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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第三章 最終便、発車します《3年生編》
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Ep.40 ジェラート・ジェラシー (2)「おバカな彼」

 あれから何回か、応援団の練習を見に行った。

 相変わらず後輩女子の声援にデレる圭介くんに、すこーし腹立たしくもあったけど、彼女としてガマンしていた私。


 そんな中、彼がめずらしく、土曜日の午後にちょっとデートをしようと言ってくれた。

 部活が先生の都合で早く終わるので、帰りに待ち合わせをしてジェラートを食べに行こう、なんて誘ってくれたのだ。

 以前、私が報告した新しい可愛いジェラート屋さんの話を、きちんと覚えてくれていたことが嬉しい。


 望月 美羽:

(えへへー、楽しみー)


 私はうきうきしながら、待ち合わせ場所の本屋さんにいた。

 雑誌コーナーで立ち読みしていたけれど、ちょっと飽きてしまった。


 望月 美羽:

(たぶんもうすぐ、終わるはずなんだけど)


 ちらりとスマホを確認したら、16時にもうすぐなる頃だった。

 でも、まだ部活は終わってないらしい。


 さて、ではもう少し暇を潰さねばと、辺りを見渡す。

 すると、参考書コーナーがふと目に入った。

 並んでいる赤本や各出版社から出ている参考書と、嫌でも今後、向き合わなければいけないことはわかっている。


 望月 美羽:

(……ちょっと、チェックしておこうかな)


 圭介くんも目指してくれると言った、桜塚高校。

 ただ私も、もうちょっと頑張らないと、余裕で目指せるとは言えない成績である。

 私はカバンを持ち直して、参考書コーナーへと足を向けた。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 ジェラート・ジェラシー

(2)「おバカな彼」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 しばらく参考書を読んでいたら、背後から懐かしい声が聞こえた。


 杉野先輩:

「あれ、望月じゃないか」


 望月 美羽:

「え、杉野先輩!?」


 そこにいたのは、去年卒業した杉野先輩だった。

 私の2つ上の先輩。

 元園芸部の部長で、優しくて、カッコよくて、私が──大好きだった人。


 そんな杉野先輩は、学校帰りのようで高校の制服を着ていた。

 ブレザーでネクタイをビシッと決めているその姿は、学ランとはまた違って、大人っぽい。杉野先輩は、徳瑛高校の特進クラスに進学していた。


 杉野先輩:

「奇遇だな、こんなところで」


 望月 美羽:

「わあ、お久しぶりです。元気にしてましたか?」


 杉野先輩:

「もちろん。望月も元気そうだな」


 望月 美羽:

「はい!  私はいつでも元気ですっ」


 実際、今日はデートが控えているので元気満タンだった。

 両手をグッと握って元気をアピールすると、杉野先輩は昔みたいに、優しく微笑んでくれた。


 うわぁ、杉野先輩、本当に大人っぽくなったな。

 優しいメガネの目元は変わらないのに、整えられた髪形は昔より洗練されてて、ちょっとオシャレさんに見える。

 もしかして……いやいや、もしかしなくても、彼女であるちー先輩のせいに違いない。


 望月 美羽:

「ちー先輩とは、相変わらずラブラブですか?」


 杉野先輩:

「!」


 杉野先輩:

「こら望月、先輩をからかうなよ」


 望月 美羽:

「えへへー」


 不思議だな。

 今は、杉野先輩がちー先輩とのことで照れて恥ずかしがっても、胸は全然痛くならないや。


 私が大好きだった、杉野先輩。

 卒業式のときに告白をして、フラれてしまった。

 でも、その事を思い出そうとすると、私の顔はにやけてしまう。

 だってあの日に、私は圭介くんに告白してもらったのだから。


 杉野先輩:

「……と、噂をすれば、ちーから連絡だ」


 杉野先輩はポケットからスマホを取り出すと、つぶやいた。

 じゃあな、と言って手を振って立ち去る。

 憧れの存在だった杉野先輩はやっぱりステキで、私は懐かしいときめきに胸を高鳴らせて、彼を見送った。


 望月 美羽:

(そうだ、私も連絡きてるかな?)


 私もカバンからスマホを出して、確認する。

 すると圭介くんからのメッセージがやはりあって、『もうすぐ着く!』と、それは約3分前に届いていた。


 望月 美羽:

(もう、着いたかな?)


 きょろきょろ辺りを見渡すと、後ろからポンッと軽く頭を叩かれる。

 圭介くんが、いつものように手のひらを乗っけたのだ。


 大谷 圭介:

「待たせた!」


 望月 美羽:

「あ、圭介くんっ」


 笑顔で振り返って、乗っけられた手で乱れた髪を、パパッと直す。

 私服の私と違って、部活帰りの圭介くんは大きなカバンを肩にかけて制服姿だ。


 望月 美羽:

「部活、お疲れさま!」


 会えて嬉しい気持ちから、そう声をかけたんだけど。


 大谷 圭介:

「ん……行くか」


 なんとなく圭介くんは、上の空で返事をして、すぐに私に背を向けた。

 真っ白な制服シャツの背中が、私の視界をさえぎってしまう。


 望月 美羽:

「?」


 圭介くんは歩き出した。

 私も慌てて参考書を棚に戻すと、そんな彼について行って、本屋を一緒に出た。


 でも、圭介くんと私の足の長さって、全然違うの。

 スタスタ歩いて行く圭介くんの足取りがいつもより早くて、私の足はもたつきそうになる。

 つい走り寄って、ガシッと彼のカバンにしがみついた。


 望月 美羽:

「圭介くん、歩くの早いよ~」


 大谷 圭介:

「あ、ごめんっ」


 圭介くんは今気がついたようで、慌ててこちらに顔を向ける。

 でも、振り返ったその表情は少し暗くて、何か悩んでいるような顔だった。


 望月 美羽:

「……圭介くん、どうしたの?」


 悩み事を、私にはあまり言ってくれない彼。

 でも表情や態度に出やすいから、私にはすぐに、圭介くんが何かに悩んでいることがわかるんだ。


 それは圭介くんも、重々承知しているんだろう。

 ため息を吐きながら、向き合って言ってくれた。


 大谷 圭介:

「……さっき、あいつと何話してたわけ?」


 望月 美羽:

「へ?」


 あいつ?

 首をかしげた私に、圭介くんは眉をぎゅっと寄せる。


 大谷 圭介:

「あの高校生……あれ、例の先輩だろ」


 望月 美羽:

「!」


 杉野先輩のことだ。

 そうか。圭介くん、さっきの杉野先輩とのやりとりを見ていたんだ。

 ということは……。


 望月 美羽:

(これって、ヤキモチ妬かれてる?)


 少しだけ、胸が高鳴った。

 だって以前、体育館の時には、私が後輩にヤキモチを妬いちゃっていたから。


 だから、つい。


 望月 美羽:

「……えへへ」


 笑ってしまった。


 大谷 圭介:

「!」


 大谷 圭介:

「……何だよ望月、デリカシーねぇぞ!」


 望月 美羽:

「えっ」


 でもそれは、圭介くんにとっては違う表情に見えたみたいだった。

 ヤキモチを妬いてもらえて嬉しかったのに、圭介くんには、私が杉野先輩とのやりとりを思い出して笑ったかのように見えた──なんてことに、私は気づかなかったのだ。


 望月 美羽:

「な、何? 圭介くん」


 突然の圭介くんの険しい表情に、私は戸惑うばかり。

 でもその慌てている様子も、彼には違う様子に映っているようだった。


 大谷 圭介:

「前に好きだったやつと会話するとこ、見せて楽しいのかよ」


 望月 美羽:

「えっ……」


 冷たい圭介くんの声に、ツキンと胸が痛くなる。


 大谷 圭介:

「俺との待ち合わせなのに、あんなやつにデレデレしてさ」


 望月 美羽:

「なっ……!」


 ツキンとなったあとに、カチンときた。

 何それ。

 そんな言い方ってひどいよ!


 私の脳裏に、最近恒例になりつつある、イヤな光景がよみがえる。

 圭介くんをカッコいいと言う後輩の女の子たち。

 その子たちの声援に、まんざらでもなさそうに笑う圭介くん。

 なくなっていたはずのモヤモヤが、また一気に胸の奥から吹き出した。


 望月 美羽:

「……で……」


 望月 美羽:

「デリカシーがないのはそっちじゃない! バカッ!」


 大谷 圭介:

「!?」


 思わず言い返した私。

 大通りの歩道の中で、人もたくさん通っているのに、私たちは向き合ってにらめっこをしてしまう。


 大谷 圭介:

「な、何で俺がデリカシーないってことになんの!?」


 望月 美羽:

「圭介くん、自分の胸に手を当てて、よーっく考えてみれば?」


 大谷 圭介:

「はぁ?」


 そんな私たちの横を、通行人の老夫婦が、小さく笑いながら通りすぎていく。


 通行人のおばあちゃん:

「あらあら、兄妹ゲンカはダメよ~」


 通行人のおじいちゃん:

「ほほえましいのぉ」


 大谷 圭介:

「兄妹じゃ」


 望月 美羽:

「ありません!!」


 思わずそろって反論してしまったけれど、顔を見合わせて「フンッ」と、互いにそっぽを向いてしまう。


 ううー、圭介くんって本当にバカ!


 結局ジェラート屋さんへも行かずに、その場で解散してしまった私たち。

 せっかく満タンだった元気エネルギーが、あっという間に消費されてしまったのだった。




 ◇ 続く ◇

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