↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第二章 安全運転にて走行中《2年生編》
PR
179/273

Ep.36 まだ見ぬ明日へ(4)「2人きり」

 早乙女がダウンしてからは、ゆったりしたアトラクションをメインにした。

 今は、お化け屋敷を2人一組で回っている。


 戸田 るり:

「もー、だから入りたくないって言ったのに」


 お化け屋敷から出てきた戸田は、涙目で隣の中曽根に訴えている。


 中曽根 悠:

「相変わらず、怖い系ダメなんだなー」


 ケラケラと中曽根は笑っている。

 そんなやつは何と、しっかりと戸田の手を握っているじゃないか!


 出口で出迎えた俺は、羨ましげにそれを見つめた。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 まだ見ぬ明日へ

(4)「2人きり」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 先にお化け屋敷から出ていた俺と望月のもとに、中曽根と戸田が近づいた。


 中曽根 悠:

「小池と井本は、もう入ったのか?」


 大谷 圭介:

「おう。もうすぐ松宮と早乙女が入るな」


 せっかく隼人と松宮をくっつける絶好スポットなのに、井本が苦手になった早乙女が松宮から離れなくなった。

 井本も井本で「これ以上カップルを増やしてたまるか!」と、隼人の恋路を邪魔しやがる。

 今回あいつをメンバーに入れたのは、失敗だったかもしれない。


 大谷 圭介:

「ところで中曽根」


 中曽根 悠:

「ん?」


 大谷 圭介:

「見せびらかせてくれますなぁ」


 中曽根 悠:

「へ? ……あ!」


 中曽根は慌てて、戸田の手を離した。

 戸田も真っ赤になり、そんな彼女を望月が「るりっち、やる〜」なんてからかっている。

 こいつらは付き合いが長いくせに、いつまで経ってもウブな感じだな。

 俺は中曽根の肩をがっしりつかむと、やつの耳にこそっと打ち明けた。


 大谷 圭介:

「中曽根クンよ、ちょっと相談があるんだが」


 中曽根 悠:

「何だよ」


 大谷 圭介:

「ここまでの企画立案、実行した我々も、羽を伸ばしたい」


 中曽根 悠:

「はぁ。つまり?」


 まったく鈍い男である。

 俺はニヤリと笑った。


 大谷 圭介:

「ちょっくら、2人っきりで遊んでくるわ!」


 そう言うと俺は、戸田の近くにいた望月の手を握って引っ張った。


 望月 美羽:

「うわわ!?」


 望月を隣に寄せて、走り出す。

 呆然とする中曽根と戸田に向けて、手を振った。


 大谷 圭介:

「あいつらの面倒見は任せた! 30分だけ、デートさせてくれ!」


 望月 美羽:

「け、圭介くん!?」


 望月と目を合わせる。

 彼女は最初は戸惑っていたが、俺が笑うと嬉しそうに笑ってくれた。


 へへ、せっかくの遊園地。

 ちょっとは望月と、ラブラブさせてくれよな!


 手をつないで走り出した俺の背後で、中曽根の「お、大谷ー!」という情けない声が響くが、無視をしてやった。

 だから当然、やつのつぶやきも俺には届かなかったのである。


 中曽根 悠:

「あ、あいつ……ずりぃぞ」



 ・   ・   ・



 望月を連れ出した俺は、遊園地の目玉でもある観覧車へと向かった。

 まだ夕方にもなっていないせいか、並んでいる人も少なく、俺たちはすぐに乗ることができた。

 青色のゴンドラに乗ると、俺たちは向かい合って座る。


 望月 美羽:

「うわー、観覧車とか久しぶりだなぁ」


 大谷 圭介:

「俺なんか遊園地が久しぶりだ」


 望月 美羽:

「あ、私も私も」


 望月は相変わらず、くるくると表情を変えて笑う。

 彼女を見ていると、笑うだけでこんなにもレパートリーがあるのかと感心するくらい、多種多様な表情を見せてくれる。

 そんな望月を、じっと見た。


 望月 美羽:

「………」


 大谷 圭介:

「………」


 望月 美羽:

「……な、何!? 圭介くん!?」


 大谷 圭介:

「へへ。幸せだなーって」


 思わず本音が出てしまう。

 そんな俺に望月は面食らったようだが、すぐに嬉しそうに答えてくれる。


 望月 美羽:

「うん、私も!」


 ありがとう、なんて言ってくれる。

 俺らも大概、バカップルかもしれないなって思っちまうけど、まぁ仕方ない。


 そんなバカな俺たちを乗せたゴンドラは、ゆっくりと地上から離れて、まだ高いとも言えない風景を外にのぞかせる。


 2人っきりの空間だ。

 喧騒から離れていくこの箱は、徐々に静かさをもたらしてくれた。


 望月 美羽:

「……ねぇ、圭介くん」


 ふと、望月が俺を呼んだ。

「ん?」と外を見ていた俺が視線を合わせると、彼女は少しだけ真面目な表情をして、こう言った。


 望月 美羽:

「高校、どこに行くとか、もう決めてる?」


 大谷 圭介:

「高校?」


 望月はコクンとうなずく。


──高校、か。


 たしかにこの春休みが終われば、もう中学3年生。受験生だ。

 早いやつなら、2年生の時にはもう志望校を決めていたりするが、俺はまだ決めていない。


 大谷 圭介:

「まだ、決めてないな」


 正直に答えると、望月は膝に手を乗せてぎゅっと握った。


 望月 美羽:

「そっか」


 大谷 圭介:

「……望月は、どっか行きたいところあるの?」


 望月 美羽:

「うん。清女か桜塚かなって」


 大谷 圭介:

「え、そうなんだ」


 まさか、もう望月が志望校を決めているとは思わなかった。

 しかも桜塚はいいとして、清女って女子校じゃん!


 望月 美羽:

「私の成績で、ちょっと頑張ったら行けるかなってとこがそこでね。決め手はただ、近くて制服が可愛いところなんだけど」


 えへへと望月は、はにかむように笑う。


 大谷 圭介:

「桜塚かぁ……」


 思わずつぶやく。

 成績は、俺と望月は大体同じくらい。

 俺も頑張れば、桜塚は狙える位置だろう。


 大谷 圭介:

「………」


 大谷 圭介:

「俺も桜塚、狙ってみよっかな」


 思わずそうつぶやいた。


 望月 美羽:

「!」


 望月 美羽:

「本当!?」


 望月の顔が、パッと明るくなる。

 しかし、慌てて手をこちらに向けて振りながら、珍しくしどろもどろになって言った。


 望月 美羽:

「あ、でも、無理して合わせてくれなくていいからね! 圭介くんが他に行きたいところができたら、そっちに行っても全然いいし」


 その言葉に、俺はついムッとする。


 大谷 圭介:

「何だよ。望月は俺と同じところじゃ嫌なのか?」


 望月 美羽:

「そんなわけないし! むしろ、一緒がいいし!」


 望月は身を乗り出して訴えるが、その後に「でも……」と、ゴンドラの床を見つめた。


 望月 美羽:

「こういうのは、それぞれが考えて、決めることだから」


 大谷 圭介:

「…………」


 望月は、思いのほかしっかりしている。

 そんな彼女を目の前にして、俺もつい背筋を伸ばす。

 コクンと小さくつばを飲み込み、真剣な声を出した。


 大谷 圭介:

「……うん。ちゃんと考えるよ」


 大谷 圭介:

「ちゃんと考えて、それでも桜塚がよかったら……受けるよ」


 望月 美羽:

「……うん!」


 望月は、嬉しそうに笑った。

 いつの間にか観覧車は、けっこうな高さにまで上がっている。

 まだ明るい青空が、窓の外に広がっていた。

 それが望月の向こう側に見えて、目を細める。


 大谷 圭介:

(進路──か)


 いつの間にか俺たちに残された時間は、あと1年になっていた。

 入学したときは、卒業なんてまだまだ想像もできなかったのに。今はもう、身近に感じている。


 望月 美羽:

「──あ、てっぺんだ!」


 望月が、感動したように窓の外を見た。

 つられて俺もそちらを見る。


 そこには、さっきよりも突き抜けた青空があって。

 俺の大好きな、空が広がっていて。

 いつまでもこんなふうに、望月と空を眺められていたらいいのにな……なんて、俺は思ったんだ。




 ◇ 続く ◇

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。