Ep.40 ジェラート・ジェラシー(1)「カッコいい彼」
6月の、ある快晴の日。
私、望月美羽は友達のさとみんを引き連れて、体育館へと向かった。
扉を開けると、体育館の奥に見つけた大きな人物に目をとめる。
望月 美羽:
「あ、いたいた! 圭介くん!」
大谷 圭介:
「望月!」
ジャージ姿の圭介くんは、男の子ばかりの体育館の中でも、頭1個分飛び抜けている。
下手したら先生みたいな図体で、大きい彼は、これまた大きな太鼓の前にいた。
望月 美羽:
「うわあ、これが大太鼓!?」
大谷 圭介:
「そ! でっけーだろー」
自慢げにふんぞり返って、圭介くんは友人の肩みたいにバシバシと、大太鼓の樽部分を叩く。
7月にあるスポーツ大会。
そこでの、男子有志による応援団に、圭介くんは今年も参加している。
しかも今年は、大太鼓役としてバチをふるうのだ。
今日は応援団の練習日で、部活のない私は練習を見にきた。
望月 美羽:
「すごーい! 圭介くんにバッチリ似合ってるねー!」
大谷 圭介:
「へへ、そうか」
嬉しそうに笑う圭介くん。
そんな彼を見て、私も嬉しくなって、えへへ、と笑った。
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ジェラート・ジェラシー
(1)「カッコいい彼」
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応援団の練習が始まると、体育館内に男の子たちの声が響き始めた。
それを出入り口近くで、私とさとみんは見守っている。他にも同級生や下級生の子達が、何人か来ていた。
さとみん:
「今年は、3年生の参加が少ないんだね」
横にいるさとみんが、ふと言った。
たしかに対比としては1:2くらいかな。去年は、3年生の方が多かった印象なんだけど。
望月 美羽:
「本当だね。中曽根くんも参加しないから、圭介くんがっかりしてたよ」
それでも参加した圭介くんは、彼らしいなと思う。
サッカー部の部長で忙しいはずなのに「応援団の人数が少ないから、経験者として参加してくれないか」と、応援団長に頼まれていた圭介くん。
結局断りきれずに、まだ負担の少ない太鼓役として参加することになった。
でも、大太鼓のバチをふるう圭介くんはカッコいいなぁ、なんて私は思っているのだ。
だってほら、今も。
太鼓に負けないくらいの迫力と腕をふるって、音を鳴らす圭介くんは、めちゃくちゃカッコいい。
望月 美羽:
(はー、すごいなー……)
サッカーをしている時も、応援団をしている時も。
圭介くんはとってもカッコいい。
そんなふうに考えていたら。
後輩女子1:
「あれー。中曽根先輩、今年は参加しないんだ」
後輩女子2:
「ええ、がっかり」
体育館の扉から中をのぞいた、下級生の女の子たちの会話が聞こえた。
おお、中曽根くんファンの子だ!
さとみん:
「やっぱり中曽根くん目当ての子、多いねー」
望月 美羽:
「去年、目立ってたもんね」
さとみんと目を合わせて、コソコソ笑う。
るりっちが、ここにいなくてよかった。
去年は先輩でハラハラしていたのに、今年は後輩にハラハラするなんて、るりっちも大変だ。
なんて、他人事のように考えていたら。
後輩女子1:
「あ、でもさ、大谷先輩がいるよ」
後輩女子2:
「わ、本当だ! かっこいいー」
望月 美羽:
「!?」
まさかの圭介くんが、注目されてしまった。
え、何で圭介くん!?
圭介くんは、同級生の女の子たちにはモテない。それは私と付き合う前からである。
それはたぶん、大きすぎる身長と、お調子者すぎる性格と、スケベ親父キャラが同級生の女の子たちに知れ渡っているからだ。
だが、しかし。
後輩女子1:
「サッカー部の部長なんだよね。大人っぽくてカッコいいなぁ」
後輩女子2:
「背も高いし、頼り甲斐ありそうだよねー」
望月 美羽:
「………!!」
な──何ということでしょう!
あの圭介くんは下級生から見たら、背も高く、大人っぽく、頼り甲斐のありそうなステキ先輩キャラに変身してしまうのです!!
がーん、とショックを受けてしまった私。
でもまさか、隣の後輩たちに「そんなこと言わないで!」なんて言えない。
だってただ、感想を言っているだけなんだもん。
そんな私の横で、さとみんが少し慌ててフォローに入る。
さとみん:
「だ、大丈夫だって美羽! あいつはそれでも、バカな単純スケベ親父だから!」
望月 美羽:
「……さとみん、それフォローになってないよぅ」
トホホと肩を落とした横では、気づいていない後輩2人がきゃあきゃあと、圭介くんに黄色い声援を送り始める。
後輩2人:
「大谷センパーイ、頑張ってくださーい!」
その声は奥にいた圭介くんにまで届き、彼は驚いたように顔をあげた。
大谷 圭介:
「へ、俺!?」
今まで女の子の声援を、私以外から受けたことがない圭介くん。
そんな彼は、一瞬目を丸くして。
大谷 圭介:
「──へへへぇ。こりゃ頑張らねば!」
なんて笑った。
望月 美羽:
「……!!」
な・な・な……何あの顔〜〜!!
私にはそれが、デレッと鼻の下を伸ばしたように見えた。
とっても情けない顔である!
ちょっとどういうこと、圭介くん!?
その後輩2人の横に、彼女である私が立っているんですけど!?
さとみん:
「……あちゃー、大谷のバカ……」
そんなさとみんのぼやきも聞こえた。
ということは、さとみんにだって、さっきの圭介くんの顔がだらしなく見えた証拠である。
そう考えたら、さらにムカムカと怒りが沸いてきて、私はぷぅ、と頬を膨らませた。
望月 美羽:
「さとみん、帰ろう!」
さとみん:
「あ、ちょっと、美羽!」
私は踵を返して、体育館出入り口から離れた。
その隣では、まだ後輩2人が圭介くんに向かって何かキャーキャー言っている。
大太鼓の音が聞こえてきたから、圭介くんが女の子たちの声に張り切って、頑張り始めたのかもしれない。
もう、圭介くんのバカバカバカ!
・ ・ ・
すっかりご立腹したまま帰宅した私。
夜の夕食後、部屋に戻ったら、圭介くんからのメッセージがスマホに届いた。
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圭介:
「今日練習の途中で帰っちゃった?」
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今さらである。
私はむすっとしたままベッドに寝転がって、ええい、とメッセージを打ち込んで送信をした。
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美羽:
「ちょっと用事思い出して!声かけられなくてごめんね」
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嘘でごまかしてしまう。
わかっている。これはヤキモチなのだ。
他の女の子に好意を抱かれる瞬間を見てしまった私は、あれからずっと、モヤモヤした気持ちが心を満たしていた。
でも、そんな気持ちを圭介くんに伝えることはできない。
だって、この気持ちは、私の問題なんだから。
圭介くんは悪くないもん。
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圭介:
「そっか。また見に来てくれよな。望月がいたら、すげー頑張れるから」
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望月 美羽:
「……!」
とても嬉しい言葉だった。
それなのに、私の脳裏にちらりと、後輩の女の子の声援にデレた圭介くんがちらついて、本当なのかなぁ、なんて考えてしまう。
私じゃなくても女の子なら、誰でも嬉しいんじゃないかな。
そんなふうに考えちゃう私って、嫌な彼女だ。
望月 美羽:
「……」
望月 美羽:
「……ええと」
もどかしい指先で、スマホをタップする。
ごめん。ごめんね、圭介くん。
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美羽:
「うん、見に行く!」
美羽:
「圭介くん大好きだよ」
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最後のメッセージには照れくさくって、ついおふざけスタンプもつけてしまう。
でもそれを送ったと同時に、圭介くんから届いたメッセージで、私もつい笑っていた。
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圭介:
「俺もだし!!!!!」
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圭介くんの赤い笑顔が浮かんできそうで、さっきとは違うくすぐりが心の中に広がる。
うん、大丈夫!
私たちはちゃーんと、大好き同士だよね。
嬉しくって仕方なくて、圭介くんとのメッセージ画面を、いつまでもニヤニヤしながら、ベッドに転がって見つめているのだった。
◇ 続く ◇




