↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第二章 安全運転にて走行中《2年生編》
PR
176/273

Ep.36 まだ見ぬ明日へ(1)「待ち合わせ」

 赤ん坊のうんちは、意外と臭い。

 俺、大谷圭介は春休みの朝から、弟の橙也《とうや》のおむつ替えをしていた。

 まだ生後4ヶ月でミルクだけのくせに、どうしてこんなに臭いんだ!


 大谷 圭介:

「うわー、くせーくせー」


 おしり拭きシートで小さいケツを拭いてやる。橙也は乱暴に拭かれたと感じたのか、足をバタつかせて抗議した。


 大谷 圭介:

「こら、ジッとしてろ!」


 父ちゃん:

「圭介、先に足を抑えとかないと」


 苦戦する俺の横から、父ちゃんが手を伸ばして橙也の足を抑えてくれた。

 その間に、うんち付きおむつを丸める。


 大谷 圭介:

「臭さだけは一人前だ」


 父ちゃん:

「お前もそうだったんだぞ」


 ああ、まただ。

 最近の両親の口癖は「お前もそうだった」である。そんなの覚えてねーし。


 父ちゃん:

「一体何度、お前におしっこをひっかけられたことか……」


 父ちゃんが懐かしむように、言ったときだ。


 ピロロロロ。


 と、橙也のちっさいチンチンから、華麗な弧を描いておしっこが放たれた。


 大谷 圭介:

「うわー!」


 父ちゃん:

「おわっ、悪夢の再来!」


 足を抑えていた父ちゃんの手と、おむつを敷こうとした俺の腕に見事にかかる。

 橙也! お前、狙ってやっただろー!


 そんな俺と父ちゃんを、洗濯物を干し終えた母ちゃんが苦笑して見つめる。

 橙也は、スッキリしたように笑っていた。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 まだ見ぬ明日へ

(1)「待ち合わせ」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 駅前でそんなエピソードを語った俺の横で、井本は大笑いしている。


 井本:

「ギャハハ! 朝から弟のションベンまみれかよ~」


 大谷 圭介:

「笑い事じゃねーよ、おかげで俺、着替えたんだぞ!」


 やはり今日着る予定の服で、おむつ替えなんかするんじゃなかったと反省する。


 今日は、みんなで遊園地へ行く約束をしていた。

 メンバーはちょっと、めずらしい感じだ。


 男子は俺と隼人、中曽根に井本とサッカー部メンバー。

 女子も4人で、望月と戸田、そして松宮と早乙女である。

 待ち合わせ場所の駅前時計台の下には、今のところ俺と井本しか来ていない。


 あれは、期末テストが終わった日のこと。

 部活へ向かおうとした俺のもとに望月がやってきて、春休みにみんなで遊園地へ行こう、と提案したのだ。



……………………………


 大谷 圭介:

「みんなで遊園地ね、いいんじゃない?」


 本当なら2人きりがよかったなー、なんて思ったけど、そこはぐっと耐えた。

 器が小さいと思われたくないからな!


 望月 美羽:

「やった! あとね、あとね」


 望月はウキウキとしながら、俺に耳打ちをする。


 望月 美羽:

「小池くんを絶対、連れてきてね!」


 大谷 圭介:

「隼人?」


 近くなった望月の顔にドキッとしつつ、その要望の意味を考える。

 もしかして……。


 大谷 圭介:

「ひょっとして、女子メンバーに松宮いる?」


 バスケ部で、女子にしては背の高い松宮茜の顔が浮かんだ。


 望月 美羽:

「えっ! 何でわかったの!?」


「圭介くん、エスパーなの!?」なんて望月は可愛く驚く。

 ふっふっふっ、と俺は笑った。


 大谷 圭介:

「俺は、隼人や中曽根みたいに鈍感じゃないのよ」


 松宮が隼人を好きなんだろうな、というのは、冬休みのときに何となく気がついた。


 望月 美羽:

「さすが圭介くんっ」


 望月は、俺を褒めたり励ましたりするのがとても上手い。

 彼女がそばにいてくれたら、俺はどんな時だって絶好調になれる気がする。


 大谷 圭介:

「へへっ。隼人もついに、春がきたか~」


 望月 美羽:

「小池くんは、茜ちゃんのことをどう思ってるのかなぁ?」


 大谷 圭介:

「んー、嫌ってはないと思うけどな」


 まぁ、隼人は基本的に人をむやみに毛嫌いしないしな。

 松宮に対して恋愛感情があるのかは知らないが、他の女子よりは親しくしていると思う。


 望月 美羽:

「小池くんと恋愛話とかは、しないの?」


 大谷 圭介:

「男同士でそんなのしねーよ」


 嘘である。

 俺はいっつも隼人たちに惚気話を聞かせているが、それは彼女には内緒だ。


 望月 美羽:

「男の子は、やっぱそうなのかー」


 望月 美羽:

「あ、男子にはこのこと秘密にしといてね! 茜ちゃん、照れ屋さんなんだから」


 大谷 圭介:

「オッケーオッケー」


 そうして俺たちは、少しいたずらめいて笑い合う。


 かくして俺と女子たちによる、隼人と松宮のくっつけ大作戦デートが、決行されたのだ。



………………………………



 大谷 圭介:

(まぁ、こいつらなら大丈夫だろ)


 中曽根も井本も、サッカー以外のことには鈍い。

 そんなふうに思い返していた俺の横で、井本がふと、つぶやいた。


 井本:

「そういや俺、松宮とは同じ小学校だったけど、早乙女だっけ? はあんまりよく知らねーんだよな」


 大谷 圭介:

「ああ、井本も西小だっけ」


 井本と松宮は、同じ小学校だったのか。

 今回のメンバーで、井本にとってあまり親しくないのは戸田と早乙女だ。


 ただ戸田は中曽根の彼女だし、喋りやすい子だから問題ではないらしい。反して、大人しくて口数の少ない早乙女茉莉は、井本にとってよくわからない存在のようだ。

 まぁ俺も、1年の頃は同じクラスでも、あんまりしゃべったことはないから、よくは知らないんだけどな。


 井本:

「どうせなら、もっと明るくて可愛い子がよかったな~」


 井本は、とんでもなく失礼なことを言う。


 大谷 圭介:

「てか、お前って上田とはどうなの?」


 さとみんこと上田里美の顔を思い出す。

 井本の幼馴染みである上田はしっかりしており、井本の母ちゃんみたいに、いつも怒ったりたしなめたりしている。

 望月にとっても、姉ちゃんみたいな雰囲気だ。

 そんな彼女は、今回来ていない。

 あくまで松宮応援が目的の今回は、松宮の恋愛事情を知っている女子が集められている。


 井本:

「はー? 里美ー!?」


 井本は思いっきり顔をしかめた。


 井本:

「あいつは恋愛対象になんねーよ! 兄弟みたいなもんだし」


 大谷 圭介:

「ふーん?」


 同じ幼馴染みなのに、中曽根と戸田とは、また違う関係を築いているようだ。

 不思議なもんだな。


 井本:

「てか俺、戸田さんとかタイプだなー。女の子らしくて可愛いしー」


 大谷 圭介:

「おいおい」


 井本:

「それに胸もじつはあるよねー! 中曽根と付き合ってなかったら、絶対狙うのになー」


 井本がスケベな顔をちらつかせたときだった。


 中曽根 悠:

「てめぇ、るりをよこしまな目で見てんじゃねーよ」


 井本の背後に近づいていた中曽根が、顔をひきつらせて井本の頭を手でつかむ。その後ろには、隼人もいた。


 井本:

「ゲッ! 中曽根くん、聞いちゃってた!?」


 中曽根 悠:

「なーにが中曽根くん、だよ! このスケベ小僧がっ」


 井本:

「お、男は皆スケベだー!」


 そんなふうに話す2人を見て、一緒に来ていた隼人が笑う。

 今回の隠れた主役だ。


 小池 隼人:

「朝から元気だねぇ」


 大谷 圭介:

「うっす、隼人! これで男子メンバーは揃ったな」


 とそのとき、タイミングを見計らったかのように女子メンバーが遠くに見えた。

 隼人に片想いしている、松宮茜。

 中曽根の彼女の、戸田るり。

 松宮の友人で大人しい、早乙女茉莉。


 そして。

 先頭に立つ可愛らしい存在に、俺の顔が自然とほころぶ。


 望月 美羽:

「やほー、圭介くん! お待たせー!」


 俺の大好きな、向日葵笑顔で駆け寄ってくる。

 俺にとって、1番大好きな女の子。


 大谷 圭介:

「おー、全員揃ったな!」


 総勢8人が、時計台下に集まる。

 かくして隼人と松宮の仲を取り持つ集団デート(?)が、スタートした。




 ◇ 続く ◇

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。