Ep.40 ジェラート・ジェラシー (2)「おバカな彼」
あれから何回か、応援団の練習を見に行った。
相変わらず後輩女子の声援にデレる圭介くんに、すこーし腹立たしくもあったけど、彼女としてガマンしていた私。
そんな中、彼がめずらしく、土曜日の午後にちょっとデートをしようと言ってくれた。
部活が先生の都合で早く終わるので、帰りに待ち合わせをしてジェラートを食べに行こう、なんて誘ってくれたのだ。
以前、私が報告した新しい可愛いジェラート屋さんの話を、きちんと覚えてくれていたことが嬉しい。
望月 美羽:
(えへへー、楽しみー)
私はうきうきしながら、待ち合わせ場所の本屋さんにいた。
雑誌コーナーで立ち読みしていたけれど、ちょっと飽きてしまった。
望月 美羽:
(たぶんもうすぐ、終わるはずなんだけど)
ちらりとスマホを確認したら、16時にもうすぐなる頃だった。
でも、まだ部活は終わってないらしい。
さて、ではもう少し暇を潰さねばと、辺りを見渡す。
すると、参考書コーナーがふと目に入った。
並んでいる赤本や各出版社から出ている参考書と、嫌でも今後、向き合わなければいけないことはわかっている。
望月 美羽:
(……ちょっと、チェックしておこうかな)
圭介くんも目指してくれると言った、桜塚高校。
ただ私も、もうちょっと頑張らないと、余裕で目指せるとは言えない成績である。
私はカバンを持ち直して、参考書コーナーへと足を向けた。
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ジェラート・ジェラシー
(2)「おバカな彼」
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しばらく参考書を読んでいたら、背後から懐かしい声が聞こえた。
杉野先輩:
「あれ、望月じゃないか」
望月 美羽:
「え、杉野先輩!?」
そこにいたのは、去年卒業した杉野先輩だった。
私の2つ上の先輩。
元園芸部の部長で、優しくて、カッコよくて、私が──大好きだった人。
そんな杉野先輩は、学校帰りのようで高校の制服を着ていた。
ブレザーでネクタイをビシッと決めているその姿は、学ランとはまた違って、大人っぽい。杉野先輩は、徳瑛高校の特進クラスに進学していた。
杉野先輩:
「奇遇だな、こんなところで」
望月 美羽:
「わあ、お久しぶりです。元気にしてましたか?」
杉野先輩:
「もちろん。望月も元気そうだな」
望月 美羽:
「はい! 私はいつでも元気ですっ」
実際、今日はデートが控えているので元気満タンだった。
両手をグッと握って元気をアピールすると、杉野先輩は昔みたいに、優しく微笑んでくれた。
うわぁ、杉野先輩、本当に大人っぽくなったな。
優しいメガネの目元は変わらないのに、整えられた髪形は昔より洗練されてて、ちょっとオシャレさんに見える。
もしかして……いやいや、もしかしなくても、彼女であるちー先輩のせいに違いない。
望月 美羽:
「ちー先輩とは、相変わらずラブラブですか?」
杉野先輩:
「!」
杉野先輩:
「こら望月、先輩をからかうなよ」
望月 美羽:
「えへへー」
不思議だな。
今は、杉野先輩がちー先輩とのことで照れて恥ずかしがっても、胸は全然痛くならないや。
私が大好きだった、杉野先輩。
卒業式のときに告白をして、フラれてしまった。
でも、その事を思い出そうとすると、私の顔はにやけてしまう。
だってあの日に、私は圭介くんに告白してもらったのだから。
杉野先輩:
「……と、噂をすれば、ちーから連絡だ」
杉野先輩はポケットからスマホを取り出すと、つぶやいた。
じゃあな、と言って手を振って立ち去る。
憧れの存在だった杉野先輩はやっぱりステキで、私は懐かしいときめきに胸を高鳴らせて、彼を見送った。
望月 美羽:
(そうだ、私も連絡きてるかな?)
私もカバンからスマホを出して、確認する。
すると圭介くんからのメッセージがやはりあって、『もうすぐ着く!』と、それは約3分前に届いていた。
望月 美羽:
(もう、着いたかな?)
きょろきょろ辺りを見渡すと、後ろからポンッと軽く頭を叩かれる。
圭介くんが、いつものように手のひらを乗っけたのだ。
大谷 圭介:
「待たせた!」
望月 美羽:
「あ、圭介くんっ」
笑顔で振り返って、乗っけられた手で乱れた髪を、パパッと直す。
私服の私と違って、部活帰りの圭介くんは大きなカバンを肩にかけて制服姿だ。
望月 美羽:
「部活、お疲れさま!」
会えて嬉しい気持ちから、そう声をかけたんだけど。
大谷 圭介:
「ん……行くか」
なんとなく圭介くんは、上の空で返事をして、すぐに私に背を向けた。
真っ白な制服シャツの背中が、私の視界をさえぎってしまう。
望月 美羽:
「?」
圭介くんは歩き出した。
私も慌てて参考書を棚に戻すと、そんな彼について行って、本屋を一緒に出た。
でも、圭介くんと私の足の長さって、全然違うの。
スタスタ歩いて行く圭介くんの足取りがいつもより早くて、私の足はもたつきそうになる。
つい走り寄って、ガシッと彼のカバンにしがみついた。
望月 美羽:
「圭介くん、歩くの早いよ~」
大谷 圭介:
「あ、ごめんっ」
圭介くんは今気がついたようで、慌ててこちらに顔を向ける。
でも、振り返ったその表情は少し暗くて、何か悩んでいるような顔だった。
望月 美羽:
「……圭介くん、どうしたの?」
悩み事を、私にはあまり言ってくれない彼。
でも表情や態度に出やすいから、私にはすぐに、圭介くんが何かに悩んでいることがわかるんだ。
それは圭介くんも、重々承知しているんだろう。
ため息を吐きながら、向き合って言ってくれた。
大谷 圭介:
「……さっき、あいつと何話してたわけ?」
望月 美羽:
「へ?」
あいつ?
首をかしげた私に、圭介くんは眉をぎゅっと寄せる。
大谷 圭介:
「あの高校生……あれ、例の先輩だろ」
望月 美羽:
「!」
杉野先輩のことだ。
そうか。圭介くん、さっきの杉野先輩とのやりとりを見ていたんだ。
ということは……。
望月 美羽:
(これって、ヤキモチ妬かれてる?)
少しだけ、胸が高鳴った。
だって以前、体育館の時には、私が後輩にヤキモチを妬いちゃっていたから。
だから、つい。
望月 美羽:
「……えへへ」
笑ってしまった。
大谷 圭介:
「!」
大谷 圭介:
「……何だよ望月、デリカシーねぇぞ!」
望月 美羽:
「えっ」
でもそれは、圭介くんにとっては違う表情に見えたみたいだった。
ヤキモチを妬いてもらえて嬉しかったのに、圭介くんには、私が杉野先輩とのやりとりを思い出して笑ったかのように見えた──なんてことに、私は気づかなかったのだ。
望月 美羽:
「な、何? 圭介くん」
突然の圭介くんの険しい表情に、私は戸惑うばかり。
でもその慌てている様子も、彼には違う様子に映っているようだった。
大谷 圭介:
「前に好きだったやつと会話するとこ、見せて楽しいのかよ」
望月 美羽:
「えっ……」
冷たい圭介くんの声に、ツキンと胸が痛くなる。
大谷 圭介:
「俺との待ち合わせなのに、あんなやつにデレデレしてさ」
望月 美羽:
「なっ……!」
ツキンとなったあとに、カチンときた。
何それ。
そんな言い方ってひどいよ!
私の脳裏に、最近恒例になりつつある、イヤな光景がよみがえる。
圭介くんをカッコいいと言う後輩の女の子たち。
その子たちの声援に、まんざらでもなさそうに笑う圭介くん。
なくなっていたはずのモヤモヤが、また一気に胸の奥から吹き出した。
望月 美羽:
「……で……」
望月 美羽:
「デリカシーがないのはそっちじゃない! バカッ!」
大谷 圭介:
「!?」
思わず言い返した私。
大通りの歩道の中で、人もたくさん通っているのに、私たちは向き合ってにらめっこをしてしまう。
大谷 圭介:
「な、何で俺がデリカシーないってことになんの!?」
望月 美羽:
「圭介くん、自分の胸に手を当てて、よーっく考えてみれば?」
大谷 圭介:
「はぁ?」
そんな私たちの横を、通行人の老夫婦が、小さく笑いながら通りすぎていく。
通行人のおばあちゃん:
「あらあら、兄妹ゲンカはダメよ~」
通行人のおじいちゃん:
「ほほえましいのぉ」
大谷 圭介:
「兄妹じゃ」
望月 美羽:
「ありません!!」
思わずそろって反論してしまったけれど、顔を見合わせて「フンッ」と、互いにそっぽを向いてしまう。
ううー、圭介くんって本当にバカ!
結局ジェラート屋さんへも行かずに、その場で解散してしまった私たち。
せっかく満タンだった元気エネルギーが、あっという間に消費されてしまったのだった。
◇ 続く ◇




