Ep.36 まだ見ぬ明日へ(3)「休憩」
そんなこんなで、俺たち8人は遊園地を楽しんだ。
絶叫系が苦手だというメンツも特にいないので、ジェットコースターやバイキングなどのアトラクションをはしごする。
──が、しかし。
ついに、リタイアする者が現れた。
早乙女 茉莉:
「……うぇ。気持ち悪い……」
松宮 茜:
「茉莉、大丈夫!?」
早乙女が、どんよりと木陰のベンチに座り、顔を青くしている。
女子たちが心配そうに彼女を囲う中、井本が呆れたような声を出した。
井本:
「お前、やっぱり絶叫ダメなんじゃん! ミニミニコースターが好きってのも、それしかじつは乗れないからだったんだろー」
ダウンしている早乙女に対して、容赦ない言葉である。
早乙女はハンカチを口に当てて、そんな井本に不服そうな顔を向けた。
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まだ見ぬ明日へ
(3)「休憩」
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早乙女 茉莉:
「そ、そんなことないよ。絶叫、好きだもん」
井本:
「無理してみんなに合わせたんだろ、どーせ!」
半日でなんとなく早乙女の性格を把握したのか、井本はそんなことを言う。
俺は、まぁまぁとたしなめた。
大谷 圭介:
「少し休めば、大丈夫だろ」
早乙女の横にいた松宮が立ち上がる。
松宮 茜:
「私、何か飲み物買ってくるよ! 茉莉、待っててね」
財布を片手に、松宮は自動販売機が並ぶ一角へ向かおうとする。
そんな松宮を、隼人が追った。
小池 隼人:
「僕も、みんなの分の飲み物を買ってくるよ。お茶とかでいいかな?」
大谷 圭介:
「お、サンキュー、隼人」
こういう時に、すんなり動ける隼人は気配り上手だ。
反して、まだ早乙女に説教している井本──お前はダメだ。
井本:
「お前は、自己主張をもっとちゃんとしろ! 口数も少ねえし、何考えてるかわかんねーし」
早乙女 茉莉:
「うぅ」
そんな井本に見かねた女子軍が、ついに加勢する。
望月 美羽:
「もう井本くんっ! さっきからうるさい! お父さんみたいっ」
戸田 るり:
「茉莉ちゃんは悪くないよ? 私たちも気がつかなくてごめんね」
早乙女 茉莉:
「うう、ごめんね。みんな……」
井本は「お父さん!?」と、ショックを受け女子たちから弾き出される。
よろっとよろめいた井本を、俺と中曽根がため息をついて受け止めた。
中曽根 悠:
「お前は、もう少し女子に優しくしろ」
大谷 圭介:
「てか、妙に早乙女に対して厳しいな?」
東中との練習試合の時も会っていたとはいえ、ほぼ初対面のはずだ。
しかし井本は、とんでもない、と首を振る。
井本:
「ええ、俺、優しいじゃん!? 気ぃ遣ってるから、アドバイスしてあげたのにさー」
どうやら先ほどの叱咤激励は、井本なりの気遣いだったらしい。
大きくから回って、早乙女は迷惑そうにしていたがな。
呆れて苦笑する俺。
ふと視線が、自動販売機前にいる隼人と松宮の方へ向いた。
大谷 圭介:
(ん?)
ペットボトルを何本か持ちながら、人数分の飲み物を買っている2人。
しかし、その様子が何やらおかしい。
向き合って、何かを話している。
隼人はこちらに背を向けて、向こう側の少し背の高い松宮の顔がちらりと見えた。
彼女は何か慌てているかのように、口を動かしている。
眉を八の字にし、困ったような表情を見せ、そして。
松宮 茜:
「──小池くんのバカッ」
そんな小さな声が、かすかに聞こえた。
大谷 圭介:
(んん!?)
聞き間違いだろうか。
しかし松宮は、怒ったような表情のまま、ペットボトルを4本持ってこちらに向かってくる。
松宮 茜:
「はい、女子分だけ持ってきたよ。茉莉、飲みな」
早乙女 茉莉:
「ありがとう」
早乙女に渡す時には、もうニッコリと笑っている。
しかし一瞬だけ影を落とした表情を、俺は見逃さなかった。
隼人はというと、松宮から遅れてゆっくりとこちらに向かってきている。手には、男子分の飲み物を持っていた。
俺はそんな隼人に駆け寄る。
大谷 圭介:
「おい隼人、松宮と何かあったのか?」
小池 隼人:
「ケイちゃん」
少ししょんぼりしているように見える隼人。
隼人がそんな顔をしているのは、めずらしかった。
半分のペットボトルをこちらに渡しながら、隼人は地面を見つめて、恥ずかしそうに報告する。
小池 隼人:
「僕、変な勘違いをしてたみたい」
大谷 圭介:
「勘違い?」
首を傾げた俺に、隼人はとんでもないことを言う。
小池 隼人:
「僕、松宮さんは、ケイちゃんが好きなんだって思ってたんだ」
大谷 圭介:
「……は!?」
なぜにそうなる!?
ポカンと口を開けた俺に、隼人は首をかいて言葉を続けた。
小池 隼人:
「だから今日、本当はつらいんじゃないかなって心配して声をかけたんだ。ほら、望月さんと仲良いところ、見ちゃうだろ」
大谷 圭介:
「……だからさっき、手つないだのも止めたわけ?」
そこでコクンと、隼人はうなずく。
俺はもう、呆れた声を出すしかなかった。
大谷 圭介:
「何でそうなるんだよ! どう見たって松宮が好きな相手は、お前だろ!」
言った後に「あ、やべ!」と思ったが、もう遅い。
小池 隼人:
「え!?」
案の定隼人は驚いて、少しだけ頬を赤くした。
しまった! 本人を無視して、気持ちを伝えちまったぞ。
いやいやでも、鈍感な隼人にはこれくらいストレートに言わないと、一生気づかないかもしれない。
小池 隼人:
「……そんな、バカな」
ほら。
実際今も、そんなことを言う。
大谷 圭介:
「何で、そう思うんだよ?」
松宮が何となく可哀想に思えてきて、俺は思わず聞く。
隼人は松宮のことを、どう思っているのだろうか。
小池 隼人:
「だって僕、松宮さんより背が小さいよ?」
大谷 圭介:
「ンなのは関係ないだろう」
小池 隼人:
「そうかなぁ」
妙なところに、こだわりを持っている。
俺からしたら、隼人も松宮も、身長はさほど変わらないように見えるんだけどな。
しかし、隼人もそんなことはわかっているのだろう。
視線を地面に落とし、頬を赤らめ、何かを決意したように、唇をキュッと噛んだ。
小池 隼人:
「……僕が、もうちょっと自信を持てたらさ」
小池 隼人:
「その時は、ちゃんと僕から伝えたいな」
一瞬、隼人の顔が大人っぽく見えた。
いや、こういうのは、男らしいって言うのが正しいのだろうか。
大谷 圭介:
「それって、隼人も松宮が好きってこと?」
そう聞いた俺に、隼人はニッコリ笑う。
小池 隼人:
「内緒だよ」
そして隼人は、みんなの元へと駆けて行った。
ペットボトルを男子たちに配りつつ、松宮にも声をかける。
どんな言葉をかけたのかは聞こえなかったが、松宮は一瞬顔を赤らめて──優しく笑った。
桜のような頬になる2人を、まわりのメンバーも、ちょっと微笑ましそうに見守っている。
俺が近寄ると、井本が目をパチパチさせながらこちらへ来た。
井本:
「なあ、あいつらって、できてんの?」
大谷 圭介:
「いんや、まだ」
井本:
「まだって何だよ、まだって!」
小池だけは、俺の味方だったはずなのに! と井本は嘆いている。
そして何かハッとしたように、まだベンチに座る早乙女を見る。
井本:
「ま、まさか残る女子のあいつは、俺のことが……!」
大谷 圭介:
「いや。あいつはお前から松宮を守る、防波堤だ」
井本:
「ガーーーン!!」
まず君は女子への物言いから正したまえ、と俺は、井本に言い放ったのだった。
◇ 続く ◇




