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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第三章 最終便、発車します《3年生編》
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Ep.40 ジェラート・ジェラシー(1)「カッコいい彼」

 6月の、ある快晴の日。


 私、望月美羽は友達のさとみんを引き連れて、体育館へと向かった。

 扉を開けると、体育館の奥に見つけた大きな人物に目をとめる。


 望月 美羽:

「あ、いたいた! 圭介くん!」


 大谷 圭介:

「望月!」


 ジャージ姿の圭介くんは、男の子ばかりの体育館の中でも、頭1個分飛び抜けている。

 下手したら先生みたいな図体で、大きい彼は、これまた大きな太鼓の前にいた。


 望月 美羽:

「うわあ、これが大太鼓!?」


 大谷 圭介:

「そ! でっけーだろー」


 自慢げにふんぞり返って、圭介くんは友人の肩みたいにバシバシと、大太鼓の樽部分を叩く。


 7月にあるスポーツ大会。

 そこでの、男子有志による応援団に、圭介くんは今年も参加している。

 しかも今年は、大太鼓役としてバチをふるうのだ。


 今日は応援団の練習日で、部活のない私は練習を見にきた。


 望月 美羽:

「すごーい! 圭介くんにバッチリ似合ってるねー!」


 大谷 圭介:

「へへ、そうか」


 嬉しそうに笑う圭介くん。

 そんな彼を見て、私も嬉しくなって、えへへ、と笑った。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 ジェラート・ジェラシー

(1)「カッコいい彼」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 応援団の練習が始まると、体育館内に男の子たちの声が響き始めた。


 それを出入り口近くで、私とさとみんは見守っている。他にも同級生や下級生の子達が、何人か来ていた。


 さとみん:

「今年は、3年生の参加が少ないんだね」


 横にいるさとみんが、ふと言った。

 たしかに対比としては1:2くらいかな。去年は、3年生の方が多かった印象なんだけど。


 望月 美羽:

「本当だね。中曽根くんも参加しないから、圭介くんがっかりしてたよ」


 それでも参加した圭介くんは、彼らしいなと思う。

 サッカー部の部長で忙しいはずなのに「応援団の人数が少ないから、経験者として参加してくれないか」と、応援団長に頼まれていた圭介くん。

 結局断りきれずに、まだ負担の少ない太鼓役として参加することになった。

 でも、大太鼓のバチをふるう圭介くんはカッコいいなぁ、なんて私は思っているのだ。


 だってほら、今も。


 太鼓に負けないくらいの迫力と腕をふるって、音を鳴らす圭介くんは、めちゃくちゃカッコいい。


 望月 美羽:

(はー、すごいなー……)


 サッカーをしている時も、応援団をしている時も。

 圭介くんはとってもカッコいい。


 そんなふうに考えていたら。


 後輩女子1:

「あれー。中曽根先輩、今年は参加しないんだ」


 後輩女子2:

「ええ、がっかり」


 体育館の扉から中をのぞいた、下級生の女の子たちの会話が聞こえた。

 おお、中曽根くんファンの子だ!


 さとみん:

「やっぱり中曽根くん目当ての子、多いねー」


 望月 美羽:

「去年、目立ってたもんね」


 さとみんと目を合わせて、コソコソ笑う。

 るりっちが、ここにいなくてよかった。

 去年は先輩でハラハラしていたのに、今年は後輩にハラハラするなんて、るりっちも大変だ。

 なんて、他人事のように考えていたら。


 後輩女子1:

「あ、でもさ、大谷先輩がいるよ」


 後輩女子2:

「わ、本当だ! かっこいいー」


 望月 美羽:

「!?」


 まさかの圭介くんが、注目されてしまった。

 え、何で圭介くん!?


 圭介くんは、同級生の女の子たちにはモテない。それは私と付き合う前からである。

 それはたぶん、大きすぎる身長と、お調子者すぎる性格と、スケベ親父キャラが同級生の女の子たちに知れ渡っているからだ。


 だが、しかし。


 後輩女子1:

「サッカー部の部長なんだよね。大人っぽくてカッコいいなぁ」


 後輩女子2:

「背も高いし、頼り甲斐ありそうだよねー」


 望月 美羽:

「………!!」


 な──何ということでしょう!

 あの圭介くんは下級生から見たら、背も高く、大人っぽく、頼り甲斐のありそうなステキ先輩キャラに変身してしまうのです!!


 がーん、とショックを受けてしまった私。

 でもまさか、隣の後輩たちに「そんなこと言わないで!」なんて言えない。

 だってただ、感想を言っているだけなんだもん。

 そんな私の横で、さとみんが少し慌ててフォローに入る。


 さとみん:

「だ、大丈夫だって美羽! あいつはそれでも、バカな単純スケベ親父だから!」


 望月 美羽:

「……さとみん、それフォローになってないよぅ」


 トホホと肩を落とした横では、気づいていない後輩2人がきゃあきゃあと、圭介くんに黄色い声援を送り始める。


 後輩2人:

「大谷センパーイ、頑張ってくださーい!」


 その声は奥にいた圭介くんにまで届き、彼は驚いたように顔をあげた。


 大谷 圭介:

「へ、俺!?」


 今まで女の子の声援を、私以外から受けたことがない圭介くん。

 そんな彼は、一瞬目を丸くして。


 大谷 圭介:

「──へへへぇ。こりゃ頑張らねば!」


 なんて笑った。


 望月 美羽:

「……!!」


 な・な・な……何あの顔〜〜!!


 私にはそれが、デレッと鼻の下を伸ばしたように見えた。

 とっても情けない顔である!

 ちょっとどういうこと、圭介くん!?

 その後輩2人の横に、彼女である私が立っているんですけど!?


 さとみん:

「……あちゃー、大谷のバカ……」


 そんなさとみんのぼやきも聞こえた。

 ということは、さとみんにだって、さっきの圭介くんの顔がだらしなく見えた証拠である。

 そう考えたら、さらにムカムカと怒りが沸いてきて、私はぷぅ、と頬を膨らませた。


 望月 美羽:

「さとみん、帰ろう!」


 さとみん:

「あ、ちょっと、美羽!」


 私は踵を返して、体育館出入り口から離れた。

 その隣では、まだ後輩2人が圭介くんに向かって何かキャーキャー言っている。

 大太鼓の音が聞こえてきたから、圭介くんが女の子たちの声に張り切って、頑張り始めたのかもしれない。


 もう、圭介くんのバカバカバカ!



 ・   ・   ・



 すっかりご立腹したまま帰宅した私。

 夜の夕食後、部屋に戻ったら、圭介くんからのメッセージがスマホに届いた。


…………………………………


 圭介:

「今日練習の途中で帰っちゃった?」


…………………………………


 今さらである。

 私はむすっとしたままベッドに寝転がって、ええい、とメッセージを打ち込んで送信をした。


…………………………………


 美羽:

「ちょっと用事思い出して!声かけられなくてごめんね」


…………………………………


 嘘でごまかしてしまう。

 わかっている。これはヤキモチなのだ。


 他の女の子に好意を抱かれる瞬間を見てしまった私は、あれからずっと、モヤモヤした気持ちが心を満たしていた。

 でも、そんな気持ちを圭介くんに伝えることはできない。

 だって、この気持ちは、私の問題なんだから。

 圭介くんは悪くないもん。


…………………………………


 圭介:

「そっか。また見に来てくれよな。望月がいたら、すげー頑張れるから」


…………………………………


 望月 美羽:

「……!」


 とても嬉しい言葉だった。

 それなのに、私の脳裏にちらりと、後輩の女の子の声援にデレた圭介くんがちらついて、本当なのかなぁ、なんて考えてしまう。

 私じゃなくても女の子なら、誰でも嬉しいんじゃないかな。


 そんなふうに考えちゃう私って、嫌な彼女だ。


 望月 美羽:

「……」


 望月 美羽:

「……ええと」


 もどかしい指先で、スマホをタップする。

 ごめん。ごめんね、圭介くん。


………………………………


 美羽:

「うん、見に行く!」


 美羽:

「圭介くん大好きだよ」


………………………………


 最後のメッセージには照れくさくって、ついおふざけスタンプもつけてしまう。

 でもそれを送ったと同時に、圭介くんから届いたメッセージで、私もつい笑っていた。


………………………………


 圭介:

「俺もだし!!!!!」


………………………………


 圭介くんの赤い笑顔が浮かんできそうで、さっきとは違うくすぐりが心の中に広がる。


 うん、大丈夫!

 私たちはちゃーんと、大好き同士だよね。


 嬉しくって仕方なくて、圭介くんとのメッセージ画面を、いつまでもニヤニヤしながら、ベッドに転がって見つめているのだった。




 ◇ 続く ◇

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