Ep.37 春のさくら(3)「口喧嘩」
翌日の朝。
いつもどおり、遅めに登校してきた俺を教室で出迎えたのは、仁王立ちした羽鳥だった。
羽鳥 梢:
「遅い! 朝に聞いてまわる時間、なくなっちゃったじゃん」
堂本 信広:
「は?」
何のことだ。
俺の席で待ち構えていた羽鳥は、朝からどこにそんな元気があるのか、腕を組んでハキハキと言う。
羽鳥 梢:
「今日の休み時間は、一緒に各クラスをまわるからね」
堂本 信広:
「はぁ? 何でだよ」
羽鳥 梢:
「もちろん、さくらの引き取り手探し!」
堂本 信広:
「さくら?」
引き取り手──てことは、あの猫のことか。
こいつ、ちゃっかり子猫に名前つけてやがる。
呆れた俺に、羽鳥はニコッと笑って言葉を続けた。
羽鳥 梢:
「てなことで、1限目終わったら始めるから、よろしくね!」
堂本 信広:
「あ、おい」
一緒にまわるなんてとんでもない!
しかし引き止める隙もなく、羽鳥は自分の席に戻っていった。タイミング悪く、チャイムも鳴り始めてしまう。
中曽根 悠:
「お前ら、仲良いんだな」
堂本 信広:
「……よくねーよ!」
のん気に言う中曽根を睨んで、俺は不機嫌に席に座った。
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春のさくら
(3)「口喧嘩」
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なんと羽鳥は、各クラスをまわって友人に直接話をしていくと言いやがった。
猫の引き取り手探しなんか、ポスターでも貼っておけばいいじゃねーかと言った俺に、羽鳥は首を横に振る。
羽鳥 梢:
「そんな待ちの姿勢じゃ現れないよ! こういうのは、直接話した方がいいんだから」
そうしてやつは、俺の腕を引っ張って教室から連れ出していく。
──くそっ、クラスメイトたちの奇異なものを見るかのような視線が、痛いぞ。
・ ・ ・
まず、3年2組に来た羽鳥と俺。
羽鳥は、教室の扉近くに呼び寄せた戸田るりと話をしている。
戸田 るり:
「へぇ、子猫かぁ。お母さんに聞いてみようかな」
戸田とも1年生のとき、同じクラスだった。
羽鳥と仲が良いこいつと、あまり話したことはない。中曽根の彼女で男からの人気もじつは高いが、俺は苦手だ。
何だろ。こういう女おんなしてるやつって、何を考えてるのかよくわかんねーから、近寄りたくないんだよな。
異星人みたいなもんだと思う。
羽鳥 梢:
「よろしくね、るり。あとこれ、チラシもあるから、2組の教室にも貼っておいて」
戸田 るり:
「うん、わかった」
チラシ?
廊下で突っ立っていた俺は気になって、扉近くに立つ2人の間を見下ろした。
堂本 信広:
「お前、こんなの作ったのか」
戸田 るり:
「わ、……金田くん!?」
俺が来ていたことに気づいていなかった戸田は驚いて、俺の前の苗字を呼んだ。堂本だ、と訂正を入れる。
羽鳥が戸田に渡したチラシには『子猫飼いませんか?』と見出しがあり、あの子猫の写真と特徴とやらが書いてあった。
堂本 信広:
「お前、一晩でこれ作ったわけ?」
羽鳥 梢:
「ふっふっふっ。雑務で培ったスキルを、侮らないことね」
ほいほい何でも引き受けるこいつに呆れてはいたが、こりゃたしかに仕事が早い。俺は素直に感心した。
戸田 るり:
「えっと……堂本くんは、どうしたの?」
戸田は、なぜ俺がいるのかがわからず困惑しているようだった。
若干俺に怯えてるようでもある。
しかし羽鳥は、あっけらかんと俺の腕を叩いて戸田に言った。
羽鳥 梢:
「堂本くんが拾った猫なの。だから、一緒にまわってるんだ」
戸田 るり:
「へぇ、そうだったんだ」
そこで戸田が、俺に向ける視線を少し変える。
うっ……俺もしかして「いいひと」認定、されてねえか?
よしてくれ、それなら不良扱いのがまだマシだ!
そんな俺たちに、2組の教室内から1人、声をかける人物が現れた。
小池 隼人:
「あれ、なんだかめずらしいメンバーで話してるね」
堂本 信広:
「!」
小池隼人だった。
こいつも2組だったのか。
1年生の時に、森とさんざんからかってやったら、俺に殴り合いのケンカを仕掛けてきたやつだ。
今では可愛い面のわりに、とんでもねぇ男だという認識である。
羽鳥 梢:
「あ、小池くん。じつはね」
羽鳥は小池にも、ペラペラと事情を話す。
もちろん俺が子猫を最初に拾ったことも伝わってしまった。
小池はやはり少し驚いた顔をして、こちらを見てくる。……くそ、居心地がわりーなぁ。
小池 隼人:
「うーん、うちは母さんが、猫嫌いだから難しいかもなぁ」
羽鳥 梢:
「そっか」
やや落胆した羽鳥に、サッカー部の後輩にも聞いてみるよと小池はつけ加えた。それを受け、羽鳥は嬉しそうに「ありがとう」と笑う。
そしてもう話は終わったのか、後ろに立つ俺を振り返った。
羽鳥 梢:
「よし、じゃあ堂本くん、次は3組に行くよっ」
堂本 信広:
「俺必要か? お前だけ行けばいいじゃん」
単純にそう思って言ったら、羽鳥はムッとした。
羽鳥 梢:
「何言ってんの。堂本くんが拾った猫でしょ。責任持ちなさい」
教師のような言い方に、俺もついムッとする。口を尖らせて言い返した。
堂本 信広:
「お前は俺のかーちゃんかよ。うざってぇなぁ」
羽鳥 梢:
「かーちゃんで結構! この反抗期息子っ」
堂本 信広:
「……ほんっと可愛くねぇな! そんなんだから、下着も色気がねーんだよ」
羽鳥 梢:
「なっ……!」
顔を真っ赤にして羽鳥は黙る。
俺と羽鳥は睨み合い、ぐぬぬっと声にならない声を出し合って、火花を散らした。
この女、マジでムカつく!
そんな俺たちを見ていた戸田は戸惑ってばかりだが、小池が「まぁまぁ」と、勇敢にも間に入ってくる。
小池 隼人:
「早く行かないと、休み時間が終わっちゃうよ?」
羽鳥 梢:
「……っあ、そうだった」
その言葉にハッとしたのは、羽鳥だった。
俺はまだ、眉間にシワを寄せて睨んでいる。
そんな俺を小池は見上げて、コソッと言った。
小池 隼人:
「羽鳥さんに、あんまり意地悪しちゃ駄目だよ?」
なぜか、穏やかな言い方だ。
堂本 信広:
「ふん。可愛くねぇから、こっちも意地が悪くなるんだろ」
そう言い返すと、小池は小さく笑った。
小池 隼人:
「そっか。意地悪する理由も、いろいろあるのかな」
堂本 信広:
「?」
小池は、よくわからぬことを言う。
結局、俺は元気を取り戻した羽鳥に引きずられ、そのまま3組へ同行することになった。
くそ! こいつのペースに、まんまと乗せられてやがる。
◇ 続く ◇




