Ep.36 まだ見ぬ明日へ(2)「到着」
駅に集合した俺たちは、電車に揺られながら、目的地である郊外の遊園地へと向かっていた。
少しだけ混んでいる電車の中。
邪魔にならないよう、立ち話をしている。
大谷 圭介:
「羽鳥は、来なかったんだな」
しっかり者の、羽鳥梢。
望月とも松宮とも仲がいいから、来ると思ったのに。
望月 美羽:
「んー何かね、しばらくは大中小トリオに関わりたくないんだって」
大谷 圭介:
「へ、何で!?」
驚いた俺に、戸田が小さく笑う。
戸田 るり:
「梢ちゃん、変な噂を立てられて、まいってたもんね」
ああ、そういやそんなことがあったな、と思い出す。
秋頃になぜか、俺と羽鳥がデートをしていたなんて、望月が誤解していたときがあった。
あれには俺も、ビックリした。
戸田 るり:
「なんか、悠の第2の彼女とか言われたんだって」
中曽根 悠:
「はぁ!? んなウワサあったのか!?」
中曽根は今知ったようで驚いている。この鈍い男め。
まぁそんな噂も、もう消えてんだけどな。
井本:
「はっはっ、やるじゃねーの、中曽根~」
中曽根 悠:
「ご、誤解だ!」
戸田 るり:
「知ってるよ」
そんなふうにしゃべっていたら、あっという間に目的地に着いた。
肝心の、隼人と松宮はというと。
目は互いに合わせるものの、笑ってばかりで2人での会話はあまりしない。
松宮は、早乙女とばかり話している。
こりゃたしかに、応援してやらないといけないかもな、なんて小さく笑った。
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まだ見ぬ明日へ
(2)「到着」
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遊園地に着いた。
春休みで人も多く、賑やかだ。
俺たちはフリーパスになるリストバンドをつけて入場すると、ぞろぞろと歩きながら、どこから回ろうか話し合った。
大谷 圭介:
「さー、どこから行くかなぁ」
部長となってから何となく、集団を引率するくせみたいなものがついてしまった。
今は、俺と望月が先頭を歩き、後ろに6人がついてきている。
ちらりと後ろを見れば、なんと隼人と松宮が並んでいた。女の子たちが、気を利かせたのだろう。
小池 隼人:
「松宮さん、絶叫系は大丈夫なの?」
隼人は、いつもの優しい口調で松宮に問いかける。
松宮 茜:
「うん、大丈夫。好きな方だよ」
答える松宮は、うっすらと赤くなっていた。
いつもはハキハキ元気な印象の彼女だが、隼人の横では少しだけ静かに見える。
ははーん、恋する乙女ってわけね。
大谷 圭介:
「あいつら、いい感じだなっ」
望月 美羽:
「だねっ!」
こそっと望月と笑い合ったときだった。
井本:
「松宮ー、お前、相変わらず足がなげーなっ」
井本がそんな2人に割り込んできた。
隼人の肩に腕をのせ、2人の間に入ってしまう。
松宮 茜:
「何、井本。それセクハラ!」
井本:
「バカヤロ! 羨ましいっつってんだよ。サッカー部としてはさぁ」
松宮 茜:
「あはは。ま、バスケ部エースですからね! たんと羨ましがりなさい」
井本:
「うわ~、謙遜しろよな、そこはさぁ」
同小のよしみか、2人の会話は親しみがある。
そんな2人に遠慮して、隼人は肩にかけられた井本の腕をそのままにして笑っていた。
大谷 圭介:
(あいつ邪魔して~! 中曽根としゃべってろよっ)
そう思い中曽根を見れば、やつは戸田と並んで楽しそうにしゃべっていた。あのバカップルめ!
たしかに中曽根があれでは、一緒にいられまい。隼人や同小の松宮に来るのは仕方ないことである。
だがしかし、そこで意外な人物が助け船を出した。
早乙女 茉莉:
「……い、井本くんは、絶叫系好き!?」
ここまでほとんど男子としゃべらなかった、早乙女だった。
井本:
「へ?」
突然話しかけられた井本は、驚いてそんな早乙女に目を向ける。
早乙女は、必死に言葉を続けた。
早乙女 茉莉:
「わ、私、ここのジェットコースターはあのミニミニコースターが好きでね、昔もよく乗っててね、でも今見たら、休止になっててビックリしちゃって……」
井本:
「お、おう」
たどたどしく言葉を続ける早乙女に井本はきょとんとしつつ、つい聞いてしまう。
そんな井本は、隼人たちから離れることになった。
ははは、ナイスアシストだ早乙女!
俺と望月は、また目を合わせた。
大谷 圭介:
「大丈夫みたいだな」
望月 美羽:
「へへ。じゃあ安心して、楽しめるね!」
そう言って笑った望月は、すごく可愛い。
そうだよな。
俺たちだって、楽しまないと損だよな!
まだ、デートらしいデートは数回しかしていない。
この遊園地だって、本当なら2人きりで来たかったぜ。
そう考えた俺は、望月の手を握った。
望月のちっこい手は、すべすべしていてつい触りたくなる。
望月 美羽:
「! け、圭介くん、みんないるよ!?」
大谷 圭介:
「いーじゃん! もう公認なんだし、あいつらしかいねーし」
わはは、俺らがラブラブなのを見せつけてやる!
慌てる望月も可愛いなぁ、なんて鼻の下が伸びそうになっていたら。
小池 隼人:
「ケ、ケイちゃん!」
なぜか、隼人の声が背後から飛んできた。
大谷 圭介:
「ん?」
まるで、俺と望月の手つなぎを隠すように近づいて、コソッと言う。
小池 隼人:
「今日くらいは自粛しなよっ。ほら、その……女の子たちも困るだろ?」
大谷 圭介:
「へ? そうなの?」
よくわからない理屈で、たしなめられてしまった。
背後を見ても、戸田は中曽根と楽しそうにしゃべっているし、早乙女はまだ井本にたどたどしいマシンガントークを繰り広げている。
松宮だけが、俺たちのところへ来た隼人の背をきょとんと見ていた。
小池 隼人:
「と、とにかく今日はみんなと遊ぶんだから、そういうのは無しね!」
大谷 圭介:
「……はぁ」
まさか望月ではなく、隼人に怒られるとは。
手を離すと隼人は、安心してまた松宮と並んだ。
何だったんだ、一体。
望月 美羽:
「小池くん、どうしたんだろ」
大谷 圭介:
「さあ?」
何かあいつ、変な勘違いでもしてるのか?
俺は優しく松宮を見つめる隼人を、首をかしげて見守った。
◇ 続く ◇




