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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第三章 最終便、発車します《3年生編》
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Ep.37 春のさくら(5)「対立のち対立」

 2限目が終わると、約束どおり5組へ向かう羽鳥についていった。

 5組には、羽鳥と仲がよかった松宮茜がいる。


 1年のときに自分を体育館倉庫に閉じ込めた張本人(俺のことだ)を目の前に、嫌そうな顔をした松宮。

 昔から、感情が表に出やすいやつだった。


 羽鳥 梢:

「てなことで、宣伝よろしくね!」


 羽鳥はそんな松宮相手に、笑顔で説明しチラシを渡す。

 松宮は、後ろに立つ俺をジロッと睨みつけて、口をへの字にした。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 春のさくら

(5)「対立のち対立」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 松宮 茜:

「羽鳥、あんたさ。堂本にいいように使われてない?」


 羽鳥 梢:

「へ、何が?」


 松宮は俺がいるにもかかわらず、羽鳥に尋問を始める。


 松宮 茜:

「引き取り手探し。何で拾った堂本じゃなくて、あんたが頼み込んでるのよ。押し付けられてるの?」


 そうしてギロッと俺を見る。

 こりゃ、相当に俺は嫌われてるな。別にいーんだけどさ。


 でも、押し付けたわけでもないのにそう決めつけられるのは、単純に腹が立つ。

 俺は松宮を睨み返すが、その前で羽鳥が慌てて両手を振った。


 羽鳥 梢:

「違う違う! 私が勝手に、首を突っ込んでるだけ!」


 睨み合う俺たちを遮断するかのように、俺らより背が低い羽鳥は間でわたわたと叫ぶ。

 こいつの性格は、松宮もわかってはいるのだろう。その言葉に「そう」と、一応納得したようだ。


 ったく、昔のことをいつまでも根に持ってんじゃねーよ。

 サバサバしているように見える松宮だけど、けっこう女々しいところがあるよな。

 森も、なんでこんなやつが好きなんだか。


 チラリと5組の教室に目を向ければ、その片隅に森直人《もり なおひと》を見つける。

 小学校高学年から中1まで、俺はこいつとよくつるんでいた。


 ガキで、悪ぶることに憧れてて、でも実力も度胸もない森は、俺の誘導でまわりのやつらに嫌がらせをしていた。

 その標的は、自分より弱そうなやつ、あるいは密かに好きだった松宮となる。

 3年でまた同じクラスになれたんだ。

 よかったじゃねーか。

 俺はやけに冷たい感情で、森を笑う。

 1人じゃ何もできないバカな森が、俺は大っ嫌いだった。



 ・   ・   ・



 羽鳥 梢:

「付き合ってくれて、ありがとね!」


 堂本 信広:

「……ふん」


 無事にすべてのクラスをまわった俺ら。

 羽鳥はなぜか、俺に礼を言う。森とは違うベクトルで、こいつはバカだな。

 用はもう済んだだろうと、俺は踵を返した。


 羽鳥 梢:

「あれ、どこに行くの?」


 堂本 信広:

「便所」


「一緒に来るか?」と、唇の端を上げて笑うと、羽鳥は顔をしかめて「バーカ」と答えた。

 俺は、5組の近くにあった男子トイレに入る。4組と5組は階が違うから、あまり利用しないそのトイレには、誰もいなかった。

 小便器前に立ち、ズボンのファスナーを下ろす。


 堂本 信広:

(あー、終わった終わった)


 何だか知らないが、やけに疲れたな。


 こきこき首を傾げていたら、トイレに1人入ってきた。そいつは、俺の2つ隣の小便器前に立つ。

 森だった。


 堂本 信広:

「……」


 森 直人:

「……」


 互いに前を向いて、用を足す。

 森が、独り言のように言った。


 森 直人:

「松宮と何、話してたんだよ」


 堂本 信広:

「……別に」


 まさか、猫の引き取り手探しをしていたとは言いづらく、はぐらかした。

 森はこちらに顔を向ける。


 森 直人:

「お前、松宮狙ってんのかよ」


 堂本 信広:

「は?」


 何だこいつ。

 面倒くせぇ誤解をしてやがる。

 睨み合っていたあの場面を見て、なんだってそんな風に考えられるんだ。アホか。


 堂本 信広:

「……お前、相変わらずバカだな」


 ヘッと笑って、用を済ませた俺は服を整えた。

 洗面台に移動して、森に背を向けて手を洗う。

 目の前の鏡に、こちらを睨む森が映っていたので、鏡越しに俺はまた笑ってやった。


 堂本 信広:

「好きな子いじめは卒業したら? だせえんだよ」


 森 直人:

「……っ! てめぇ……っ」


 バカな森は、頭の回転が遅い。

 俺に返す言葉を選べずに、拳を握って肩をいからせることしかできない。

 バカだから、すぐに手を出す。


 右腕を振りかざした森。

 それを鏡越しに見ていた俺は、振り返りざま、蛇口に指を押し付けて水をコントロールし、やつに向って放射した。

 すると。


 大谷 圭介:

「はー、いいクソ出たわー」


 大谷 圭介:

「おわっ!?」


 森が避けた後ろの個室から、のんきに現れた大谷。

 そのスッキリした顔面に、ビッシャー! と、俺が放った水鉄砲がぶち当たった。


 堂本 信広:

「げっ」


 森 直人:

「お、俺、知らねー」


 森はそそくさと逃げ、俺は水道をしめる。

 大谷は、ポタポタと水を垂らしてワナワナと震えていた。


 大谷 圭介:

「ど、堂本……てめぇ~!」


 堂本 信広:

「いや、大谷、落ち着け。話せばわかる」


 中3にして、180越えの長身大谷。

 さすがの俺も、こいつに攻められるのはマジで怖い。


 大谷 圭介:

「話しても、服は乾かねー!!」


 堂本 信広:

「うわっ!」


 ゴリラみたいに両腕を挙げた大谷。

 こりゃ、逃げた方が得策だな。

 俺は怒る大谷を置いて、脱兎のごとくトイレから逃げ出した。



 ・   ・   ・



 そんなこんなで、やたら疲れた半日は終わる。

 その日の俺は、一日中机に突っ伏して寝た。


 だが、後ろの中曽根がちょくちょく消しゴム貸してだの、資料集持ってるかと声をかけてきて、おちおち寝てもいられない。


 俺の静かな学校生活は、どこへ行った!




 ◇ 続く ◇

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