Ep.37 春のさくら(5)「対立のち対立」
2限目が終わると、約束どおり5組へ向かう羽鳥についていった。
5組には、羽鳥と仲がよかった松宮茜がいる。
1年のときに自分を体育館倉庫に閉じ込めた張本人(俺のことだ)を目の前に、嫌そうな顔をした松宮。
昔から、感情が表に出やすいやつだった。
羽鳥 梢:
「てなことで、宣伝よろしくね!」
羽鳥はそんな松宮相手に、笑顔で説明しチラシを渡す。
松宮は、後ろに立つ俺をジロッと睨みつけて、口をへの字にした。
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春のさくら
(5)「対立のち対立」
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松宮 茜:
「羽鳥、あんたさ。堂本にいいように使われてない?」
羽鳥 梢:
「へ、何が?」
松宮は俺がいるにもかかわらず、羽鳥に尋問を始める。
松宮 茜:
「引き取り手探し。何で拾った堂本じゃなくて、あんたが頼み込んでるのよ。押し付けられてるの?」
そうしてギロッと俺を見る。
こりゃ、相当に俺は嫌われてるな。別にいーんだけどさ。
でも、押し付けたわけでもないのにそう決めつけられるのは、単純に腹が立つ。
俺は松宮を睨み返すが、その前で羽鳥が慌てて両手を振った。
羽鳥 梢:
「違う違う! 私が勝手に、首を突っ込んでるだけ!」
睨み合う俺たちを遮断するかのように、俺らより背が低い羽鳥は間でわたわたと叫ぶ。
こいつの性格は、松宮もわかってはいるのだろう。その言葉に「そう」と、一応納得したようだ。
ったく、昔のことをいつまでも根に持ってんじゃねーよ。
サバサバしているように見える松宮だけど、けっこう女々しいところがあるよな。
森も、なんでこんなやつが好きなんだか。
チラリと5組の教室に目を向ければ、その片隅に森直人を見つける。
小学校高学年から中1まで、俺はこいつとよくつるんでいた。
ガキで、悪ぶることに憧れてて、でも実力も度胸もない森は、俺の誘導でまわりのやつらに嫌がらせをしていた。
その標的は、自分より弱そうなやつ、あるいは密かに好きだった松宮となる。
3年でまた同じクラスになれたんだ。
よかったじゃねーか。
俺はやけに冷たい感情で、森を笑う。
1人じゃ何もできないバカな森が、俺は大っ嫌いだった。
・ ・ ・
羽鳥 梢:
「付き合ってくれて、ありがとね!」
堂本 信広:
「……ふん」
無事にすべてのクラスをまわった俺ら。
羽鳥はなぜか、俺に礼を言う。森とは違うベクトルで、こいつはバカだな。
用はもう済んだだろうと、俺は踵を返した。
羽鳥 梢:
「あれ、どこに行くの?」
堂本 信広:
「便所」
「一緒に来るか?」と、唇の端を上げて笑うと、羽鳥は顔をしかめて「バーカ」と答えた。
俺は、5組の近くにあった男子トイレに入る。4組と5組は階が違うから、あまり利用しないそのトイレには、誰もいなかった。
小便器前に立ち、ズボンのファスナーを下ろす。
堂本 信広:
(あー、終わった終わった)
何だか知らないが、やけに疲れたな。
こきこき首を傾げていたら、トイレに1人入ってきた。そいつは、俺の2つ隣の小便器前に立つ。
森だった。
堂本 信広:
「……」
森 直人:
「……」
互いに前を向いて、用を足す。
森が、独り言のように言った。
森 直人:
「松宮と何、話してたんだよ」
堂本 信広:
「……別に」
まさか、猫の引き取り手探しをしていたとは言いづらく、はぐらかした。
森はこちらに顔を向ける。
森 直人:
「お前、松宮狙ってんのかよ」
堂本 信広:
「は?」
何だこいつ。
面倒くせぇ誤解をしてやがる。
睨み合っていたあの場面を見て、なんだってそんな風に考えられるんだ。アホか。
堂本 信広:
「……お前、相変わらずバカだな」
ヘッと笑って、用を済ませた俺は服を整えた。
洗面台に移動して、森に背を向けて手を洗う。
目の前の鏡に、こちらを睨む森が映っていたので、鏡越しに俺はまた笑ってやった。
堂本 信広:
「好きな子いじめは卒業したら? だせえんだよ」
森 直人:
「……っ! てめぇ……っ」
バカな森は、頭の回転が遅い。
俺に返す言葉を選べずに、拳を握って肩をいからせることしかできない。
バカだから、すぐに手を出す。
右腕を振りかざした森。
それを鏡越しに見ていた俺は、振り返りざま、蛇口に指を押し付けて水をコントロールし、やつに向って放射した。
すると。
大谷 圭介:
「はー、いいクソ出たわー」
大谷 圭介:
「おわっ!?」
森が避けた後ろの個室から、のんきに現れた大谷。
そのスッキリした顔面に、ビッシャー! と、俺が放った水鉄砲がぶち当たった。
堂本 信広:
「げっ」
森 直人:
「お、俺、知らねー」
森はそそくさと逃げ、俺は水道をしめる。
大谷は、ポタポタと水を垂らしてワナワナと震えていた。
大谷 圭介:
「ど、堂本……てめぇ~!」
堂本 信広:
「いや、大谷、落ち着け。話せばわかる」
中3にして、180越えの長身大谷。
さすがの俺も、こいつに攻められるのはマジで怖い。
大谷 圭介:
「話しても、服は乾かねー!!」
堂本 信広:
「うわっ!」
ゴリラみたいに両腕を挙げた大谷。
こりゃ、逃げた方が得策だな。
俺は怒る大谷を置いて、脱兎のごとくトイレから逃げ出した。
・ ・ ・
そんなこんなで、やたら疲れた半日は終わる。
その日の俺は、一日中机に突っ伏して寝た。
だが、後ろの中曽根がちょくちょく消しゴム貸してだの、資料集持ってるかと声をかけてきて、おちおち寝てもいられない。
俺の静かな学校生活は、どこへ行った!
◇ 続く ◇




