラスになった。
物腰が柔らかくて、他の男子とはちょっと違う、柔和な雰囲気の子だ。
そんな彼は、女子からしたら話しやすい存在で、私もよくおしゃべりするようになった。でも「みーちゃん」って呼ぶのは、イヤがるんだよね。
御手洗 満:
「応援団の練習、いつも見にきてるでしょ」
望月 美羽:
「あー……うん」
そういえば、御手洗くんも応援団に入ってたっけ。
私が小さくため息をつくと、御手洗くんが小さく言った。
御手洗 満:
「大谷と何かあった?」
望月 美羽:
「!」
ドキッとして顔を上げた。
そこに仏様のような、優しい御手洗くんの顔がある。
御手洗 満:
「あいつとのことで、何か悩みがあるんでしょ。よかったら話してみない?」
望月 美羽:
「え、でも」
何でわかったんだろう。
戸惑っていたら、御手洗くんの背後からクラスメイトの女の子が顔を出した。林和葉ちゃんだ。
林 和葉:
「美羽ちゃん、みーちゃんなら大丈夫! 女の子の味方だもんっ」
御手洗 満:
「! カズ」
御手洗くんはちょっとだけ驚いて、背後の和葉ちゃんを見た。
和葉ちゃんは私の机に左手を置いて、教鞭のように右人差し指を揺らす。
林 和葉:
「みーちゃんは、女の子の恋愛相談を聞くのがとっても上手なの!」
林 和葉:
「私もよく、話を聞いてもらってたよ。仏のみーちゃんなんだから!」
御手洗 満:
「カズ、変な異名をつけないでよ」
苦笑しつつも、優しく和葉ちゃんを見つめる御手洗くん。
この2人はとても仲がいいのだ。
そっかぁ。
仏のみーちゃんかぁ。
話を聞いてもらうくらいなら、いいかな?
そう思って私は、たどたどしくも話すことにした。
圭介くんとの最近のこと。
ヤキモチを妬き合って、ケンカをしたこと。
仲直りしたのに、モヤモヤしていること。
話しているうちに、圭介くんは私がヤキモチで嫌な思いをしてもいいんだ、なんて悲しくなってきちゃった。
話し終えたら、御手洗くんは「なるほどね」と、柔らかくつぶやいた。
御手洗 満:
「自分はヤキモチ妬いて怒るくせに、相手には妬いてほしいだなんて、ワガママだね。男の風上にも置けない」
そして小さく笑う。
御手洗 満:
「望月さん、練習今から、一緒に行こうか」
望月 美羽:
「え?」
きょとんとした私の前で、御手洗くんはスマホを操作しながらブツブツつぶやいている。
御手洗 満:
「あいつにもちょっと協力してもらうか。うまくいけば、トドメもさせるし」
望月 美羽:
「あの、御手洗くん?」
物騒な言葉に首をかしげるが、御手洗くんはニコッと笑うだけ。
御手洗 満:
「大丈夫。もう種はまいてあるから」
望月 美羽:
「へ?」
はてながたくさん頭に浮かぶ。
その横で和葉ちゃんが「私も見に行くー」と言ったんだけど。
御手洗 満:
「カズ、今日は絶対に来ないで」
みーちゃんは仏らしからぬ表情で、強く和葉ちゃんに釘をさしたのだった。
◇ 続く ◇




