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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第三章 最終便、発車します《3年生編》
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Ep.40 ジェラート・ジェラシー (3)「大好きな彼」

 圭介くんとケンカをしてしまった。


 こんな時に頼りになるのは、やはり先輩彼女であるるりっちだ。

 スマホでるりっちに連絡を取ると、ありがたいことにすぐ来てくれるという。

 ええい、この際だから梢ちゃんも道連れだぁ! と、結局3人集まることになって、私たちは集結する。

 本当なら圭介くんと来るはずだったジェラート屋さんに、私はるりっちと梢ちゃんと一緒に訪れたのだった。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 ジェラート・ジェラシー

(3)「大好きな彼」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 望月 美羽:

「圭介くんが、あんなにわからず屋だとは思わなかった!」


 ジェラート屋さんの隅のカウンター席に、私たちは並んで壁に向いて座っていた。

 ぷんぷんと真ん中席の私は、プラスチックスプーンを苺ジェラートに突き刺す。その反動で、飾りミントがはらりと落ちた。


 羽鳥 梢:

「つまりはまぁ、ヤキモチを妬き合ったわけだ」


 相も変わらずクールな梢ちゃんは、これまたクールに私の話をまとめてしまい、チョコジェラートをすくう。


 戸田 るり:

「美羽、大変だったね」


 優しいるりっちは、自分のことのように困り顔をして、私の話を聞いてくれた。ミルクジェラートには、まだ手をつけていない。

 そんなるりっちに、ついつい私の愚痴も出やすくなる。


 望月 美羽:

「私だってヤキモチ妬いたのにさ、圭介くんてば、自分のことには全っ然気づいてないんだもんっ」


 望月 美羽:

「他の女の子にデレデレしてたの、私は我慢したのに、私がちょっと先輩としゃべっただけで怒るなんてさっ」


 しかしそこで、冷静な梢ちゃんの突っ込みが入る。


 羽鳥 梢:

「でも大谷からしたら、先輩は彼女の好きだった人でしょ? ただのファンの子とは違うよ」


 望月 美羽:

「うっ……」


 それはまぁ──たしかに、そうなのかもしれない。


 私は圭介くんの過去の恋愛なんて知らない(というかあったのかも知らない)から、ヤキモチなんてしたことがなかったけれど。


 でも圭介くんは、知っている。

 私が杉野先輩を好きだったってこと。

 たしかに比べると、圭介くんの方がしんどいのかもしれない。


 でも……でもさ。


 戸田 るり:

「でもやっぱり、他の女の子にヤキモチは妬いちゃうよね」


 望月 美羽:

「!」


 るりっちが私の気持ちを、代弁してくれた。

 苦笑してるりっちはミルクジェラートを一口食べる。


 戸田 るり:

「ヤキモチなんてしたくないけど、なかなかコントロールできないもんね」


 羽鳥 梢:

「お、さすがヤキモチの苦労人」


 戸田 るり:

「これに関しては、イヤだけど慣れちゃったよ、もう」


 モテモテ中曽根くんの彼女のるりっち。その心労は、きっと私よりも大きいに違いない。

 でも、おかしいなぁ?

 ヤキモチでるりっちたちがケンカしてるところなんて、見たことないけど。


 望月 美羽:

「るりっちたちは、そういうのでケンカしない?」


 戸田 るり:

「んー、ないなぁ」


 羽鳥 梢:

「中曽根、他の女子に興味なさそうだもんね」


 梢ちゃんの言葉にハッとなる。


 そう、そうなのだ!

 私がヤキモチを妬く理由はそれである!


 望月 美羽:

「そーなの! 圭介くんも中曽根くんみたいに、クールにしてくれればいいのにさぁ」


 またしても、一度鎮火したはずのジェラシーがよみがえる。


 望月 美羽:

「応援してくれた後輩女子に、すっごいデレデレするの!」


 そして芋づる式に、去年同じクラスだった時のことも思い出す。


 望月 美羽:

「去年も井本くんと、エッチな話とかしてるし!」


 望月 美羽:

「そういえば、漫画雑誌のグラビアんとこも回し読みしてたし!」


 望月 美羽:

「教育実習の女子大生にも、鼻の下伸ばしてたー!」


 戸田 るり:

「お、落ち着いて、美羽」


 羽鳥 梢:

「はー、何とも大谷らしい……」


 どうどう、と馬をならすみたいに手を上げるるりっち。

 もらされた梢ちゃんの感想に、私は小さくため息をつく。


 望月 美羽:

「……うん、大谷くんて、そうなんだよねー……」


 おバカで、女子に弱くて、エロ親父キャラ。

 でも。


 望月 美羽:

「……でも」


 望月 美羽:

「そんな大谷くんだから、好きなんだよね」


 しゅん、と急に勢いは消えちゃった。


 そう。まくし立ててるうちに、わかっちゃった。

 そんな圭介くんを見ているのも、楽しかったなって。

 でも彼女の立場になったとたん、そんな余裕も消え失せて独占欲が出てきちゃう。いやだなぁ。


 望月 美羽:

「あーあ、嫉妬なんてしたくないよぅ」


 えい、とジェラシーの火を消したくて、冷たいジェラートを食べまくる。

 ひんやり冷たいそれは、口の中であっという間に溶けていく。


 戸田 るり:

「……でもさ、美羽」


 戸田 るり:

「嫉妬も放っておくと、大変なことになっちゃうよ」


 るりっちがやんわり語り出したので、耳を傾けた。

 ただ優しくお話してくれる。


 戸田 るり:

「伝えてもいいんだよ、自分がやだなって思うことは」


 戸田 るり:

「大谷くんと比べて大したことないって思っても、美羽にとってイヤなことには、変わりないでしょ?」


 望月 美羽:

「……うん」


 戸田 るり:

「なら伝えなくちゃ。まだヤキモチが小さなうちにさ」


 望月 美羽:

「うん……」


 そうだね。

 ヤキモチの火なんて、小さいうちに伝えて、消してもらえばいいんだ。

 放っておいたら、大火事になっちゃう。

 ドロドロに溶けてしまうジェラートのように、その姿はみっともないに違いない。


 羽鳥 梢:

「……るり、大人になったねぇ」


 梢ちゃんも、私と同じ感銘を受けたのだろう。

 少し驚いたように、目を丸くしてるりっちを見た。


 戸田 るり:

「ふふー、ただの受け売りだけど」


 羽鳥 梢:

「いいねぇ、恋する乙女っ」


 望月 美羽:

「梢ちゃんは、まだ?」


 羽鳥 梢:

「まだです!」


 胸を張って答えた梢ちゃんに、私とるりっちは笑い合う。

 ああ、圭介くんといるのも楽しいけれど、友達とのおしゃべりは、また違って楽しいな。


 大好きなるりっちと梢ちゃん。

 2人から元気とアドバイスをもらって、私はようやく圭介くんに謝らなきゃ、と思えたのだった。




 ◇ 続く ◇

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