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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第二章 安全運転にて走行中《2年生編》
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Ep.36 まだ見ぬ明日へ(3)「休憩」

 そんなこんなで、俺たち8人は遊園地を楽しんだ。

 絶叫系が苦手だというメンツも特にいないので、ジェットコースターやバイキングなどのアトラクションをはしごする。


──が、しかし。


 ついに、リタイアする者が現れた。


 早乙女 茉莉:

「……うぇ。気持ち悪い……」


 松宮 茜:

「茉莉、大丈夫!?」


 早乙女が、どんよりと木陰のベンチに座り、顔を青くしている。

 女子たちが心配そうに彼女を囲う中、井本が呆れたような声を出した。


 井本:

「お前、やっぱり絶叫ダメなんじゃん! ミニミニコースターが好きってのも、それしかじつは乗れないからだったんだろー」


 ダウンしている早乙女に対して、容赦ない言葉である。

 早乙女はハンカチを口に当てて、そんな井本に不服そうな顔を向けた。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 まだ見ぬ明日へ

(3)「休憩」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 早乙女 茉莉:

「そ、そんなことないよ。絶叫、好きだもん」


 井本:

「無理してみんなに合わせたんだろ、どーせ!」


 半日でなんとなく早乙女の性格を把握したのか、井本はそんなことを言う。

 俺は、まぁまぁとたしなめた。


 大谷 圭介:

「少し休めば、大丈夫だろ」


 早乙女の横にいた松宮が立ち上がる。


 松宮 茜:

「私、何か飲み物買ってくるよ! 茉莉、待っててね」


 財布を片手に、松宮は自動販売機が並ぶ一角へ向かおうとする。

 そんな松宮を、隼人が追った。


 小池 隼人:

「僕も、みんなの分の飲み物を買ってくるよ。お茶とかでいいかな?」


 大谷 圭介:

「お、サンキュー、隼人」


 こういう時に、すんなり動ける隼人は気配り上手だ。

 反して、まだ早乙女に説教している井本──お前はダメだ。


 井本:

「お前は、自己主張をもっとちゃんとしろ! 口数も少ねえし、何考えてるかわかんねーし」


 早乙女 茉莉:

「うぅ」


 そんな井本に見かねた女子軍が、ついに加勢する。


 望月 美羽:

「もう井本くんっ! さっきからうるさい! お父さんみたいっ」


 戸田 るり:

「茉莉ちゃんは悪くないよ? 私たちも気がつかなくてごめんね」


 早乙女 茉莉:

「うう、ごめんね。みんな……」


 井本は「お父さん!?」と、ショックを受け女子たちから弾き出される。

 よろっとよろめいた井本を、俺と中曽根がため息をついて受け止めた。


 中曽根 悠:

「お前は、もう少し女子に優しくしろ」


 大谷 圭介:

「てか、妙に早乙女に対して厳しいな?」


 東中との練習試合の時も会っていたとはいえ、ほぼ初対面のはずだ。

 しかし井本は、とんでもない、と首を振る。


 井本:

「ええ、俺、優しいじゃん!? 気ぃ遣ってるから、アドバイスしてあげたのにさー」


 どうやら先ほどの叱咤激励は、井本なりの気遣いだったらしい。

 大きくから回って、早乙女は迷惑そうにしていたがな。

 呆れて苦笑する俺。

 ふと視線が、自動販売機前にいる隼人と松宮の方へ向いた。


 大谷 圭介:

(ん?)


 ペットボトルを何本か持ちながら、人数分の飲み物を買っている2人。


 しかし、その様子が何やらおかしい。

 向き合って、何かを話している。

 隼人はこちらに背を向けて、向こう側の少し背の高い松宮の顔がちらりと見えた。

 彼女は何か慌てているかのように、口を動かしている。

 眉を八の字にし、困ったような表情を見せ、そして。


 松宮 茜:

「──小池くんのバカッ」


 そんな小さな声が、かすかに聞こえた。


 大谷 圭介:

(んん!?)


 聞き間違いだろうか。

 しかし松宮は、怒ったような表情のまま、ペットボトルを4本持ってこちらに向かってくる。


 松宮 茜:

「はい、女子分だけ持ってきたよ。茉莉、飲みな」


 早乙女 茉莉:

「ありがとう」


 早乙女に渡す時には、もうニッコリと笑っている。

 しかし一瞬だけ影を落とした表情を、俺は見逃さなかった。


 隼人はというと、松宮から遅れてゆっくりとこちらに向かってきている。手には、男子分の飲み物を持っていた。

 俺はそんな隼人に駆け寄る。


 大谷 圭介:

「おい隼人、松宮と何かあったのか?」


 小池 隼人:

「ケイちゃん」


 少ししょんぼりしているように見える隼人。

 隼人がそんな顔をしているのは、めずらしかった。

 半分のペットボトルをこちらに渡しながら、隼人は地面を見つめて、恥ずかしそうに報告する。


 小池 隼人:

「僕、変な勘違いをしてたみたい」


 大谷 圭介:

「勘違い?」


 首を傾げた俺に、隼人はとんでもないことを言う。


 小池 隼人:

「僕、松宮さんは、ケイちゃんが好きなんだって思ってたんだ」


 大谷 圭介:

「……は!?」


 なぜにそうなる!?


 ポカンと口を開けた俺に、隼人は首をかいて言葉を続けた。


 小池 隼人:

「だから今日、本当はつらいんじゃないかなって心配して声をかけたんだ。ほら、望月さんと仲良いところ、見ちゃうだろ」


 大谷 圭介:

「……だからさっき、手つないだのも止めたわけ?」


 そこでコクンと、隼人はうなずく。

 俺はもう、呆れた声を出すしかなかった。


 大谷 圭介:

「何でそうなるんだよ! どう見たって松宮が好きな相手は、お前だろ!」


 言った後に「あ、やべ!」と思ったが、もう遅い。


 小池 隼人:

「え!?」


 案の定隼人は驚いて、少しだけ頬を赤くした。


 しまった! 本人を無視して、気持ちを伝えちまったぞ。

 いやいやでも、鈍感な隼人にはこれくらいストレートに言わないと、一生気づかないかもしれない。


 小池 隼人:

「……そんな、バカな」


 ほら。

 実際今も、そんなことを言う。


 大谷 圭介:

「何で、そう思うんだよ?」


 松宮が何となく可哀想に思えてきて、俺は思わず聞く。

 隼人は松宮のことを、どう思っているのだろうか。


 小池 隼人:

「だって僕、松宮さんより背が小さいよ?」


 大谷 圭介:

「ンなのは関係ないだろう」


 小池 隼人:

「そうかなぁ」


 妙なところに、こだわりを持っている。

 俺からしたら、隼人も松宮も、身長はさほど変わらないように見えるんだけどな。


 しかし、隼人もそんなことはわかっているのだろう。

 視線を地面に落とし、頬を赤らめ、何かを決意したように、唇をキュッと噛んだ。


 小池 隼人:

「……僕が、もうちょっと自信を持てたらさ」


 小池 隼人:

「その時は、ちゃんと僕から伝えたいな」


 一瞬、隼人の顔が大人っぽく見えた。

 いや、こういうのは、男らしいって言うのが正しいのだろうか。


 大谷 圭介:

「それって、隼人も松宮が好きってこと?」


 そう聞いた俺に、隼人はニッコリ笑う。


 小池 隼人:

「内緒だよ」


 そして隼人は、みんなの元へと駆けて行った。

 ペットボトルを男子たちに配りつつ、松宮にも声をかける。

 どんな言葉をかけたのかは聞こえなかったが、松宮は一瞬顔を赤らめて──優しく笑った。

 桜のような頬になる2人を、まわりのメンバーも、ちょっと微笑ましそうに見守っている。

 俺が近寄ると、井本が目をパチパチさせながらこちらへ来た。


 井本:

「なあ、あいつらって、できてんの?」


 大谷 圭介:

「いんや、まだ」


 井本:

「まだって何だよ、まだって!」


 小池だけは、俺の味方だったはずなのに! と井本は嘆いている。

 そして何かハッとしたように、まだベンチに座る早乙女を見る。


 井本:

「ま、まさか残る女子のあいつは、俺のことが……!」


 大谷 圭介:

「いや。あいつはお前から松宮を守る、防波堤だ」


 井本:

「ガーーーン!!」


 まず君は女子への物言いから正したまえ、と俺は、井本に言い放ったのだった。




 ◇ 続く ◇

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