Ep.36 まだ見ぬ明日へ(4)「2人きり」
早乙女がダウンしてからは、ゆったりしたアトラクションをメインにした。
今は、お化け屋敷を2人一組で回っている。
戸田 るり:
「もー、だから入りたくないって言ったのに」
お化け屋敷から出てきた戸田は、涙目で隣の中曽根に訴えている。
中曽根 悠:
「相変わらず、怖い系ダメなんだなー」
ケラケラと中曽根は笑っている。
そんなやつは何と、しっかりと戸田の手を握っているじゃないか!
出口で出迎えた俺は、羨ましげにそれを見つめた。
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まだ見ぬ明日へ
(4)「2人きり」
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先にお化け屋敷から出ていた俺と望月のもとに、中曽根と戸田が近づいた。
中曽根 悠:
「小池と井本は、もう入ったのか?」
大谷 圭介:
「おう。もうすぐ松宮と早乙女が入るな」
せっかく隼人と松宮をくっつける絶好スポットなのに、井本が苦手になった早乙女が松宮から離れなくなった。
井本も井本で「これ以上カップルを増やしてたまるか!」と、隼人の恋路を邪魔しやがる。
今回あいつをメンバーに入れたのは、失敗だったかもしれない。
大谷 圭介:
「ところで中曽根」
中曽根 悠:
「ん?」
大谷 圭介:
「見せびらかせてくれますなぁ」
中曽根 悠:
「へ? ……あ!」
中曽根は慌てて、戸田の手を離した。
戸田も真っ赤になり、そんな彼女を望月が「るりっち、やる〜」なんてからかっている。
こいつらは付き合いが長いくせに、いつまで経ってもウブな感じだな。
俺は中曽根の肩をがっしりつかむと、やつの耳にこそっと打ち明けた。
大谷 圭介:
「中曽根クンよ、ちょっと相談があるんだが」
中曽根 悠:
「何だよ」
大谷 圭介:
「ここまでの企画立案、実行した我々も、羽を伸ばしたい」
中曽根 悠:
「はぁ。つまり?」
まったく鈍い男である。
俺はニヤリと笑った。
大谷 圭介:
「ちょっくら、2人っきりで遊んでくるわ!」
そう言うと俺は、戸田の近くにいた望月の手を握って引っ張った。
望月 美羽:
「うわわ!?」
望月を隣に寄せて、走り出す。
呆然とする中曽根と戸田に向けて、手を振った。
大谷 圭介:
「あいつらの面倒見は任せた! 30分だけ、デートさせてくれ!」
望月 美羽:
「け、圭介くん!?」
望月と目を合わせる。
彼女は最初は戸惑っていたが、俺が笑うと嬉しそうに笑ってくれた。
へへ、せっかくの遊園地。
ちょっとは望月と、ラブラブさせてくれよな!
手をつないで走り出した俺の背後で、中曽根の「お、大谷ー!」という情けない声が響くが、無視をしてやった。
だから当然、やつのつぶやきも俺には届かなかったのである。
中曽根 悠:
「あ、あいつ……ずりぃぞ」
・ ・ ・
望月を連れ出した俺は、遊園地の目玉でもある観覧車へと向かった。
まだ夕方にもなっていないせいか、並んでいる人も少なく、俺たちはすぐに乗ることができた。
青色のゴンドラに乗ると、俺たちは向かい合って座る。
望月 美羽:
「うわー、観覧車とか久しぶりだなぁ」
大谷 圭介:
「俺なんか遊園地が久しぶりだ」
望月 美羽:
「あ、私も私も」
望月は相変わらず、くるくると表情を変えて笑う。
彼女を見ていると、笑うだけでこんなにもレパートリーがあるのかと感心するくらい、多種多様な表情を見せてくれる。
そんな望月を、じっと見た。
望月 美羽:
「………」
大谷 圭介:
「………」
望月 美羽:
「……な、何!? 圭介くん!?」
大谷 圭介:
「へへ。幸せだなーって」
思わず本音が出てしまう。
そんな俺に望月は面食らったようだが、すぐに嬉しそうに答えてくれる。
望月 美羽:
「うん、私も!」
ありがとう、なんて言ってくれる。
俺らも大概、バカップルかもしれないなって思っちまうけど、まぁ仕方ない。
そんなバカな俺たちを乗せたゴンドラは、ゆっくりと地上から離れて、まだ高いとも言えない風景を外にのぞかせる。
2人っきりの空間だ。
喧騒から離れていくこの箱は、徐々に静かさをもたらしてくれた。
望月 美羽:
「……ねぇ、圭介くん」
ふと、望月が俺を呼んだ。
「ん?」と外を見ていた俺が視線を合わせると、彼女は少しだけ真面目な表情をして、こう言った。
望月 美羽:
「高校、どこに行くとか、もう決めてる?」
大谷 圭介:
「高校?」
望月はコクンとうなずく。
──高校、か。
たしかにこの春休みが終われば、もう中学3年生。受験生だ。
早いやつなら、2年生の時にはもう志望校を決めていたりするが、俺はまだ決めていない。
大谷 圭介:
「まだ、決めてないな」
正直に答えると、望月は膝に手を乗せてぎゅっと握った。
望月 美羽:
「そっか」
大谷 圭介:
「……望月は、どっか行きたいところあるの?」
望月 美羽:
「うん。清女か桜塚かなって」
大谷 圭介:
「え、そうなんだ」
まさか、もう望月が志望校を決めているとは思わなかった。
しかも桜塚はいいとして、清女って女子校じゃん!
望月 美羽:
「私の成績で、ちょっと頑張ったら行けるかなってとこがそこでね。決め手はただ、近くて制服が可愛いところなんだけど」
えへへと望月は、はにかむように笑う。
大谷 圭介:
「桜塚かぁ……」
思わずつぶやく。
成績は、俺と望月は大体同じくらい。
俺も頑張れば、桜塚は狙える位置だろう。
大谷 圭介:
「………」
大谷 圭介:
「俺も桜塚、狙ってみよっかな」
思わずそうつぶやいた。
望月 美羽:
「!」
望月 美羽:
「本当!?」
望月の顔が、パッと明るくなる。
しかし、慌てて手をこちらに向けて振りながら、珍しくしどろもどろになって言った。
望月 美羽:
「あ、でも、無理して合わせてくれなくていいからね! 圭介くんが他に行きたいところができたら、そっちに行っても全然いいし」
その言葉に、俺はついムッとする。
大谷 圭介:
「何だよ。望月は俺と同じところじゃ嫌なのか?」
望月 美羽:
「そんなわけないし! むしろ、一緒がいいし!」
望月は身を乗り出して訴えるが、その後に「でも……」と、ゴンドラの床を見つめた。
望月 美羽:
「こういうのは、それぞれが考えて、決めることだから」
大谷 圭介:
「…………」
望月は、思いのほかしっかりしている。
そんな彼女を目の前にして、俺もつい背筋を伸ばす。
コクンと小さくつばを飲み込み、真剣な声を出した。
大谷 圭介:
「……うん。ちゃんと考えるよ」
大谷 圭介:
「ちゃんと考えて、それでも桜塚がよかったら……受けるよ」
望月 美羽:
「……うん!」
望月は、嬉しそうに笑った。
いつの間にか観覧車は、けっこうな高さにまで上がっている。
まだ明るい青空が、窓の外に広がっていた。
それが望月の向こう側に見えて、目を細める。
大谷 圭介:
(進路──か)
いつの間にか俺たちに残された時間は、あと1年になっていた。
入学したときは、卒業なんてまだまだ想像もできなかったのに。今はもう、身近に感じている。
望月 美羽:
「──あ、てっぺんだ!」
望月が、感動したように窓の外を見た。
つられて俺もそちらを見る。
そこには、さっきよりも突き抜けた青空があって。
俺の大好きな、空が広がっていて。
いつまでもこんなふうに、望月と空を眺められていたらいいのにな……なんて、俺は思ったんだ。
◇ 続く ◇




