表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
18/55

Ep.4 アゲイン (2)「過去の恋愛」

「山川先生と海野先生、結婚されるんですって」


篠田 かなえ:

「……え?」


とある先生との、たわいない雑談の一言に、当時の私は口をぽかんと開けた。

何の冗談? と口を挟むひまも与えずに、おしゃべりな彼女はコロコロと言葉を続ける。


「式は半年後ですって。 何でももう妊娠しているとかで! お似合いでしたものねえ、あの2人 」


篠田 かなえ:

「……はあ……」


何を言っているのだろう。

まくし立てる彼女の言葉は、私の耳を素通りし、口の動きだけを機械的に目で追った。


篠田 かなえ:

(何言っているの?)


篠田 かなえ:

(だって山川先生は……)


篠田 かなえ:

(……私と)


まあ、ようするに。

二股されていた、というワケだ。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


アゲイン

(2)「過去の恋愛」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



浮気なんて呆れた行動を、まさか自分の彼氏がするとは思ってもいなかった。

職場で知り合った、二つ年上の頼り甲斐のある彼は、中学の英語教師。

先生や生徒からの信頼も厚く、教育熱心。人としても、尊敬できる相手だった。


そんな彼が、二股。

しかも両方とも、同じ職場の同僚。

しかも、学校という聖域で。


妊娠さえなければ、まだその関係を続けようとしていたのだろうか。

それとも、もともとこっちが遊びであちらが本命か。

まあそんなのは、どうでもいい。

まったく──バカにしている。


今年から、新しい学校に勤めることになった私は、以前のように笑えなくなっていた。

教師陣ともあれ以来、一定の距離を持って接している。

もう、あんなことを繰り返したくない。

裏切られるくらいなら、最初から親しくしなければいい。

あんなに傷つく恋愛は、二度とごめんだ。


篠田 かなえ:

(私と結婚したいって、言ってたくせに……)


嫌な思い出が蘇ってきそうで、かぶりを振る。

すると、ピピピピ、と体温計が鳴る音で我に返った。


戸田 るり:

「熱はないみたいです」


そう言って体温計を差し出す戸田さんから受け取る。デジタル数字は36.4度だ。

すぐさま先生モードに頭を切り替えて、私はその数値をノートに記録した。


篠田 かなえ:

「ありがとう。奥のベッドを用意したから、そこで横になってて。 あ、中曽根くんは絆創膏だったわね。貼るからこっちにきて? 」


中曽根 悠:

「あ、大丈夫です。自分で貼るんで」


彼は渡した大きめの絆創膏を受け取ると、椅子から立とうとした戸田さんに声をかけた。


中曽根 悠:

「じゃあな、戸田。ゆっくり休めよ」


戸田 るり:

「……ん、ありがとう」


ひらひらと絆創膏を振って、彼は保健室から出て行った。


篠田 かなえ:

「賑やかな子ね」


戸田 るり:

「……そうですね」


熱はないはずなのに、頬をピンクに染め上げる戸田さん。間違いなく、彼が好きなのだろう。

初々しい態度だ。


篠田 かなえ:

(私も、こんなふうだったのかしら)


わからない。

初恋なんてもう、随分前のことすぎて覚えていない。

ましてや、つい最近の恋は、あまりにも酷すぎて。


篠田 かなえ:

「…………」


恋愛なんて幻想に、まだ浸れている彼女にほんの少し、意地悪をしたくなってしまった。


篠田 かなえ:

「彼、人気があるみたいね」


戸田 るり:

「え?」


篠田 かなえ:

「つい最近、告白されているところを見ちゃったわ。 モテモテなのね 」


戸田 るり:

「………!」


ぐっと、戸田さんが息を飲んだのがわかった。


戸田 るり:

「……そう、なんですか。 へ〜、意外 」


戸田 るり:

「サッカーだけは、上手だからなぁ」


戸田 るり:

「騙されてる子、多いんだぁ」


慌てて虚勢を張り、ごまかしているのなんて丸わかりだ。

私が気まぐれで発した言葉で、こんなに動揺している彼女が、私にはとても滑稽こっけいに見えた。


篠田 かなえ:

(……意地をはっちゃって)


小さく笑うと、私はまだ立ちすくんでいる彼女にベッドを示す。


篠田 かなえ:

「それより、早くベッドで横になりなさい。 お腹痛いんでしょう? 」


戸田 るり:

「あ、はい……」


自分で話題をふっておいて、この言い草。自分の底意地の悪さに、また笑いそうになる。


私に促され、戸田さんはベッドへ足を向けた。

1番奥のベッドへもそもそと横になった戸田さんは、明らかに先ほどより元気がなくなっている。

仰向けに横になった戸田さんに掛け布団をかけると、彼女はそれを顔を隠すぐらいに引っ張った。


戸田 るり:

「……ありがとう、ございます」


目が潤んで見えたのは、気のせいだろうか。


篠田 かなえ:

「……おやすみなさい」


ツキン、と小さく心臓が痛くなる。

こんな子ども相手に、私は何をしているの。


嫌な大人になった。


でも、仕方ないじゃないの。

綺麗だけじゃ、やっていけないの。

嫌な思いもして、大人になっていくの。


私は誰ともなしに、心の中で言い訳を並べた。




◇ 続く ◇

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ